ようこそ雪のいる教室へ   作:きーちゃん

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21話

「そろそろか……」

 

 時計を確認して俺は呟く。

 時刻は16時を回り日が落ち始めようとしていた。

 今この瞬間に千尋は一之瀬に告白している。先程体育館裏に向かう後ろ姿を見たから間違いない。

 ただ結果としては残念ながら失敗するだろう。現状の一之瀬が誰か一人を優先する筈がない、と思う。今はクラスの基盤を固める時期としてそんな恋愛事に現を抜かすことはないのではと俺は見ている。一之瀬のことはまだ表面的にしか知らないからもしかしたらがあるが。

 

 そんなことを考えていたら千尋が走ってくるのが見えた。遠目にだが目元から光るものが見えた。俺はベンチから立ち上がると俯いて走り続ける千尋の前に立ちふさがった。

 

「千尋」

「んっ――雪、ちゃん……」

 

 前を見ていなかった白波は俺の胸にぶつかってようやく止まった。俺の存在に安心したのか潤ませた瞳から大粒の涙が止めどなく流し出した。

 

「駄目だった……駄目だったよぉ……」

「そうか」

「これからも友達としていたいって……」

「なら明日は自分から声をかけるといいよ。あの子も不安に思ってるさ。今まで通りに接しられるかなって」

「……うん」

 

 俺の胸に顔を埋めたままの千尋を撫でて落ち着かせる。次第に泣きつかれたのか寝てしまったからベンチまで運んで膝枕してあげた。だけど身体は硬いベンチに乗せているから寝心地は悪そうだ。

 

「雪ちゃん……」

 

 いつの間にか一之瀬がいた。横には綾小路の姿もあった。

 

「千尋ちゃんのこと慰めてくれたのかな、ありがと」

「いいよ。それよりも何で二人が一緒に?」

「私がちょっとね……」

 

 ……少し雲行きが怪しくなってきた。一之瀬のやつやったか? これはもしや定番の偽装彼氏を用意して断るやつか?

 俺のじとーっとした視線に一之瀬が慌てて弁解する。

 

「ち、違うの! や、ほんとは違くないというか、綾小路くんが私のやり方は間違ってるって言ってくれて。千尋ちゃんとはちゃんと一対一で話したよ」

 

 確認のため綾小路を見ると頷きが返ってきた。

 

「それはよかった。綾小路くんがいなかったら一之瀬さんのこと軽蔑してたよ」

「そ、それは怖いな……あはは、」

 

 乾いた笑みを浮かべる一之瀬は本気で安堵していた。

 

「まぁ冗談は置いといて、千尋とはこれからも仲良くしなよ。この子君のことが本当に大切だって思ってるから」

「わかってる……って千尋?」

「ん?」

「私も名前で呼ばれたことないのに……」

 

 爪を噛んで顔を背ける一之瀬はなんだか不穏なオーラをまとっていた。近寄り難かったから一之瀬は無視しといて綾小路に声をかける。

 

「ありがとね。よそのクラスのために」

「気にするな。図書館の件で一之瀬には借りがあったからな。ただ、おかげで一之瀬にはこっちのいざこざの協力をしてくれることになった」

 

 やはり昨日俺が言った、「()()今後口出ししない」という言葉をしっかり理解していたか。

 

「応援してるよ。君たちなら何とかできるさ」

「やけにオレたちのことを買ってるんだな」

「ん、まぁね」

 

 そりゃあ綾小路がいるならその評価になるよ。でも、堀北も優秀だ。あの会長の妹だし。このままいけばいずれ正解に辿り着くだろう。俺も介入はしないつもりでいるが陰ながら見守らせてもらう予定だ。

 

 

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