「あなた達も早く逃げて。流石にお家まで送ってあげる余裕はこっちにも無いよ」
海軍本部が近いこんなところで大将とやり合うなんて楽しそうだけどゴメンである。なのでここから逃げることは確定だが、行動に移る前にまずはヤマトの背中に隠れている二人をどうにかしないといけない。私が声をかけるとしぶとく生きている天竜人を呆然と見つめていた二人はビクリと肩を揺らし、恐る恐る私に視線を移す。
そこでようやく状況を理解し、私が自分達を逃がそうとしていることに気付いたのか立ち上がった。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「お礼はヤマトにね。私はゴミ掃除をしただけだから」
女性は私達へ何度も頭を下げてから男性に肩を貸す。男性の方は脇腹を撃たれたようで血を流しているが、助けがあればなんとか歩けるようで私達に申し訳なさそうな顔をしつつも一度だけ頭を下げて女性の助けを受けながら去っていった。
「イブキ……」
「気にしなくていいよ。見てられなかったんでしょ?」
「うん……」
ヤマトへ視線を向ければ、私との約束を破ってしまったことを気にしているのか少し落ち込んでいるヤマトの姿がそこにはあった。しかし瞳は強く、自分がしたことは間違っていないと確信している様子だ。
まぁヤマトの性格ならこうするだろうとわかっていたから特に怒るつもりはない。少なくとも私との約束を破ったことは反省しているようだし。むしろ無駄に権力がある天竜人相手によくやったと頭を撫でたいくらいだ。手が届かないので出来ないが。
「取り敢えず話は後でね。今はこの島から急いで逃げるよ」
「どうしてなの?」
「この天竜人がバカなことをしても許される理由の一つにコイツらに手を出したら海軍の大将……えーと、分かりやすく言えば海賊を捕まえる組織の強い人達が捕まえに来るんだ。ワノ国に当て嵌めるとオロチを殴れば大看板クラスが無条件でやってくる感じ」
ピクピクと死にかけた虫みたいに動く天竜人達に金棒の先端を向けてヤマトにもわかるように説明をすれば、ヤマトは目を見開いて驚いている。そうだよね、こんな奴らを攻撃しただけでそんなのが来るなんて思わないよね普通。
「じゃあ早く逃げないと僕達って今凄くマズイ状態ってことだよね⁉︎」
「すっごくマズイ。でも大将の要請って天竜人がするみたいなんだよね。だから今すぐに駆け付けてくるわけじゃないよ。そのために全員纏めて殴り飛ばしたわけだし」
少なくとも海兵がここに来て天竜人の姿を確認、大将を要請という流れになるはずだ。なので今から宿に戻って荷物を回収する余裕は十分あるはず。
「ってことで急いで宿に戻って荷物を回収してから逃げるよ」
「わかった! ……ところでイブキ、その強い人達のことは大将って呼ばれているんだよね?」
「そうだよ。何かあったの?」
「うん、僕が天竜人の周りにいた人を倒した時に天竜人の一人が大将を呼べ〜って言ってたから……」
「……本当?」
「本当!」
笑みと共にありがたいけどもう少し早く教えて欲しかった情報を教えてくれたヤマトに私の笑みは引き攣った。
じゃあ滅茶苦茶急がないとダメじゃん‼︎ 宿で荷物回収してチェックアウトしてから大将は誰が来ているかなぁなんて見に行く余裕なんて全くないじゃん‼︎
ヤマトに今から宿まで走ることを伝えようとしたが、口を開く前に私達がいる場所の気温が異常な速度で下がり始めたのを肌で感じ取った。自分の身体を見れば指先などの一部は凍り始めており、ヤマトも同じ。凍る速度から私はともかくヤマトに時間は無いと悟ったので内心で謝りながらヤマトを蹴り飛ばして冷気の範囲外まで逃したが、その直後に私の全身は凍りついて氷像となってしまった。
しかしこの状況は大変嬉しい。一番来ないと思っていた相手が来てくれたからだ。少なくとも黄猿に来られると速さの違いで私達が島から逃げられる可能性がほぼゼロになり、勝ち目はかなり薄くなっていた。
赤犬も黄猿よりか逃げるのは楽だと思うが、厳しい戦いになっただろう。あと逃げても感知される限り地の果てまで追いかけてきそう。
その点今来たこの男は話がまだ通じるし、なんだかんだ見逃してくれる可能性が高い。とはいえ無抵抗で見逃してと言っても見逃してくれるわけではないのである程度の抵抗は必要だ。
大きめの傷を与えればそれを理由として見逃してくれるだろうか? 全身凍りづけにしてくれたおかげで急速に耐性を獲得することが出来たので、霜に覆われてはいるが身体はいつものように動く。既に仕留めたと思っているのか相手も油断しているので挨拶代わりの一発を打ち込もうか。
地面を踏み込み、覇気を込めて駆け出す。大胆に動いたので余裕で気付かれたが、私に蹴り飛ばされたヤマトを追いかけようとしていたところに凍りついたはずの私が襲ってきたからか振り向いた顔は驚きに満ちていた。
狙いは頭部。跳んで高さを調整し、金棒を薙ぎ払おうとするが相手は金棒が来る方向に腕を挟んで防御。さらに覇気と氷でガチガチだ。
「"雷鳴ィ、八卦"‼︎‼︎」
ならばその防御ごとぶち抜くだけと全力で金棒を振り切ると、腕に纏った氷は瞬時に砕け、男も氷のように砕けて破片ごと吹っ飛んでいった。そのせいか感じた手応えはあまりにも物足りない。
「……避けたね」
「あらら、芯まで凍らせたのにどうなってんの?」
氷が人の形に復元され、男……海軍大将青雉ことクザンは私の姿を訝しむように見ている。その様子を見るに赤犬から情報共有はされていないのか? いや、あの赤犬がそんなミスなんてするわけないから別の狙いで凍らせた可能性が高いかな。
取り敢えず逃げる隙を作りましょうか。焦っていたことと蹴り飛ばした方向に障害物が無かったせいで予定よりも遠くまでヤマトを蹴り飛ばしてしまった。なのでヤマトの方にも別働隊の海兵が行っていると思うけど……まぁヤマトなら楽勝でしょ。私と二人でカイドウ相手にぶつかり稽古していたんだから。
◆
「珍しいね。正直に言うと赤犬の頑固親父か黄猿が来ると思ってた」
「そうだと嬉しかったんだが、生憎と二人は留守なのよ」
周囲が凍りついた場所で平然と立つイブキの言葉に青雉は後頭部を掻きながら面倒臭そうに返答した。しかしその視線は鋭く、どんな行動を取ってもすぐに対処出来るようにイブキの様子を常に観察している。
「そんな顔しなくてもまだ攻撃しないよ。もしかして結構痛かった?」
「痛いなんてもんじゃねェよ。咄嗟だったとはいえ、それなりに硬くしたつもりなんだがな」
「へぇ〜、青雉がそう評価するレベルの威力はあるんだ」
痛みを思い出したのか金棒を受けた方の腕をプラプラさせる青雉にイブキはその場で金棒をスイングしながら自身の攻撃の威力を再確認。そのせいで余計にそれを防御すらせず直撃した天竜人は何故生きているのかと不思議に思った。そこは死んどけよ人として。
未だに痙攣している天竜人へ向けた視線をそのまま周囲に移せば、凍結の範囲外に海兵の姿がチラホラと見える。恐らく天竜人を救助出来るタイミングを待っているのだろうが、天竜人はイブキのすぐ近くにいるため手が出せないのだろう。
「ねぇ、この死に損ない達をあげるから私達は見逃してくれない? 攻撃した理由も理不尽に引き剥がされそうになった罪なき二人を助けるためだったんだからさ。ほら、あなたのせいで死に損ない達が滅茶苦茶寒がっているから助けてあげようよ」
「おれも正直そうしてェんだが、上が五月蝿いからなァ。あと天竜人に手を出したお前を黙って逃すわけにもいかんのよ」
「そっか、それは残念」
ちょっと手応えがありそうな反応の直後に断られたことでイブキは内心で肩を落としつつ、見逃してくれなさそうな青雉にため息を吐いた。
とはいえ上手くいったらラッキー程度の交渉なため、大して落ち込む様子もなくイブキは金棒を構えた。意識も完全に戦闘へ切り替わったのか、イブキを中心とした周囲の空気が彼女の放つ覇気と混ざり合ってピリピリとし始める。
そんなイブキを見て青雉も構えた。油断して勝てる相手ではないと知っているからだ。
ゴクリと海兵の誰かが唾を飲み込む。下手に手出しすると次の瞬間にはやられていそうな気迫が周囲の海兵達を包み込み、銃撃による援護を誰も考えようとは思わなかった。
そんな張り詰めた空気を刺激するように遠方から大砲の砲撃音が響く。別働隊がヤマトに攻撃を仕掛けたのだろう。
それを合図としてイブキは駆け出し、青雉との離れた距離を数歩で詰めて金棒を振りかぶる。砕けて回避されるなら一度に全身を潰せばいいとの考えだ。
対して青雉は自身を基点にして地面から能力で作り出した大量の氷柱を伸ばし、迫るイブキを迎え撃つように氷柱を差し向けた。
「あらら、ダメか」
氷柱の波がイブキを飲み込んだが破砕音は鳴り止まず、青雉のすぐ前の氷を破壊してイブキが迫る。氷柱を破壊しながら真っ直ぐ突き進んできたイブキのゴリ押しに青雉は呆れつつ、素早く後ろへ跳んで距離を稼いだ。
離れていく青雉をイブキは猛追。金棒を振り下ろし、青雉がそれを躱して反撃をしようとすれば地面に突き刺さった金棒を軸に回し蹴りでカウンターを仕掛けるなど攻撃の手を緩めない。当然青雉も黙ってやられるわけがなく、イブキの攻撃を防御した時や互いの蹴りがぶつかり合った時にイブキの身体を凍らせるべく冷気を送り込んでいるのだが、既に適応してしまったイブキが凍りつく様子は無い。
「参ったなこりゃ、この感じだとおれの冷気も適応してしまった感じか?」
冷気を撃ち込まれても平気な顔で攻撃してくるイブキに青雉は面倒臭そうな表情をする。赤犬からイブキの耐性について情報は共有していたが、まさかここまで適応速度が早いとは青雉も思っていなかった。こうなればお得意の冷気でイブキを凍らせて動きを封じることは出来ないだろう。
「"アイス
「"
青雉が距離を取りながら冷気で作った氷を矛の形に変えて撃ち出すと、イブキはその場に留まり金棒で空間を殴って衝撃波を飛ばす。それによって青雉の両棘矛は砕け散り、ついでに奥にいた青雉本人も砕け散る。すぐさま青雉が再生するとイブキが追撃を仕掛けてくるのでそこらに生えている氷柱をへし折り即席の武器としてイブキの金棒へぶつけるが、能力で作ったとはいえ所詮は氷なので覇気を込められると鍔迫り合いも出来ず即座に砕かれる。
「"アイス
「……ッ! 面倒だなぁ‼︎」
踏み込んで今度こそと金棒を振り下ろしてくるイブキを冷気で包み込んで作り出した氷塊の中に閉じ込めるが、イブキは単純な力で氷塊を破壊してすぐに出てくる。しかし一瞬でも動きを止めることは出来たので金棒が振り下ろされた時には青雉は距離を離しており、イブキの金棒は凍りついた地面を砕くだけとなった。
再び距離を取った青雉はイブキがすぐさま攻撃してこないことを確認すると視線を少し離れた位置にいる天竜人へ向ける。イブキの金棒で殴られた傷と青雉の冷気によって可哀想なくらいピクピクブルブルしているが、まだ死んでいないようだ。
呆れた生命力をしているがこのまま放置すれば確実に死んでしまう傷を負っているので可能なら完全に凍結させて治療するまで仮死状態にしたいのが青雉の本音だが、そうしてしまえば今度は戦闘の余波で砕けて死ぬ可能性が出てくる。
だからといって勝負を急いで畳み掛けても簡単に勝てる相手ではないことはこの攻防でわかったため、まずはイブキをここから退けたい。青雉としてもこんな天竜人なんて放っておきたいが後からピーピー騒がれるのは面倒なのである。そのため気が進まなくてもやるしかない。
こういうのはおれじゃなくて残りの二人にやらせなさいよと思いつつも青雉はイブキの前に氷壁を作り出してイブキからの視線をカット。直後にイブキが氷壁を破壊するが、その先にいたはずの青雉の姿はない。
慌てずイブキは見聞色で青雉の気配を探ろうとするが、そのタイミングで自身の背後に青雉の気配と覇気を感じ取った。流石に一瞬で背後を取られたことにはイブキも驚いたのか、反射的に振り返り金棒を薙ぎ払う。
「……ッ⁉︎ やられた‼︎」
「こういうのはあまり得意じゃねェんだがこの状況だと結構引っかかる奴が多いのよね、それ」
イブキが砕いたのは青雉っぽく見えるただの氷像。自分の早まった行動にイブキは顔を顰め、そんなイブキの背後から本物の青雉が現れる。
金棒を薙いだばかりで今のイブキは隙だらけ。いつもならここで冷気を送り込んで凍らせて終了だが、イブキには効かないので代わりに青雉は覇気を込めた拳を構えた。
「あんたにはおれの冷気が効かねェみてェだからちょっと歯ァ食い縛りなよ…! "
「ぐっ…⁉︎」
氷を纏わせて覇気を込めた拳の一撃が振り向いたイブキの横っ面に突き刺さり、拳を振り抜くと小さな身体は吹き飛んであっという間に見えなくなった。殴り飛ばしてから発生した攻撃の余波で青雉の周囲にある氷が砕け散ったことからこの一撃に込められた威力がどれだけのものかがよくわかる。
「イブキ⁉︎」
だが拳に残る手応え的に仕留めきれなかった。そのため青雉はイブキを追いかけようとするが、イブキと入れ替わるようにヤマトがやってきた。天竜人殺害未遂の関係者であるのは明らかなので青雉はヤマトを凍らせようとするが、流石に気付かれたようで凍結するよりも早くヤマトは跳んで青雉から距離を離す。
「あらら、避けられたか。お嬢さんは誰だ?」
「………?」
「いや、あんただよ!」
賞金首のイブキとは違ってヤマトは初めて見る顔だ。そのため青雉は名を尋ねたのだが、ヤマトは不思議そうに背後を振り返って自分を追いかけてきている海兵達の方を見たので青雉は堪らずツッコミを入れた。
「あ、そっか。……僕はヤマト! カイドウの息子でイブキの兄だ‼︎ そしておでんでもある‼︎」
「……色々とツッコミたいとこはあるが、息子? あんたはどう見ても女性でしょうが」
「そうだよ。でも僕はおでんだ‼︎」
しかも返ってきた返答は一部よく分からないものが混じったものだった。もしかして自分が理解出来ていないだけなのかと青雉は頭の中でグツグツ煮込まれた美味しいおでんを思い浮かべながらヤマトを追いかけて来た海兵達の反応を盗み見たが、あちらも頭上にハテナマークが浮かんでいることからヤマトの言葉を理解出来ていないようだ。
「あのカイドウの子ね……」
自分から聞いたのだから何か言うべきだ。しかしこれに何を言えばいいのかと青雉は悩み、最終的に無難な言葉を返した。おでん発言は真剣に何を意味しているのか分からなかったのでノータッチだ。
青雉がイブキを殴った瞬間を見ていたのかヤマトからは敵意を感じる。カイドウの子どもというヤマトの自己申告が本当なら戦闘能力は高いはずだ。イブキでも厄介なのにそれに似た人物がもう一人。
とことん今回は貧乏クジを引いたと青雉がため息を吐こうとするが、見聞色がここに飛び込んでくる何者かの反応を捉える。咄嗟に氷壁を前方に展開して防御を固めるが、そんなものは関係ないと言わんばかりに破壊して青雉の眼前に殴り飛ばしたはずのイブキが現れた。その身体は蛇が混じった人獣型となっており、一撃の威力を高めるためか筋肉を肥大化させた上半身によって振るわれた金棒が青雉の身体を殴り飛ばした。
「……はぁ、また上手く回避された。ずるいなぁ、それ」
「イブキ、凄い威力で殴られていたけど大丈夫なの?」
「大丈夫。もう治った」
砕けた身体を再生させる青雉にイブキは顔を顰める。そんなイブキにヤマトが心配するように近寄るが、イブキは殴られた箇所を指差して問題ないと笑みを浮かべた。
「おいおい、二対一は流石にズルくねェか?」
「様子を見ている海兵達を参加させればあっという間に数は逆転するよ。命の保証はしないけど。……行くよヤマト。あの人は全身氷みたいなものだからヤマトの能力は効かないからね。あと隙あらば凍らせてくるから接触は最低限に」
「わかった‼︎」
青雉の苦情にイブキは適当な言葉を返して駆け出し、ヤマトもそれに続く。
イブキの金棒による横薙ぎを跳んで回避すればすぐさまヤマトが追撃を仕掛け、振り下ろされた金棒を青雉は腕で受けるが金棒に込められた威力に顔を顰めた。叩き落とされた先には既にイブキが待機しており、青雉を打ち上げるように金棒を振るう。
それを青雉は踵落としで対抗したが拮抗はしなかった。金棒と踵がぶつかるなり青雉の横腹をイブキの尻尾が叩いたからだ。当然覇気も込められており、攻撃した瞬間を狙われたためか先程までの流動回避も間に合わない。
「総員構え‼︎ クザンさんを援護するぞ‼︎」
「ッ‼︎ やめろお前ら‼︎」
「邪魔」
周囲で見ていた海兵達も青雉が劣勢だと感じたのか援護するために小銃を構えた。敵の注意を自分達に向ける危険な行動に青雉は制止するよう叫ぶが、海兵から攻撃の意思を感じ取ったのかイブキの視線が彼らの方に向いた。
手っ取り早く片付けるために息を大きく吸い込んだイブキの上半身は膨らみ、勢いよく毒液が吐き出された。明らかに触れてはならない色をした液体が海兵達へ飛ぶのを黙って見ている青雉ではなく、ヤマトをいなしながら毒液へ冷気を飛ばす。流石にイブキから離れたものに耐性は付与されていないのか、毒液は瞬時に凍りついて地面へ落ちた。
「地面が凍っているから汚染を気にせず毒を吐けるのはいいね」
とはいえ海兵達に毒液を吐くのは無駄だと判断したイブキは青雉と戦っているヤマトに駆け寄って攻撃に参加。横から割り込んでくるイブキの金棒を青雉が氷の盾で防ぐと追撃でイブキの口から毒液が吐き出される。それを凍らせれば今度は尻尾が脚を払いに来る。鬱陶しいことこの上ないが、かといってイブキの対処に意識を向ければヤマトの猛攻を捌けなくなる。
素早く青雉がヤマトを凍らせようとしても、イブキの身体が割り込んで盾となるため上手くいかない。先程イブキ相手に使った氷像のデコイをヤマトの背後に仕掛けてもヤマトはすぐ近くにいるイブキを信じているのか突然背後に現れた青雉の気配には一切意識を向けずに目の前の本物を攻撃することに集中している。
青雉も反撃は続けているが、必ず片方が対処するせいであまり効果がない。このままジリ貧が続くかと思ったが、ついに青雉が待ち望んでいた報告が入るのだった。
◆
「クザンさん! 市民の避難誘導に天竜人の保護、どちらも完了しました‼︎」
「よぉし! よくやった!」
やけに防御一辺倒だなと思っていたら海兵の一人がそんなことを叫んだ。その言葉を聞いて死に損ない達が倒れていた場所を見れば、いつの間にかいなくなっている。つまり今ここで青雉の能力を阻害する障害物は無くなった。
あ、これヤバイやつだ。咄嗟の判断で攻撃を続けるヤマトに尻尾を巻き付けて回収。さらに尻尾をヤマトの顔以外に巻き付けて保護。あとは私が青雉とヤマトの間に入って壁になる。
その直後、鬱憤を晴らすかのように青雉の身体から膨大な冷気が放出された。範囲内のありとあらゆるものが凍りつき、幻想的な氷世界が展開される。空を浮かんでいたシャボン玉が凍りつくと同時に割れ、散った破片が日光を反射しているのかキラキラとした粒子となって空間を彩る光景は、こんな状況でなければ素直に美しいと私は評価していたかもしれない。
恐らくここら周辺は氷点下を過ぎている。吐き出す息が即座に凍りつくことから毒液みたいな遠距離攻撃は全部無理。島の汚染を気にせず気兼ねなく撃てる機会だったのに残念だ。
この状態でも私は戦闘を継続出来るが、ヤマトはどうなのかが分からない。能力の関係上寒さに耐性はあると思うけど今の青雉が相手だとジャブ感覚で放たれた攻撃で凍らされるかもしれない。
「ヤマト、あれをやろう。大丈夫、あの人なら確実に受け切れるし躱さないよ」
「……わかった。イブキを信じるよ」
「なにを企んでいるか知らねェが、やらせると思ってんのか?」
これを打開するには私とヤマトが現状出せる最大火力をぶつけるしかない。島を潰していいなら他にも選択肢はあるけど、そうなれば私達の危険度が跳ね上がるので却下だ。
青雉から放たれる先程までとは比にならない量の氷を金棒で砕きながらヤマトを尻尾から解放すれば、ヤマトはその場で人獣型に変身する。そして私に視線を向けてきたので頷き、ヤマトの隣に立って金棒を構えて覇気を込めるとヤマトも金棒を構えて覇気を込め始めた。今の私達に違う点があるとするなら金棒を振った際に私達の間で交差するように私が左でヤマトが右に金棒を構えていることだろうか。
「おいおいおい! そんなもんを撃つなんて何考えてやがる⁉︎」
「大丈夫、あなたなら防げるよ」
「信じてるよ! 氷の人‼︎」
「嫌な信頼だなァ⁉︎ クソッ‼︎」
私達の漏れ出た覇気が混じりあい、雷のような覇気が氷の世界を破壊するのを見てヤバイ一撃が来るとわかったのか青雉が初めて焦る姿を見せた。私達を止めるために様々な攻撃や冷気を飛ばしてくるが、絶えず撒き散らされる覇気の雷がシールドみたいになっているのか私達には届かない。
この技の威力は原作には遠く及ばず、少しの溜めも必要。初めて繰り出した時もカイドウを鬼ヶ島の屋上から吹き飛ばした程度のお粗末なものだ。ヤマトが武装色を纏えるようになったので威力は上がっているだろうが、原作と比べるとまだまだ下位互換と言える。
だけどこの状況ではまさにベスト。弱いが故にここの地形を多少は変えてしまうが壊し過ぎない。溜めに入ると発射方向を調整出来ない欠点もあり、回避自体は簡単なのだが今回の場合は躱した先に青雉の攻撃に巻き込まれないようにと避難した海兵達がいる可能性があるので青雉はこの攻撃を妨害出来ないのなら受けるしかない。海兵達が保護した天竜人もいるはずなので余計に躱せないはずだ。仮にいなくても罪のない島民が沢山いるので正義の味方なら躱せるはずないだろうけど。 まぁ躱す素振りを見せたらヤマトが攻撃を中断するので私達も撃てないけどね‼︎
「せーのでいくよイブキ‼︎」
「タイミングは合わせるよヤマト‼︎」
「「せーのッ‼︎」」
覇気がさらに高まり、止められないと確信した青雉は氷壁を幾つも作り出して私達の攻撃に備える。それを見届けてから私達の攻撃が放たれた。
「「"
同時に金棒を振り抜き、覇気が混ざった衝撃波を青雉に向けて撃ち出した。
正直技名をそのままパチるのは抵抗があったが、ヤマトは気に入ってくれたし初めて受けた時のカイドウも技名を聞いて驚きはしたけど怒らなかったのでそのまま使わせてもらっている。
「じゃあ逃げよっか」
「あの人大丈夫だよね?」
「受け止めている時点で大丈夫だよ」
氷壁は既に砕けているが、青雉本人のところで衝撃波は止まっている。それどころか少しずつ角度が上を向き始めているので受け流される時は近い。しかしこの技の利点は放った時点で私達が自由に行動出来ることだ。
青雉が防御で動けないうちに完全に凍った屋台を回収してから逃走を開始。素早く私達が泊まっていた宿の壁を破壊して不法侵入し、私達の衝撃波が空へ流されて雲を吹き飛ばしたのを見ながら荷物を回収。青雉が追いかけてくる前に私達はサッサとシャボンディ諸島から逃げるのだった。
オリ主……合体技を鬼ヶ島に来てからヤマトとずっと練習していたが、正直溜めが必要な時点で実戦ではあまり使えない。カイドウも娘達の合体技を見たいがために受けてくれただけなので、練度が上がって原作みたいに溜め無しで撃てるまでお預けかなと思っていたら使える絶好のチャンスが来たのでブッパした。
あとオリ主が人獣型になって高さを調整しないと撃てない欠点もある。背丈が違いすぎるからね、仕方ないね。
二人の連携をもっと上手く書きたい。青雉の格も落としたくない。そんなことを考えてたら文字数がえらいことになってた。見直しの時間が増えるゥ……!
あと青雉って漫画だと雉の部分がカタカナなので実際は青キジなのですが、ここでは漢字で青雉としています。……実は見落としで青雉って書かれている部分があったらすいません‼︎