ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
高育行きのバスに乗り込んだ私は運よく席に座ることができて安堵の息を吐いた。前の世界だと毎日朝の満員電車に乗ってたからな。出社するのにも神経を擦り減らして大変だった。
「それにしても……」
他の乗客をそれとなく見てみると俺と同じ制服の学生が何人か見つけた。仲間を見つけたことによる安心感と、彼等彼女等の顔の整い具合に驚いてしまう。前で言う芸能人クラスのレベルの人が何人もいてこの世界は何かが違うのだと感じる。
「席を譲ってあげようとは思わないの?」
比較的静かな車内においてその声はよく響いた。どこか責めるような声色はドア付近から聞こえてきた。
「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」
少し間を置いてまた女性の声がした。どうやらあのOL風の女性が優先席に座る学生に言ってるようだ。彼女の横にはお婆さんが手すりに掴まって立っていた。確かに目の前に優先席があるんだから座らせてくれと思うよな。
「ふむ。私のことだったか。失敬」
同年代にしては尊大な口調の彼は緩慢な動きでイヤホンを外すと女性を見た。なんとも余裕な態度で彼が簡単に席を差し出すとは思えなかった。
「あ、あなたねえっ、そんな態度……いえ、今はそれよりも、お婆さんに席を譲りなさいよ。貴方の座っている席は優先席よ」
「ふぅむ。優先席だから譲れと……。何とも傲慢な考えだ」
「なっ」
「年寄りに必ず譲れと法律で決まっているわけではないだろう? 優先とは名が付いているが実質早い者勝ちで他の席と変わりないさ。それに私としても立っているより座っている方が消耗が少ない。よって私に席を譲る理由などないのさ」
全てを言いきるともう話は聞かないとばかりに腕を組みなおして目を瞑った。自由人ここに極まれりだな。
女性は屈辱で顔を真っ赤に染めて詰め寄ろうとしているがお婆さんが宥めている。お年寄りにしても自分のせいで場が乱れることは起きてほしくないのだろう。どれ、ここは俺が人肌脱ぐか。なんて内心格好つけて立ち上がった。
「お婆さん。ここの席座って下さい」
「あ、あらっ、いいのかい?」
お婆さんが断らないように、俺が恥をかかないためとも言うが、近づいて席に誘導する。
「ありがとうねえ」
「いえいえ。ちょうど立ちたい気分だったので」
言い訳にしては苦しいが適当に言葉を並べておく。申し訳なさそうにしつつも座れたことに安堵している姿を見て俺も行動して良かったと思った。
お婆さんの近くにずっといても悪いと思って入り口付近に移動したら奇しくもさっきの彼の前に来てしまった。少年は不敵な笑みを浮かべて俺を見ていた。
「フフ。私を貶め自らの格を上げるか。中々に強かなようだねぇ」
「ん?」
どうやら彼はおかしな捉え方をしているようだ。
「別に貶めたいなんて思ってないよ。不快に思ったならごめんね」
とりあえず謝っておく。ここでこれ以上騒ぎを起こしても周りに迷惑になるだけだ。
「ノンノン。ガールの鮮やかな手腕に舌を巻いたのさ。それに私としても助かるよ。これ以上レディに絡まれても面倒なだけだったからねぇ」
「あ、はは……気にしないでくださいね」
「え、ええ……」
そのレディがすぐ横にいるのによく言う。女性はこめかみをピクピクとさせ怒りを溜めていた。スーツを着ていることからもこれから仕事だろうに大変だなぁ。
俺は同情の意味も込めて肩を撫でて何とか落ち着かせた。