エンカウント率ぅ   作:フドル

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隙を生じぬ2カイドウ

 上手いことカイドウを出し抜いて見事に逃亡成功した私だが、正直に言って浮かれていた。

 

 だってあのカイドウから逃げ切ったのだ。あんなにも実力差が開いていたカイドウにだ。まぁカイドウでも知らないあんな逃げ方をしたのだから逃げれて当然だと思うけど。出来るのは多分私みたいな滅茶苦茶身体が長い動物系だけだと思うし。

 

 さらに嬉しいのはあの四皇相手にも準備さえ整えば私のあの逃亡術が通用することだ。流石に2度目は準備すら許してくれないと思うが、この広い世界。何度も同じ人物に出会う確率なんてかなり低いでしょ。

 

 よし、取り敢えず逃げ切った祝いの宴だ宴!辺り一面カイドウという名の厄災が通った影響で焼け野原だし、焦げ臭い匂いがプンプンするが、それすら朝の新鮮な空気と錯覚してしまうほど私の心は澄み渡っていた。

 

 

 

 

 

 それから1ヶ月後、最強生物であるカイドウの覇気を目で見て、1発だけだけど実際にその身で受けたことで私の覇気の習熟度は更に上がった。そうでなければあのぶつかり稽古はただ金棒で殴られただけになるので、得るものがあって良かったと言うべきだろう。

 

 この身体に宿る才能は恐ろしい。覇気なんていう概念的なものを見ただけである程度どんなものかを感覚的に理解出来るのだから。少なくとも前世の自分のままだったなら不可能だった。

 

 だけどこんなレベルの才能があってもONE PIECEなら探せばそこそこ見つかるんだろうなぁ。

 

 それでも常に才能というブーストが付いているのは喜ばしいことだ。このままどんどん強くなって、いずれは四皇にも並び立つようになれれば最高だね。ハハハ‼︎

 

 

 

 ……さて、そろそろ現実を見ようか。

 

 

 

 

「ウォロロロロ、よく立つじゃねェか」

 

 地面に埋まった頭を起こし、頭についた土を払って声がする方を見れば、1ヶ月前に見たばかりの最強生物がそこには立っていた。

 

 ……いや、おかしくない? 確かに私も初エンカウントした島に戻っていたよ? でも1回目と同じように目の前に落ちてくるなんて絶対におかしいって。見てよカイドウの足元を。1回目に出来た穴のすぐ隣に2回目の穴があるんだよ?

 

 しかも1回目みたいに出てきて最初は会話〜、じゃなくて初手から私の頭に雷鳴八卦だったし。それで勢いそのままに地面に埋まったなら現実逃避をするしかないじゃん。覇気が強くなってなかったらそのままKOだったぞ。やはり世界は私に死ねと言っている???

 

 どうしよう、カイドウがまた来るなんて考えてもいなかったから逃亡準備なんて何も出来てない。一応前と同じようにそろりそろりと尻尾を別の島に伸ばそうとはしているんだけど……。

 

「"雷鳴八卦"!」

「……っ‼︎」

 

 それに気付いたカイドウが踏み込み一回で獣型の私の正面に来て金棒を振り抜く。当然回避なんて出来るはずがなく、ぶん殴られた私は吹っ飛ばされてその先にある山に衝突。

 

 視界が点滅する。身体に力も入らないが、流石動物系。しばらくするとそれすらも回復して動けるようになる。

 

 自分でも思うけど、ほんとタフだよね動物系。そのせいで意識があるままボコボコにされているんだけど。カイドウの手加減が上手くて気絶する一歩手前の威力でぶっ飛ばされる。

 

 ただ、気になるのはその手加減だ。カイドウからするとこんなにやっても私が死なないって分かったのだから、さっさと気絶する威力でぶっ飛ばせばいい。その後でワノ国に連れて行けば私はそこから逃げることはほぼ不可能になる。

 

 今もそうだ。私が復活するまで追撃すらしない。あのカイドウがだぞ?

 

「……どういうつもり?」

「お前みたいなすぐ逃げる奴はまず絶対逃げられねェことを理解させる。そろそろ戦う気になったか?」

 

 私の問いかけに、カイドウはつまらなそうにフンと鼻を鳴らして答えた。つまりあれか、私はカイドウにすぐ逃亡を選ぶ奴だと思われているわけだ。

 

 前回のことを考えるとそれは仕方ない。仕方ないのだけど……真っ直ぐに言われるとムッとなる。私だってカイドウと戦えるレベルの強さがあれば逃げずに戦ってるわ。

 

「ウォロロロロ、何か言いたげだが…弱ェ奴の言葉には何の意味も、価値も宿らねェ…!」

 

 要は雑魚の言葉を聞く気はないから黙ってろと言うカイドウに無意識に歯軋りをする。何故急に落ちてきた最強生物にボコられ、その挙句煽られなきゃいけないのだ。こっちも必死とまでは言えないが、強くなるために毎日努力はしている。

 

 もういい、島の猛獣達はカイドウが前回皆殺しにしたからいないし、どうせこのままだと逃げられないのだから一度本気でぶち当たって今の言葉を撤回させてやる。

 

 対戦よろしくお願いしまーす!

 

 

 

 

 

 

 

 カイドウの言葉を受けて歯軋りをしながらも俯き沈黙していたイブキが顔を上げた時、その表情は怒りと不満と戦意に満ちていた。それを見たカイドウは自身の目論見が上手くいったことに口角を上げる。

 

「…"毒空充煙(ヴェ・エンド)"」

 

 イブキがポツリと呟くと、彼女の身体を覆う鱗の隙間から濃い緑色の毒ガスが噴き出した。それも彼女の全身から噴き出しており、あっという間に島は毒ガスで包まれた。

 

 毒ガスに触れた木々が急速に枯れていくことから、これは前回受けたブレスと同じものだとカイドウは見抜く。覇気を纏えば防御可能だが、この程度なら覇気を使わずともカイドウには効かないのでただの煙幕と変わらない。

 

 そんなことはイブキも理解しているため、既に次の攻撃に入っている。

 

 毒ガスを金棒を振ることで起きる風圧で払うことすらせず、イブキの次の手を待っていたカイドウは毒ガスによって遮られていた太陽の光が別の何かによって完全に遮られたことに気付き、頭上を見上げる。

 

 その正体はイブキの尻尾だ。風を切り裂いて落ちてくる巨大な尻尾をカイドウはタイミングを合わせて金棒をぶつけて打ち返す。尻尾の鱗に金棒がめり込んだ際に、鱗が割れて中に溜め込まれた毒液がカイドウに付着するが、皮膚すら爛れる様子がない。

 

 血液と毒液を傷口から流して毒ガスの中へ消えていった尻尾に代わり、今度はイブキの噛みつきがカイドウに襲いかかる。地面を滑るように移動しながら顔を横向きにして大口を開けて迫ってくるイブキに、尻尾を打ち返したばかりの金棒は間に合わない。

 

 跳んで避けることは可能だが、カイドウはあえてイブキの噛みつきを受けた。イブキの口が閉じ、カイドウの身体へイブキの牙が襲いかかるが、カイドウの皮膚に牙が食い込みこそするが食い破る様子はない。牙が武装色の覇気を纏っているにもかかわらずだ。

 

「ほんとデタラメ‼︎」

「ウォロロロロ、痛ェじゃねェか。次はどうするんだ?」

 

 あまりにも硬いカイドウの皮膚にイブキは愚痴を漏らしつつ、どこか楽しげな様子のカイドウを口先で咥えたまま山へと顔を突っ込んだ。かと思えばそのまま山を突き破り、勢いよくカイドウをぶん投げる。

 

「沈んでそのまま死ねばいい。"毒壊腐風(ヴェ・ポレス)"‼︎」

 

 投げた先は能力者の弱点である海。いくら最強生物でも能力者である限り海に沈めば何も出来ない。イブキはさらにダメ押しと言わんばかりにブレスを放ち、カイドウを海に押し込もうとする。

 

「狙いは悪くねェ…、だがまだ足りねェぞ!」

 

 ブレスに押されつつもカイドウは龍へと変わり、焔雲を纏って空中を駆ける。そして先程のイブキと同じように口を開いた。しかしその喉奥から迫り上がるのは毒ではなく火炎。

 

「ちゃんと避けろよ? 出来ねェならそのまま死ね…! "熱息(ボロブレス)"‼︎」

 

 カイドウからの助言で咄嗟に頭を傾けたイブキを掠めるように最早破壊光線の類と化した熱線が通り過ぎる。熱線は地面に直撃し、爆発。地面に大穴を開け、爆風はイブキが撒いた毒ガスを吹き飛ばした。

 

 だがイブキの毒空充煙はイブキが気絶するまで続く技なのか、再び島は毒ガスに包まれ、毒ガスの中からイブキの巨体が所々から突き出している状態に戻る。

 

「殺す気か⁉︎」

「ウォロロロロ、死ねばそこまでだった。それだけじゃねェか」

 

 イブキからの文句に笑って返しつつ、毒ガスに満ちた島へカイドウは降りる。人型に戻り、地面の上に立てばイブキの巨体が動いているのか地面は常に小さな揺れが発生している。

 

 改めてイブキの価値を認めたカイドウ。すぐに逃げる臆病者タイプならワノ国から出さずに労働させるつもりだったが、今回のことで煽れば実力が上の者にも噛み付く度胸があることは理解した。他にも確認したいことは多々あるが、最低限のことは知れたのでそろそろイブキを仕留めて連れ帰るために金棒を両手で握り直す。見聞色でイブキの頭の位置を探れば丁度カイドウに襲いかかるようだったので、カイドウはそのまま待ちの態勢だ。

 

 最初に来たのはイブキの尻尾。カイドウの背後から頭部を狙って突き出されたそれをカイドウは一歩横にズレることで避ける。

 

 尻尾が地面に突き刺さり、強い揺れがカイドウを襲うが、この程度で崩れるほどカイドウの体幹は柔くない。それどころか強く踏み込み、イブキの本命を迎え撃つ構えを取った。

 

 毒ガスを切り裂いて本命のイブキの攻撃がくる。頭部全てを武装色の覇気で染め上げ、噛みつきの時よりも速い突進。先程と違うのは噛み付かないでそのまま頭突きをしようとしていることか。

 

 覇気を纏っているならもう少し力を込めるかとカイドウは金棒に追加で覇気を込めて振るう。タイミングも完璧。

 

 だが直撃の瞬間、イブキの身体に変化が起きる。急速に身体が縮み、下半身が蛇で上半身が人の姿に変化した。

 

 恐らくは人獣型。動物系の切り札をここで出してきたことで何か策があるのだとカイドウは気付いたが、身体は完全に攻撃の態勢に入っているため止めることができない。対してイブキは両腕に覇気を流し込んで防御の態勢。

 

 いくら四皇とはいえ、海賊人生の中で咄嗟に力を抜くことが必要な場面なんて滅多にない。それでも四皇ならば余裕があれば出来るのだろう。だが今回は衝突まで1秒もないため咄嗟の力加減など出来るはずが無く、カイドウは巨大蛇を気絶させる威力を込めたままの金棒をほぼ元の体型にまで戻ったイブキに振るった。

 

 結果、イブキはホームランボールのように打ち上げられ、カイドウから距離を離すことに成功。このまま逃亡を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 死ぬかと思った!死ぬかと思った‼︎ 見てよこの両腕、バッキバキに骨折してる。滅茶苦茶痛い!でもカイドウから逃げ切ったぞ‼︎

 

 ほとんど賭けだったけど上手くいって良かった。そりゃ獣型状態の私を軽く吹っ飛ばす威力なんだから元の軽さに戻ったら打ち上げられるよな。そのために最後は吹き飛ばされたい方向に位置調整して攻撃したんだから。

 

 私の予想では途中で海に落ちると思ってたんだけど、まさか目的の島のすぐ近くまでそのまま吹っ飛ばされるとは思わなかった。カイドウさん馬鹿力すぎる。

 

 上手くいかないなら諦めて捕まってから一度向こうに行って、遠征した時にどさくさに紛れて逃げるつもりだったけど、上手くいって良かった。

 

 ぶっちゃけ百獣海賊団は一度でも入りたくないんだよなぁ。好きなキャラは多いけどやってることが本当に悪役すぎて拒絶反応が出る。

 

 ……このままだといつか力で屈服させられて、入りたくない誰かの海賊団に無理矢理入れられそうだ。それを拒否するためには、やっぱり強くなるしかないよなぁ……。カイドウも弱者の言葉に価値は無いって言ってたし。

 やり返すことが出来なくて悔しいけど、カイドウは四皇と呼ばれるだけあって動きとか覇気を込めるタイミングとか、学べることが非常に多い。今回のぶつかり稽古でも細かなところで勉強になる部分が多かった。でも素の肉体が強いとかいうどうしようもないところはやめて欲しい。カイドウさん私の毒の防御してなかったよね? 多分毒の侵食より肉体の回復の方が早いんだろうなぁ……。

 

 とりあえず今は武装色の覇気を外に流して纏えるようにすることを最優先目標にしよう。じゃないとカイドウにダメージを与えられないだろうし。見聞色も鍛えたいけど現時点でカイドウの手加減を受けて意識を飛ばさないタフさがあるからある程度はカバー出来ているので後回し。……何で私はまたカイドウと戦うことを視野に入れているんだ?

 

 よし、ある程度方針は決まったな。じゃあしばらくはジッとしておこう。どうせまたカイドウが私を探すために暴れるだろうし。あ、そうだ。両腕の治療もしないと。前世で骨折を経験していてよかった。おかげで見様見真似だけど治療が出来る。

 

 ……両腕が使えない今、どうやって治療すればいいんだ?人獣型の尻尾で何とかなるかな…?

 

 

 

 

 

 

 動物系の回復力に助けられ、素人治療でも何とか両腕は完治した。その後は決めた通りに特訓しているのだけど……中々上手くいかない。

 

 この身体の才能なら簡単だろうとタカを括ってたのだが、もしかするとこの才能レベルでも習得が難しいのか。ルフィが習得した際の修行法を真似しているのだけど、やっぱり鋼鉄がないからって山で代用しているのがダメなのか?

 

 切実に師匠が欲しい。欲は言わないからレイリーとか四皇幹部レベルの人が偶然この島にきて師匠になってくれないかな。

 

「やっぱり上手くいかない」

 

 武装色の覇気を纏ってひたすら山を殴り進めていると向こう側までぶち抜いてしまい、その先に見えた海を眺めながらため息を一つ。もうそろそろ1ヶ月が経過するので流石に何か手応えが欲しくなる。

 

「ん?何だろあれ?」

 

 休憩として近くの小岩に座り込んで海を眺めていれば、遠くからうっすらとだが何かが見える。目を凝らして見れば、それは船だった。帆にドクロマークが描かれているので、ほぼ確実に海賊船だろう。船の船首がこちら側に向いていることから、もしかするとここへ上陸するのかもしれない。

 

 無人島生活の5年間で船を見た回数はそこそこあるが、上陸してこようとするのは初めてだ。何らかのトラブルで食糧辺りが無くなったのかもしれない。

 

 まぁ、私にはどうでもいいことかと思いながら近付いてくる海賊船を見ていて、気付いた。船の船首が黒い鯨だということを。

 

 それを脳が認識するなり私は思わず立ち上がって船の方へ駆け出した。鯨の船ときたら思い浮かぶ海賊団は一つだからだ。

 

 四皇エドワード・ニューゲートが率いる白ひげ海賊団。これしかない。原作の途中でエドワード・ニューゲートは死んでしまうが、この世界のカイドウは原作よりも少し若く見えるのでまだこの世界は原作が始まっていないはずだ。だから白ひげも生きているはず。

 

 なら彼らに接触して、出来ることならそのまま船に乗りたい。カイドウが来ても守ってもらえそうだし。前世で2度あることは3度あるって諺があるくらいなので正直言ってカイドウがまたまた落ちてくる可能性を私は疑っている。

 

 強い人に守ってもらえて、師匠になってくれそうな人もいっぱい。今の私にはうってつけじゃないか。

 

 そんなことを考えているうちに船がよく見える距離まで来た。既に船は錨を下ろしているようで、船から乗員らしき人達が数人程上陸している。

 

 幸い船長以外は服が同じタイプだったので、見分けをつけるのは簡単だった。そして肝心の船長なのだが……全く記憶にない。いや待て、そもそも船の船首も鯨だけど白ひげのものよりなんか全体的にパチモン臭がするデザインだ。

 

 ……えっ?じゃあコイツらもしかして白ひげと何の関係もない海賊?いやいや、まさかそんな……せめて傘下かそれに類似する何か──

 

「ホゲゲゲゲ、クソ野郎どもォ! 次の島は待ちに待った白ひげの縄張りだ‼︎ 奴らの縄張りを襲い、焼いて、派手に宣戦布告といこうじゃねェかァ‼︎」

「「「おぉぉぉぉお‼︎」」」

 

 

 ……………………。

 

 

「期待させてんじゃねェぞクソパチモン野郎がァァア‼︎‼︎」

「ホゲェ〜〜〜〜‼︎‼︎⁉︎」

「「「えぇ〜〜〜‼︎⁉︎ホゲータ船長ォ〜〜⁉︎」」」

 

 勝手に期待したのは私が悪いとはいえ、我慢出来なかった私は渾身のドロップキックを船長らしき人物の頬にめがけてぶちかましたのだった。




オリ主…カイドウに毒の効果がないことでドン引きしている。カイドウが2度来たので島の場所は覚えられたと理解しているが、島から逃げたくても船も何もないので逃げれない。

 カイドウに煽られて内心では結構ムッとなっているのでとりあえずカイドウにダメージを通すために覇気を外に流して纏うことを練習中。
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