ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
暫くぶらぶらと船上を歩いて楽しんでいるとアナウンスが流れてきた。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まりください。間もなく島が見えて参ります。非常に有意義な景色をご覧頂けるでしょう』
島を見るだけで『有意義』か。少し奇妙な感じする。いかんな。もう何でも疑う癖がついてしまった。もっと素直にいきたいもんだ。
俺がデッキに方に足を運ぶとそこにはアナウンスを聞いたのだろう生徒たちが大勢いた。わいわいと騒いでいるのもあって景色に集中できないと感じ場所を移すことにした。
「隣、いいかな」
「……好きにすれば」
人が殆どいなくそれでいて島が結構見やすい絶好の場所をスポットを見つけた。一人少女がいたから一言断ってから入れてもらう。
「……ふむふむ。あそこに洞窟があるな。付近に塔と小屋っぽいのがあるか?」
目を凝らして有意義な景色とやらを脳裏に刻んでいく。客船はゆっくりと島を回っていて、生徒たちに見せようと配慮していることが窺える。
「へぇ、そんなのあるんだ」
横で目を細めて見ていた少女が興味深そうに言った。
「覚えておいたらいいことあるかも」
「あっそ」
この子は不愛想だが一応会話をしてくれる。うちのクラスの子たちとは違ってずかずかと来ない(初対面だから当たり前)から話しやすい。
そろそろ船が一周するだろうかというところで少し揺れが起きた。俺は大したことなかったが少女は突然の揺れに驚いてバランスを崩しかけた。
「きゃ――」
「危ない」
柵に掴まってなかったこともあり倒れかけた少女を俺は肩を抱いて支えた。
「大丈夫?」
「え、う、うん。……ありがと」
恥ずかしさからか頬を赤く染めた少女は俺が手を放すとサッと離れてぶっきらぼうに呟いた。
「あんた名前は?」
「私はBクラスの椿雪。よろしく」
「Aの神室真澄。さっきはありがと」
上陸が近いことがアナウンスされていたのもあって彼女は足早に行ってしまった。
Aクラスか。しかしこの重要なことが起きそうな時にかわいい子と顔見知りになってしまったな。あまり貶めるようなことはないといいが。
一抹の不安を抱えながら俺も上陸準備のために部屋に向かうのだった。
*
「すんすん……雪ちゃんから知らない女の匂いがする」
「え、気のせいじゃない……?」
会うなり俺の首元に顔を埋めて匂いを嗅いで来た麻子が気持ち悪いことを言ってきた。ほら、後ろにいる男子が引いてるじゃないか。
「静かにするように」
拡声器を持った先生――Aクラス担任の真嶋先生が沈黙するように言うと騒がしかった砂浜は静けさに包まれた。
「全員集まったな。ひとまずこの場に無事に来られたことを嬉しく思う。しかし一方で一名病欠で参加できなかった生徒がいることは残念でならない」
可哀想という声がひそひそと聞こえてくる。確かにこれから約2週間一人寂しく学校にお留守番というのは悲しいものだな。
それにこういう長期旅行というのは生徒間の関係構築に絶大だ。行きの時にはなかった繋がりが帰ってくる頃にできていることはざらで、それだけでも旅行の価値があると言える。生憎俺はそんな経験なかったが周囲のそんな光景を見ていたのを覚えている。その気持ちを今回置いてかれた生徒も感じることになれば優しくしようと思える。
そんな俺のしんみりとした感情とは違い神妙な面持ちの真嶋先生が口を開いた。
「ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」