もう私は酒を飲まない方がいいのかもしれない。確かに普通の酒よりも飲むことが出来たけど、クイーン達がジュースと言い切るレベルの酒でも酔うってどれだけ酒に弱いんだ私は。
ほぼ確実にクイーンには迷惑をかけたと思うので次の日に謝りに行ったのだが、海楼石をつけていたお陰で特に問題なかったとクイーンは教えてくれた。その言葉に私がどれだけ安堵したか。
でも心なしかクイーンが私の記憶する姿より痩せているような気がするんだよね。気のせいなのかな?
やっぱり記憶の姿と一致しないクイーンの姿に首を傾げながらも、また囚人採掘場へ遊びに行くと別れ際に伝えたのだが、トレーニングをしないなら来てもいいと言われた。
どうやら私の目的はバレていたようだ。トレーニングが出来ないなら行く気力も湧かないので、再びワノ国観光と洒落込もう。
というわけでやけに酒を勧めてくるカイドウからお小遣いをねだり、僕も連れて行って欲しいと雰囲気で語りかけてくるヤマトに覇気の練習を頑張れとエールを送ってから二度目のワノ国訪問となった。
二度目のワノ国だが目的地は特に決めていないため、一先ず周囲をぐるっと見てまわって観光したあとで中心地にある花の都へ行こうと思う。
原作で描かれていない場所も見れるということもあり、ワクワクしながらワノ国観光を始めた私だったのだが、そんな楽しい気分はあっという間に無くなった。
基本的にどこも同じで貧困だからだ。生活に苦しむ人々にそれを監視する百獣船員と将軍の部下。そんなものを見て気分を上げろという方が無理だ。
これだと屋台を開いても売れないな。無償提供や激安で売るのはいらないトラブルを呼ぶし、多分将軍側の部下がちょっかいを出してくる。まぁ既に私の眼前で気に入らない行動をしていた奴らは百獣将軍問わずに殴り倒しているので今更感があるのだが。
私がそいつらの中で特にムカついたのが浦島と名乗ったデブだ。好きな女がどうたらこうたらとほざいていたが、私が注文した料理をその女性が運んでいる最中に女性を叩いて私のご飯を地面にぶち撒けた上に踏みやがった。
反省する気がないどころか私にも喧嘩を売ってきたので、手加減を忘れてうっかり浦島の手脚を潰してしまった。力士だったぽいので選手生命を絶ってしまった形となったが、まぁ仕方ないことだ。
その後は店にいたら邪魔だろうと浦島の髪の毛を引っ張って浦島が踏んだ飯を食わせてから共に退店し、近くにいた適当な百獣船員に預けてきた。とはいえ選手として浦島はもう使えないだろうから処分するだろう。
そんな感じで私に何らかのちょっかいを出してきて私がそれにムカついたら殴り倒しているのだが、鬼ヶ島を出る前にカイドウに潰したら困る人はいるのかをちゃんと聞いているのでそいつを潰さなければ大丈夫だ。浦島はそこには入っていなかった。なので問題なし‼︎
しかし最初は貧困に苦しんでいるだけと思っていたのだけど、見てまわっているうちにそこで暮らす人々の逞しさというものがわかるようになってきた。彼らはこんな中でも力強く生きている。これが彼らの生き方なのだろう。
だが彼らだってこんな生活は嫌だろう。本当はもっと裕福な暮らしがしたいはずだ。それをカイドウとオロチは封じている。
実際に百獣海賊団と将軍の行いを目の当たりにしてしまい、やるせない気持ちになる。片方は最近馴染んでしまっているから更にだ。はぁ、いい感じに和解とかしてくれたら嬉しいんだけどなぁ……。無理だろうなぁ……。
少々気分が落ち込んだが、今回の最終目的地である花の都を目指して進む。到着すると今までの貧困はなんだったのかと思うぐらい華やかな街並みが私を迎え入れてくれた。
ここなら屋台を開いても大丈夫そうだ。せっかく鬼ヶ島から食材を貰ってきたのに使えないのは申し訳ないからね。最低でも半分は減らしたいところ。
「痛っ!」
「ん? 気を付けなよ少年」
観光しながら屋台を開くのに適した場所を探していると、私の近くで遊んでいた子ども集団の一人が遊びに夢中で周りが見えていなかったのか私にぶつかってきた。
「ご、ごめんなさい!」
「ちゃんと謝れて偉いね。ほら、立てる?」
尻餅をついたまま謝ってくる子どもに向けて手を差し伸ばし、子どもの手を掴んで立たせる。もうね、あのデブを見た後だから謝ってくるだけで私には目の前の少年が良い子に見えてしまう。
「落とし物も忘れずにね。将来はお侍さんかな?」
「え、あ、うん! ボクはオロチ様みたいな立派な侍になるんだ!」
子どもが持っていた2本の竹刀を拾って問いかけながら返すと、子どもは戸惑いながらも自信満々に自分の夢を語った。しかしその夢には疑問点がある。
「ん? 将軍オロチは侍なの?」
「知らないの⁉︎ オロチ様はオロチ二刀流っていう凄い剣術の使い手で、龍の身体を斬ったこともあるんだって‼︎」
「…………へぇ? 龍の身体をか……。それは凄いね。少年もそうなれるように頑張ってね?」
「頑張る‼︎」
凄く嘘っぽいけど、少なくとも目の前の子どもはそれを真実だと信じている。わざわざ否定する意味もないのでその場は笑顔を作り、子どもの夢を応援してあげればその子は笑顔で返事を返して集団の中へと戻っていった。
子ども達の興味が私から離れたみたいなので私もその場を離れて観光を再開する。花の都は将軍の膝元なだけあって栄えており、他の場所よりも楽しめるものが比較的多かった。
取り敢えずは満足したので観光はここら辺にしておき、見てまわっている途中で見つけた良さげな場所で屋台を開店。しかし肉が汚染されている可能性があると疑われているのかなかなか人が買いに来なかったため、仕方なくぶらついていた百獣船員に声をかけてサクラをしてもらう。
「う、うめぇ〜‼︎ こんな肉初めて食べたぞ⁉︎」
「おれもだ! 肉の柔らかさに染み込むタレが堪らねぇ‼︎」
私に頼まれたせいか張り切った船員達の食レポでハードルを数段ほど上げられることになったが、売れ行きは好調。しばらくすると無事に完売となった。ここの人達に串焼きの味を覚えてもらったので次からは私一人でも大丈夫だろう。
「ありがとうね。これお礼のお金」
「いえいえ! イブキお嬢のお役に立てただけでも嬉しいので大丈夫です!」
「受け取れ」
「……うす! ありがたく頂きます‼︎」
サクラをしてもらった分のお金もしっかりと渡して彼らと別れてから串焼きに使った道具を洗ったりしていると、すぐ近くで悲鳴が聞こえた。
何事かと思って屋台から顔を出すと、男が肩を押さえて倒れている。その人の側には男の妻らしき人と泣いている子どもが一人。っていうか泣いている子ってさっき私にぶつかった子じゃん。
「将軍様の行列に子どもが──」
「可哀想に──」
そんな彼らを見ながら近くの人達がボソボソと小さな声で話し合う。恐らくあの子どもが憧れの将軍を一目見ようと近付いて護衛に排除されかけたのだろう。それを父親が止めたが撃たれた感じかな?
悪いのは子どもだし、護衛の判断も正解だ。だから黙って見ていたのだけど、何やら行列の様子がおかしい。
しばらくすると子ども達の前に将軍であるオロチが何故か姿を見せた。ここまで声は聞こえないが、妻と思われる女性と子どもに何かを話すと女性は無理矢理作ったような笑みを浮かべた。子どももまだ泣いていたが、口端に女性の指が突っ込まれて無理矢理口角を上げられている。
そんな二人にオロチは悪どい笑みを浮かべると、自ら手に持った小銃で倒れている男を撃った。頭に一撃。即死だ。これには二人も絶句したが、オロチが睨むと必死に笑い声を上げる。
二人の無様な笑い声を聞いてオロチは愉快そうに笑い、その場でクルクルと回って踊りだす。
「なんていうか、アホな天竜人と同レベルだね」
アホ面を晒して踊るオロチに素直な感想を呟けば、オロチが踊るのをやめて何故か私の方を見た。そして私を睨むと周囲にいた侍達に何やら指示を出す。
指示を聞いた侍達は真っ直ぐに私の方へ走ってくると何も言わずに私を拘束。別に暴れてもいいのだけど、私を引っ張る力的に私が暴れたらこの人達が大怪我しそうなので仕方なくオロチのところまで連行された。
連行されてきた私に向けてオロチがベラベラ話してくるけど無視して何故オロチが私の言葉に反応したのかを探ってみると、彼の後ろに蝙蝠っぽい姿をした百獣船員がいたので恐らく私の言葉を直接聞いたのはコイツだろう。それでオロチに告げ口をしたわけだ。
捕まる私を見てもニヤニヤしているだけなのでまだ私の存在を知らない勢のようだ。小声で身分を明かしてもいいが、ここで教えたら仕事をしただけの彼が色んな意味で可哀想なので黙っておいてあげよう。
「──からこそ、お前がコイツらを笑いながら殺せ! そうすれば此度の件は不問としよう‼︎」
「さっきからベラベラ五月蝿いんだよ顔デカ男」
確実にこの後で彼は私の正体に気付くだろうから彼をフォローする言葉を考えていたのだが、横でずっとベラベラ喋っているオロチが鬱陶しくてつい本音が出てしまった。
騒がしかったオロチが黙ったことで辺りを静寂が包み込む。言葉の意味が理解出来なくてアホな顔をしていたオロチだったが、理解出来るなり憤怒の顔付きで私に小銃を向けた。
「死ね‼︎‼︎」
弁解の余地もなく撃たれた小銃の弾は真っ直ぐに私の顔に飛んでくるので、噛んで止めた。まさか銃弾を止められるとは思わなかったのだろう。オロチは目の前の存在を理解出来ないような顔をしている。
その間に噛んだ銃弾をペッと吐き出し、小さな声で私の名と今から暴れることを告げた。常人には聞こえない声量だったが蝙蝠船員にはしっかりと聞こえたようで、顔色が真っ青になったと思えば周囲の侍達の声を無視してなりふり構わず逃走する。流石に私の名前は聞き覚えがあったようだ。
「私は自分でルールを作っていてね、その内の一つとして『命には命をかけろ』というのがある。当たり屋みたいなやり方で悪いけど今から私とお前で命をかけた殺し合いをするから抵抗してね?」
「はっ?」
一方的にオロチへ告げ、腕の拘束を力尽くで解除。状況を理解出来ていない女性と子どもを回収してから即座に跳んで屋台まで戻り金棒を回収する。金棒回収に少々時間をかけたため私とオロチの間には侍や先程までいなかった忍者の壁が出来ていたが、まぁ問題ないだろう。
はぁ、カイドウに怒られるかな? でもオロチを殺すにはこの壁を潰さないといけないからなぁ。一応手加減して殺しちゃったら謝ろう。うん。
オロチ以外に攻撃するつもりはないからそこを退け。なんて言ったところで彼らが退いてくれるわけがないので取り敢えず覇王色を放って数を削る。
突然泡を吐いて倒れた侍や忍者に他の者達が戸惑っている間に突貫。金棒の一振りで数十人単位を吹き飛ばしてオロチの元へ行く。その最中に手裏剣や刀、あと耳たぶなどが私に襲いかかるが、あまりにも弱い。最近はカイドウとしか戦っていないからコイツらの弱さに落胆してしまいそうだ。
でも数が多いから面倒くさい‼︎ もう被害が出てもいいから纏めて吹っ飛ばそう‼︎ 獣型だと被害が大きくなりすぎるから人型のままで‼︎
「"
金棒を振り上げ覇気を込めてから地面に叩きつける。その威力に地面にはクレーターが出来て周囲に破壊を撒き散らし、私に飛びかかってきていた侍や忍者が叩きつけた際に発生した衝撃波に吹き飛ばされた。
「お待たせ。待った?」
「ヒィ! 誰か!誰かおらんのか⁉︎」
オロチを守る者がいなくなったので堂々とオロチの前に立って笑顔で話しかけると、オロチは腰を抜かして周囲へ必死に呼びかける。しかし返ってくるのは誰かの呻き声だけ。野次馬も私が雷鳴蛇衝を放った時点で逃げていった。
「さて、と」
「わしを殺せばカイドウがお前を殺しにくるぞ⁉︎」
「それでビビってお前を殺さなかったらお前が私を殺そうとするんでしょ? なら今殺したほうがお得じゃん」
近付いてくる私にオロチは脅しをかけてくるが、大体自分に手を出せばバックにいる奴が報復に来る系の脅しって意味があるのか? むしろ殺す覚悟が決まってしまうような気がするんだけど。
全く怯まない私を見て怯えるオロチの姿は哀れに見える。過程はどうあれ、最初に手を出してきたのはそっちだからケジメはつけないと。
「ずっと龍の陰に隠れていれば良かったのに、龍に怯えて逃げる獲物を見て自分が強くなったと勘違いしちゃった? それで龍の陰から出てしまって狩られかけているなんてとんだ笑い話だね」
「き、貴様……‼︎」
「でも今回は聞こえてないと決めつけて私が呟いたのが発端。このまま抵抗すらできない弱者を殺すのは私でもちょっと心が痛む。だから──」
気絶している侍の刀を2本回収してオロチの前に投げる。
「──チャンスをあげる。私は今から金棒を上段に構えて真っ直ぐお前の方へ向かう。その間に一度だけ攻撃を受けてあげる。勿論、防御や回避は一切しない無防備だよ。それでお前が私に傷付けることが出来たなら私は攻撃をやめて逃げてあげる。オロチ二刀流だっけ? 話を聞いた限りだと龍の身体すら斬れるのだから私の身体ぐらい簡単だよね?」
「あれは──」
「じゃあ行くぞー!」
オロチの言葉を遮って宣言通り金棒を上段に構えてオロチに迫る。対してオロチは刀を抜きはしたものの、手が震えているのか刀からカチャカチャと情けない音が鳴っている。それが武者震いならカッコイイのだが、表情から見るに怯えだろう。
「お、オロチ二刀流……!」
近付いてくる私にオロチは刀を振るう。技名も何もない左右から挟み込むように迫るオロチの刀は、私の肌に食い込むことすら出来なかった。
「なんだそれ」
あまりのショボさに思わず失望の声が漏れた。オロチが咄嗟に何かを言おうとしたが、それよりも早く私は金棒を振り下ろす。
しかし金棒はオロチの真横を通って地面を叩く結果となった。私が当てなかったわけじゃない。横から誰かに割り込まれて逸らされた。
「……あなたは誰かな?」
「将軍の犬でござる」
「きょ、狂死郎‼︎」
叩きつけた姿勢のまま割り込んできた人物を睨んで問いかけると、ふさふさリーゼント男こと狂死郎は短く答えた。
◆
「狂死郎かぁ……。困ったな、あなたは潰したらダメな人だ」
「殿……、ここは拙者に任せてお下がりください」
痺れが残る両腕を隠しながら狂死郎はオロチへ逃げるように伝える。イブキがオロチを殺そうと振り下ろした金棒を本当は斬るつもりだった。しかし覇気で強化された金棒の強度とイブキの怪力に無理だと悟り、逸らすことで精一杯だった。
イブキを野放しにするわけにはいかないと狂死郎は突っ込んだ。少なくともオロチが逃げる間はイブキを押さえておかないといけない。ここでオロチを殺してもらいたい気持ちも狂死郎にはあるが、殺したところでカイドウが生きていては意味がない。
「ねぇ、あいつ殺したいからそこ退いてくれない?」
「そうはいかぬ。先程も伝えたが拙者は将軍の犬ゆえ」
金棒と刀がぶつかりあい、鍔迫り合いの最中にイブキがイラついた表情をしながら狂死郎に提案するが、狂死郎はそれを即座に切り捨てる。
「だったらさぁ、その将軍に向けた殺意はなんなのさ? 上手く隠しているつもりならもっと上手く隠しなよ。気付く人は気付くよ、その怒りに満ちた殺気。事情がありそうだから誰にも言うつもりは無いけど」
「……ッ! 助言、痛み入るでござる」
再び鍔迫り合いとなった際にイブキから小声で囁かれた内容に狂死郎はとぼけようとしたがイブキの表情から本気で心配してアドバイスのつもりで言っているのだと理解し、小声でお礼を返しながら金棒に押し潰される前に後ろへ跳ぶ。
状況は狂死郎が僅かに有利。イブキの怪力は恐ろしいが、積極的に攻めてこないため受け流すことを徹底すれば何とかなる。時間さえ稼ぐことが出来れば直に百獣海賊団や将軍の手下が駆け付けるだろう。
「狂死郎‼︎ そいつを殺してその首をわしの前まで持ってこい‼︎ わかったな‼︎」
しかしオロチが気絶から目覚めた馬が担ぐカゴから顔を出して叫んだその言葉に狂死郎は舌打ちを隠せなかった。殺したいオロチに声をかけられたからではない。今の発言でイブキのヘイトが完全にオロチへ向いてしまったからだ。
「……あんなに怯えていたのに強い人の陰に隠れた途端元気になる。最初はともかく、強くなれる環境に恵まれておりながら鍛えず、誰かの陰に入って強くなった気でいる弱者が……‼︎」
狂死郎が様子の変わったイブキへ斬りかかるが、先程の比ではない威力が込められた金棒の横薙ぎを受け流しきれずに吹き飛び、その先にある家屋へ突っ込んだ。
「いつの日かあの人が言う言葉に私は共感している。死は人の完成だ。……長い間楽しかったでしょ? そろそろ終わろっか、黒炭オロチ」
「これは……マズイな」
雷のように覇気を撒き散らす金棒を構えたイブキに家屋から出てきた狂死郎は演技を忘れて呟いた。そんな狂死郎をイブキは横目で見るが、気にせず地面が割れる威力で踏み込んで金棒をオロチへ投擲した。
「ぐっ……! おおぉぉぉぉお‼︎」
直撃すれば狂死郎でも死にかねない金棒の前に飛び出した狂死郎は刀で受け、軋む骨に顔を顰めながらもなんとか受け流した。そんな狂死郎の真横を通り抜ける影が一つ。その正体は当然イブキであり、狂死郎では捉えきれない速度で走ってオロチが乗るカゴに取り付き、カゴから顔を出していたオロチの首を掴んだ。
「じゃあね」
「ま──」
「待たない」
そしてそのままオロチの首を千切り取った。あまりにも呆気ないオロチの死亡に狂死郎は何も言えず、オロチの頭部を持つイブキを見ることしか出来ない。
「ん? あー、ごめんね? 私って年月的にいえば金棒を持ったのって最近のことでさ。練習はしているんだけど殺すことだけに特化したらこっちの方がまだ得意なんだ。まぁこの速度を出せるようになったのはつい最近なんだけどね」
そう言ってイブキはオロチの血で真っ赤に染まった手のひらを狂死郎に向けて笑みを浮かべる。
「それでどうする? 将軍は死んじゃったけど敵討ちでもする?」
「……当然!」
「ふふ、その演技は嫌いじゃないよ。自分の本性を隠してでもよっぽど成し遂げたい何かがあるように見える」
狂死郎の返事にイブキは笑みを深めてオロチの首を投げ捨てた。金棒は狂死郎によって何処かへ飛ばされたので、ここからイブキは無手だ。
再びイブキが戦闘態勢に入るが、狂死郎を殺す予定は全くないので適当なところで逃げようと考えている。とりあえず蹴り飛ばしたり投げ飛ばしたりして隙を作ったら逃げようなんて考えで狂死郎に飛びかかろうと身体に力を込めた瞬間だった。
「うぅ、わしは死んだのか?」
「オロチ……将軍⁉︎ 何故生きて……!」
イブキの背後で死んでいたオロチがカゴから引き摺り出されていた胴体から生き返ったのだ。しかしイブキに千切り取られた頭はキチンと道端に捨てられており、狂死郎がオロチの死ぬ瞬間を見間違えたというわけではない。
「きょ、狂死郎‼︎ はやく此奴を殺せ‼︎」
「んー、そうだった。悪魔の実の能力で数回殺さないと死なないんだっけ」
イブキを見て騒ぎ出すオロチにイブキは面倒くさそうに頭を掻いている。狂死郎には訳の分からないことだらけだが、一先ずオロチを守るためにイブキへ斬りかかる。対してイブキは特に反撃をせずに狂死郎の攻撃を躱し、近くの建物の屋根に跳んだ。
そんなイブキに斬撃を飛ばそうと狂死郎が構えるが、既に戦闘態勢を解除しているイブキの姿を見て様子見に留める。ここで攻撃して再びオロチを狙われると守りきれないからだ。
「数回殺さないと死なないとはいえ、命は命。一度殺した時点で今回は終了でいいよ。それに迎えも来たし」
イブキが空を見上げ、それに釣られて狂死郎も空を見上げる。見上げた先には分厚い雲が空を覆っていたが、その隙間に青い鱗を持つ生物の姿が見え隠れしている。
雲を突き破って顔を出した青龍に狂死郎は驚き、イブキは悪戯がバレた子どものような表情をするのだった。
オリ主……弱いくせにストレスを与えてくる存在なんて真っ先に狙うよね。オロチの過去の境遇には多少の同情はしているが、オロチが恐れていたバカにオロチ自身が成り下がっている時点で手加減するつもりはなくなった。実際名字バレしたら次の被害者になる可能性がある子どももいるし。そういう点もあってオロチには態度が悪い。
オロチの悪魔の実である八岐大蛇の復活ですが、最初は斬られたりして胴体から離れた頭がその内くっ付いて復活‼︎みたいに考えていたんですけど、どちらかといえば別の頭が代わりを務める方がしっくりときたので胴体から頭が生えて復活としています。残された頭はこの後消滅なりする設定で。