エンカウント率ぅ   作:フドル

21 / 41
誤字脱字報告ありがとうございます‼︎

劇場版のネタバレが少しあります。だいぶぼかして書いてますけど一応ご注意を


未来の歌姫予定の1ウタ

 青雉が覇海を受け止めている間にシャボンディ諸島から逃げ出した私達は数日間空を走った先にあった適当な島へ潜伏。当初の予定ではほとぼりが冷めるまでその島で大人しくしていようと考えていたのだが、その考えはすぐに考え直すこととなった。

 

 名声目当ての海賊や賞金稼ぎなどが襲いかかってくるからだ。その際に私の懸賞金が上がっていることとヤマトが賞金首になっていることが発覚した。まぁ天竜人を攻撃した時点でこうなることはわかっていたけど。

 

 私は天竜人を4コンボしたせいで2億から跳ね上がって10億。ヤマトは一発目で6億だ。そんな私達が二人きりでプラプラしているから絶好のカモに見えたのだろう。ヤマトはともかく私はチビで弱そうに見えるのか結構な頻度で襲われた。

 

 襲いかかってきた奴らを返り討ちにした際に一人が新聞を持っていたので強奪して読んでみれば、天竜人を攻撃した件が凄く大袈裟な内容にされて新聞紙の一面を飾っていた。なんだよ天竜人をぶっ飛ばして進撃する姉妹って。青雉戦もまるで私達が圧勝したみたいに書かれているし。後半の本気を出したと思われる青雉相手だとどうなっていたかわからないぞ。

 

 別にこの記事のせいで名声目当ての奴らなどに襲われるのは何度でも返り討ちにするだけなので別にいいのだけど、困るのは返り討ちにされた相手が私達の強さに陶酔して仲間や傘下になりたいって言ってきた場合だ。

 

「イブキお願い‼︎」

「駄目」

「でも……」

「絶対駄目‼︎ 私達に他の海賊の面倒を見る余裕はありません‼︎ 元いた場所に返してきて‼︎」

 

 私はキッパリと仲間や傘下入りを否定するのでいいのだが、問題はヤマトだ。おでんには信頼出来る家臣がいたので自分もそれに見合う何かが欲しいのか、ヤマトの基準をクリアした傘下や仲間になりたがる人達を毎回私のところまで連れてくるのだ。今回だって傘下入り希望の海賊達を背中に隠して私にお願いするような視線を向けてきている。

 

 えぇい、大型犬が大型犬達を連れてくるんじゃねぇ‼︎ 傘下入り希望もヤマトの後ろから私に向けてつぶらな瞳をしてくるな‼︎

 

 そもそも一人でも受け入れたら際限なく来るぞ。少なくとも私はすぐに傘下入りしてきそうな海賊団に心当たりがある。

 

 毒ナイフを舐めて死にかけていたナメドクの姿を思い浮かべていると、ヤマト達が円陣を組んでひそひそと何かを相談している。一体何を企んでいるのかと思えば一斉に私へ擦り寄ってきたので素早く全員にゲンコツを入れて解散させた。

 

「うぅ、ごめんねみんな……」

「仕方ありません兄御ォ、妹さんが言うならおれたちも諦めます。でもおれ達はずっと兄御の舎弟でさぁ。何かあったらいつでも呼んでくださいよ」

 

 流石にここまでやれば諦めがつくのか頭にタンコブをのせた海賊達は肩を落としてトボトボと去っていく。その途中でヤマトを兄御呼びしていたことからヤマトに適応した稀有な奴らだと気付いてしまい、咄嗟に呼び止めそうになったが気合いで耐えた。これでいいんだよこれで。

 

 しかしこんな感じのやりとりがこの後さらに数回程起きたので必要最低限の補充を済ませて私達はこの島を出た。あの様子だとほとぼりが冷めるも何もないからな!

 

 人がいる島だと同じことが起こりかねないので次の目的地は無人島だ。そこで数ヶ月くらいサバイバルをして今度こそほとぼりが冷めるのを待つ。私も久しぶりに野生生活が出来るので楽しみだ。

 

 どうせならヤマトも野生の道に引き摺り込もうと画策しながら空を走ること数日。ちょくちょく休憩を挟みながら走っていると、無人島らしき島が見えてきた。

 

 しかし目の前の島は無人島特有の厳しい環境下のせいで人が住めない場所ではなく、廃墟となった街並みからして過去に何かがあって人が居なくなった島だろう。ここまでボロボロなのは珍しいが、これの一歩手前ならこの世界だとそこそこ見ることが出来る。

 

 島の周囲を軽く見てまわったところ、猛獣とまではいかないが野生の動物は生息しているようだ。川の水もワノ国のような酷い汚染はなく、十分飲めるレベル。

 

 ……うん、ここでしばらく暮らそうか。ヤマトを野生人にするとしてもいきなり何も無しよりか少し人の文明が残っている場所で慣らしていって、最終的に何も無しサバイバルのほうが楽しんでくれそうだし。

 

 てなわけで私達は島に着地し、拠点を作ってから早速食べ物を探しに向かう。島に入る前に猛獣などの危険生物を確認出来なかったことから効率良く食べ物を集めるために今回はヤマトと別行動をすることに。

 

 正直に言うとヤマトを一人にするのは不安がある。野生生物にやられるとかではなく一人で勝手に島の外へ行く可能性的な意味で。私はヤマトのビブルカードを持っていないので島の外まで行かれると流石に探せない。島にいるなら私が獣型になればすぐに見つけることが出来るのだが。

 

「よし、肉の確保はオッケーっと。ヤマトは大丈夫かな?」

 

 しかし不安だからとずっと側にいるのはヤマトに良くないので不安を押し殺しながら獲物を狩り終えた。今回仕留めた獲物であるキリンの肉は食べたことがないが、キリンに似た猛獣なら食べたことがあるので多分いけるはず。少なくとも毒はない。

 

 必要以上に狩るのは良くないので狩りを切り上げ、仕留めたキリンを担いで拠点へ戻る。到着してから周囲を見渡したけどヤマトはまだ帰ってきていないようだ。一応動物を狩る時は自分が食べる量しか殺しちゃ駄目とは言っているので狩りまくって時間がかかっているとかはないと思う。

 

 まぁそのうち帰ってくるでしょと探しに行きたい気持ちを抑えながらテキパキと準備を済ませて肉を焼き始める。もしヤマトが拠点の位置を見失って帰れないパターンでもこの肉を焼いた際に出る煙で気付くだろう。

 

 それから数分後、ヤマトは無事に帰ってきた。どうやら肉系統は私が狩ってくると思って山菜系を中心に採ってきたようだ。

 

「ねぇヤマト、そのキノコって食べられるんだよね?」

「うん、試しに食べてみたけどなんともなかったよ」

 

 ヤマトが採ってきたものの半分以上を占めるのはキノコなのだが、カサの部分がピンク色で自分は毒キノコですと主張しているようにしか見えない。しかもヤマトは既にそのキノコを食べたという。

 

 これで毒キノコならどうするつもりなのかと慌ててヤマトからキノコを奪って私も食べてみれば、案の定私の身体は今食べたキノコを毒と判断したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 毒キノコだったことでひっくり返りそうになったが、ヤマトに異常が出ていないことでひとまず冷静になった私は現在ヤマトが食べた毒キノコを口一杯に頬張っていた。解毒薬を体内で作るためだ。

 

 能力のおかげで私には大抵の毒が効かないが、新たに取り込んだ毒の解毒薬を作るためには対象の毒を大量に摂取する必要がある。別にそれをしなくても時間をかければいつの間にか解毒薬は出来ているのだが、今回の毒はどんな症状かわからないので急ぎで作るしかない。

 

 ヤマトに毒耐性があるのは鬼ヶ島内で同じことをしていたからじゃないのかと訝しみつつ食べていたキノコを飲み込み、再びキノコを口の中へ放り込む。

 

 そんな作業みたいな食事をしていると、茂みが揺れる音がした。ヤマトは目の前で出来立てホカホカの肉を食べさせているので茂みを揺らしたのは別の存在。肉食の生物が焼いた肉の匂いに釣られたかと音が聞こえた方を見れば、そこには真ん中から右が赤で左が白の特徴的な髪色をした女性が立っていた。

 

 女性は私達を警戒していたが、キノコを食べながら振り向いた私の顔を見ると表情が一転。慌てた様子で近付いて来たと思えば私を抱き上げて走り出した。

 

「えっ?ちょっと待って〜‼︎」

 

 まさかこんな堂々と誘拐するとは思わなかった上に敵意や悪意を感じなかったので反応が遅れた。離れていく私達をヤマトが慌てて追いかけてくるが、片手に握り締めたその肉を置くか食べるかしなさいよ。

 

 うーん、これは暴れるべきなのかと考えたが、私を運ぶ女性の口から漏れた解毒という言葉を聞いてそういえば私って今毒キノコを食べていたんだと思い出した。そりゃ小さな子どもに見える人が毒キノコを頬張っていたら善良な人なら取り乱すか。

 

「ゴードン!どうしよう⁉︎ この子がネズキノコを食べちゃった‼︎」

 

 取り敢えず説明をして落ち着かせる方が先かなぁ。

 

 

 

 

 

 

「──なわけで、本当に解毒が必要なのは私の姉なの」

 

 オンボロな建物の中で毒キノコを食べた理由などを話せば、目の前の二人はホッとした様子だった。本気で安堵するその様子から悪人ではないのだろう。

 

 私に毒が効かないと言った時は怪しんでいたが悪魔の実の能力者と言えば納得してくれた。ヤマトも毒キノコを食べたと知った時は再び慌て始めたけど。

 

 そんな話をしているうちに解毒薬も完成したので地の利を活かされて距離を離されていたヤマトが合流したタイミングで注入。これで毒の件は終了だ。

 

「君達に何事もなくて安心したよ。……あぁ、自己紹介を忘れていた。私はかつてこの国、エレジアを治めていたゴードンというものだ」

「私はウタ。よろしくね?」

「私はイブキ。よろしく」

「僕はヤマト! カイドウの息子でイブキの兄だ! そしておでんでもある‼︎」

 

 その後はスムーズに自己紹介を終わらせ…られるわけがなく、ヤマトの自己紹介でウタとゴードンは困惑した表情となった。

 

「……えーと、簡単に説明するとヤマトがその人になりたいぐらい滅茶苦茶憧れている人がおでんって名前で、その人の影響で兄とか息子とか言っているだけだから気にしないで」

「あ、うん。わかった」

 

 ちょっと申し訳なさそうに説明をすれば、ウタは優しく理解してくれた。しかしゴードンはヤマトの自己紹介で警戒を強めたようだ。彼が纏う雰囲気は優しいから警戒されるとわかりやすい。国を治めていたと言っていたので流石にカイドウの名は知っているのだろう。

 

 はぁ、下手に警戒させるつもりは無いし、ここは早めに島から去るのが無難な選択かな。彼らが悪人だったら口封じをしてからそのまま居座るつもりだったけど、そうじゃなさそうだし次の日になったら荷物を纏めて島から出ようか。

 

 軽く今後の予定を纏め、ゴードンを刺激しないようにもうお開きにしようとヤマトへ視線を向けた。

 

「そういえばヤマト達って島にはどうやって来たの?」

「空を走って来たんだ!」

「えぇ⁉︎ 空を⁉︎」

 

 ……なんか私が見ていないうちにめっちゃ馴染んでるなぁ。

 

「イブキ! ちょっとウタに空を走るところを見せてくるよ!」

「構わないけど暗くなる前に帰って来てね」

 

 声をかけるタイミングを窺っているとヤマトが勢いよく立ち上がり、外へ向かいながらそんなことを言うので思わず許可を出してしまった。

 

 ヤマトの後ろにウタも続き、部屋のドアがパタンと閉まる。二人の話す声が離れていくなか、二人きりとなった部屋で私は思わず頭を抱えた。

 

「私はヤマトのお母さんか⁉︎」

「……君も苦労をしているようだ。私で良ければ話し相手になるが……」

「……いいの? じゃあ──」

 

 もっと他に言える言葉があっただろうと叫ぶ私にゴードンが慰めるような声をかけてくる。そんな彼の言葉に甘え、私もしばらく雑談に興じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雑談を通して私の人となりを理解したのかゴードンが警戒を解いたので結局私達はエレジアに滞在することとなった。ヤマトとウタも仲良くなったようでウタが歌の練習をしている時以外はよく二人で仲良く遊んでいる。私達もゴードンから歌に誘われたが、やりたいことがあるので私は断った。ヤマトは好奇心旺盛なので気が向いた時だけ参加しているようだ。

 

 そして初めて会った時は少し暗い雰囲気を纏っていたウタだったが、ヤマトと遊んでいるうちに少しずつ明るい性格になり始めた。ゴードン曰くこっちがウタ本来の性格らしい。

 

 そんなウタという遊び相手がいるおかげで安心してヤマトを任せることが出来るようになったので、私は久しぶりに野生人となることが出来た。やっぱり野生は良い……。全力で生きている感じがする。

 

 この楽しさを分かち合うためにヤマトとウタの二人も誘ってみたのだが、遠慮されて風呂に連行された。その際にヤマトがあっさりと女湯へ入ってたので驚いたが、既に二度も男湯に入っておりその後に気付かず入ってしまったゴードンをひっくり返したようだ。私がこの後謝罪に向かったのは言うまでもないだろう。

 

 そんな日々をエレジアで送っていれば色々な出来事もある。そのうちの一つとして私とヤマトが賞金首だということがウタ達にバレたことがあった。リュックに入っていた荷物を取ってとウタに頼んだ時に中に入っていた懸賞金が書かれた紙を見られた感じだ。

 

 どうやらウタはとある海賊によってこのエレジアが滅びたことで海賊が大嫌いになったらしく、高い懸賞金がついている=凄く悪い海賊となったのか一気に警戒心がMAXに。その警戒を解くために私達が何故お尋ね者になったのかを説明するハメになり、ヤマトに懸賞金がついたのは天竜人に突っ込んだのが原因と知ったゴードンは鼻水を垂らして凄く驚いていたが、次に私が天竜人を四人もぶっ飛ばしたことを知れば目ん玉と舌を飛ばしながら後ろへ吹っ飛んだ。

 

 オーバーリアクションで驚くゴードンから天竜人の説明が入り、さらに私達が手を出した天竜人が何をしていたかも追加で説明すれば、それは手を出して当然という結論をウタが出して一件落着……になるところだったが丁度良かったので私達の親であるカイドウの話をすることにした。

 

 ぶっちゃけカイドウがやっていることはまさにウタの嫌いな海賊そのもの。だからこれで嫌われるなら島を去るタイミングとしては丁度良いと思い話したのだが、ウタは下唇を噛むだけで私達を嫌うまではいかなかった。なんでも親は親で子は子らしい。

 

 その言葉も私が既に島を滅ぼしていることを知ればひっくり返りそうだが、そこまで聞かれてはいないので話す必要はないだろう。

 

 

 

 

 さらに日々が過ぎ、森の中で野生暮らしをしている私を最低でも週に一度はヤマトとウタが探しに来て風呂に連行することがすっかりと定着したある日、私は初めて見るタイプの電伝虫を道端で拾った。

 

 電話タイプじゃないしなんだろこれと色々弄っていると、ヤマトとウタが私を風呂に入れるためにやって来てそのまま連行。川で身体を洗っていると言っても聞き入れられずに丸洗いにされた後、二人の興味は私が拾った電伝虫に向いた。

 

 二人も使い方がわからないようなのでゴードンに聞いたところ、どうやらこの電伝虫は映像の録画や再生が出来るタイプらしい。しかも映像が既に入っているようで、エレジアが健在の時の音楽が録画されているかもしれないとゴードンは予想した。そうだとしたら見てみたいとヤマトとウタが興味を示したので部屋を暗くしてみんなで見ることになったのだが──。

 

「嘘……、嘘だ……。そんな、私が…!」

「ウタ‼︎ 君のせいではない‼︎ 私が──」

 

 映っていたのは音楽ではなくエレジアが滅びた真実。島を滅ぼしたのは海賊ではなくウタ自身。それを突然突き付けられたウタは酷く取り乱し、落ち着かせようとするゴードンを振り切って部屋から走り去ってしまった。

 

「私が追うからヤマトはゴードンを」

「わかったよ‼︎」

 

 あのまま放置すれば自殺しかねない勢いだったのでヤマトに指示を出して私はウタを追う。いつもの調子ならヤマトを向かわせた方が良いんだけど、今のウタは奪った命の重みに潰れそうになっていると思うので何をしでかすかわからない。なので私が向かう方がいいだろう。

 

「イブキ君、どうかウタを──」

「私が助けるのはウタの命だけ。落ち着かせる努力はするけど最悪の場合は彼女の喉を潰すから」

「──ッ⁉︎ それは……!」

 

 ウタは能力者だ。その能力は実の能力者の歌を聴いたものを強制的に眠らせてウタワールドという能力者自身の思い通りに出来る仮想世界へ引き摺り込むという強力なもの。

 

 今のウタの精神状態ならそれを躊躇なく使用する可能性が高い。ヤマトが世話になっていたので出来る限り回避して説得を試みるつもりだが、暴走を続けるのなら能力発動に必要な歌を封じる……つまり声を出せなくするしかない。覚悟を決めろとゴードンに視線を向ければ彼は息を呑んだが最後は頼み込むように頭を下げた。

 

 許可を得たのでウタを追いかけると、ウタは森の中でうずくまっていた。取り敢えず近付いてみるが、私に気付いたウタから拒絶の声が出る。

 

「来ないでよ‼︎」

「今にも死にそうな表情の顔見知りをほったらかしにするつもりはないね」

 

 ウタの拒絶を無視して距離を詰めると彼女は私を睨み付けた。ウタが息を整えると、私の見聞色が彼女の強い敵意を感じ取る。つまり能力を使用するつもりなのだろう。

 

 だが私は既にウタの能力を知っているし、ウタワールドを体験したこともある。対策もある程度考えているので油断している時にくらえばどうしようもないが、今回みたいな対峙している状態ならどうとでもなる。

 

 その方法の一つとして、ウタが歌い出す前に私は自身の両耳に人差し指を強く突き刺した。耳の奥に鋭い痛みを感じた後、私の世界から音が消える。

 

「──?───‼︎」

 

 何も聞こえないのでウタが何を言っているのかわからないが、直後に歌い出したので耳を塞いだ程度で〜的なことを言っていたのかもしれない。

 

「───⁉︎」

 

 ウタはしばらく歌っていたが、全く眠らない私を訝しむ表情で見てくる。そこで私の耳から流れる血を見つけて私が自分で自分の鼓膜を破ったことに気付いたのだろう。歌を中断して青ざめた顔で近寄ってきた。

 

 しかし破れた鼓膜の治療方法なんて知らないのか、ウタは私の前でオロオロするばかり。その様子から既に歌うつもりもなさそうなので能力の再生力を高めて鼓膜を治す。

 

「落ち着いた? 心配しなくても鼓膜はもう治したからもう大丈夫だよ」

「嘘つかないで! どうしよう?鼓膜なんてどうやって治療したら……」

「いや、嘘じゃないから」

 

 私の言葉を信じず慌てていたウタだったが、受け答えが成立したからかポカンとした表情で私を見た後、気が抜けたのかへなへなとその場に座り込んだ。

 

「そもそもウタは私とヤマトの模擬戦見てたじゃん。私達は常人より頑丈だし、私の再生能力が高いのは知ってるでしょ」

「それでも仲の良い子がいきなり目の前で鼓膜を破ったら慌てない人なんていないからね⁉︎」

 

 うーん、多分カイドウとかは慌てないんじゃないかな。なんて思ったが、別に言うべきことでもないので黙っておく。私が言葉を返さなかったことで話が途切れ、周囲が静寂に包まれた。

 

「実は私、子どもの頃はシャンクスの船に乗っていたんだ……」

 

 そんな時、ウタがポツポツと話し出した。シャンクスや彼の仲間達の話、置いていかれてから今までの話、嫌いだったけど嫌いになった原因が冤罪だったこと、なんの罪もない人々を殺してしまった罪悪感など、思いついた順からウタは話していく。

 

「シャンクスに会いたい……。でも私がシャンクスに会っていいのかな?」

「いいでしょ。そんなのウタの自由」

「私はいっぱい人を殺したんだよ⁉︎」

「シャンクスだって海賊だから殺しているよ。もしかしたらウタより多いかもね」

「シャンクスが殺すのは島のみんなを困らせている海賊とかだよ。でも私が殺したのは罪のない一般人で……だから私はきっと死──」

「死ぬべきだって? なら死んでみる?」

 

 どんどんマイナス方面に向かうウタの話を中断し、背後へ回り込んでウタの首へ手を添える。これでウタが頷けばすぐにでも殺せる。ウタの背後から囁くように提案をすれば、ウタは息を呑んだ。

 

「苦しみながら死ぬでも痛みなく死ぬでもどっちでもいいよ。好きな方を選びなよ」

「……っ!」

 

 少し覇気を漏らしながら聞けば私が本気だと理解したのかウタの身体が震え始め、答えたら死ぬと思ったのか呼吸も荒くなり始めた。返事がなくても実質返答といえるその反応を見て私は手を離してウタの正面に戻る。

 

「ほら、死ぬのは怖いんじゃん。無理してそんなこと言うべきじゃないよ。それにウタが死ねば悲しむ人もいるからね」

 

 震えるウタを落ち着かせるために彼女が座っていることで届く位置にある頭をヤマトと同じ感覚で撫でてみると、ウタは私を抱きしめて大声で泣き出した。

 

 ……もしかしてやり過ぎた? おぉう、どうしようこれ、取り敢えず泣き止むまで頭を撫で続けるしかないか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣いたことで溜まった様々なものを吐き出すことが出来たのか、ウタは一先ず落ち着いた。

 

 いやぁ、良かった良かった。あれでダメだったら私とウタは島を滅ぼした仲間だね!って言うしかなかった。根本的なものは何一つ解決していない気がするが私にはこれで精一杯だ。

 

 何度でも言うけど私は説得が苦手なんだよ‼︎ なんでヤマトとかウタとか過去が重いやつばっかなの⁉︎

 

 エレジアの真実を知ったウタはあの後ゆっくりと考えを纏めたようで、ここから出てシャンクスに会うと決めたみたい。そのための手段も考えたようだ。

 

「お願い、私を島の外へ連れてって‼︎」

 

 その方法は空を走れる私達に運んでもらうこと。ウタの当初の予定では自分自身が空を走れるようになって様々な島に行き、ライブを行いながらシャンクスを探すというものだったが、月歩の指導を頼んだ相手が私達だったせいでウタは最低でも数十回は海に沈んだ。

 

 いや、私も最初は止めたんだよ? そしたらウタの負けず嫌いが発動した感じだ。まぁ流石にあれだけ海に沈めば今の自分では無理だと納得するしかなかったようで、非常に悔しがりながらも私達に頼む方へシフトしたみたい。

 

 私達も結構長い間ここに居座ったのでそろそろほとぼりも冷めた頃だろうから了承した。さらにヤマトの提案でウタが赤髪海賊団と出会うまで行動を共にすることに。

 

 そうなればゴードンが島に一人きりとなるのだが、彼も真実がバレたことで気持ちに区切りがついたのか別の島に行く決心がついたようだ。しかし基本的にはエレジアに滞在し、たまに外へ出る形にするらしい。

 

 そんなこんなで私達はゴードンと別れてエレジアを去った。別れ際にゴードンからトットムジカという映像にも映っていたウタがエレジアを滅ぼした時に呼び出した存在のことを教えてもらったが、まぁ特定の曲を歌わなかったら出て来ないみたいだし問題ないでしょ。

 

 それよりも私は困ったことがある。それは──。

 

「じゃあ私はイブキに運んでもらう!」

 

 なんかウタの精神年齢が少し幼くなって私に甘えてくる頻度が増えた気がするんだよなぁ……。うっ、ウタの背後に小型犬の姿が見えるぞ……!




オリ主……ずっとじゃなくて一時的になら行動を共にしても構わないタイプ。傘下や仲間入りを拒否した理由は空を走れないから。船があっても行動範囲にかなり制限がかかるので拒否し続けた。




 連休明けデバフが凄く辛い。この話も予定では昨日の時点で投稿出来ていたのに連休明けデバフのせいで帰ってすぐに寝てしまったので出来なかった……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。