「ホゲータ船長が蹴り飛ばされた‼︎」
「誰だあの女の子⁉︎」
私のドロップキックをモロに受けた船長が蹴り飛ばされた先にある岩に上半身が突き刺さり、ピクピクと身体を震わせている姿を見て状況の理解が追いついた船員が叫ぶ。
人にドロップキックを決めたのは前世含めて初めてのことだったが、思ったより硬い。あの船長、ギリギリだけど覇気でのガードが間に合ったな。その証拠に刺さってすぐに自分で岩から上半身を引っこ抜いたし。
「痛ェな…。誰だテメェ…?」
「この島に住んでいる野生人。鯨の船首を見て期待したのにとんでもないパチモンだったから文句を言いに来た」
「「理由が結構理不尽⁉︎」」
うるせぇ、私の期待を返せ。そんな思いで相手の船員達を睨み付ければ、彼らは一瞬だけ怯んだものの、負けじと口を開く。
「正直パチモンだと思うけどあの鯨はなァ! ホゲータ船長が頑張ってデザインしたんだぞ⁉︎」
「変にデザインが崩れているから海賊や海軍を笑わすことが出来るんだぞ⁉︎ それで何度俺達が危機を脱することが出来たと思ってやがる⁉︎ 鯨としては微妙だとは思うけど……」
「下手くそとしか言えないけど、船長が三日三晩考えた鯨だからなぁ…」
「あなた達もあれに思うところがあるんだね」
庇っているようでボロクソ言っている船員達の言葉に、船員達からも微妙と思われているのかと逆に船長が気の毒になってきた。
「お前ら……、そんなに微妙に思ってたのか……。いや、俺も少し微妙だとは思ってたけど……」
お前もかい。四つん這いになって落ち込み始めた船長に内心でツッコミを入れる。
「そんなに微妙なら作り直せばいいじゃん」
「馬鹿野郎! 船一つにいくらかかると思ってやがる‼︎ 俺だってなぁ!下手くそなデザインだけど大工側で調整してくれると思ってたんだ! まさか完璧にそのままで仕上げてくるとは思わねェだろ⁉︎」
「良い船大工さんだね」
「そうだよ畜生! 無理言ってデザインはこっちが担当したから文句も言えねェ‼︎」
落ち込んだと思えば立ち上がり怒りを露わにする相手船長。感情が忙しい人だな。
「だから許せねェのさ。完璧に鯨を模した白ひげの船がな!」
「えっ、敵視理由つまんな」
「グフゥ⁉︎」
「「「せ、船長〜〜‼︎」」」
そんな理由で敵対視されるなんて白ひげが可哀想だろ。思わず漏れた私の本音に胸を押さえて再び膝をついた船長へ彼の部下達が駆け寄っていく。
「船長!どうしていつもみたいに逆ギレしないんですか⁉︎」
「子どもからの純粋な瞳に耐え切れなかったんだ‼︎」
「意外と船長はピュアな心を持っているからなぁ……」
この会話だけを聞いていたらコイツら白ひげに挑んだ後で傘下になりそうだな。ドロップキックをする前に縄張りを焼くみたいなこと言っていたから怪しいけど。白ひげがどこまで許すか次第かな。
「畜生、ここまで馬鹿にされたのは久しぶりだぜェ。ホゲゲゲゲ、嬢ちゃん覚悟は出来ているんだろうな?」
「器ちっさ。まぁ、別にいいけど。私の中の海賊の強さ基準がカイドウになりつつあるのは嫌だったし。ところで船長さんは賞金いくら?」
「ホゲゲゲゲ、俺は俺の船を馬鹿にした奴は許さないって決めてんだ。8億6千万ベリーのこのホゲータ様に謝るなら今のうちだぜ?」
「ふふっ、それは謝っても許さないやつでしょ?知ってるよ」
「えっ、そうなのか?普通謝ったら許すべきだろ?」
「えっ?」
「えっ?」
「「………」」
……どうしよう。目の前のこの人がちょくちょく善性を出してくるから戦ってもいいのか悩ましくなってきた。この人絶対にカタギには手を出さないタイプでしょ。
でも戦って今の自分の強さの立ち位置は知りたい。……よし、やったことはないから自信はないけど出来るだけ殺さないようにしよう。
気まずい空気だったが、私が改めて構えを取ったことでホゲータも私が戦うつもりだと理解したのか、気まずい空気が続かないことにホッとした表情で拳を構えた。
「……腰の武器、使ってよ」
「馬鹿野郎、女と子どもには素手って決めてんだよ」
「甘いね。……すぐに使わせてやる」
もうこの人の爪の垢を煎じてカイドウに飲ましたいわ。あの人初手からトゲ付き金棒でぶん殴ってきたからな。
でもそれはそれとしてナメられていることにはムッとくる。やっぱり身長か?身長が低いからダメなのか? 確かにこの世界を基準にしたら150センチは小さいと思うけどさぁ。
はぁ、文句を言ってても仕方がないし、このまま人型の状態で戦って武器を使わせよう。今回は今の自力を知りたいから獣型と人獣型は可能な限り使用しない。その上で勝つ。
ジリジリと互いに距離を詰めつつ、私とホゲータが駆け出そうとしたその瞬間──まるで私達の戦いを阻止するかのように私とホゲータのど真ん中に空から何かが落ちてきた。
「な、何だァ⁉︎」
突然の落下物にホゲータは驚いて距離を離すのに対して、私は既に同じパターンを2度も見ていることから思わず虚無顔になってしまった。今から始まる戦いのために意識を集中していたから落ちてきたのが誰なのか見えちゃったもん。
いや、待てよ?これはチャンスなのではないか? もしかするとこのまま奴を倒せるかも。
そのために必要なものを見つけるためにホゲータ達が上陸の際に下ろしていた物資に目を通し、目的のブツを見つけるなり急いで駆け寄りそれを手にする。
手にしたのは大きなバケツ。それに海水を掬って入れると走って戻り、奴が落ちてきた穴の中に中身をぶち撒ける。
「嬢ちゃん? いきなり何をして──」
「いいから手伝って‼︎ コイツが出てきたら確実にあなた達の海賊人生はお終いになるよ‼︎」
私の突然の行動に様子を見ていた船員の1人が声をかけてくるが、構っていられないので作業をしながら簡潔に答えた。
「船長、どうします?」
「……この島特有の何かがあるのかもしれん。手伝ってやれ」
「了解‼︎」
鬼気迫る私の様子に嘘は無いと判断したのか、ホゲータは他の船員にも私の手伝いをするように伝えた。すると船員達はテキパキと水を掬える道具を持って準備を始める。
「嬢ちゃん! 俺達はどうすればいい⁉︎」
「ひたすら海水をあの穴にぶち込むだけ‼︎」
「よしきた!任せろ‼︎」
私に指示を仰いでくる船員に素早く指示を出すと、船員達はすぐに海水をそれぞれの道具に汲んで先に穴へ向けて走っていた私に続く。
いける!こんなにも人がいるなら奴が出てくる前に力が抜ける高さまで穴の中を海水で満たせる‼︎
「みんなバケツは持ったな⁉︎ 行くぞぉぉお‼︎」
「「「オォォォォオオ‼︎」」」
今までの仕返しが出来ると考えると嬉しくなってしまい、思わず背後に続く船員達へ掛け声をかけてしまう。船員達もノリがいいのか私の声に雄叫びで返してくれた。
ドタバタとみんなで走り寄り、まず先頭にいる私がバケツの中身を穴に入れるために傾ける。
ただ、普通に考えればこんなに時間があれば奴が這い上がってくるには十分な時間があるわけで。
「やっぱり死ねねェ──」
「あっ……」
穴から海水に濡れたカイドウが顔を出す。しかし既に私が持つバケツは中身の海水をぶち撒けるために傾いており、バケツから飛び出した海水を止める術なんて私は持ってない。その結果──。
バシャリ。カイドウの言葉を遮る形で彼の顔に海水がぶち撒けられた。ポタポタとカイドウの顔から海水が垂れ落ち、カイドウが口を閉ざす。
……やっっっちまった。どうしようこれ? 水も滴るいい男とか言ったら機嫌良くなって許してくれないかな?
「ひゃ、百獣のカイドウがどうしてここに……?」
凍りついた空気の中、私の背後にいる船員達の誰かが声を震わせながら呟いた。そんなこと私が知りたいよ。もしかして私の身体からはカイドウを誘き寄せるフェロモンでも出てるのか?
この後起きるであろう展開に思わず現実逃避をしていると、カイドウが無言のまま穴から這い上がってきた。私の歩幅でも2、3歩ほど歩けばぶつかってしまう位置に立つカイドウはとっても大きい。
人の状態でカイドウと相対したのはこれが初めてなのだが、ほぼ真上まで向かないとカイドウの顔が見えない。でも見た後で見ない方が良かったと後悔した。だって誰が見ても怒っているってわかる形相だもん。
「…おい、2回目はコイツってわかった。1回目は誰だ?」
「「「この子です」」」
「ちょっと⁉︎ 売るまでが早いよ⁉︎」
私です。なんて言えるわけがないので冷や汗ダラダラで黙っていると、速攻で背後の奴らに裏切られた。慌てて後ろを見れば、みんな頭を下げて私に手を向けている。しかもちゃっかり海水を入れた道具をその辺に捨ててやがる。
他の人を見渡していたカイドウの視線が私に固定された。死んだか?今度こそ私死んだか??
「ご──」
ワンチャン許してくれないかとバケツを背中に隠しつつ出した謝罪の言葉は、一言目で迫る金棒によって中断された。見慣れた金棒に最近反射で出せるようになった覇気を纏って防御をすれば、直後に強い衝撃を受けて視界が数回回転したあとパチモン鯨の船に突っ込んだ。
……うーん、なんだかいつものより痛くなかったな。流石のカイドウもあんなに近距離なら金棒をフルパワーで振れるわけないか。あと木の板ってクッションとしても優秀なんだ。少なくとも地面にぶつかるよりかは衝撃を吸収してくれた。
今回の金棒の威力を腕を組んで評価しつつ、起き上がって私が突っ込んできたことで木屑や埃が舞い上がった部屋の中を見渡してみると、どうやらここは船員達の部屋のようだ。
船に残っている船員が様子を見にくるかと思ったが、外が騒がしいことからみんなあっち側に行っているのだろう。つまり私は現在ノーマーク。
「よし、避難用の小船を探そう」
ここまで届く音は今のところ誰かの悲鳴と悲痛な声で呼ばれる知らない名前のみ。剣などの金属がぶつかり合う音が聞こえないことから、カイドウによって彼らが一方的にボコられていることがわかる。彼らがカイドウによって全滅するのは時間の問題だろうし、私はサッサとここからオサラバするために立ち上がった。
助けに行くほど仲も良くないからね。しかもあいつら私のこと速攻で売りやがったし。
部屋を出る前に前々から欲しかった
「やっぱり甲板あたりに置いてあるのかな? 船の知識なんてないから何処にあるのかなんて分かんないや」
まぁ、あと見ていないのは甲板だけなので、そこにあると決めつけて移動してみると予想通りお目当てのものがあった。そのことに安堵しつつ駆け寄ったのだが、その途中で突然頭上が暗くなった。
異常が発生したなら確認したくなるのが人間なもので、その例に漏れず確認のために頭上を見上げれば、黒鯨が背中を船側に向けて落ちてくる最中だった。
「なにそれ⁉︎」
急いで飛び退き、黒鯨に巻き込まれない場所まで逃げると同時に黒鯨が船に落下。その重さに船体は激しく揺れて、船はミシミシと音を鳴らして耐えていたが、やがて限界が来たのか甲板を破壊して黒鯨が下へと落ちた。
四つん這いになって黒鯨が落ちた際の揺れに耐え、揺れが収まってから目の前に出来た大きな穴を覗き込む。当然そこには黒鯨が仰向けになって倒れていたのだが、しばらくすると小さくなっていき、黒鯨からホゲータへと姿を変えた。
「あの人って能力者だったんだ。それも動物系。カイドウがスカウトしそう」
船の外からはホゲータの名を呼ぶ声と、カイドウのおれの海賊団に入れという熱烈なスカウトの声が聞こえる。カイドウの大声にはしれっと私の名前も含まれていたのだが、当然私に行く気はない。絶対まだ怒っているだろうし。
「早く逃げよ」
幸いホゲータ率いる海賊団はまだやるようで、さっきはいなかった副船長らしき人がドン底にまで落ちた味方の士気をなんとか上げようと叫んでいる。そのためもう少し時間はありそうだ。
彼らに感謝をしながら人獣型に姿を変え、長い尻尾を避難用の小舟に巻きつけてから小舟に巻かれたロープを解く。
私の尻尾以外は何もついていない状態になった小舟を両手で持ち上げて角度を調整。それからカイドウが私に注目していないことを確認し、大丈夫そうなので全力を込めて小舟をぶん投げる。
投げ飛ばされた小舟に巻き付いていた尻尾も引っ張られ、その尻尾の持ち主である私も共に空を飛ぶ。行き先は今いる島の逆側だ。
仮に海へ逃げても航海術なんて持っていない私だと広い海原で迷子になって野垂れ死ぬ可能性があるし、カイドウがその気になれば龍になって余裕で追って来ることが出来る。それならある程度距離を離してから地中に潜って逃げた方が確実。前にも言ったけどこの島は他の群島と繋がっているので地中から他の島へ移動することも出来る。いくらカイドウだって穴を掘って追いついて来ることは出来ないだろう。……出来ないよね?なんか金棒をツルハシ代わりに使って猛スピードで掘り進めて来る姿が頭をよぎったんだけど?
でもまぁ今回も逃亡成功だな。なんて思ったのがいけなかったのか、カイドウ達の真上を通過したタイミングで突然上を見上げたカイドウと目があった。
しかしカイドウが私に向けて何かアクションを取ろうとしたタイミングで副船長らしき人物がカイドウの眼球目掛けてナイフを投擲するファインプレイ。これによってカイドウの意識が私から離れた。
さらに動物系の回復力で気絶から復活したホゲータが大ジャンプし、黒鯨となってカイドウを押し潰そうとする。黒鯨状態のホゲータは獣型状態の私やカイドウよりも小さいが、今の私の姿を隠すには十分なサイズだ。
両者とも次の瞬間にはカイドウに仲良く雷鳴八卦されていたが、その間に私は通過。その後もカイドウから何か攻撃をされることはなく、無事に着地。人獣型のまま急いで穴を掘り、カイドウの索敵範囲外へ逃亡するのだった。
◆
あれから数日後。ホゲータ率いる彼らの海賊団は、カイドウに丸ごとスカウトされたのか島中を探しても見つからなかった。彼らがここに訪れた形跡は潰されて沈んだ海賊船と私が盗んだ記録指針のみ。
あとホゲータ達を回収する際に呼んだであろう百獣海賊団の船員が数人ほど島に居座るようになった。
既にそいつらは潰したのだけど、そろそろこの島に居続けるのは危険だろう。いや、カイドウが2度も来た時点で危機感自体はあったんだけど。生身で海に出るには必要な物が無かったり、私の知識が無かったりでこのままだとリスクが大きいから動けないんだよね。
それでもどうにか出来ないかと原作の記憶を頑張って思い返していたところ、そういえば黒ひげ海賊団の巨人族が能力者なのに海の中に入っていたなと思い出した。彼の名前は思い出せないが、デカデカの実の能力者であることは覚えている。
つまり能力を使用して巨大化し、その姿が海の深さよりも大きければ力は抜けるけど溺れることはないのではないか?もしそうなら船関係の知識はまるっと必要無くなるので出発しやすくなる。
早速自論が正しいのかを確認するために身体の一部は必ず陸においてセーフティーを確保しつつ、海に頭を突っ込んでみたり、逆に頭だけ陸に残して首より下を全て海に沈めてみたりと色々試してみたところ、頭さえ海から出ていたら気力次第でどうにかなると結論が出た。
ちなみに全身が海に沈めば即アウトで溺れる。首から下だけ浸かっている時とは感じる脱力感が天と地ほどの差があるのでどんなに頑張っても耐えられないし、能力の維持も難しい。
能力者の私は当然泳げないので移動は獣型状態で海から頭部は出しつつ海底を這って進むことになるのだが、獣型の全長よりも水深が深い場所に進んでしまえばそれもアウトだ。一応尻尾を使って進む先が深くなっていないかを確認しながら進むつもりではあるものの、頭を海に浸けて目視で確認するより得られる情報は少ないため大きなリスクがある。それでもカイドウの海賊団に入るのが嫌ならやるしかない。
「えーと、この方角を進めば島があるのか」
自論に答えが出たならいつカイドウが降ってくるのか分からない島からはすぐに離れる一択だ。目的地はホゲータが言っていた白ひげの縄張りである次の島を目指す。
そのためにありがたくいただいたホゲータ達の記憶指針を見てみるのだが、3つある指針のどれが目的地のものかさっぱり分からない。というか3つのうちの1つがさっきからすっごいブレてて自己主張してくるのだけど、これ壊れてないよね?
確率は三分の一。どれに進むべきか悩むが、とりあえず迷わずにいけそうな針が全くブレていない中央のものに従って進もうと思う。
「よし、行こう」
方角を確認してから獣型に姿を変え、頭が海水に浸からないように注意しながら慎重にゆっくりと海へと入水する。身体が海へ沈んでいくほど力が抜けるが、それは気をしっかり持って耐えるしかない。一応いざという時用に首に浮き輪代わりの丸太を3本程ロープでくくり付けているが、ほんの気休めなのであまり信用しないほうがいいだろう。
やがて頭を除いた身体の全てが海へと入った。しばらくはそのまま動かないで常に襲いかかってくる脱力感に耐え、ある程度慣れたところでゆっくりと進み始める。
こうして私は長年暮らしていた無人島から脱出し、次の目的地へ進むのだった。
オリ主……船が必要無くなったことで移動を決意。水深にだけ気を付ければいいとオリ主が考えていることから分かるかもしれないが、海王類などの海洋生物の存在をすっかり忘れている。
ちなみにオリ主は150センチと言っているが、無人島で木に傷を付けて目測しただけなので実際は147センチ。年齢は17歳。
動物系で鯨を出したけど、鯨ってウオウオの実でいいのだろうか? ムシムシとクモクモが区別されているなら、鯨も別の実になるんじゃないか? そんな考えがよぎったせいで本文でホゲータの実の名前は出しませんでした。