魔法科高校の時間奏者   作:cart_strange

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3話

 

 

 ──空がなかった。

 

 見上げた先には、無限に広がる蒼穹も、雲一つない空もなかった。ただ、低く圧し掛かる鉄の天井が、世界の全てを覆っていた。錆びついた鉄板には無数の焼け焦げた痕があり、その隙間から染み出す焦臭と血の匂いが、肺の奥まで染み込んでゆく。喉が焼けつくように痛み、咳をすることすらできない。湿った空気に、誰かの絶叫が、壊れたスピーカー越しに歪んで響いていた。

 少年は、沈黙の中を歩いていた。 まだ幼さの残る顔立ち。だがその瞳には、年齢にそぐわぬ翳りが深く沈んでいた。感情の色を喪った目。何度も背後を振り返っては、何もいないことを確認する。そしてまた前を向く。

 

 足元で何かが砕ける音がした。乾いた、あまりにも軽い音。見下ろすと、それは小さな骨の破片だった。子どもの肋骨だろうか、それとも手指の欠片か。判然としない。ただ、それが“誰か”だったということだけが確かだった。

 靴の裏が、赤黒く濡れる。

 屍の山。その中央を、少年はただ歩いていた。言語が拒絶する光景。理性が悲鳴を上げる現実。肉片と焼け焦げた衣服。管で繋がれたまま命を絶たれた身体。冷却装置に閉じ込められたまま意識を奪われた、まだ生きている“死体”。無数の魔法師が、そこに崩れていた。魔法師──それは、力を持った人間ではなかった。ただの素材。兵器。壊れるまで使い捨てられる実験体。人間であることを否定され、数字で呼ばれ、望まぬ術式を身体に埋め込まれた者たちの末路。

 そのすべてが、ここに堆積していた。この空間に、生きた言葉はない。だが、死者の沈黙は確かに語っていた。怒りと痛みと、何より深い哀しみを、血と肉で記録していた。

 少年の身体には、すでにいくつもの傷があった。足首は腫れ、膝には裂傷。左腕には焼け焦げた痕があり、肺の奥には焦げた空気がこびりついていた。痛みは、もう数えることもできない。ただ、それでも歩いていた。止まれば、壊れてしまう。

 この場所に来るまでに、少年は幾人もの“人間”を殺していた。  管理者。研究員。看守。兵士。武器を持たぬ者も、武装した者も、区別はなかった。魔法を使い、命を奪う──そのすべてを、“自らの意思で”選んでいた。

 誰かに命じられたわけではない。ただ、怒りと恐れと、悲しみがあった。この地獄を終わらせるために、手を血で染めた。

 だが、その代償はあまりにも大きかった。一人殺すたびに、胸の奥が焼けた。一人救えなかったたびに、心が裂けた。やがて、何かが欠けたことすら、分からなくなった。涙を流すための感情さえ、どこかに置き忘れていた。

 

(……俺は、人を殺した)

 

 それだけが、唯一の真実だった。罪悪感でも、後悔でもない。ただ、事実として、骨の奥に刻まれていた。

 壊れた世界で、壊れた自分が、壊れた足で、歩き続けていた。

 この地獄を、誰かに渡してはならない。この業火の記憶を、自分だけが背負わねばならない。

 

 ──これは夢なのか、過去なのか、それとも、まだ訪れていない未来なのか。

 

 少年はまた、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──突然、目が覚めた。

 

 夢と現実を分かつ曖昧な境界線。そこを通過したという感覚すらない。気づけば、彼の意識はすでに完全な覚醒へと達していた。眠りから引きずられるようにではなく、突き放されるようにして現実の只中に立たされていた。

 

 天井。白く、どこか遠い。

 

 視線を移した先で、時計の針が十時を指していた。窓の隙間から差し込む朝の光は、もはや“朝”というには眩しすぎる。それは昼の熱を孕んだ刃のようで、瞼の奥を鋭く刺してくる。

 

「……寝すぎたか」

 

 かすれた声が喉を抜け、静まり返った室内に微かに溶けていった。

 意識は戻っている。だが、感覚はまだ、何かに引きずられていた。夢──あの不気味な記憶の断片が、脳裏に蜘蛛の巣のように張り付いている。はっきりとした映像は残っていない。けれど、そこに何があったかは、身体が覚えていた。

 

 地獄だった。

 

 息を吸えば、錆びた鉄と焼けた肉の臭いが鼻腔をつく。胸の奥に、熱と痛みがじんわりと広がる。視界の端に、崩れた骨。赤黒く染まった床。誰かのうめき声。それらが夢の記憶なのか、それとも、誰かの記憶を借りて見ていたものなのか──わからない。

 けれど確かなのは、“そこ”が死に満ちた場所だったということ。それだけが、今も消えずに心の奥で燻っていた。

 

「またあの夢……」

 

 呟きは弱々しく、まるで自分の声ではないようだった。喉の奥に、まだ鉄の味が残っている気がする。

 

 ──自分は誰だったのだろう? 

 

 あの夢の中、自分はただ見ていただけなのか。それとも、誰かの手を借りて、殺し、歩いていたのか。

 幾人もの命が、自分の手で終わっていった。魔法で、躊躇なく、冷たく。それは夢にしてはあまりにも生々しく、皮膚の下に鈍い熱を残している。自分ではない。けれど、どこかで“自分だ”とも思えてしまう。重なる影。染みついた罪。

 

 ──もしかして、あれは父の記憶なのか。

 

 父は語らない。過去を、語ろうとしない。ただ、時折見せる無表情の奥に、何かを抱えていることだけはわかっていた。

 その過去を、自分は夢として見ているのだろうか。あるいは──

 

 思考がそこで途切れた。

 ふと、身体の一部に感じた微かな重み。しなやかで柔らかな、誰かの気配が右腕に寄り添っている。

 

「……ん?」

 

 視線を落とす。

 そこにいたのは、小さな人影だった。黒髪の少女。白い寝間着の袖が、わずかに揺れている。雪のように滑らかな肌が、陽の光をほんのり反射していた。

 すうすうと穏やかな寝息。頬を寄せて眠るその姿は、まるで精巧な人形のようだった。

 司波深雪──彼と同じ八歳の少女。だがその顔立ちは、年齢に見合わぬ静けさを湛えている。幼さの残る頬と、整った額の下に眠る睫毛。その陰が、凛とした印象を作っていた。

 未来、きっと誰もが振り返るほどの美しさを持つだろう。そんな“未来の彼女”を、いま、隣で眠る姿に重ねてしまう

 

「……また俺の布団に入り込んでんのかよ」

 

 溜息混じりの呟きには、呆れと──ほんの少しの、安堵が混じっていた。

 腕を引こうとして、やめた。起こしたくなかったわけではない。ただ、彼女の存在が、いまのこの部屋に満ちている不穏な記憶を押し返してくれるようで──蒼夜は、そっと手を伸ばし、深雪の髪に触れた。黒髪の流れが指先をくすぐる。

 

「……おーい、そろそろ起きろー」

 

 優しく呼びかけると、彼女は小さく眉をしかめ、唇をつんと尖らせた。けれど目を開けようとはしない。

 

「寝たふりか……?」

 

 ふ、と笑みが漏れた。らしくもない無防備な寝顔。それを見たら、からかいたくなってしまった。

 

 布団の端からそっと腕を回し、小さな身体をふわりと引き寄せる。

 

「わっ……!?」

 

 布団の中で、驚きの声が跳ねた。

 ぱちり、と長い睫毛が揺れ、深雪が目を開けた。近い。ほんの数センチ。呼吸が触れる距離。彼女の瞳が、まっすぐに蒼夜を見つめ返してくる。

 頬が、みるみる赤く染まっていった。

 

(……やっぱ、綺麗だな)

 

 蒼夜は、思わず言葉を失った。その顔を何度も見てきたはずなのに、こうして近くで見てしまうと──胸の奥が、すこしだけ熱くなる。

 

「……そんな顔で寝たふりなんて、バレバレだぞ」

 

 そう言いながら、黒髪をそっと撫でる。指先に絡む細く柔らかな髪。まるで絹のようで──そこに確かに“命”が宿っている。

 深雪は、恥ずかしさに顔を背けようとしたが、その瞬間、蒼夜が静かに言った。

 

「……ありがとう」

「……え?」

 

 かすれた声だった。深雪は予想外の言葉に固まる。

 

「変な夢、見てたんだ。怖いってわけじゃない。でも、嫌な感じで目が覚めた。それがわかってたから、そばにいてくれたんだろ?」

 

 深雪は何も言わなかった。ただ、視線を逸らし、布団の端をきゅっと掴んだ。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 それだけで、十分な返事だった。そのひと言に、蒼夜は救われるような気がした。

 

「……うん、大丈夫。ありがと。でも、勝手に部屋入ってくるなって言ってるだろ?」

「そ、それは……その、何度かノックして、起きてる様子ではなかったので、起こそうかなと思って」

「うーん、まぁ、それなら……いいか。ありがと」

「い、いえ……その」

 

 言葉はしどろもどろだったけれど、そこには照れくさそうな温もりがあった。布団の中、しばしの静寂が流れる。けれどそれは気まずさではなく、春風のように穏やかな沈黙だった。

 深雪の髪からほのかに香る甘い香りが、空気にふわりと漂う。

 彼女と過ごす時間は、いつだって特別だ。

 柔らかいものに包まれているような心地よさ。言葉でうまく言い表せない、でも確かにそこにある幸せ。

 

「今日はマナー教室とかあるんだっけ?」

「いいえ、今日はお母様との稽古以外何もないです」

「じゃあ、ちょっとだけデートしようよ」

「はい!」

 

 返事は即答だった。目を輝かせて微笑む深雪に、蒼夜もつられて笑う。

 

「なにしよっかなぁ……早く外で遊びたいよね」

「そうですね。早く、一人前の魔法師にならないと」

「ある程度力ついたら、もっと自由になれる。そしたら色んなことしような」

「はい! 約束ですよ?」

「うん。約束」

 

 二人の小指が絡む。

 それは子どもじみた仕草のはずなのに、不思議と胸が温かくなった。

 ふたりとも、思わず頬を緩める。

 

 ──その時だった。

 

「おふたりで甘い時間をお過ごしのところ、申し訳ありませんが。そろそろ朝食の準備が整いますよー?」

 

 扉の向こうから響く、張りのある優しい声。

 よく通るその声は、場の空気に程よい茶目っ気を含ませる。

 

「ほ、穂波さん……っ」

「ふふっ、何をしているのかは問いませんが、開けちゃいますよー?」

「ふえっ!? い、今はダメです!」

 

 あたふたと布団に潜る深雪。

 慌てる彼女を見た蒼夜は、こらえきれず吹き出した。

 ──可愛いな、と思った。ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 精神干渉系魔法──それは、魔法という力の中でも特異な領域に属する。対象の精神に直接干渉し、意識や記憶、感情といった“目に見えぬもの”に影響を及ぼすこの魔法は、まさに刃を持たぬ刃。正しく使えば、戦わずして争いを鎮める力ともなりうるが、ひとたび誤れば、人格すら塗り替える禁忌の術と化す。

 故に、この系統の魔法を扱うには、他のどの魔法よりも高度な理解と慎重さが求められる。

 精神とは曖昧で、不確かで、そして壊れやすい。精神を情報体として捉える感性、干渉の度合いを細やかに制御する技巧、そして、己と他者の境界を踏み越えぬ強さ──それらすべてを兼ね備えて初めて、精神干渉系魔法は“力”になる。

 その魔法に、最も深く通じている一族がある。四葉家──十師族の一角を成す、異才の血脈だ。

 

 一室──畳敷きの静謐な和室に、朝の光が斜めに差し込んでいる。

 そこに座していたのは、司波深夜。白磁のように白く整った肌と、黒曜石を思わせる深い黒髪。外見は姉の真夜と瓜二つでありながら、その佇まいは、嵐の前の湖面のような、静かな深淵を感じさせた。

 彼女は、“精神構造干渉魔法”の使い手。対象の人格構造そのものへと干渉する、常軌を逸した魔法の使い手である。

 今、その深夜の前に、二人の子どもが正座している。蒼夜と深雪。互いに静かに呼吸を整え、目を閉じている。

 

「精神干渉とは、己と他者の境界を認識し、それをまたぐ技術です。ですが、曖昧なまま越えれば、自分自身が崩れます」

 

 深夜の声は、囁くようでいて、聞く者の内側にすっと染み込んでくる。

 

「まずは、自分の“輪郭”を確認すること。そのための第一歩が、この瞑想です」

 

 二人は、何度かの訓練でその手順を学んでいた。意識を内面へと沈め、自分という存在の中心に触れる──それは幼い心にとって、容易いものではない。

 だが、教える者が深夜である以上、訓練は確かに“道”となる。彼女の精神干渉魔法は、相手に強制するものではない。あくまで誘導と共鳴。触れるように、導くように、そっと他者の意識に寄り添う。

 

「蒼夜さん、もう少し息を吸って……ゆっくり吐いて。胸の奥に、“境界線”のようなものを思い描いて。自分と他人を分ける見えない線。それが“ゲート”です」

 

 深夜は少年の名を呼ぶ。目を開けてはいない。だが、彼の意識の揺らぎを明確に感じ取っていた。精神干渉とはつまり、情報体に触れること──それが“できる”者には、視覚に頼る必要がないのだ。

 蒼夜はひとつ、静かに息を吐いた。深雪もまた、それに合わせるように呼吸を整えていく。

 深雪の精神は、まるで磨かれた水晶のようだった。彼女の中では、そのゲートが冷たい霧のように感じられた。境界があるようでなく、けれど触れれば跳ね返されるようなもの。それが自分を守っているということは、本能で理解していた。

 だが、蒼夜の感じているものは、少し違った。

 彼の中では、その“ゲート”が、常に細かく振動し、未来と過去の方向に、無数の波紋を広げているように感じられた。それは、彼の固有能力である《時因位相展開》が、精神という領域にも無意識に作用している証だった。

 

「二人共、その調子です。では、今から、私の意識に触れてごらんなさい」

 

 深夜が言うと、空気がわずかに変わった。触れれば沈む。離れれば引き戻される──深淵のような感覚が、二人の前に広がっていく。

 まずは深雪が、静かに、そして慎重に、目に見えない精神の触手を伸ばしていく。

 ──触れた瞬間、深雪の肩が微かに震えた。

 押し寄せる情報。記憶。感情。深夜という存在の断片が、波のように心を満たしていく。だが、それは決して荒波ではなかった。澄んだ湖面のような静けさの中で、深く深く潜っていくような感覚。

 

「深雪さん、大丈夫?」

「……はい、大丈夫です」

 

 深雪は目を開けた。かすかに呼吸が乱れていたが、その瞳には確かな光が宿っていた。

 

「よくできました。深雪さんは、とても器用ね。けれど、共鳴しすぎないよう、注意なさい」

 

 次に、蒼夜が意識を向けた。

 彼の干渉は、深雪と比べてやや粗い。だが、その分だけ“強く”触れる。迷いがない。核心を抉るように、まっすぐに深夜の精神の核へと触れようとする。

 

 ──そして、その瞬間。蒼夜の中で、異変が起きた。

 

 深夜の精神に触れた瞬間、彼の《時因位相展開》が、暴走に近い形で強制的に発動したのだ。

 通常の未来予測ではない。

 彼が見たのは、深夜という人間の、過去と未来の断片。

 

 ──幼い頃、瓜二つの姉である真夜と、無邪気に手を繋いで笑う姿。

 ──薄暗い研究施設で、苦痛に顔を歪ませる名も知らぬ男に、己の力を振るいながら、自らも唇を固く噛み締めている、若き日の姿。

 ──そして、未来。数年後、陽の当たる屋敷の縁側で、少し成長した達也と深雪が仲睦まじく語らっているのを、ただ、慈愛に満ちた表情で見守る、母としての彼女の姿──。

 

「……っ!?」

 

 膨大な情報の奔流が、蒼夜の脳を灼く。

 彼が触れたのは、深夜の「現在の意識」だけではなかった。彼女の精神情報に刻まれた、過去と未来の因果情報にまで、無意識にアクセスしてしまったのだ。

 

「……すごい、な……」

 

 蒼夜が小さく呟いた。汗が額に浮かび、指先が微かに震えている。それでも、目は逸らしていなかった。

 

「蒼夜さん!」

 

 深夜の、鋭い声が飛んだ。彼女は、今、蒼夜が何をしたのかを、瞬時に理解していた。

 

「あなたは、相手の奥に踏み込みすぎています! それは、ただの感応ではありません。 相手の魂の記録そのものを、無理やりこじ開ける行為ですよ」

 

 彼女の表情には、焦りと、そして畏怖が混じっていた。

 精神干渉と、未来視。二つの規格外の才能が、この少年の中で、誰も予測しなかった形で融合を始めている。

 

「意識とは、鏡です。深く覗きこめば、自分自身の“影”が返ってくる。ましてや、他人の過去や未来まで覗き込めば……あなた自身の時間が、混濁し、崩壊します!」

 

 それが、精神干渉魔法の最も恐ろしい側面──“自己崩壊”のリスクだった。

 深夜は、二人に丁寧に言葉を投げかけながら、淡々と指導を続けた。その口調に厳しさはない。だが、一言一言に揺るぎない重みがあった。

 訓練が終わる頃、蒼夜と深雪の呼吸は乱れていた。だが、瞳の奥には確かに何かが刻まれていた。

 静けさの中、深夜は目を閉じて、そっと息を吐いた。

 

(……この子は、危険すぎる)

 

 胸の内で、彼女は戦慄していた。

 

(……ですが、同時に。この子たちは、届くのかもしれない。私たちが、決して届かなかった、精神という名の深淵の、その先へ)

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を歩く足取りは、ひどく重たかった。

 訓練を終えたばかりの蒼夜の身体は、どこか泥の中を進むような鈍さを纏っていた。足の感覚はあるのに、動きが鈍い。筋肉ではなく、もっと深い部分──神経の奥が痺れているような、そんな妙な疲労感が全身を包んでいた。

 視界は確かに開けている。けれど、どこか靄がかかったようで、遠近感がつかめない。まばたきのタイミングさえも、わずかにずれている気がした。深夜の精神干渉訓練──それは、単に“疲れた”という言葉では表しきれない消耗を残していた。

 

「……頭の中が、ざらざらする……」

 

 誰に聞かせるでもなく、ぼそりと呟いた声は、木造の廊下に吸い込まれて消えた。

 感応によって他者の心に触れ、自らの境界線を保ちながら相手の精神を読み取る──それは、思考と感情の境界が曖昧になる行為だった。蒼夜の中に、ほんの一瞬とはいえ“深夜”が入り込んだ余波は、まだ完全には抜けきっていない。

 思わずため息をつきながら歩いていると、屋敷の一角、開け放たれた縁側にひときわ柔らかな気配を感じた。ふと目を向けると、そこには、肩までの栗色の髪を風に揺らしながら、静かに腰かけている少女の姿があった。

 津久葉夕歌。四葉家の分家──津久葉家の長女であり、蒼夜より五つ年上の十三歳。思春期の入口に立つ年齢でありながら、彼女の立ち居振る舞いにはすでに一種の気品と、年下に向ける優しさが自然と宿っていた。

 

「おかえり、蒼夜くん。深夜さまと訓練だったんでしょう」「……うん。どうして知ってるの?」

「ふふ、だって、訓練の後って、蒼夜くんいつも“無言で廊下の板を睨んでる顔”してるから」

 

 夕歌はからかうように言いながら、ふわりと微笑む。その笑みに棘はなく、むしろ姉のような親しみと柔らかさを湛えていた。

 

「疲れたでしょ? ここ、風が気持ちいいわ。ちょっと休んでいけば?」

 

 促されるままに蒼夜は縁側に腰を下ろし、隣に並んで座る。夕歌の髪が風に揺れて、かすかに甘い香りが鼻をくすぐった。

 彼女もまた、精神干渉系魔法の使い手であり、優秀な魔法師だ。有名どころで言えば、マンドレイクだろう。

 マンドレイクは、恐怖を惹起し心理的ダメージをもたらす想子波を術者の前方150度に放つ精神干渉系魔法。

 この魔法が作り出すのは恐怖を与えるイメージではなく、恐怖そのものである。意識の抑圧を緩めて感情を暴走させるのではなく、恐怖という情動を発生させる。

 この魔法に致死効果は無いが、浴びた者は心理的耐久性に関係なく激しい恐怖に捕らわれ、精神が著しく衰弱する。むしろ恐怖に対する耐久訓練を受けた者ほどダメージは大きいかもしれない。そうした者たちは克服したはずの恐怖に襲われて大抵パニックを引き起こす。被術者は虚脱状態に陥るか、負荷に耐えきれず意識を失う。人によっては精神に深い傷を残す。

 そんな優れた才能を持つ上に、年齢も離れている、蒼夜にとっては、お姉さん的な存在だった。

 

「ねえ、蒼夜くんの魔法って……未来が見えるんだよね?」

「見えるというより……わかる、って感じかな。目で見るんじゃなくて、頭の中に“次が来る”っていうのが浮かぶんだ」

「そっか……それって、少し怖くない?」

「ん?」

 

 ぽつりとこぼれた夕歌の声に、蒼夜は目を瞬かせた。

 

「未来がわかるって、すごい力だと思う。でも……“知ってしまうこと”が時には苦しくなることも、あるんじゃないかって」

 

 夕歌は遠くの空を見つめながら、微かに表情を曇らせた。普段は明るく、冗談めかした言葉を飛ばす彼女が、こんな風に沈んだ顔を見せるのは珍しかった。

 

「……魔法って、誰かを守るためにあるはずなのに、どうしてこんなに“選ばれた責任”みたいなものばかりついてくるんだろうね」

 

 その言葉に込められたのは、魔法師としての自覚、そして将来への不安だった。精神干渉系の適性を持つ彼女に課せられるものの重さ。それは、十三歳の少女にはあまりに大きなものだったに違いない。

 

 沈黙がふたりの間に落ちた。

 そして、ふいに蒼夜が顔を上げ、ぱんと手を打った。

 

「よし、じゃあ──鬼ごっこ、しよう」

 

 突拍子もないその言葉に、夕歌は一瞬呆気にとられる。

 

「えっ?」

「考えても答え出ないなら、身体動かした方がマシ! ほら、風も気持ちいいしさ。負けたら母さんの肩もみね!」

 

 蒼夜は立ち上がると、そのまま夕歌の手を引いた。咄嗟に引き寄せられた夕歌は、驚きながらも抵抗の隙を逃し、立ち上がらざるを得なかった。

 

「ちょ、ちょっと蒼夜くん!? 私、スカートなんだけど……!」

「大丈夫だって、夕歌さんは笑ってる方が可愛いから!」

「そ、そういう問題じゃ……もうっ」

 

 返す言葉もないまま引っ張られ、夕歌は思わず笑ってしまった。 それは困ったような、けれどどこか嬉しそうな微笑だった。

 無邪気な少年の手が、彼女の不安を強引に引き剥がしていく。  軽い足音が庭に響き、木々の間を二人の影が駆け抜ける。

 風が頬をなで、草の匂いが通り過ぎる。 蒼夜の小さな背中が前を走っている。 真っ直ぐで、無防備で、でも不思議と安心できるその背中。夕歌はその後ろを追いながら、ふと、胸の奥に芽生える感情に気づいた。

 

「……深雪ちゃんに勝てるわけないのになぁ」

 

 その小さな呟きは、風に紛れて誰にも届かなかった。けれど、彼女の心には確かに届いていた。

 

「そう言えば、夕歌さん」

「な、なに?」

「白いパンツみえて──いたっ!?」

「ばかっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が高く昇り、屋敷の静寂を深めていく中、蒼夜は眠れずにいた。布団の中でまどろむこともなく、ただ天井を見つめていた。

 

「……魔法って、なんなんだろうな」

 

 呟いた声は誰にも届かない。

 魔法は力だ。

 でもそれは、万能ではない。

 魔法師という存在が、社会の中で何を背負っているのか──夕歌の言葉が脳裏をよぎる。彼女の、ふとした不安の滲んだ横顔。彼女もまた、将来に怯えていた。魔法が才能と引き換えに課す責任。自分が生まれた理由、自分に課された道筋。あの夢の中で散っていった者たちは、すべて魔法師だ。その肉体は器のように扱われ、魂は何も語ることすら許されなかった。あれがこの世界の“魔法師の末路”なのか。もしそうだとしたら、自分たちは一体何のために魔法を学んでいるのだろう。

 ……けれど、考えても答えなど出ない。

 そんな問いに結論を出せるほど、蒼夜はまだ人生を知らない

 ただ、身体の奥に刻まれた“あの痛み”が、どうしようもなく現実のものとして残っていた。

 思考を切り替えるように、蒼夜は自分の魔法に意識を向けた。

 

《時因位相展開(クロノス・フェーズ)》──それは、彼が物心ついた頃から、呼吸をするように当たり前に使えていた、特異な知覚能力。父・蒼士からは「それは魔法というより、お前の“眼”そのものだ。だが、その眼の使い方を誤れば、お前自身が壊れるぞ」と、何度も言い聞かされてきた。

 この世界の全ての事象は、その真の姿が、高次元の情報領域「イデア」に、「事象情報体(エイドス)」として記録されている。魔法とは、そのエイドスに干渉する技術。

 そして、この能力の本質は、そのイデアに常時アクセスし、周囲のエイドスに刻まれた因果情報を読み取り続け、そこから極短時間先の未来に起こりうる事象の“分岐”を、脳内で同時にシミュレーションし続けるというものだ。

 未来を一方的に“見る”のではない。無数の可能性を演算し、最も確率の高い未来を“知る”のだ。

 

 この常時起動・無差別スキャンとも言うべき性質こそが、彼のプシオンが常に外部に漏れ出し続ける原因だった。彼の脳は、彼が意識せずとも、常に周囲の情報を読み解こうと、微弱なプシオンの探針を伸ばし続けているのだ。

 戦闘時など、意識を集中させれば、その精度は飛躍的に高まる。敵の攻撃動作、魔法の発動予兆、空間の変化、感情の高ぶりなど、あらゆる“行動の起点”となる情報を感知し、それに基づいて「0.5~1.2秒先までの行動可能性」を同時に演算する。その結果は、映像として目に映るわけではなく、あくまで「こうなる」という絶対的な確信として、術者にフィードバックされる。

 

 だが──その強力さと引き換えに、この“眼”にはいくつかの明確な“枷”があった。

 まず第一に、情報処理の過負荷(オーバーロード)。意識的な使用の限界は、約十秒。それ以上酷使すれば、脳が膨大な未来の可能性の濁流に呑まれ、現在と未来の境界が曖昧になり、幻視や幻聴といった症状を引き起こす。

 第二に、因果律の不確定性。相手が“無意識”または“完全に意図のない”動作を行った場合、予測の元となる因果情報が不完全なため、精度が著しく低下する。サイコロの目のように、完全な無作為行動の前では、この“眼”も無力に近い。

 第三に、肉体の限界。たとえ一秒先の未来を知っていても、そこから回避するための身体能力が伴わなければ、何の意味もない。

 

 つまり、《クロノス・フェーズ》は、戦術的に絶大なアドバンテージをもたらす一方で、「万能の予知能力」では断じてない。ましてや、八歳の子供の未熟な身体では、その真価の数パーセントも引き出せていないだろう。

 

 だが、希望もあった。蒼夜にはもう一つ──精神干渉系への適応があった。母である真夜、そして伯母・深夜から受け継いだその素質は、まだ開花してはいないものの、明らかに自分の中に存在していた。

 もし、《クロノス・フェーズ》と精神干渉系の力を融合させることができれば── 「行動の予測」ではなく「意志の読み取り」まで踏み込むことが可能かもしれない。

 未来を読むことは、行動を知ること。しかし、心を読むことは、行動の“動機”を知ることだ。これが融合すれば、相手が意識的に発動する魔法も、あるいは無意識の反応すらも、“予兆”として感じ取れるかもしれない。

 今はまだ実現できない。けれど、目指す方向は見えている。

 クロノス・フェーズは“眼”。精神干渉は“耳”。そして、心で“触れる”。

 

 蒼夜が目指すのは、ただ敵を倒す魔法師ではない。読み解く魔法師。理解する魔法師。戦場で敵の“行動”を予測するのではなく、“悲劇”そのものを未然に止める魔法師。

 

 ──誰かが歩んだあの地獄を、誰にも踏ませないために。

 

 目を閉じれば、またあの鉄の天井が浮かびそうだった。だから、蒼夜はあえて目を開けたまま、天井の木目をじっと見つめ続けた。

 息をひとつ、深く吸う。まだ、自分は歩き出したばかりだ。この力が、誰かを守るためにあってほしいと願う限り。蒼夜は、進むことをやめないだろう。今はまだ。

 

(考えたら眠くなってきた……)

 

 そろそろ寝ようかと薄暗い中にふと、視界の端にある“それ”が目に入る。

 壁際、本棚とタンスの隙間にひっそりと置かれた──金庫。

 小ぶりな、旧式の手動ロックタイプ。黒鉄の表面には傷が多く、ところどころ塗装が剥げている。近くに置かれた家具が少し埃をかぶっているにもかかわらず、その金庫だけは不自然なほど綺麗だった。

 蒼夜は、しばし目を細めた。

 

(……これ、いつからあったっけ?)

 

 思い返そうとするが、曖昧だ。ずっと昔からそこにあったような気もするし、昨日まではなかったような気もする。日常の背景に紛れ込んでいた異物。

 そして、なぜか気になって仕方がない。

 中に何が入っているのかもわからない。鍵も、コードも、知らない。けれど、視線を外せなかった。

 手を伸ばす。

 触れる直前、なぜだか息を呑んだ。

 冷たい。

 まるで、この金庫だけが“時間”から切り離されているような感触。金属の硬さ以上に、何か……意志のようなものが内側から伝わってくる気がする。

 だが、それ以上開ける気にはなれなかった。

 今はまだ、その中身を見るべきではない。

 そんな“誰かの声”が、胸の奥で囁いた気がした。

 蒼夜は、静かに手を引いた。

 

 

 

 

 

 

 夜の港は、静岡の街灯すら届かぬ薄闇に沈んでいた。

 春を目前にしているはずなのに、海風は冬の名残を肌の奥へと突き刺してくる。湿った空気に混ざる潮の香り。鉄と油のにおいが澱のようにこびりついて、かすかに血の気配さえ感じさせる。

 そんな中、男たちは、貨物倉庫の裏手――使われなくなった積荷スペースの死角に身を潜めていた。

 

 ──時刻は、丑三つ刻。

 

 古来より妖が跳梁する“魔の刻”とされてきた時間。現代においてもなお、犯罪の発生率が統計的に高いこの時間帯は、裏社会に生きる者たちにとっては“仕事”の最中であることが多い。今日もまた、取引を控えた男たちが緊張感を孕んだ沈黙を共有していた。

 

「……さみぃな」

「……だな。春はまだ遠いってことだ」

 

 肩をすくめ、吐いた白い息がすぐに風に攫われていく。辺りを包むのは、不自然なほどの静寂だった。海のざわめきすら、どこか遠くに追いやられたかのように小さく、空気が凍りついたような気配だけが残る。

 そんな時だった。

 舗装路の先、薄闇の中から、三つの影がゆっくりと近づいてきた。

 男、男、男。

 三人とも無言。足音すら響かせず、吸い寄せられるような滑らかさでこちらへ向かってくる。

 

「……なんだ、あいつら」

 

 異様だった。歩調は一定で、威圧感もなければ敵意も見えない。ただ、どこか“世界の文脈”から逸脱したような、説明のつかない不気味さを伴っていた。

 そのうちの一人が、不意に微笑んだ。

 それだけで、空気が変わった。

 

「なっ……!」

 

 隣の男が小さく息を呑んだ瞬間、緊張が一気に頂点に跳ね上がった。ほんの一瞬。そちらへ視線を向けた──ほんの一秒にも満たない、わずかな油断。

 次の瞬間、三人の姿が、忽然と視界から消えた。

 

「!? ──消え──」

 

 反射的に男は腰に手をやった。携行型のコンパクトCAD──最新型の高速起動モデル。起動コードは既に展開済み、あとは意識を流し込むだけ。手慣れた動作だった。

 だが、その手首を、背後から掴まれた。

 冷たい指が、骨を砕くような力でCADを握った腕を封じ込める。

 

「っ……!」

 

 気配は、なかった。いや、“あった”はずなのに、知覚が追いついていない。訓練では一度も出会ったことのない、異質な存在感。

 それでも男の体は条件反射で動いた。

 背後に密着させた状態から、即座に重心を落とし、掴まれた腕を肘から跳ね上げ、相手の体勢を崩す。小内刈り──柔道の基本技。魔法師とはいえ、格闘訓練も徹底されたこの男の動きは滑らかだった。

 だが──。

 

「……ッあ……?」

 

 CADを握った腕だった。「まさか!」と自分の右腕を見れば、まるで鋭利な刃物でスッパリと断ち切られたような断面が目に入った。 悲鳴を上げそうになったが、なぜか声は出ず、気管からヒューッと空気が漏れただけだった。 斜めに傾いてゆく視界にアスファルトの地面に突き刺さった血まみれのガラス片が見える。

 ──何だ? 何が起こった?

 

  パニックの波が起こるより早く、男の意識は黒く塗りつぶされていった。

 

 

 

 

 

 血の匂いが、潮風と混じって、鈍く鼻腔にこびりついた。

 静岡の港、人気の途絶えた埠頭の片隅で、男たちは無言のまま動いていた。夜明け前の冷え込みに、海面はゆっくりと波を揺らし、時折、遠くでフェリーの汽笛がくぐもって響く。

 その音は届いていないのか、届いていても気にしていないのか。男たちはただ、黙々と“作業”を続けていた。

 一人の男が、ぬるりと血に濡れた手で死体の顎を掴む。すでに命を失った魔法師の青年──名も知らぬ、そしてこれからも知ることのない──その顔面は、すでに形を保っていなかった。

 鉄製の杭が、頭蓋を砕いていた。白と紅の断片が、アスファルトに散らばっている。

 

「──いい顔してたな、さっきまで」

 

 低く、笑いともつかぬ声が漏れる。男はその顔に、さらに重い靴底を叩きつける。骨の砕ける音が、ぬちゃり、と響いた。

 

「魔法師は人じゃねえ。獣だ。神の真似事をしやがった獣だ」

 

 背後では、別の男が遺体の胴体を魔法で引き裂いていた。皮膚ごと臓腑を裂き、冷えた臓器を片端から引きずり出す。震える手ではない。熟練の技術でもない。ただ、ひたすらに“破壊する”ことだけに集中した動きだった。

 何の意味もない。ただの解体。意味なき儀式。憎しみをどこにもぶつけられなかった男たちの、哀れな自己陶酔。

 

「おい、こいつまだ熱いぞ。生きたまま、だいぶ……なあ?」

 

 汚れた笑いが漏れる。それに応じて、三人目の男が血濡れの指を舐めるようにして拭った。目だけがぎらぎらと光を放っていた。

 

「──そうだ。こいつは“あの男”の国の犬だった。だったらこうなる運命だったのさ」

 

 その言葉に反応するように、他の二人が手を止めた。しばしの沈黙の後、同時に口角を吊り上げる。

 

「あの時、全部燃やされて……全部潰された。友も、家族も」

「忘れられるわけねぇだろ。地獄みてぇな業火だった。なのに生き残っちまったんだ、俺たちゃ」

「だったら、今度は俺たちが“地獄”をやる番だ」

 

 男の一人が、指先を立てると、死体の中心部が魔法で焼かれていく。焼き焦げた皮膚が弾ける。煙が立ち昇る。むせ返るような臭いが、静かな夜気を裂いた。

 彼らにとっては、これは復讐ではない。救いでもなければ、目的でもない。

 ただ“壊す”ことそのものが、生きている証明だった。

 その夜、彼らの手によって殺された魔法師は三名。いずれも、事件との因縁など何もない、通りすがりの若者たちだった。

 だが、男たちにとっては、それで十分だった。顔も知らぬ“誰か”を殺し、壊し、焼く。それが、彼らがかつて失ったすべてへの、たった一つの“返答”だった。

 夜が終わるまで、男たちはそこにいた。

 死体の破片と血だまりの中心で、静かに、愚かしく、そして、痛々しくも執念深く──彼らは“自分たちの地獄”を描き続けていた。

 

 

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