「うわ、凄い海流。あとこのタコは何?」
船の端っこから覗き込むように海を見れば、あちこちに渦潮や高波がある出鱈目な海がそこにはあった。船の進む先には大きな滝があり、このままだと船は滝に打たれて沈むだろう。
しかし百獣船員達が慌てる様子はない。……いや、数人程は私が海に落ちないかハラハラしながら見ているけど。子どもじゃあるまいし落ちるわけないだろ。
それよりも私の横にいるタコだ。なんか海から出てきて当たり前のように私の横で立っているんだけど、誰だコイツ? 鉢巻を巻いているしみんなが反応しないってことは野生じゃなくて百獣船員なのか?
みんなにこのタコのことを聞くべきか悩んでいると、タコはある方向を向いてギョッとした顔をしてから海へと戻っていった。本当に何だったんだあのタコ。
タコが見た方向を見れば、いつの間にかキングがそこにいた。私と視線があったが特に反応はない。大方私の見張りか何かだろう。逃げるつもりなんてないのにね。せっかくワノ国へ来たのだから逃げるとしても一度観光をしてみたい。まぁ観光をやるとしてもカイドウ達の拠点である鬼ヶ島でやることをやってからになると思うけど。
そんなことを考えつつたまに海面近くを泳ぐ鯉を眺めていれば、船は滝のすぐ近くまで来ていた。ここからどうするのかと滝を観察していると、急に滝が割れてこの大きな船も余裕で通ることができる洞窟が現れた。
……すげぇ、隠し通路だ。こんなものを見せられると昔公園とかの隅っこで蔓とかを木に巻いたりして秘密基地を作っていたことを思い出すなぁ。
洞窟の中の景色をキョロキョロと忙しなく眺めていれば、奥に港が見えてくる。そこへ船を停めるなり船員達が荷物を下ろし始めたのでここで降りるのだろうか?
「手伝おうか?」
「イブキお嬢? いえ、おれたちは大丈夫です。それよりイブキ様は──」
「イブキ! お前はコッチだ‼︎」
やることもないので近くの船員の荷物運びを手伝おうとすれば、カイドウから大声で呼び出された。声が聞こえてきた方を見ればカイドウとキングの二人が船から港に繋がる橋の前で私を見ていた。どうやら私は二人について行けば良さそうだ。
折り畳んだ屋台と金棒を持って二人の元へ行けばカイドウとキングは先導するように歩き始めた。当然私もそれについて行くのだが、悲しいかな歩幅が全然違うから早歩きをしないといけない。
「……もっと速く歩け」
「文句なら私の伸びない身長にどうぞ。っていうかキングが私を運んでくれたら解決するんじゃない?」
キングからの苦情に私も文句を言えば、キングはため息を吐いた後で私に向けて手のひらを伸ばす。
おっ?ダメ元で言ってみたけど意外とやってくれるやつ? なら大人しく掴まれようじゃないかと待っていると、頭頂部を鷲掴みにされて持ち上げられた。
「行こう、カイドウさん。あまり時間をかけるとクイーンの奴がうるさい」
「……おう」
「なんか違う‼︎」
てっきり襟首を掴まれて運ばれると思っていたのに何この運び方⁉︎ カイドウも微妙そうな顔してるじゃん‼︎ あ、でもなんかこの運び方落ち着くわ。私を落とさないためかキングの指先にはそれなりの力が込められていて安心感がある。猫が首の後ろを掴まれて大人しくなるのってこんな気持ちになるからかもしれないな。
これならキングに任せていいやと身体の力を抜いてなすがままになる。そんな私をキングは時々強く握ってくるが、頭皮マッサージをされているみたいで寧ろ良い。もっとやって欲しい。
そんなことをしているうちに二人は地上へ続くゴンドラに乗っていつの間にか外に出ていた。外には百獣船員達が待っており、キングに鷲掴みされている私を見てギョッとしながらも二人の帰還を喜んでいた。
「……? カイドウさん、行かないので?」
「……いや、行こうか」
近況報告もそこそこにして、二人は獣型に変身して拠点である鬼ヶ島へ飛んだ。私はキングの片脚で鷲掴み継続だ。まぁ月歩で走って行くのは面倒だし、獣型で鬼ヶ島まで行くのは敵襲と思われそうだから良いんだけどね。でも龍になったカイドウがキングに何かを言おうとして口を開いたタイミングでキングが私を掴んで飛んだものだから、カイドウの手が所在なさげに何もない空間を掴んでいるんだよ。一体何を運びたかったのだろうね。
そんな一幕がありながらも私は鬼ヶ島に到着。着陸の時は雑に放り投げられたが、華麗に着地を決めた。
「おかえりなさいませ!カイドウ様!キング様! そしてこのお人が?」
「おれのもう一人の娘であるイブキだ。それよりアイツらはどうなってる?」
「ハッ‼︎ カイドウ様から事前に受けた連絡通り、飛び六胞と大看板の皆様方は既に到着しております。ですがヤマトぼっちゃんは未だ見つかっておらず……」
「島内にはいるはずだ!探し出せ‼︎ 腹違いとはいえ妹の顔見せだというのにあのバカ
「りょ、了解です‼︎」
最初に出迎えて来た船員へカイドウは少し怒りながら指示を出す。船員はその迫力に怯えはしたが、慣れているのかすぐに行動に移った。
それを見送ったカイドウは歩き出し、キングもそれに続く。私もキングに運んでもらおうと期待の眼差しを送ったのだが、流石に自分で歩けと拒否された。
口を尖らせても無視されたので無理そうだ。カイドウならどうだろうかと考えてみたが、あのカイドウが私を運んでくれるわけないのでとっとと諦めた。その際にカイドウが一瞬だけ肩を落としたように見えたが、恐らく私の勘違いだろう。
仕方ないので自分の足で歩幅が広い二人について行くことしばらく。天井が高く、広い部屋に到着した。そしてここがカイドウの目的地だったようでどっしりと上座と思われる場所に座り込み、その横にキングが立つ。
私はどうしようかと悩んだが、こんな時のマナーなんて知らないので適当な場所に座り込んだ。するとキングが動き出し、私の頭を掴んで持ち上げたと思えばカイドウの膝の上にまた置いた。
……うん、絶対にこれは違うと思う。何?私はカイドウのペットとかそういう感じのポジションなの?
まぁカイドウが何も言わないならいっかとしばらくカイドウの腹筋枕でくつろいでいたが、廊下からここへ近付いてくる複数人の気配を感じたのでカイドウから降りてその隣に座る。その際にキングから視線を向けられたが、カイドウからの褒美で目覚めた覇王色を飛ばして威圧しておく。流石に複数人にアレを見られるのは恥ずかしいので拒否だ。拒否。
もしこの近付いている人達がここを通り過ぎたのならまた膝の上に戻ってあげようかな?なんて考えていたが、どうやらここが目的地だったようで襖を引いてそのまま部屋の中へ入ってきた。
「ムハハハ! 来たぜカイドウさん! それでこのチビが──」
「次チビって言ったらその頭を胴体まで沈ませるぞ」
「え〜〜‼︎⁉︎ 怖っ!可愛い見た目してるのに発言怖っ‼︎」
一番目に入ってきた全体的に丸くてずんぐり体型をした大男ことクイーンに向けてほぼ反射で言葉を返すと大袈裟なリアクションが返ってくる。
それにしても良い体型だなクイーン。体重も重そうだしトレーニング道具としてちょうど良さそう。
「おいおい、そんな出会ってすぐに熱い視線を送られても困るぜ」
「ねぇ、ちょっと長い棒にしがみ付いて私が使うダンベルになる気はない?」
「ちょっと待ってろ、確かこの辺にダンベルとして使うのに丁度良い長さの棒が……ってならんわ⁉︎」
むぅ、ならないか。探す仕草をしたからもしかして了承してくれたのかと思ったが、どうやらツッコミを入れる前の前座だったようだ。
そんな漫才みたいなことをしているうちに他のメンバーも部屋の中に入っていたようで、見覚えのあるキャラ達がジロジロと私を観察している。
彼ら彼女らに私も視線を向けるが、とある人物がいたことで思わず目を見開いてしまった。
「ホゲゲゲゲ、久しぶりだなぁ」
あ、あなたは……! あなたは……! あ〜〜〜〜?
「…………?」
「ホゲータだ‼︎ ホエール海賊団船長のホゲータ‼︎ あんたにパチモン鯨ってイチャモンつけられたホゲータだ‼︎」
「あ、あ〜。あのホゲータね」
「あのって何だよ⁉︎」
違うのよ。あの時と見た目が色々変わりすぎて脳内ホゲータと一致しなかっただけなのよ。決して忘れていたわけとかそういうのじゃないから。ホントだよー。うん。
◆
イブキが首を傾げたことでホゲータからのツッコミが炸裂したが、それ以外のメンバー達とはスムーズに顔合わせが終了した。何せドレークの代わりにホゲータがいるだけでそれ以外は原作のメンバーと全く同じだからだ。
そして現在、イブキ達は顔合わせと自己紹介で解散は味気ないと考えたカイドウの手配で小規模だが宴を行おうとしていた。
しかし少し問題が起きた。イブキが用意された酒を飲みたがらないのだ。宴に酒は付きもの。カイドウがイブキに飲めないのかと聞けば、イブキは飲めるが酒癖が悪いし酔った時の記憶がなくなるタイプだから嫌だと答えた。
両手の指をモジモジさせながら恥ずかしそうに目を逸らして答えたイブキの姿にカイドウとキングを除くメンバーの全員が本当にカイドウの娘かと疑った。何ならうるティは声に出した。対してカイドウはこの先酒付き合いは増えるだろうし、自分の許容量は知っておくべきだとイブキに酒を差し出した。
百獣のメンバーならカイドウから差し出された酒なんてまず断れないだろう。だというのにイブキはまだ拒否しようとしていた。その姿に限界がきたのはうるティだ。
「そんなに酔うのが怖いなら酔った瞬間に気絶させてやるゴン!」
うるティの言葉にイブキがカイドウを見ると、イブキの内心を読んだカイドウは頷いた。そこまでしてやっとイブキは酒を口にした。
その結果……。
「うわぁぁぁぁぁん‼︎‼︎ みんな私を虐めるんだァ‼︎‼︎ ヒック…!」
「おい!酒癖が悪いどころじゃねェぞこれは⁉︎」
見事に酔ったイブキは号泣しながら暴れていた。バタつかせた足や拳が畳に触れるとそのまま粉砕し、下の階へ直通の道を作る。その光景を見たフーズ・フーは思わずといった風に言葉を漏らした。
そう、みんなはイブキの酒癖の悪さを舐めていたのだ。流石にカイドウレベルではないだろうと。まさかカイドウレベルに酒癖が悪く、その癖カイドウのように自制が効かないとは考えてすらいなかった。
「押さえるぞ‼︎ このままじゃ建物がもたねェ‼︎」
そんなイブキに向けて早速ホゲータが拘束に向かう。今のイブキは寝そべって暴れており、そこに大柄な体型をしたホゲータが覆い被さるように飛びかかった。
「来るんじゃねェよ変態パチモン鯨船長野郎‼︎‼︎」
「ホゲ〜〜〜〜‼︎‼︎⁉︎」
「ん?うぉぉぉ⁉︎」
「アイツ何しに行ったんだよ⁉︎」
が、あまりの絵面の悪さに泣きから怒りへ変わったイブキの上半身をバネにして放ったドロップキックが飛び込んで来るホゲータの頬へカウンターを決めるように炸裂、蹴り飛ばされたホゲータは進路上にいたササキを巻き込みながら障子をぶち破ってフロアの外へ仲良く転落していった。そんな即落ち2コマを見せられたクイーンはたまらずといった様子でツッコミを入れる。
「バオファン!いるか⁉︎」
「は〜〜い!ここにいるよ〜!」
イブキの暴れっぷりを見ていたカイドウは大声で秘書のような役割を持つバオファンを呼び出し、カイドウの呼びかけに応じて天井から幼い子どもが姿を現した。
「バオファン! 手錠でも鎖でも粗悪品でも何でもいい! 今すぐ海楼石を持ってくるように周りへ指示を出せ‼︎」
「あいよ〜〜〜!」
あのカイドウが少し焦っている。それを感じ取ったバオファンは口では軽く答えつつ、急いでメアリーズを通じて周囲にカイドウからの指示を伝えた。
「えっ?アイツって能力者なの?」
「あぁ、獣型になるとそこらの島より大きな蛇になる」
「……それってヤバくねェか?」
「カイドウさんがすぐにイブキを気絶させない理由がそれだ。獣型になられた時点で鬼ヶ島の中は壊滅する」
カイドウの獣型でも余裕がある鬼ヶ島だが、流石に島サイズのイブキは無理だ。さらに今のイブキなら並大抵の威力では気絶しないため、下手にカイドウが攻撃して酔ったイブキに獣型への変身を決断されれば止めきれない。
「だったら一撃で気絶させればいいだろ‼︎」
だというのにうるティがイブキへ突貫。初手から自身の能力を発動して人獣型になり、空中へ跳ぶと額に武装色を纏ってイブキに強烈な頭突きをお見舞いしようとする。
うるティから放たれる覇気によって自身へ攻撃しようとするうるティの存在にイブキも気付き、迎撃のためにうるティの真似をして額に武装色を纏った。
「"ウル
二人の額がぶつかり合い、しばらく拮抗するがイブキは額に拘っているわけではないため、拮抗の最中に右腕に武装色を纏いうるティの顎へ見事なアッパーカットを決める。拳に込められた力は強く、殴り飛ばされたうるティは高い天井へと突き刺さった。
「姉貴ィー⁉︎」
「うわーん、ペーたん。慰めてほしいゴン」
「……平気そうだな」
「慰めろよ‼︎」
天井に突き刺さったうるティを心配するページワンだったが、平気な顔をしながら出てきたうるティを見て心配するだけ損したと思っていそうな表情ですぐに視線をイブキへ戻す。それが癪に障ったのかうるティがページワンに飛び付き、いつものじゃれ合いが始まった。
「っていうかバカキング。お前がイブキを押さえ込めば全て解決するんじゃねェか?」
「動けなくなったらそれこそ獣型に変化するだろうが。そんなことも理解出来ないのか能なしクイーン」
「カイドウ様! 海楼石を持ってきました‼︎」
「よし、どこでもいいからイブキに取り付けろ」
「了解です!」
動きたくても動けないもどかしさにキングとクイーンの間に剣呑な空気が流れ始め、同じように何も出来ないジャックも表情は変わらないが二人をどう止めようか悩んでいたが、ここで海楼石の鎖を持った部下が到着した。
「ウィ〜〜、どうせ私は食べても身長が伸びないですよーだ。何でみんなスタイル良いのに私はこんなチンチクリンなんだ……ヒック!」
「ちょうど"落込上戸"に変わったからチャンスだな!早く行け‼︎」
さらに丁度よくイブキが怒りから落ち込みに変化。膝を抱えて横になったイブキにクイーンはチャンスだと思ったのか部下達にGOサインを出す。しかし──。
「うわぁぁぁん‼︎ チビとか言ったクイーンなんていつかぶちのめしてやるゥ‼︎‼︎ ヒック‼︎」
「うぉぉぉ⁉︎ 覇王色か⁉︎ でもチビなのは本当──って危ねぇ⁉︎金棒掠ったぞ今‼︎⁉︎」
再び泣きに戻ったイブキが放った覇王色の覇気によってイブキに接近していた海楼石の鎖を持った部下が気絶。イブキが覇王色を持っていることにクイーンは驚くが、イブキがチビであることは事実だしと余計なことを言おうとする。だがそれを察知したイブキが投擲した金棒が顔のすぐ隣を通り抜けたことでクイーンは目玉が飛び出るほど驚きながら後退りで慌てて距離を離した。
海楼石を持てる部下達が来ても、彼ら彼女らの実力ではイブキが放つ覇王色に気絶させられてしまう。どうしたものかと飛び六胞達は悩むが、キングはあるものに気付くとイブキに向けて歩き出した。
そしてイブキの顔を掴んで持ち上げた。当然イブキは暴れるが、低身長からくるリーチの短さでキングの腕にしか拳が当たらない。ならばとイブキが能力を発動したのか身体が大きくなり始めるが、それよりも早くキングは部下が気絶した際に床へ落とした海楼石の鎖の上にイブキを叩きつけた。
変化は劇的で、変化し始めていたイブキの身体はあっという間に元の姿へ戻る。さらに脱力感があるからか、先程みたいに覇気を使う様子もない。なので完全に海楼石をイブキに取り付けるまではこのまま押さえ込もうとしたキングだったが、イブキから聞こえ始めた寝息に思わずといった様子で顔から手を離すと、幸せそうな顔をしてイブキが眠っていた。
◆
これからイブキに酒を飲ませる時は可能な限り本人に飲むかどうかを聞き、飲むとイブキが言った場合は海楼石を取り付けてから飲ませること。また、飲み間違いなどの不慮の事故でイブキが海楼石を付けないまま鬼ヶ島内で酔っ払った場合は即座に飛び六胞以上の者に連絡を行い、能力者じゃないものは海楼石を用意すること。
カイドウのマントに包まれて眠るイブキを部屋の隅っこに移動させてからカイドウは鬼ヶ島に新たなルールを付け加えた。
その後は早々にイブキが酔ったことで中断していた小さな歓迎の宴を再開し、お開きとなる。カイドウに別れの挨拶をしてから部屋を出たキングを除くメンバーが考えることは今回に限っては一致していた。
あぁ、あれは完全にあの人の子どもだ。と。
イブキからするとこのような方法で自分がカイドウの娘だと証明してしまうのは非常に不本意だろうが、誰もが今回の件でイブキがカイドウの娘だということを疑わなくなるのだった。
オリ主……目覚めたら完全にカイドウの娘だと認知されている。酒を飲んでから周りの態度が変わる恐怖を味わうこととなる。
ちなみにクイーンが途中で言っている落込上戸はわざとで誤字じゃないです。