ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
「椿、なにも聞かずについてきてくれないか」
俺のもとに駆け寄ってきた綾小路は開口一番にそう言った。
「んー、そろそろ授業が始まるけど急ぎ?」
「ああ。悪いが今じゃないと手続きが間に合わない」
間に合わない、ね。
「退学者出ちゃった?」
「話が早くて助かる」
「ちょっとどういうつもり?」
綾小路は急いでいるといった様子だが女の子は混乱していて追及したくてたまらないようだ。
「なんで彼女がそのことを知っているの? というか綾小路くんの知り合い? 彼女は誰?」
正に疑念の連続。以前見た時は知的で近寄りがたい雰囲気を醸し出していたが、今は不安定なようで少し子供みたいだ。
「堀北には後で話す。今は椿だ。来てくれないか?」
綾小路のいつもと変わらないようで少し鬼気迫った雰囲気に女の子は黙り込んだ。
「まぁここまで来たらいいよ」
「悪いな」
*
「なるほどね」
移動中にDクラスの事情を聞いた。
どうやら後1点が足りない生徒がおり、救済のため点数を買おうとしたが20万ポイントを要求されて払えなかったようだ。二人合わせてギリギリ10万に届くくらいとのこと。
「あぁ。本来はオレたちに10万で売ってくれたらしいが、椿が協力してくれた過去問の一件が駄目だったらしい」
Dクラスは他のクラスと違ってテスト範囲変更のことが数日遅れていた。そのことで一度は担任から10万で売れると言われたが、俺がテスト対策で介入したことについて突っ込まれそのせいで1点の価値が上がってしまったようだ。俺が良かれと思ってやった行為が逆に足を引っ張ってしまったらしい。
「図々しいお願いなんだが足りない分のポイントを貸してくれないか。情けない話だが今からオレたちにDクラスの生徒からポイントを徴収する力も時間もない。これから必ず返していくと約束する」
「ちょっと綾小路くん、まだ私は彼女のことを信用してない。第一他クラスよ? ポイントなんて貸してくれる筈がない」
本人を前にしてなんとも大胆な発言だ。その思い切りの良さが彼女の魅力なのかもしれないが。
「ポイントは全然貸すよ? ていうかあげる。返してもらわないでいいから」
「なっ」
「助かるが、本当にいいのか?」
「いいよ。こうなったのは私の責任でもあるからね」
二人に渡す分は堀北生徒会長からもらったポイントを使おう。彼女は会長の妹さんのようだから、俺の私利私欲のために使うよりよっぽどいいだろう。
「茶柱先生」
職員室に入りかけていた先生を綾小路は呼び止めた。
「なんだ綾小路。無駄な足掻きは見苦しいぞ……なぜ椿が」
「彼女のおかげでポイントを用意できました。これで須藤の退学を取り消せますよね?」
「あ、ああ。用意できたのなら確かにそうだが……解せんな」
先生の視線は私を貫いている。
「過去問の件もそうだが、何故他クラスの生徒がここまで協力する? しかもBクラスの……いや」
「私はみんなほどAクラスに興味がありませんから。自分たちの不利にならない程度には誰かを助けてもいいと思ってるんで」
茶柱先生と堀北からは信じられないといった目を、それと綾小路からは仲間を見る目を向けられた。
「……それは私たちを助けた所で不利にならないと言っているのかしら?」
「んーん。そんなことないよ」
綾小路がいるDクラスを侮る筈がない。寧ろ一番最強のクラスと言っても過言ではないだろ。本人はこんな状況でもぬぼーっとした顔をしているが。
「その須藤くんは知らないけど、こんな早くに退学するなんて勿体ないじゃん? しかもまだ若いんだから、今は駄目でもこれから変わるチャンスはいくらでもあるよ。それは堀北さんもわかってることなんじゃない? こんなに助けるために動いてるんだから」
「お前、本当に15歳か? 考え方が大人のそれだぞ」
茶柱先生に指摘されハッとなる。確かにこれは高校生らしくない。
ただまぁ堀北は釈然としないようだがなんとか伝わったようだ。
「何はともあれ椿がいてくれて助かった。須藤にもお礼を伝えさせる」
「いいよいいよ。他クラスの協力ってなったら変な勘ぐりされて私にとっても二人にとっても嫌だし」
「そうか。なら困ったことがあったらいつでも相談してくれ。オレか堀北が可能な限り助ける」
「そう? なら機会があれば頼らせてもらうよ」
堀北は何か言いたげだが恩は感じているようで口出しはしてこなかった。
これで一件落着だ。
正直点数の価格が上がった理由が強引過ぎたからなと思います。書いた時はこれだって思ったんですが改めて見返すと変な展開だなと。でもかいちょーから貰ったポイントも消化しておきたかったのでこの展開にしました。
値上がりした本当の理由に茶柱先生の星之宮先生を警戒する心が出てます。今のクラスに期待をしている分障害になってくるBクラスに干渉されたくなくて今回だけこんな対応しました。これで堀北ちゃんたちも警戒してBクラスは頼らないだろうと高を括ってますが、そうはならないでしょう。
これにて中間テストのお話は終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回からは須藤暴力編ということで、彼は暫く騒動の渦中にいますね。