いやー、楽しかった。オロチのせいで私がイライラしていたところへカイドウが出現。これはストレス発散として挑むしかないでしょと果敢に挑みかかったのだけど見事に返り討ちでボコボコにされた。これだよこれ。この殴っても殴っても揺るがない大樹のような頑丈さと私の防御力を平気で貫通してくる攻撃が欲しかったんだよ。
あとオロチの反応も面白かったな。あんなにテンションを上げて私とカイドウのぶつかり稽古を見る奴なんて百獣海賊団にもいないぞ。その後でカイドウが私を紹介したもんだから表情が凄いことになっていたが。能力を発動して増えた顔面それぞれを使って今感じている感情全てを表現されたら笑うしかないじゃん。
私がカイドウの娘とわかっても私に攻撃されたから処罰を〜なんて言葉でカイドウに訴えかけていたけど、既に身体は復活しているし私が千切り取った頭は消滅しているから証拠不十分でカイドウは動かなかった。
ならばとオロチは諦めずに部下達がやられたことを口実にカイドウへ私の処罰を要求したけど、私がカイドウに先に手を出したのはあっちだと言えば不問となった。むしろ先に手を出しておいてこんな状態のオロチに少しは部下も鍛えろと小言を言い、そんなに処罰をしたいなら勝手にしろとも伝えていた。
その際にオロチが私の方を向いたので見せつけるように回収した金棒を素振りしておけば、すっっごい不満そうな顔をしていたがオロチは引き下がった。
私達が帰るまでオロチはずっと恨めしそうに私を睨み付けてきたが、同時に私の様子も気にしていた。そりゃあ自身の最大の武器である脅しが全く通用しない奴が出てきて、しかもそいつに一度殺されていたらそんな反応になると思うけど。可哀想に。
まぁ私もカイドウに侍や忍者を戦闘不能にしたことは注意されたけどね。オロチはそれを見て密かに喜んでいたが、その中に自分が入っていないことは気付いていないみたいだ。
うん、オロチは潰したらダメな人物の中に入ってないんだよ。カイドウ曰く下地は既に出来ているからいなくなっても構わないらしい。カイドウはこの国を武器工場にするのが目的だから力を持つ反抗勢力を全て潰した時点でオロチは用済みなのだろう。たとえオロチが死んだことで新たな反抗勢力が出てきても今のワノ国の実力者なら暴力でどうにか出来そうだし。
私からすると囚人採掘場みたいに無理矢理働かせなくても食事と給金と休暇と家族の時間を取らせてあげればワノ国の人々は普通に働いてくれると思うんだけどなぁ。一日中工場を稼働させたいなら夜勤とかも入れればどうにでもなるんじゃない? ……なんて思ったが、カイドウにはカイドウのやり方があるので部外者の私が口を突っ込むのはやめておいた方がいいだろう。多分ワノ国の人が全滅したら外から誘拐してきて働かせそうだし。それなら私の案よりも生産率は上がる……のかな? わかんないや。
もう二度と来るなと顔で語ってくるオロチにまた来るから新しくなった首を大事にして待っとけと笑顔で伝え、私の身分を知って警戒心MAXの狂死郎にはカイドウへあなたのことは何も伝えないという意味を込めて口の前に人差し指を立ててウインクをしておいた。きれいな星のエフェクトが出たような気がするので私のウインクは上手に出来たはずだ。
ちなみにオロチを一度殺したことと、しばらくするとオロチが復活したことは帰り道で龍となったカイドウのマントの中から報告済みだ。彼のことは強くなる努力をしない限りはどうでもいい存在なのでオロチが不利になる情報でもなんでも喋るつもりでいる。カイドウもオロチが強くならない限りは私と同じ思考なのか一言返事をしただけだった。
……それはそれとしてカイドウのマントってなんか臭うな。いつ洗濯したんだろ?
◆
現在、私は海賊船に乗って海の上にいる。鬼ヶ島から逃げ出したわけではなく単純にカイドウから初仕事を頼まれたからだ。
事の発端はオロチを一度殺した次の日のことで、カイドウのマントを洗濯係と思われる船員達が足場などを使って苦労して干している姿を遠くから眺めていた時に後ろから私を抱き締めるようにして現れたヤマトに武装色の練習を見てほしいと頼まれたのだ。
過去に何度もやっているから特に反対もせずにヤマトの練習を見守り、ついでに模擬戦もやるいつもの流れだ。当然模擬戦などで身体を動かせば多少の汗はかくので、終わった後はお風呂……ここだと温泉に行く。
そして私達が入っていた温泉にカイドウが入ってきてその時に今回の仕事を頼まれたのだ。いやぁ、ビックリした。まさか私達が今まで入っていたのは男湯だったとは。ヤマトは堂々と入るし私達が温泉に入るのはいつも遅い時間だから今まで他の人達と会ったことがなくて全く知らなかった。
片手で目を覆って空を見上げたカイドウからのどうしてお前らがここにいる?という至極当然の問いかけに思わず女湯じゃないの⁉︎ってヤマトに聞いたもん。
対してヤマトはいつもの「僕はおでんだ」を回答とした。恐らくこの言葉には「おでんは男であるためおでんを名乗る僕も男だ。なので男湯に入るのは当然のことである」なんて意味が込められているに違いない。しかも腕を組んで湯の中にずっしりと座り、完全に居座る体勢だ。流石に私は女湯へ移ろうとしたが、ヤマトとカイドウを二人きりにするのはまだ不安なので結局私も居座ることに。そんな私達の姿勢を見たカイドウは真剣に悩む様子を見せたが私達を追い出すことはせず、かけ湯をしてから自身の巨体でも入れる深さの場所に腰を下ろした。
その時に丁度いいからと仕事の話をされたのだ。数ヶ月前にあったビッグ・マムによる縄張り襲撃。その報復として襲う島が決まったから私が行ってこい的な内容だ。正直今更感があるが、あと少しするとリンリンがお茶会をするらしくてメインディッシュのデザートに必要不可欠な材料が襲う予定の島にはあるらしい。まさに報復としてうってつけの場所のようだ。
そんなことをすればビッグ・マムが戦争をしかけてくるんじゃないかと思ったのだが、その島でしか採取出来ないわけではないので特に問題ないらしい。精々メインディッシュを作る時間の余裕が減って味が落ちるかもしれない程度の嫌がらせだそうだ。
ここに来てからは無償で食べさせてもらっており、ここらでそろそろ恩返しでもしといたほうが良いと思ったので私はこの仕事を了承。この後はカイドウの頭やヤマトの背中を洗うなどしてささやかな交流をしつつ解散。翌日に用意された部下を率いて百獣の海賊船で出発したわけである。
「イブキお嬢! 島が見えてきました‼︎」
「わかった。手筈通りによろしく」
すっかり一員扱いされているけど私はまだ百獣海賊団に入っていないと思いつつも船に揺られて数日が経った頃、ようやく目的の島が見えてきたらしい。この船で立場が一番上なのは何故か私なので船員達に指示を出しつつ船首へ向かえば、遠方に薄らと島の姿が見えてきた。
島からの反撃を警戒したが、特に何もなく島の近くまで来ることは出来た。しかし警戒はされているようで、沿岸部にはビッグ・マムの傘下と思われる海賊達がたむろしている。
「イブキお嬢、拡声器です」
「ありがとう」
警戒を続ける海賊達を刺激しないように距離を保っていると、船員が私に拡声器を手渡してくる。それを受け取った私は当初の予定通り島に向けて警告を送るため息を吸い込んだ。
『あーあー、島にいる人々に警告します──』
「イブキ様! 身長が小さくて船からお顔が出ていません‼︎」
「おい!誰でもいいから足場になる台を持ってこい‼︎」
……船員達の気遣いで素早く台が用意されたのでその上に乗り、よく見えるようになった海や島の景色を見ながらtake2。
『えー、前回の縄張り襲撃の報復として百獣海賊団はこの島を襲うことにしました。この警告を終えてから30分後に攻撃を開始します。30分間は逃げる人を攻撃することはありませんので、島の民は地下室に逃げ込むか船に乗って遠くに逃げることをオススメします。なお、今すぐ降伏する場合は武器をその場に落としてください。繰り返します──』
カイドウやキング達からは甘いと不評だったが、何も知らない島の民を殺すのは気が引けるのでこの警告はしっかりと行う。これで逃げない民なら私も割り切って攻撃をすることが出来るからね。
本当は全員降伏してくれれば良かったのだが、沿岸部の海賊からは返事として大砲の弾を撃ち込まれる結果となった。当然それは予想出来ていたので、警告を済ませた私達は一度大砲が届かない距離まで退避してそこで宣言通り30分間待機する。
「じゃあ行ってくる。あなた達は最初に言った通りここで待機ね」
「本当にそれで良いのですか?」
「いいのいいの、むしろ島に上陸されると私がやり辛くなるから」
私を心配しているのかついて来ようとする船員達を宥めてから月歩で島まで移動。島の端っこに到着すると、久々に獣型へと変身する。
太く長い蛇の身体で島の外周をぐるっと囲んで島にいる人々全てを閉じ込める。これで大半の人は脱出が不可能になった。あとは仕事をするだけだ。
「"
身体で囲った島の内側へ毒のブレスを放つ。地面に触れると扇状に広がっていく毒のブレスに島のあちこちから悲鳴が響くが、ここに残っているのは避難を選択しなかった人達だ。だから気にせずブレスを放ち続ける。
カイドウ譲りの肺活量でブレスを放ちながら顔の向きを変えたりして島全体に満遍なく毒を届ける。そんな私に覇気で毒を耐えた一部の海賊達が私の身体を登ったり直接跳んだりして私の頭部へ攻撃しようとしてくるが、島を囲んでも身体はまだ余っているので尻尾を振るって彼らを毒が蔓延する大地に叩き戻す。
それでも立ち上がるので毒の濃度を上げて毒煙ではなく毒液を直接ぶち撒けてやれば流石に無理なのか毒液の上で虫みたいにもがいてから動かなくなった。
あまりにも呆気なく制圧が終わったが、毒の影響で朽ちたり崩れたりする家が多数あるのに島の中央にある工場らしきものは多少溶けているものの頑丈に造られているのか問題なく形を保っていることに気付いた。恐らくあれはビッグ・マムに関連する何かの工場なのだろう。
壊しておいた方が良いと思うので、工場に噛みついて無理矢理引っこ抜いて持ち上げる。土台から離れた工場の断面から建物の頑丈さを信じて立てこもっていたであろう人達がこぼれ落ちていくが、構わず海へ引っこ抜いた工場を投げ捨てた。残った工場の地下には保存されたお菓子が多数あったのでそれはありがたく頂いておく。
既に島は毒ガスが蔓延して所々に毒の水溜りがある地獄絵図となっているが、ここまでいけば完全に島の土地を殺した方が逃げた島民達も他の島へ逃げる決心がつくだろうと毒撒きを続ける。更に尻尾で地面を薙ぐことで中途半端に崩れた建物を完全に潰していき、頑丈な建物は海へ投げ捨てる。そんなチマチマとした作業を続けておおよそ15分後。島は完全に何も育たない死んだ土地となったのだった。
「んー、美味い! 流石ビッグ・マムに献上する予定だったお菓子だね」
島を殺し終えた私は現在、あちこちで別々に保存されていたお菓子を食べている。私の毒で汚染されているけど私には効かないし、全てを食べることは出来ないけど食べれる分には食べておかないと勿体無いじゃん?
ちなみに空気中の毒が散ったのを確認して金品などを回収しに来た船員達にも勧めたのだけど、全て拒否された。最初は解毒出来るから大丈夫という私の言葉を信じて食べてくれた船員もいたんだけど、食べてすぐ緑色の泡を吐いて倒れたので他の船員達は食べてくれなくなった。勿論倒れた人は解毒済みで今は勇気ある挑戦者として船内で看病されている。
「あれ?イブキお嬢、何をされているので?」
「あなた達は無理でもカイドウなら食べれそうだしお土産として幾つか持って帰ろうかなって」
「いやいや、流石にカイドウ様でもそれは無理……なのかな? カイドウ様なら案外平気な顔をして完食しそう」
「でもイブキお嬢。カイドウ様が甘いお菓子なんて食べますかね?」
「あー、確かに食べなさそう。じゃあヤマトに持って帰ろう」
「……ヤマトぼっちゃん死ぬんじゃないか?」
地下に隠されていた金品や私が耕した地面に埋まってしまった価値あるものを掘り起こして回収している船員達と相談しながらヤマト宛のお菓子(毒入り)を選んでいく。私が解毒出来るから実質美味しいお菓子なんだって。本当だよ。
ちなみに私が言った通りに地下へ隠れていた人には手を出さず彼らの財産も奪わないようにと船員達には厳命している。隠れていた人は島の惨状に悲鳴をあげていたが、そのうち島から去っていった。中には私達の配下になりたいと言ってくる人もおり、少し悩んだが人員がいて困ることはないと思うので勝手に許可した。
「ふー、食べた食べた。そろそろ連絡を聞いたであろうビッグ・マム関連の人達が来そうな気がするし、みんなでワノ国に帰ろうか。うっぷ…」
「少し見ないうちにクイーン様と同じ体型になってる⁉︎」
「大丈夫大丈夫。すぐに消化するから……」
「えぇ〜〜‼︎ ちっちゃくなった!」
「カイドウ様の血筋って凄いなぁ」
太ったけどすぐに元の体型まで戻った私に船員達は変な納得の仕方をしつつも行動は続けており、今回新たに配下となった人達と共に船へ乗り込む。そんな彼ら彼女らの姿を眺めつつ、最後に忘れ物と警告を聞かなかったのにしぶとく生き残っている者がいないかをしっかりと確認してから私も船に戻り、堂々とワノ国へ帰るのだった。
オリ主……おかしい、私は百獣海賊団ではないぞと慕ってくる部下達を見ながら真面目に考えているが、側から見たらどう見ても百獣なのに気付いていない。一応男湯だと気付けば女湯へ移動しようと思うくらいの常識はしっかりとある。
アニメでカイドウがルフィを龍の状態で呑み込む描写があるけど、あれってルフィが出れなかったらどうなるんだろうか。胃酸で溶けて死ぬのかそれともそうなる前にカイドウが熱息と共に吐き出すのか。そもそも消化されるまではカイドウは人型に戻れないのかなどと疑問が尽きない。食べてもオッケーならオリ主の技が増えるんだけどなぁ。いや、人喰いになるから無理か。