エンカウント率ぅ   作:フドル

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誤字脱字報告ありがとうございます‼︎


ヤミヤミの実か? 欲しけりゃ売ってやる。 買え! 1億ベリーだ‼︎

 どうしたものか。サッチが手に入れるはずだったヤミヤミの実が何故か私のところに転がり込んできたせいで対処に悩むこととなった。

 

 私達は客人なので並の宝石類とかならともかく様々な使い道がある悪魔の実は流石に白ひげに渡すほうがいいと考え、実際に他の船員達がいる前でヤミヤミの実はこの海賊団のものだと言って白ひげに渡そうとしたのだけど、この船に乗っているのなら私達にも白ひげ海賊団のルールが適用されると白ひげ本人が船員達の前で堂々と宣言。晴れてヤミヤミの実の所有権は私のものとなったわけである。

 

 そんなわけで手に入ったヤミヤミの実をどう扱うかという話になるのだが、ぶっちゃけいらないので売る一択だ。既に能力者である私が食べると死ぬので食べることは出来ないし、誰かにあげるには売値が大きすぎる。最低でも1億ベリーで売れる上に今回はどんな実か判明しているので更に売値が上がる可能性も高い。そんなヤミヤミの実をタダであげるなんて絶対に嫌だ。

 

 ヤマトやエースみたいな仲の良い人にならあげても良いかなと思うけど、二人とも既に能力者だしなぁ。

 

「うーん、どこで売るべきか……」

「おいイブキ、また地図と睨めっ──」

 

 出来るならすぐにお金を渡せる店が良いよななんて考えながら条件に合いそうな店がある島を海図を見ながら探していると、ヤマトと喋っていたエースが話しかけてくる。

 

 ヤミヤミの実が自分のものとなってから私はずっとこんな感じなので話を振ってきたのだろうが、ここでエースはいつもの寝落ち。既に見慣れた光景なので、カクンと下がったエースの頭が皿に載っている料理へ落ちる前に素早く皿を回収。その結果エースが机に頭突きするのを尻目に口を開いて皿の上の料理を流し込み、何も載っていない皿はエースのすぐ横に戻しておく。

 

「ここら辺って小島サイズしかないなぁ……」

「うぉおお⁉︎ おれの飯がねェ⁉︎ サッチ! おかわりをくれ!」

 

 エースに背を向けてモグモグと口を動かしながら再び海図と睨めっこをしていると、背後から起きたエースの驚く声が聞こえた。とはいえすぐにサッチへおかわりを要求していたので気にせず睨めっこに戻る。

 

 が、海図を影が覆ったことで見辛くなり、またかと思いながらも顰めっ面を隠すことなく顔をあげて私は影の正体を睨み付けた。

 

「今度は何のよう?」

「ゼハハハハ、用が無ければ来ちゃいけねェのか?」

「適当な話ならまだしも、最終的にヤミヤミの実を頂戴って話になるんだから話していてもつまらないのよ」

 

 影の正体であるティーチは私の苦言を笑い流してそのまま私のいる机の隣に腰を下ろし、エースのおかわりを届けにきたサッチにアップルパイを頼む。

 

 完全に居座る態勢に入ったティーチに私はため息を隠さない。だったら席を離れればいいじゃんと言う話になるのだが、長い間白ひげ海賊団に在籍しているだけあってティーチの冒険話は結構面白い。ヤミヤミの実のおねだりがウザいからと席を離れるのは流石に勿体無いと思う。

 

 私が面白いと思うレベルなのでヤマトにも当然ぶっ刺さっており、ティーチが冒険話を始めるとヤマトは途端に静かになる。そんなわけもあって余計に席を立つ気にはならないのだ。

 

 まぁティーチのこの行動は確実に私の好感度上げだろう。だって船にお邪魔してからヤミヤミの実を手に入れるまでは必要最低限しか話してなかったし、その最低限もエースの率いる隊にいるからたまたま話す機会があっただけのこと。

 

 それが今ではおれ達は親友みたいな感じで距離を詰めてくるので原作知識が無くても彼が何を狙っているのかバレバレである。っていうか直接ヤミヤミの実を譲ってくれってお願いしてきている。返答は拒否だけどね。

 

 別に相手がティーチだからヤミヤミの実は渡さないわけではない。ヤミヤミの実が私のものとなった際に私は白ひげが見ている前で船員達に欲しい人がいるのなら最低値の一億ベリーを払えば売ると宣言している。そこにアイツは気に食わないから嫌とか原作通りにしたくないから嫌なんて考えは一切無い。平等だ。

 

 しかし海賊団として運用しているお金ならともかく、一個人で1億ベリーを持っている人はそうそういない。そのためティーチを含めた何人かは後払いや値下げ交渉などを願い出てきたが、ハッキリ言って信用性が皆無なので全て拒否した。そもそもいつ捕まったり死ぬのかわからない海賊を相手に後払いなんて認めるわけないだろ。

 

 その結果、大抵の船員達は諦めたがティーチだけはお金で買い取るのは無理だと判断したのか私の好感度上げに勤しんでいるわけである。ヤミヤミの実目当てってわかっているから好感度は一向に上がらないのですがね。

 

 もちろんティーチもそれは理解しており、焦っているのか最近は私を見つめる視線に危険なものが混ざってきた。本人的には隠しているつもりなのだろうが野生で生きてきた私からするとバレバレである。

 

 原作ではヤミヤミの実を手に入れたサッチを殺して実を強奪していたので、もしかすると私にも同じことをしようと考えているのかもしれない。

 

 仮にそれをするなら私が実を売ってお金を受け取り、どこかに去ってから実を買い取った店を襲って実をゲットするほうがリスクは小さいはずだけど、ティーチからすると私がどこの誰に実を売ろうとしているのかわからないから私を襲ったほうが簡単だと考えているのかもしれない。私がカイドウにヤミヤミの実を売ればその時点で強奪は不可能になるだろうし。

 

 私としては死ぬのが怖いのなら海になんて飛び出していないので来るなら来いって話だ。ヤミヤミの実は1億ベリーを貰うまで絶対に渡さん。

 

 1億だよ? そんなにお金があれば怪我をしても安心だし、お金を稼げなくなっても数十年は余裕で生活できる。将来のことを考えると手元にあれば確実に安心出来る額だ。

 

 昔ならともかく、今はカイドウに頼めば鬼ヶ島に貯金しておけるだろうから貯金一択だ。それなら私が何かで死んでもカイドウ達が有効活用してくれるだろうから勿体無いとも思わない。……いや、カイドウの酒代として消えるのは不服なのでもし使うなら組織運用のために使えとは伝えておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティーチのおねだりをイブキが跳ね除け続け、あいつらまたやってるよと他の船員達に言われるほど常習化した頃、イブキはいつもの定期連絡でカイドウがそろそろ空から落ちてきそうな気配を感じたため、ヤマトと相談して白ひげ海賊団に迷惑をかけないように近いうちに船から離れることを決めた。

 

 早速白ひげを筆頭にそのことを伝えたところ、イブキ達が去ることは非常に惜しまれた。イブキとヤマトはカイドウ譲りの身体能力があるので危なっかしいけど力仕事などでは戦力になっていたようだ。

 

 エースにはそのまま白ひげ海賊団になろうと誘われたが、絶対にカイドウと一悶着どころか戦争が起きる未来しか見えないのでイブキは即座に拒否。あまりにも早い拒否だったのでエースは白ひげの何が不満なのかと騒ぎ始め、結果としてイブキとヤマトが次の島に到着すれば船を降りることは白ひげ海賊団の間で瞬く間に知れ渡ることに。イブキ達とは結構な日数を一緒にいたので何もしないで送り出すのは味気ないと思ったのか急遽別れの宴をすることが決定した。

 

 宴なんてケチな白ひげがよく認めてくれたなとイブキは思ったが、白ひげは単に酒が飲みたいだけらしい。最近は病状が良くなくて禁酒されていたのでこれ幸いと白ひげは宴の開催を息子達に指示していた。

 

 オヤジに指示されれば拒否する船員はおらず、あっという間に宴の準備は整った。食材や酒も次の島で補充するからと惜しみなく使用し、広い甲板に机などを並べて飲めや歌えやと大騒ぎ。

 

「うぷっ、ごめんエース、僕ちょっと気持ち悪い……」

「だぁー! だから飲み過ぎだって言っただろうが⁉︎ すまんサッチ、ヤマトを甲板まで連れていくからイブキを見ててくれ‼︎」

「わかった、しっかりエスコートしてやれよ?」

 

 宴が終わる頃にはハメを外して白ひげに飲み比べを挑み、酒を飲みすぎたヤマトはグロッキーな状態となっていた。真っ青な顔で口を押さえたヤマトが心なしかげっそりとしているエースに甲板まで連れていかれる姿をサッチは見送り、残った片割れに視線を移す。

 

 その片割れであるイブキはヤミヤミの実が入った小さな容器を枕にして爆睡していた。その姿は見た目相応で、とても先程まで酔ってエースにダル絡みをしていたとは思えなかった。

 

 そう、イブキも先程まで酔っ払っていた。しかも今回はエースに絡みつき、ひたすらヤマトを褒めたりエースに酒を飲めと言いまくる非常に面倒臭い酔い方をしていた。

 

 そのせいでエースは他の船員達からわかっているだろうなと睨まれ、視線の強さに冷や汗を垂らしながら穏便にイブキの酒などを断ればイブキが泣き上戸になって周りの船員達から更に睨まれる悪循環に陥っていた。途中から白ひげとの飲み比べに負け、飲み過ぎで顔を真っ青にしたヤマトが乱入してきた時のエースの顔は見ものだったとサッチは思う。

 

 様子を見といてくれとエースには頼まれたが、サッチにも料理長として明日の準備がある。イブキは寝ていて起きる気配はないし、同じ部屋にいるのだから多少は目を離しても問題ないだろうと考えたサッチはイブキから視線を外して厨房の奥に引っ込んで明日の準備を進めていく。

 

 それから数分が経った頃、部屋に新たな人物が入ってきた。音がならないように慎重に木製の扉を開けたティーチは部屋の中を見渡し、イブキの姿を見つけるなり笑みを浮かべてコソコソと近付いてくる。

 

「ゼハハハハ、どうやら酔った後はすぐに寝るって話は本当だったようだな」

 

 イブキを酔わせるためにわざわざ調達したアルコールが弱くて酒を飲んだ気分にならない酒の瓶を持ちながらティーチはヤマトから聞いた話は本当だったと笑う。

 

 問題は警戒心が高いイブキにどうやって調達した酒を飲ませるかだったが、食材や飲み物に混ぜたりエースやヤマトなどのイブキが信用している人物を使ったりとやりようはいくらでもあった。

 

 それもこれもヤミヤミの実のため。後腐れのないようにイブキから購入するのが一番のベストだったが、1億ベリーなんて金額はそう簡単に用意することは出来ない。

 

 どうしたものかと次第に考えが買うから奪うに移っていくなかで突然訪れたこのチャンス。逃す手はないとティーチは早速行動に移った。後でヤミヤミの実を奪われたことを知ったイブキが追いかけてきてもヤミヤミの実が自分の知っている能力なら余裕で返り討ちに出来るとティーチは考えている。

 

 懸念点は白ひげと百獣が戦争状態になる可能性だが、よくも悪くも白ひげの実力を過信しているティーチはあの白ひげがカイドウに負けるわけがないと決めつけている。だから奪う行動になんの抵抗もない。

 

「これがおれの野望の第一歩だ…!」

 

 イブキからすると大きな手を伸ばし、枕代わりになっているヤミヤミの実が入った容器を掴んだティーチ。しかし顔に浮かんでいた笑みはすぐに歪むこととなる。

 

「ぬ、抜けねェ…!」

 

 容器がびくともしない。寝ているイブキの手が容器をがっしりと掴んでおり、ティーチの力だと奪い取ることが出来ないのだ。指を掴んで容器から引き剥がそうとティーチは試みるが、イブキの指はティーチからすると小さくて掴みづらい上にこっちも馬鹿みたいな力でびくともしない。

 

「くそ、こうなったら仕方ねェな…‼︎」

 

 イブキの怪力によって当初の予定だったこっそり奪うが出来ないと理解したティーチは誰かに見られるかもしれないという焦りから酒瓶と共にズボンに突っ込んでいたナイフを取り出した。イブキの実力はある程度把握しているが、頭部にナイフが刺されば死ぬだろう。

 

「……ん? おいティーチ⁉︎ 何をする気だ⁉︎」

「サッチか‼︎ ゼハハハハ‼︎ 気付いたところでもう遅い‼︎」

 

 イブキの頭部を狙ってティーチがナイフを振りかぶったタイミングで一度イブキの様子を見るために厨房から顔を出したサッチが慌ててティーチに問いかけるが、ティーチはこれが答えだと言いたげにナイフを振り下ろした。

 

 真っ直ぐにイブキの頭部へと振り下ろされるナイフ。その切っ先がイブキの頭部に刺さる──ことはなく、木の机に深々と突き刺さるだけとなった。

 

「……はっ?」

 

 思い浮かべていた光景とは全く違う結果にティーチは思わず声を漏らして突然上半身を机から持ち上げたイブキの姿を見る。イブキは目を未だに瞑っており、口がムニャムニャとしていることからまだ眠っているようだ。

 

「コイツ、寝ながら──⁉︎」

 

 イブキの表情を見て寝ていると理解したティーチは驚くが、言葉を言い終わる前にティーチの足首に何かが巻き付いて机の下へと彼を引き摺り込んだ。

 

「ごっ⁉︎ ぐう‼︎ イテェ⁉︎」

 

 ティーチの足首に巻き付いたのは人獣型へと変形したイブキの尻尾で、ティーチを机の下から自身の隣へと引き摺ってきたかと思えばそのまま尻尾を出鱈目に振り回し、先端にいるティーチを壁や床、天井に机とぶつけていく。その威力に壁や天井には穴が空き、机は砕けて潰れた。

 

「ぐ、ぐぞぉ……。寝てるんじゃねェのがよ゛…‼︎」

 

 瞬く間にボロボロとなったティーチは逆さ吊りにされた状態で納得いかないと叫ぶ。そんな時、寝ていたイブキの目が開いた。

 

 イブキが酔いによって寝落ちしたのはおおよそ一時間。たったそれだけの時間しか寝ていないのでカイドウのように自身の酔いをコントロール出来ないイブキは当然酔いから醒めていない。

 

 しかし今のイブキは"笑い"でも"泣き"でも"落込"でも"甘え"でもない。人獣型によって変異した夜行性の蛇のような縦長の瞳孔を引き絞り、ただ静かにティーチの姿を見ていた。

 

「"命喰い(テ・スティル)"」

「ティーチ‼︎ ぬぅお⁉︎」

 

 酔っているとは思えない静かな声と素早い動きで武装色を纏ったイブキの手がティーチの頭蓋を貫こうと動くが、ティーチの事情はどうあれ殺すまではやり過ぎだと考えたサッチが咄嗟に二人の間に自身が使用している剣を割り込ませた。

 

 が、サッチの剣はイブキの手が触れるとガラスのように砕け散った。なんとか攻撃の軌道を変えることには成功したがまさかこんな簡単に砕かれるとは思ってもいなかったサッチは驚きで目を見開き、その直後にサッチを邪魔者だと判断したイブキの裏拳が顔に直撃。見た目にそぐわない威力の裏拳にサッチは部屋の端まで吹き飛ばされ、壁に激突して呻き声を漏らす。

 

 邪魔者を排除したイブキが再びティーチを殺害しようとするが、ここまで派手に音を鳴らせば誰でも喧嘩ではない異常が起きていることに気付く。そのためイブキがティーチを殺害するよりも早く扉が開き、甲板から戻ってきていたエースと吐いてスッキリしたヤマトが飛び込んできた。

 

 部屋に飛び込んできた二人は部屋の状況を見て驚くが、飛び込んできたのがエースとヤマトだと知ったイブキが即座にティーチ殺害を再開し始めたため、それを止めようと動く。

 

「"雷鳴八卦"‼︎」

「落ち着け‼︎ イブキ‼︎」

 

 エースは武装色を纏った蹴りを直接イブキに叩き込んでイブキのヘイトを集め、その隙にヤマトはティーチを解放するために彼の胴体まで巻き付き始めているイブキの尻尾へ金棒を振り下ろした。

 エースに意識を向けている状態で手痛い一撃を受けたこともあり、イブキはあっさりとティーチを解放した。しかしタダで解放するつもりはないのかエースと戦いながらも尻尾の先端に武装色を纏って床に倒れたティーチへ刺突を放つ。

 

「エース!ヤマト! これはどういうことだよい⁉︎」

 

 だがその一撃はマルコの不死鳥の脚による蹴りで弾かれた。諦め悪く様々な角度からティーチを狙い続けるイブキの尻尾をマルコは迎撃しつつ、恐らく事情を知っているであろうエースとヤマトに声をかける。

 

「わからない!僕だってイブキのあんな姿は初めて見るんだ‼︎」

 

 マルコに加勢し、イブキの尻尾を弾きながらもヤマトは手短に答える。それなりの期間をイブキと共に過ごしてきたヤマトだったが、この状態のイブキは今まで見たことがない。いつもみたいに声をかけても返事を返して来ず、淡々と相手の殺害を試みるイブキの姿を見て、ヤマトは一瞬だが殺戮上戸となったカイドウの姿を幻視した。

 

「当事者から話を聞くしかないか! イブキを制圧するから二人とも協力してくれよい!」

「わかった‼︎」

 

 イブキの人となりをある程度理解しているマルコはイブキが理由なく暴れるタイプではないと知っている。ここまで執拗に相手を殺そうとするレベルでイブキにとって何か許し難いことがあったのは明らか。しかしここで何が起きたのかを知らない自分達では正当な判断が出来ないと考えたマルコは一度この状況を落ち着かせるためにイブキの制圧を決めた。

 

「エースはおれと一緒にイブキの相手だ! ヤマトはティーチを見といてくれ‼︎ イブキが執拗に狙っている時点で何か関わりがあるのは確定だよい!」

「任せて‼︎ ってあれ⁉︎ ティーチがいない⁉︎」

「なんだと⁉︎」

 

 素早く作戦を決めて行動開始となったタイミングでヤマトが叫ぶ。その内容にエースとマルコがイブキから視線を外して振り返れば、ヤマトの言った通りにティーチの姿が部屋のどこにも無く、閉めたはずの木製の扉が中途半端に開いていた。

 

 そしてマルコとエースが同時に視線を外したことでイブキも静かに移動を始め、ティーチを追うために天井の穴へ飛び込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実の強奪に失敗した以上もうこの船にはいられねェ…‼︎」

 

 エース達の意識がイブキに向いている間に見た目の割にはダメージを負っていなかったティーチは隙を見てその場から逃げ出し、モビー・ディック号に格納されていた小舟を海に降ろして逃走の準備を進めていた。強奪の瞬間を見たのがイブキだけだったらしらばっくれることも可能だったはずだがサッチに見られた以上言い逃れはまず出来ないだろう。

 

 逃げる前にサッチを殺害して口封じをすることも考えたが、イブキの執拗な攻撃を前にして成功する確率はかなり低い上にエースやマルコがあの場にいる時点で成功しても待つ結末は同じだ。

 

 それならエース達にイブキの相手をしてもらっているうちに少しでも遠くへ逃げたほうがいい。その考えのもと小舟に飛び乗ったティーチは船を漕ぎ始めた。

 

 食料や水を積まないで大海原に出るのは命知らずでしかないが、航海図などの船の移動に必要なものは持ち込んでいるので明日到着予定の島の位置はわかっている。夜の間に休まず船を漕げばモビー・ディック号が島に着くよりも早く上陸出来るだろう。ティーチを追うようにモビー・ディック号も来るだろうが、しばらく潜伏しておけば見つかる心配もない。

 

「わー‼︎ 待ってイブキ‼︎ ここで獣型は駄目だよ⁉︎」

「……ん? なぁ⁉︎」

 

 徐々にティーチが乗る小舟がモビー・ディック号から離れていくなか、ヤマトのよく響く声がティーチの耳まで届いた。それと同じタイミングでティーチの頭上が暗くなり、上に視線を向けたティーチは頭上から自身を丸呑み出来るサイズの蛇が大口を開いて迫ってくる光景に目を限界まで見開いた。

 

 幸いにもイブキは変身途中でティーチに突撃したので本来のサイズには程遠く、ティーチは小舟から海へ飛び込むことでギリギリ喰われることは回避した。

 

 しかしすぐ隣で巨大蛇となったイブキが海に突っ込んだので大きな波が発生し、ティーチは一時的に大時化のような波に身を揉まれる。

 

 これまでの人生で海に何度も入ったことのあるティーチでもこの波では呼吸を確保することで精一杯だ。なのでイブキが本来の獣型サイズになっていることと、それによってモビー・ディック号の船体が悲鳴をあげていることに気付かない。

 

「ぶはぁ…‼︎ くそっ!なんだってんだこりゃあ⁉︎」

「ティーチ‼︎ 避けろ‼︎ 今度は下だ‼︎」

「あぁ? 下だと?」

 

 波が落ち着き、なんとか呼吸を整えたティーチが一息をつく暇もなく船からティーチの姿を見ていた船員の一人が何かに気付いたのか顔を青くしながら叫ぶ。それを聞いたティーチが下を見ようとするが、それよりも早く海ごと自分が持ち上がっていることに気付いた。

 

 海に飛び込んだイブキが今度は海の中から大口を開けて浮上してきたのだ。海水ごとティーチを口の中に収めたイブキは他の船員達が見ている前でティーチを喰らおうとする。

 

 口の中に含まれた海水が牙の隙間から海へ垂れ落ち、徐々に口が閉じていく。自身の状況を理解したティーチが海水を掻き分けてイブキの口の中から脱出しようとするがどうやっても間に合わない。

 

 イブキの注意を引くために3番隊隊長のジョズがイブキの胴体を持ち上げて船の外へ投げ飛ばそうとするが尻尾を船に巻き付けることで阻止され、他の船員達が船に乗ったイブキの身体を攻撃しても煩わしそうに身体を震わせるだけ。マルコがティーチを助けようと不死鳥となって飛ぶが、イブキの前に辿り着く前に口が完全に閉じた。

 

「よせ!イブキ‼︎」

 

 エースの制止する声も聞こえていないのかそのままイブキはティーチを飲み込もうとする。しかしティーチが息子である限り、それを許さない男が動いた。

 

「ティーチを吐き出せアホンダラァ‼︎」

 

 いつか敵になる可能性のある相手ということで取り返しのつかないことになるまではと今まで様子見に徹していた白ひげが動き出し、グラグラの実の能力を使って何も無い空間を殴りつけ、衝撃波をイブキに飛ばす。口内でしつこく逃げるティーチを飲み込むことに意識を向けていたイブキはそれに気付かず、直撃。たまらず海水や少し前に飲み込んだ小舟と共にティーチを吐き出した。

 

 だが持ち前の耐久力で即座に持ち直すとグラグラの危険性を理解したのかイブキは人獣型になり、ティーチへ肉薄。白ひげから二度目の衝撃波が飛んでくるが小さくなった身体で回避し、ティーチへ噛みつこうと口を開く。牙には毒液が滴っており、噛まれると即座に毒が体内へ入り込むだろう。

 

「させねェよい!」

 

 空中を移動する手段がないティーチでは防ぎようもない攻撃だったが、近付いてきていたマルコが割り込むことで牙は届かない。ならばとイブキはマルコを尻尾で拘束してそのままティーチの方へ向かおうと試みたが、マルコからも不死鳥の翼を絡められて拘束される。

 

 とはいえマルコの拘束はイブキの怪力なら突破可能。だというのにマルコは笑みを浮かべている。

 

 何故?そんな考えがイブキの脳内に浮かび上がるが、直後にマルコの行動の意味を理解したのか逃げるためにもがき始めた。しかしその行動はあまりにも遅い。

 

 焦るイブキが視線を船の方向へ向ければ、そこには力を溜めている白ひげの姿がある。一度目の手応えからカイドウ譲りの耐久力があると見抜いて次は確実に倒せる威力を出そうとしているのだろう。

 

 今から獣型になっても的が大きくなるだけ。かといって人型に戻っても長い尻尾が人の脚に戻るだけなので結局拘束からは逃げられない。毒のブレスを吐いたり尻尾で叩きつけたりしても不死鳥となったマルコは瞬く間に身体を再生させて離れてくれない。つまりイブキに白ひげの攻撃を躱す手段は残されていなかった。

 

「少し頭を冷やしてこい」

 

 白ひげが腕を振り抜き、ヒビが入った空間を起点に衝撃波が飛んでくる。直撃の寸前でやっとマルコが離れてイブキは自由となったが、迫る衝撃波を回避する時間はなく、両腕を顔の前で交差させて防御態勢に入るしか出来なかった。

 

 その直後に衝撃波が直撃し、イブキの身体が吹き飛ぶ。カイドウ譲りの耐久力があるとはいえ、たっぷりと力を溜めた四皇の一撃には意識を保つのが精一杯。そうしているうちに吹き飛んだ身体は海へ迫っており、イブキがそれに気付く頃には身体は海へと落ちていた。

 

「イブキィー‼︎」

「よせヤマト‼︎ お前は能力者だろうが⁉︎」

「エース‼︎ お前もだよい‼︎」

 

 海の中へ姿を消したイブキを助けるためにヤマトが船を飛び降り、ヤマトを助けるためにエースも船から飛び降りてその姿を見たマルコが盛大にツッコミを入れる。

 

 しれっとヤマトが能力で海を凍らせて着地するがエースの分は凍らせていなかったため、裏切られたとでも言いたげな表情で海に落ちるエース。

 しかしイブキのことで頭がいっぱいなヤマトはエースに気付かないまま海を凍らせてイブキが落ちた場所へ駆け出し、船員達はエースを助けるために慌てて海へ飛び込んでいく。

 

「騒ぎの中心だろうイブキとティーチ、それからサッチを治療してそれぞれ別の部屋にぶち込んでおけ。見張りを立ててアイツらが目覚め次第、今回の件を詳しく聞き出すぞ」

「わかったぜオヤジ」

 

 エースを助けに行った者とヤマトの手助けに向かった者を見ながら白ひげは近くにいた息子達へ指示を出す。そこに先程まで息子達と宴を楽しんでいた姿はなく、この件の中心にいる人物が人物なので面倒臭いと言いたげな顔をしながらも白ひげ海賊団の船長としての姿があったのだった。




オリ主……野生育ちなので殺気などの気配を出されると寝ている状態でも即座に覚醒する。今回は大暴れしていたが、当然酔っているので何にも覚えてない。そのため起きたら周りがピリピリしていて頭の中が疑問符でいっぱいになる。



ちなみにティーチがイブキに酒を飲ませた方法は──

 エースかヤマトにイブキにこのジュースを渡して欲しいと言って酒を混ぜた飲み物を渡す。↓

 エースはティーチのことを信じているし、ヤマトも人を疑う性格じゃないので言葉通り受け取ってイブキに渡す。↓

 渡した本人はジュースと思い込んでいるのでイブキの見聞色でも見抜けないし、イブキはエースとヤマトを信じているので普通に飲む。↓

 アルコールが弱いので酒が混ざっていると思わずそのまま飲み干す。以後繰り返し。

 みたいな感じを想定しています。
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