ようこそ雪のいる教室へ   作:きーちゃん

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23話

「なんでお前がここに……」

 

 特別棟にのこのこと現れた石崎たち三人組は困惑を隠せないでいる。呼んでおいてあれだが、これから生徒会室で最後の話し合いが始まるのにのんきなもんだ。不用心と言わざるを得ない。

 

「櫛田は来ないぞ。アレはオレが彼女に頼んで送ってもらった、いわば嘘のメールだ。お前たちをここにおびき寄せるためのな」

「なっ、てめぇふざけた真似をッ」

 

 激昂する三人を前にオレは内心ほくそ笑む。

 出だしは上々。狙い通りにこいつらが来てくれたおかげで作戦が実行できそうだ。

 

「オレは話し合いがしたい」

「話し合いだぁ? そんなもん必要ねぇよ。どう足掻いたって結果は一緒だ。俺たちは須藤に呼び出されて殴られた。てめぇらはそれに対する報いを受けるんだよ」

 

 そう言って引き返そうとするがそこで立ち塞がるように一人の少女が現れた。

 

「観念したらどう? 君たち」

「一之瀬!? なんでお前がここに」

 

 動揺を隠しきれない石崎たちは狼狽え足が止まる。

 彼等の顔にはびっしょりと汗をかいている。ここが特別暑いのもあるが焦っているのだろう。無名のオレ一人ならともかく学年でもそれなりに存在感のある一之瀬の介入となれば危機感を抱く。

 

「……Bクラスは関係ねぇだろ。引っ込んでろよ」

「うーん。私たちも散々君たちに嫌がらせされたよ? 今回の件に関しては確かに関係ないけど、見過ごせないな。嘘で学年を混乱させて迷惑かけてさ」

「嘘? おいおい、Dクラスの妄言を信じたってのか? 俺たちは被害者だぜ。須藤におびき寄せられて殴られた。それが事実だ」

「往生際が悪い! あれが見えないかな!」

 

 どこまでも言い逃れようとする石崎たちにしびれを切らした一之瀬が天井を見上げた。

 

「な、なんだ、よ――」

 

 つられて見上げた石崎たちの顔が凍り付く。

 天井には監視カメラが鎮座している。それも1台だけでなく少し距離を置いた先にもう1台も。計2台の監視カメラがこの特別棟に設置されていた。

 

「君たち、こんな監視されてる場所で喧嘩したの? それはちょっと信じられないっていうか短絡的というか」

「い、いやいやいや! あの時は監視カメラなんてなかった! そもそもこの階にも他の階も、特別棟にカメラなんてないんだよ! お前らが俺たちを騙すために取り付けたんだろ!?」

「騙すために高額な監視カメラを二台も設置するかな? いくら私たちと言えどDクラスにそこまでしないよ」

 

 監視カメラの値段を知らない石崎たちは黙るしかなかった。

 用意したカメラは本当はそこまで高額じゃない。今回は中身より見た目を重視したから店舗で売っていた最安値のものを調達したのだ。また、その際店員に最近監視カメラを買い求めた客はいたかそれとなく聞いてみたがいないと答えた。そのことから奴らは値段を知らないとあたりをつけた。相場を知らなければ監視カメラは一見高そうに見える。今あいつらの脳内ではゼロが沢山並んでいるだろう。

 

「それに階で区別するって言ったって、ここ本当に三階? 喧嘩した時は? 本当にカメラなかった?」

 

 ここで更に追い打ちをかけた。ロクに考える間も与えることなく情報を畳みかけて混乱させる。それにこの暑さだ。正常な思考はできないだろう。現に彼等は滝のように汗を流して酷い顔をしている。

 

「君たち自分でボロを出してるって気付いてる? そんな監視カメラの有無を確かめてさ。自分たちに疚しいことがあるのが丸わかりだよ」

 

 それがとどめとなり、石崎たちは膝をついて呆然としている。

 

「そんな、……俺たちどうすりゃ、」

「もうおしまいだ!」

 

 小宮と近藤が頭を抱えて自暴自棄になっている。石崎も必死に頭を回そうとしているが活路は見えないだろう。

 

「このままお前たちが嘘をついていたとなれば退学が濃厚だろうな」

「そんな! 俺、退学なんて嫌だぜ!?」

「だが、須藤が殴ったことも事実として残ってしまう。そうなれば嵌められたとあっても停学は免れないだろう」

「はっ、須藤の足を引っ張れるっつうならいいぜ! 道連れにしてやらぁ!」

 

 二人は絶望してもう負けを認めそうだが石崎だけは最後まで足掻くようだった。もう引くに引けないのだろう。

 

「だがそのどちらも救われる道もひとつある。それは訴えそのものを取り下げることだ。訴えが無ければ学校側も無理に追及してこない。もし映像を持ち出されてもDクラスが援護する。こっちも須藤の停学は痛いからな」

 

 自分たちが退学する代わりに須藤の停学か、事件を最初からなかったことにし誰も傷つかない方向にいく。

 そのふたつを天秤にかければどっちがいいかなんてわかりきったことだろう。

 

「……一本電話させてくれ」

 

 そこで石崎が携帯を取り出して助けを求めようとした。事前に一之瀬たちから報告のあった龍園という者に対してだろう。だがそうはさせない。一之瀬もオレと同じ考えだ。

 

「なら私たちも覚悟して学校に映像の確認をしてもらう必要があるね。残念ながら君たちは退学だよ」

「な、なぁ石崎、取り下げようぜ。俺らだけが退学なんて嫌だろ」

「だが、あの人に確認しねぇと……」

 

 往生際の悪い石崎は最後まで電話をしようと粘るが仲間たちの必死の懇願に遂に折れた。

 

「……わかった。取り下げる……訴えをと――」

 

 オレたちの望んだ言葉がとうとう吐き出される。しかし予測に反して上手く行きすぎたことにオレは微かな違和感を覚えていた。隣を見るが一之瀬はほっと安心したような顔をしていた。オレの杞憂かと思ったその瞬間、石崎が握る携帯から大きな電子音が奏でられた。

 

「うぉわあ!? ッ龍園さんだ!」

 

 この極限状態で電話が来たことで飛び跳ねた石崎だったが相手を見て歓喜に打ち震える。まさかのタイミングに反応の遅れたオレたちが制止する前に応答した。

 

「龍園さ、」

 

「――よぉ」

 

 その声は背後から聞こえた。ついでに言えば石崎の電話越しの少しくぐもった声もそこから聞こえてきた。

 振り返れば男が携帯を掲げながら立っていた。

 

 

 

 

「龍園、くん」

「クク。わざわざ無関係のお前がこんな暑いとこまで出張ってくるたぁ随分献身的だ」

 

 やはりこの男が龍園か。Cクラスの実質的なリーダーで、今回の暴力事件もBクラスが遭ったという石崎たちの妨害行為も裏で操っていたとされる人物。

 

「で、てめぇは……知らねぇな。まぁいい。どっちみち潰すだけだッ」

「――綾小路くん!」

 

 近づいてきた龍園は突然殴りかかってきた。驚く一之瀬を他所にオレは思考する。

 避けるか防御するかはたまた食らうか。が、オレたちが置いたカメラはずっと回っている。ここは食らうのがいいだろう。

 そう思いオレは目を瞑った。顔に来る衝撃から条件反射で目を瞑ったと後から認識されるためだ。

 しかしそんなオレの目論見とは裏腹に拳は既の所で止まった。

 

「ほぅ? お前、敢えて食らおうとしたな? 冷静だな」

「いや……突然のことに反応できなかっただけだ」

「龍園くん!」

 

 激昂した一之瀬が掴みかからん勢いで怒鳴る。

 

「いきなり人に暴力振るおうとするなんてどういうこと!? それにカメラ動いてるよ? こうなったら君たち全員終わりだよ?」

 

 仮に石崎たちが訴えを取り下げたところで龍園がオレに殴り掛かった事実が明るみになれば龍園は悪者になり石崎たちの立場も悪くなるだろう。

 

「冗談だろ。そんな怒んなっての。なぁ?」

「まぁ、石崎たちが訴えを取り下げてくれるなら問題にはしない」

「クク、図太い野郎だ」

 

 愉快そうにする龍園とは対照的に一之瀬は信じられないといった顔をしている。

 

「あれれ、綾小路くんって凄い人?」

「いや、悪知恵が働くだけだ」

「そっかぁ……」

 

 あまり納得いってなさそうだがこれ以上の追及はなかった。

 

「あの、龍園さん……」

 

 縮こまって気まずそうにしている石崎たちの目にははっきりと恐怖が浮かんでいた。やらかしてしまった自分たちにボスが直々に来たとあって制裁を恐れているのだろう。

 

「ったく、こんな見え見えの罠にかかりやがって。近藤に至っては二度目なのになぁおい」

「二度目? ……あっ!」

 

 心底呆れている龍園に怪訝そうにした近藤だが何かを思い出したように大きな声をあげた。

 神崎から話を聞いていたが、以前椿が偽の証拠をでっち上げてCクラスを追い返した時に近藤が相手だったらしい。だとしたら龍園の気持ちも理解してやれないでもない。同じ失敗をしそうになったとなれば頭を抱えたくなる。

 

「ま、この際お前らはもういい」

「……すみません」

 

 可哀想なくらい怯える三人から目を逸らすと次はオレたちに鋭い眼光が向いた。

 

「警戒してるな。そりゃ当然か。だが俺たちは崖っぷりだ。このまま石崎たちを無理やり審議に行かせても次は俺の暴行疑惑ときた」

 

 わざとらしく両手を大きく広げて自分たちのピンチを煽る。 

 この男は何がしたいのか。それがいまいちわからない。

 カメラがあるのにオレに殴り掛かってきて自分の首を絞めた。そのくせ悪手であることを自覚している。

 

「今回はてめぇらに勝ちを譲ってやるよ。しっかり噛み締めろよ」

 

 龍園は一人で去って行く。

 余りにも呆気ない終わり。ここぞというタイミングで現れておきながら意味のないことばかりして場を引っ掻き回すだけだった。今まで表に出てこなかった男がしたにしては愚かな行為に困惑を隠せない。

 いや、そもそもこれだけ狡猾な男が何故二度も同じ手口を使用した? 前回の敗因を理解していることは近藤への口振りから察することができる。つまりわかってやっていた?

 まさか龍園の本当の目的は。

 

「彼、何がしたかったんだろう……?」

「……さぁな」

 

 一之瀬が意味を測りかねて考え込む中オレは舌を巻いた。

 オレたちが思っている以上に龍園という男は頭がキレる。

 

 堀北……龍園は手強そうだぞ。

 

 Aクラスを目指すにあたって奴は障害になりえることがわかった。

 

 

 

 

 時間つぶしにぶらぶら歩いていると、柔らかい表情をした須藤がスポーツバッグを抱えて走る姿を見つけた。

 

「無事終わったか」

 

 堀北がゴールとした、Cクラス側からの訴えの取り下げをさせることに成功したようだ。長く続いたこの事件も終わりは呆気ないものだ。

 

「今回は堀北と……龍園を褒めておくか」

 

『今回の暴力事件……端から取り下げる気だろ?』

 

 俺があの時龍園を引き留めて問いかけた言葉に龍園は面白そうにした。

 あの男は最初からこの形にするつもりだったのだろう。全てはDクラスの情報を収集するために。

 クラスポイントが0で5月を迎えたDクラスは当然周囲から馬鹿にされている。唯一櫛田や平田といった社交性の高い生徒は他クラスからも優秀な生徒として見られているが、他は正直謎に包まれている。精々が過去最悪の不良品ということだけが知られていることだ。

 そこに龍園はメスを入れた。今回で暴力事件に対する学校側の対応を見ると共にDクラスの主力を探ったのだ。そして堀北と綾小路が浮かび上がった。

 龍園はもうDクラスをただの不良品とは見ずに一定の警戒をしているだろう。

 

「綾小路はまんまと絡めとられたわけだ」

 

 昨晩一之瀬から綾小路と協力して石崎たちを嵌める作戦は聞いた。

 そして今日恐らく龍園と会ったはずだ。 

 実力は一番あるのに今まで日陰の者として注目を浴びず過ごしてきた綾小路だがこれからはそううまくはいかないだろう。この学年で一番厄介そうなのに目を付けられただろうからな。

 

「次は夏休み。そこで事が起こるか」

 

 きたる夏休み。バカンスが行われることになっているが実態はどうなるか。

 今から楽しみだった。

 

 




暴力事件編は終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。

今回は雪ちゃんが早々に手を引いてしまったのでダイジェスト気味に進んでしまいました。
直前まで作者自身、前に雪ちゃんが証拠でっちあげをしたことを忘れていて、危うく龍園くんが二度も同じ手にひっかかるお間抜けさんになるところでした。や、傍目からみたらそうなってるんですけど。
龍園くんは雪ちゃんという高い壁を最初の方に認識したので油断もなく石橋を叩いて渡るスタイルを取っています。今後どうなるか見ものですね。私個人としてはオリジナルの方向に走って行って頭を抱えています……収拾つかないどうしよ……。

次回からは無人島試験となります。そちらもよろしくおねがいします。
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