ようこそ雪のいる教室へ 作:きーちゃん
「ここがBクラスだね」
俺は自身の所属である1年Bクラスの教室前に来ていた。櫛田はDクラスだったから途中で別れている。
「ふぅ……」
いつになっても初めての場所というのは緊張する。
昔から心配性だった俺は間違えてないかドキドキしながら教室に入って、席順に自分の名前があることに心から安堵していた。親は心配し過ぎでしょとほとほと呆れていたか。
ブラックな社会経験を経て多少余裕はできたがやはり緊張するものだな。
胸に手を当て呼吸を整えるとドアを開け中に入った。
*
中に入って周りを見渡してみると生徒は程々にいて会話が生まれている。入学初日にしては明るい雰囲気があり、このクラスの雰囲気がわかるようであった。
中心には桃色髪のおっぱいの大きい少女がいた。外見から根明そうなのは感じたが実際そうらしい。笑顔で近所の生徒と交流を図っている。
とりあえずクラスの観察を終えると次はもっと細かい所に目を向けた。するとやはり例のものを見つけた。
監視カメラだ。教室に来る前に嫌になる程見つけたブツは教室にも設置されていた。昨今の事情的に映像証拠は大切だ。だが廊下だけにあるならまだしも教室にも設置されていて、これからここで授業を受けるなら観察をされているようで少し気味が悪い。なにより――あそこを思い出す。
俺は嫌な想像を振り払って自分の席についた。
「えっと、神崎くんかな? 私は椿雪。隣の席同士よろしくね」
席順を見たから隣の生徒名は把握済み。席に座ったらすぐに自己紹介をした。
「あ、ああ。神崎隆二だ。よろしく頼む」
戸惑いつつも返してくれた。やっぱり隣とはいえ突然話しかけられたらビックリするよな。
彼は寡黙っぽいが話せないわけではないようだ。最初の掴みとしては悪くないだろう。とりあえず毎日挨拶ができる関係にできれば上々だ。
俺の本質的にお喋りな性格じゃない。よってそれからは神崎との間に会話は生まれず時間が過ぎ去った。
暫くしてチャイムがなると同時に一人の女性が入室してきた。
少し着崩したスーツに明るい茶髪はウェーブがかかっていて、どこかギャルっぽさを演出していた。顔も幼さを残す感じで生徒からは下の名前で親しまれそうな教師だと予感した。
「みんなおはよー。私はBクラスの担任になった星之宮知恵って言います~っ! 気軽に知恵ちゃんと読んでね~。ちなみにこの学校は3年間クラス替えがないから卒業まで私と一緒! よろしくね」
何とも可愛らしい自己紹介というかあれが教師でいいのか。
呆気に取られるが周りの女子からの受けは悪くなさそうだ。男子も男子で鼻の下を伸ばしている奴もいる。大方保健室の先生みたいな人と3年間居れることが幸運に思ってそうだがそううまくいかないだろう。ああいう人ほど内心冷めていてドライなのだ。
「これからこの学校のルールについて簡単に説明するよ~。まずはこれを配るね」
配られたのはスマホだ。これはここ専用のもので、これ以外に自宅からの携帯端末の持ち込みは禁止されていた。しかしよく考えれば生徒一人毎にスマホ支給とは太っ腹だな。
「現代っ子はこれがないと生きてけないよね~。調べものに使う分には全然いいけどエッチなのは駄目よー?」
随分大胆な教師だ。スマホが配られ浮足立っていた生徒たちが固まっている。
「最近って小学生でもそういうのスマホで見てるって聞いたけどほんとぉ? ねぇねぇ、渡辺くんはどうだったの?」
「え、お、俺っすか? い、いやぁ……」
星之宮の最悪過ぎるダル絡みに教室中央列の真ん前に座る渡辺なる男子生徒が、可哀想なくらい震えてる。これから彼は席替えしない限り外れくじを引きそうだ。
他の男子は星之宮に目を付けられないように俯きがちにしている。内心渡辺が壁役をしてくれることに心から感謝しているだろう。それと同時に星之宮に入れ込み過ぎるのは危険だと察知したのではなかろうか。
そこではたと気付く。もしやこれが狙いなのか。だとしたら彼女はとんだ策士である。
と、ここまで思考して、そろそろ彼が社会的に死ぬから助け船を出すことにした。
「星之宮先生。時間も勿体ないので次に進みませんか」
俺が声を上げると渡辺は振り返って救世主を見るかのように見てきた。
「あらぁ。それもそうね。ごめんねぇ渡辺くん、無茶振りしちゃって」
「い、いえっ、大丈夫っす……」
小さくなる彼はとても不憫だ。
「じゃ気を取り直して説明してくね。さっき配ったスマホを使ってみんなにはここでの買い物をしてもらうよ。もう当たり前になった電子決済方式だね。勿論施設利用だったり商品購入だったりをするにはポイントが必要だよ。ここではポイントで買えないものはないから。学校の敷地内ならなんでも、ね」
妙に何でも買えることを強調してくる気がする。しかし何でもと言われると難しいな。例えば、クラス替えがないと言っていたが渡辺みたいにクラスに居づらくなったときに、ポイントでクラス移動とかできるのだろうか。
「それからポイントについて。言うなればお金のことだから大切だね~。これは毎月一日に学校からみんなに支払われるよ。現時点で新入生全員に10万ポイントが振り込まれてるよ。ちなみに1ポイント1円換算ね」
途端にクラスがざわついた。
一人一人に10万円が支払われるなど太っ腹にも程がある。そんなポンポン配って何がしたいのか。まるでポイントの殴り合いが始まるための布石のようだ。
それに、この学校内の物価はまだわからないが星之宮の口振りからして10万は大金だろう。そんなものを毎月配っていたら金銭感覚が狂う……。いや、毎月必ず10万ポイントが支払われるとは言ってないか。
監視カメラの一件も含めこの学校は怪しいな。