みんな展開予測うますぎぃ!
「おい、聞いたか? カイドウ様がマントの洗濯をしろってさ」
「またなのか? 1週間前に洗ったばっかだぞ」
「少し前から入浴の頻度も増えているし、いつからカイドウ様は綺麗好きになったんだろうな」
鬼ヶ島に舞い戻ること早数日、どうやらカイドウはかなり余裕を持って私達を迎えに来たらしく、金色神楽の開催までは余裕があった。そのため周りに顔見せを済ませてからは前に居た時と同じような生活をしているのだけど、代わり映えしない生活というのも退屈なので新たにやることを増やしている。
洗濯係と思われる二人の船員のぼやきを聞き流しながらそのまま通り過ぎ、私は目的地に向かう。ちなみにカイドウのマント洗濯は洗濯係の人達からすると不評らしい。なんでもマント自体がデカすぎな上に使われている素材が素材だから適当に洗うことも出来ないし、数人で持ち上げないと引き摺らずに運べないようだ。
だけどそんな洗濯係の努力もあって最近のカイドウのマントや服は全然臭くない。寧ろ良い匂いでビックリした。
「お邪魔します」
「おや、イブキお嬢。また来たんですか?」
「うん、来たよ」
あんな劇的に変わるんだとしばらく仕事中のカイドウの周りで鼻をスンスンさせていたことを思い出しつつ、私が訪れたのは鬼ヶ島内にある厨房だ。在籍している構成員が万を超える百獣海賊団の厨房はかなり大きく、厨房内では沢山の料理人が働いている。
一度に何千人前でも作れそうな巨大な鍋をかき回す人や、数人で巨大なフライパンを動かす人達を眺めつつ、周りに挨拶をしながら私が向かうのは厨房の端。
そう、私は今、屋台のレパートリーを増やすために料理の練習をしているのだ。流石に焼くしか出来ないのはどうかなと考え、キングに相談したところこの場所を用意してくれたので時間がある時はここに通い詰めて練習している。場所が厨房内なので手が空いている料理人がいればアドバイスしてくれることもあるので非常に助かっている。しかし花嫁修行とか馬鹿なことを言った料理人は縄で縛って粉砕機の真上に吊るしておいた。
「うーん、可もなく不可もなくって感じ……」
材料を借りて料理人から数日前に教えてもらった料理を作り、試食してみるが味は普通。不味くはないけど美味しいかと言われたら悩むみたいな味だ。自分の串焼きの味を知っているのでこの完成度で屋台に並べるのは力不足といったところ。
「どうしたものか……」
「お困りですかな? イブキお嬢」
作ったばかりの料理を眺めながら呟けば、後ろからヌッと以前吊るした料理人が現れた。彼は出来立ての料理と悩む私の姿を交互に見ると、全てを理解したかのように頷き始める。っていうか料理中にずっとコイツから見られている気配がしてたから状況は理解しているのだろう。
馬鹿な発言をするとはいえ、目の前の人物は料理人。そしてわざわざ自分から声をかけてくれたってことは今は手が空いているのだろう。
ならばと素直にアドバイスを求めてみれば、彼は私の許可を得てから作ったばかりの料理を一口食べてしっかり咀嚼。飲み込んで少し考える仕草をした後、私の方へ振り返って口を開く。
「わかりましたぞイブキお嬢。あなた様の料理に足りないもの……それは愛です‼︎」
「何言ってんだお前」
目をクワッと開き、断言してきた彼に向けて私は冷静にツッコミを入れる。もしかしてコイツにアドバイスを求めたのは間違いだったかもしれない。
「この料理には愛が‼︎ ぬくもりがありませぬ‼︎ 愛なき料理は冷めた料理と同等‼︎ つまりいくら美味しい料理でも愛がなければ味は格段と落ちてしまいます‼︎」
「……ふむ」
力説する彼の言葉に私は考える。んなわけあるかと彼の言葉を一蹴し、再び縛って粉砕機の上に吊るすのは簡単だ。しかし前世で読んだ漫画達にも愛情が料理の味を向上させるという話はあった。それも複数の作品でだ。
それが意味することは彼の言い分はあながち的外れではないということ。そのためこれ以上カイドウ様の娘に迷惑をかけるなと言いたげに縄を持って集まってきた料理人達へ手のひらを向けることで制止させる。
「どうすればいいの?」
『イブキ様⁉︎』
「簡単ですぞ。こうやって両手でハート型を作り、愛を‼︎ 料理に‼︎ 注入するのです‼︎ あ、お言葉はイブキお嬢ご自身でお考えください。その方が込められる愛が多いですからな」
まさかやるつもりなのかと驚く周囲を他所に、何事も経験だと私は彼の真似をして両手を使ってハート型を作る。
……なんか恥ずかしいな。しかも言葉は自分で考えないといけないのか。でもやると言ったのだからやらなければ。幸い前世の漫画でこんなシチュエーション時に言うべき言葉は学んでいる。
よし、いくぞ…‼︎
「……美味しくなーれ! 萌え、萌え、キュン♡」
瞬間、世界が止まったような感覚がした。私の言葉を、仕草を見たこの場にいる人物全員が口をあんぐりと開き、硬直。料理を行う音が全て消え去り、汁物の煮込まれる音や何かを焼く音だけがヤケに大きく響いている。
そんな空間の中で一番最初に動いたのは私だった。片手で目を覆うとそのまま調理台に顔を伏せるようにして隠す。でも真っ赤になった耳までは隠すことは出来ていない。
「……死にたい。何考えているんだ私は」
私の馬鹿野郎‼︎‼︎ 美味しくなーれだけでいいだろうが‼︎ なんだよ萌え萌えキュン♡ってさぁ⁉︎ どうすんの周りのこの空気⁉︎ もう逃げたい!今すぐに逃げたい‼︎
「い、いやはや、このクーコス。感服いたしました。まさかイブキ様にこのようなパワーがあるとは思いもせず……」
「やめて、本当にやめて。そんなパワーはいらないから」
私の次に復活した愛が云々と言っていたクーコスが戸惑いつつも心底感動したと言いたげな様子で話しかけてくるが、まともに会話する気力は今の私にはない。
「ですがイブキ様の愛を大量に注がれたこの料理の味は格別に変わっているはずです! 早速試食といき……ましょう……」
興奮を滲ませた様子で話しかけてくるクーコスの言葉が段々と尻すぼみになる。そのことに違和感を感じたと同時に、気付く。この場にいつの間にか強大な気配が混ざっていることに。
まさかと嫌な予感を感じながら勢い良く振り向けば、そこにはいたのだ。一番見て欲しくなかった人が。
「…………見た?」
「……いや、見てねェ」
顔に熱が集まっていくのを感じながらその人物ことカイドウに短く問いかければ、彼は否定した。そのことに私は安堵……出来るわけねェでしょうが‼︎
見てないのならまずこの状況はなんなのかを聞く‼︎ それがカイドウって男だろうが! 「あ、これは否定しといた方がいいな」みたいな顔で言われても説得力ないんだよぉ‼︎
恥ずかしさで死にそうだ。誰も弄ってくれないから余計に恥ずかしい。みんなのこれは何もしない方がいいという優しさが逆に辛い。
「……イブキ」
「……なにさ?」
「この愛は誰に向けたものだ?」
「やっぱり聞こえているし見てんじゃん馬鹿カイドウ‼︎‼︎」
カイドウの真顔かつ冷静な声による質問で恥ずかしさが限界突破した私は金棒……は不衛生という理由で手元にないので、料理に使ったばかりの熱々フライパンを握りしめると同時にカイドウへ跳び込み、その顔面にフライパンを全力でスイングするのだった。
◆
鋼鉄の肉体と言っても過言ではない強度を持つカイドウの身体に負けてひしゃげてしまったフライパンを料理人達に返した私は現在カイドウと共に長い通路を歩いていた。
あんなものを見てしまったせいか私達の間に会話は無い。っていうか私が両手で顔を隠しながら歩いているのでカイドウが気を利かせて話してこない方が正しいのかも。
前を見ないと危ないと思うけど見聞色で周りの様子は把握しているし、そもそもカイドウが隣で歩いているから木っ端な船員達はすぐに横へ逸れる。
「……そういえばカイドウ。ティーチってどうなったの? 最近正式に入ったって聞いたけど」
「あぁ、おれに忠誠を誓ってきた。が、十中八九あれは嘘だな。野心を隠しきれてねェ」
流石にこれ以上気を利かせるのは申し訳ないと思ったので気持ちを切り替えてカイドウへ最近聞いた話の真偽を聞けば、カイドウは本当だと頷く。その内容に大丈夫なのかと思ったが、カイドウは愉快そうに口を歪めた。
「ウォロロロロ、その根性を評価してアイツにはおれからプレゼントをくれてやった。よほど嬉しかったのか笑いが止まらないようだ」
「ふーん」
笑いが止まらなくなるほどティーチが喜ぶプレゼントと聞いて一瞬ヤミヤミの実を渡したのかと考えたけどカイドウがそれをするとは思えない。そうなればほぼ確実に『SMILE』を食べさせられたと察することが出来る。多分ティーチも嫌がっただろうが食わざるを得ない状況にされたのだろう。
しかし私はここに来てからカイドウに『SMILE』の存在を教えられたことは無い。だからティーチのことは既に興味のない存在だという反応を返しておく。
「ところでカイドウってなんで厨房まで来たの? 私に用があるのなら部下を寄越せばいいのに」
「用があったのは事実だが、移動する道中で見かけたからな。先に呼んでおくほうが手間が少ねェ」
露骨な話題変換をすれば私の先程の反応などを見てカイドウも素直に応じてくれた。
「で、その用って何?」
「リンリンの奴が懲りずに動きやがった。既にいくつか被害も出ている」
カイドウからティーチのことを話していた時の上機嫌が消え去り、代わりに心底不愉快と言いたげな表情になる。金色神楽が近いこの時期にちょっかいをかけられたのが余計にムカつくのだろう。
ははん? つまりまた報復で島を殺してこいって話だな。完璧に理解したぞ。
「今回はどこの島を殺してほしいの?」
「いや、今回は島なんてどうでもいい。被害は出ていてもまだ挑発程度のものだ。リンリンが何を目的にして動き出しているのかもわかっている。だからおれ達も嫌がらせをすることにした」
「ふむ?」
全然違った。何も理解していなかったらしい。まだまだカイドウの考えを理解するには遠いってことか。
「イブキ、お前……火や雷は平気だったよな?」
カイドウの再確認するような言葉に私は首を傾げる。ぶつかり稽古中に何度もカイドウの"熱息"や雷の咆哮を受けているのですっごい今更感がある言葉だ。
「うん。火……熱は赤犬のマグマでも大丈夫だし、雷も自然現象レベルなら耐えられるよ」
「ウォロロロロ、なら決行だな。イブキ、今夜には海へ出るぞ。準備しておけ」
「よく分からないけど、とりあえず分かった。準備しとく」
滅茶苦茶急だけど、事前に私の予定は知っていたのだろう。他にもやることがあるのか私の歩幅に合わせるのをやめたカイドウが先を歩き、曲がり角を曲がって姿が見えなくなったので私も来た道を戻って自分の部屋へ向かうのだった。
◆
カイドウの言った通り、夜になると部下を引き連れてワノ国を出発。今回はカイドウとキングも乗船しており、船内の雰囲気もピリピリしている。
とはいえそれは部下達だけで、カイドウとキングはいつもの雰囲気だ。船に乗った後で改めてこれから何をしに行くのかカイドウから教えられた私からするとそんなにリラックスした状態でいいのかと思うのだが、キングはともかくカイドウからするとちょっかいをかけてくる鬱陶しい姉貴分を叱りにいくみたいなものなのだろう。
百獣海賊団の船長とその右腕がそんな感じならと私も屋台を船上で開店。今回はメニューに入れるか悩んでいる試作料理を中心にしており、さらに余分に持ち込んだ食材を使わせてもらっているので無料で配っている。
船員達にはそれらを食べてもらい、忌憚のない意見を言ってもらう。それでも部下達は褒めるような評価をしてくるが、しれっと屋台の列に並んでいたカイドウはしっかりと参考になる意見をくれた。まぁその後はカイドウとヤマトの仲にモヤモヤしていた船員達が私とカイドウの交流を見て泣き出し、涙の味がするという全く参考にならない意見しか出てこなくなったが。
一応それで船の雰囲気の緩和に成功し、船員達は各々リラックスしながら目的地まで航海をした。その間にカイドウの目的を何処かで知ったのか船の進行を止めようと勇気ある海軍の軍艦が襲いかかってきたが、こちらにはカイドウに加えてキングもいるので足止めにもならず、軍艦は海の藻屑となった。
「ハ〜ハハハママママ…‼︎ 久しいねェ! カイドウ‼︎」
「あぁ、てめェも元気そうだなリンリン…‼︎」
海軍の妨害を跳ね除け、私達が辿り着いたのはいつかの日に報復として私が殺した島だ。流れる月日で毒の水溜りなどは綺麗さっぱり消えているが、島の土壌が死んでいるので草は一本も生えていない。木々も枯れたことで山は雨によって崩れており、殺した当時よりも島は荒れていた。
そんな島の中心で対峙するのは二人の怪物。一人はお馴染みのカイドウで、もう一人は多分私と敵対しているビッグ・マムことシャーロット・リンリン。その二人の後ろにはそれぞれの陣営の部下が沢山。
まるで戦争でもしそうな雰囲気である。そりゃ海軍も死ぬ気で止めようとするか。
「イブキ様ぁ、おれ達こんなにのんびりしてていいんすかね?」
「いいんじゃない? まぁキングに見られたら怒られそうだけど」
「いや、あんたらリラックスしすぎだろ‼︎」
一触即発の雰囲気を眺めながら私はというと最近仲良くなった真打ちの人達とサングラスをかけてから椅子に寝転がって仲良くジュースを飲んでいた。あと少しで戦闘が勃発するかもしれない状況で取るべき態勢じゃないのは明らかだけど、仕方ないじゃん暇なんだから。
「キング様、怒ると怖いですよ〜」
「怒ったキングの真似〜!」
「ギャハハハ‼︎ 似てねェですよイブキ様‼︎」
四皇の二人が言葉の応酬を繰り広げる中、黒い袋に二つの穴を空けて被り、指で目尻を吊り上げて怒ったキングの物真似をしてみれば船員達は手を叩いて爆笑してくれる。
「ほう? それがお前から見たおれの姿か」
なかなかウケが良いので別のキングの物真似を……なんて考えていたところで背後から声。知っている声音に加え、先程まで笑っていた船員達の青くなった顔色を見れば誰が私の背後に立っているのかよくわかる。
だから振り返らずにそそくさと逃げようとしたのだけど、後頭部をがっしりと掴まれて持ち上げられた。
「さぁ〜て、私はそろそろ持ち場につかないとね〜。だからこの後頭部を鷲掴みしている手を放して欲しいなぁ〜って」
「そうだな。カイドウさんから言い渡された役割を果たすのは大切だ。だが逃がさん」
「お手柔らかにお願いします……」
本気で抵抗すれば逃げることは出来るけど、悪いのは明らかに私なので脱力してそのままキングに運ばれる。その後は当然キングに怒られることとなったのだが、私の物真似よりか遥かにキングの怒り方は怖かったと明言しておく。怒鳴ったりせず淡々と説教されるのってこんなに怖かったんだね。あと説教補正が入っているのかいつもなら平気なアイアンクローが滅茶苦茶痛かったです。
「そろそろ出番だ。準備しておけ」
「わかってるよ……」
体感的には長かった短い説教は終わり、私を解放したキングはアイアンクローで彼の指が食い込んでいた場所を私が手でおさえている姿を見てそう言い残してからカイドウ達のところへ向かっていった。
それから間も置かずにカイドウとリンリンがぶつかり合う。互いの覇気によって空が割れる光景はいつ見ても壮観だが、今回はそれを呑気に眺めている余裕はない。
空へ向けていた視線を戦場へ戻す。それから私の標的がリンリンから離れる瞬間をジッと待つが、幸いにもそのタイミングはすぐに訪れた。
「ママ‼︎ プロメテウスをさげろ‼︎」
それを視認すると同時に私は獣型へ変身する。大口を開け、狙った獲物を呑み込むように突き進む。私の狙いを見聞色の未来視で見た将星の一人であるカタクリが叫ぶが、いくらリンリンでもカイドウの攻撃を捌きながらそんなことをする余裕はない。
そして何より、彼が声を上げた時点で獲物は私の口先まで迫っていた。余所見をしていた獲物がカタクリの声を聞いて状況を理解したとしても、到底間に合うわけがない。
「……へっ?」
「いただきます」
獲物であるプロメテウスがカタクリの言葉を聞いてリンリンから視線を外した時には既に私の口の中。プロメテウスの戸惑う声を聞きながら、私は容赦なく口を閉じて今回の獲物を呑み込むのだった。
オリ主……愛を込めるウンヌンカンヌンで脳内にメイド喫茶が浮かんでしまったのが敗因。今は恥ずかしがっているが何らかの原因でメス堕ちでもしたらメイド服付きでやってくれるかもしれない。心構えが弱肉強食なので真打ち辺りの百獣船員とは結構仲良くなりやすい。
ティーチは正面にカイドウ。左右にキングとクイーン。背後にジャックがいるなかで百獣に入りたいならこれ食えとSMILEを渡されました。ティーチも別の悪魔の実のほうが活躍出来ると必死に訴えましたが、殺されるわけにはいかないので最終的にはSMILEを食べてます。