エンカウント率ぅ   作:フドル

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てなわけで本日2話目ですよ〜!


着たばかりの服が汚れるのって抵抗感が凄いよね!

「ウォロロロロ、来たかイブキ」

「そりゃあ、この日のために一度戻ってきたんだからちゃんと来るよ」

 

 鬼ヶ島のとある一室。恐らく長い期間鬼ヶ島の外で仕事をしていた傘下の海賊達がカイドウへ挨拶しに来るのを迎え入れるための部屋。その上座と思われる場所に座っているカイドウは、部下の案内を受けてやってきた私を見ると少し口角を上げて笑みを浮かべた。しかし私の近くにいるであろう人物がいないことに気付くと、みるみるうちにその表情は不機嫌となる。

 

「イブキ、ヤマトはどうした?」

「ヤマトなら昨日からワノ国の方のお祭りに興味がある〜って言っていたからそっちに行っているんじゃない?一応ヤマトが頷くまで招かれた側として最低でも顔見せだけはしとくべきって言っておいたから宴が終わるまでには戻ってくると思うけど」

「……はぁ、あのバカ息子が」

 

 私の言葉にカイドウは深いため息を吐くが、戻ってくると知ったからかそれ以上は何も言わずに近くに置いていた杯を掴んで注がれていた酒を飲み始める。一度頷いたのならカイドウと似て真面目なところがあるヤマトのことだからキチンと帰ってくると理解しているのだろう。

 

 そんなカイドウを見ながら私は鼻で匂いを嗅いだり能力を使って蛇の舌となった自身の舌を空気中でペロペロさせて周囲の匂いをチェックしていた。理由は勿論カイドウが酔っていないかの判別である。

 

 年に一度の大宴会らしいので今日は酒を飲んでいても何も言わないつもりではあるけど、重度に酔っていれば距離を離すつもりではある。だって絡まれたくないし。それに船員達もカイドウに近付きたいのに当のカイドウが酔って娘にベタベタしてるため取り付く島もないってなるのは嫌だろう。

 

「それでイブキ。そいつらはなんだ?」

「あぁ、この人達? 食べ物で遊んでいたからしばいた」

 

 満足いくまで飲んだのか、杯から口を離したカイドウは私の片手に襟首を掴まれて引き摺られている頭に2個ずつタンコブが出来た3人の船員に視線を向けて問いかけてきたので、私も素直に答える。

 

 ここに来る途中で口に合わないからと料理をパイ投げみたいに投げ合って遊んでいたから制裁したのだ。

 

 正直コイツらの遊び道具になるのなら兎丼で働いている奴らに振る舞った方がいいと思う。コイツらが真打ちレベルならともかく、ウェイターズの時点で価値も低い。それなら兎丼の奴隷達のお腹を膨れさせて壊れるまでの期間を延ばした方が得に決まっている。

 

 あと単純に飛び交っていた料理が私も手伝ったものなのでムカついた。しばいた理由の比率的にはこっちの方が大きい。誰だって真面目に作った料理を口に合わないって理由で遊び道具にされたら怒るでしょう?

 

「そうか。だが今日は年に一度の金色神楽だ。気持ちは理解出来るがほどほどで済ませておけ」

「……はーい。でも度が過ぎる奴はしばくからね」

 

 私が彼らをしばいた理由にカイドウは眉を顰めたが、ここの長として私にも注意する。海賊というのはそういうもんだし、いちいち制裁していたら楽しい宴が味気なくなると判断したのだろう。

 

 不満は当然あるので、私にも譲れない一線があることは伝えておく。それと同時に今日はある程度彼らの行為にも目を瞑ると言っているような言い方をすれば、カイドウもそれを読み取ってくれたのかそれでいいと頷いた。

 

「はぁ、コイツらもクイーンを見習ってくれたら良かったのにな」

「…えっ? なんでおれ?」

「だってクイーン、私が主体になって作ったおしるこをいつもと味が違うって言いながらも最終的にはちゃんと食べてたじゃん」

「……ムハハハ! 当然だろう? おれは出されたものはちゃんと食べる主義だからな‼︎」

 

 私の言葉に不思議そうな顔をしていたクイーンだが、私がどれのことを指して言っているのか理解したのかふんぞり返ってドヤ顔で宣言した。しかしその表情には大量の冷や汗が浮かび上がっている。

 

「本当に安心したよ。おしるこが入った鍋を蹴ろうとしてた姿はパフォーマンスかな? 騙されて危うくクイーンの後頭部に雷鳴八卦するとこだった」

「怖ぇーよ⁉︎ っていうか途中から感じていたあの視線ってイブキのかよ⁉︎」

 

 笑顔でクイーンに金棒を振るモーションをしながら笑いかければ、クイーンは片手で後頭部を隠して私から距離を取りつつツッコミを入れた。それとやっぱりクイーンは私の視線には気付いていたらしい。気配を消すことには自信があったんだけどなぁ。

 

「じゃあ私は先に広場へ行ってるね?」

「あぁ、楽しんでこい。それから…美味かったぞ」

 

 あの時はクイーンにも気付かれるくらい殺気を出していたのかなと反省しつつ、カイドウへの挨拶を待っている人がまだいる状況で話す話題はもうないからとここから退室する旨をカイドウへ伝えれば、許可が出たのでそのまま回れ右をして退室する。

 

 襖に手をかけたタイミングで放たれたカイドウの最後の一言にはピクッと眉が動きそうになったが、それは気合いで押さえ込んだ。

 

「……ふふふ」

 

 廊下に出れば誰もいないことを確認し、私は笑みを浮かべる。実はカイドウのところにも早めに料理は届いていたのだが、今回は料理人が気を利かせたのかわからないがカイドウの元へ届いていたのは私が一から全部作ったものだったのだ。

 

 ここまでのみんなの様子を見る限り、私の料理はこことは結構味付けが違うようだ。まぁ、ところどころ自分好みの味付けに変更しているので当たり前と言えば当たり前なのだが。そこへ直接美味かったなんて感想を言われたら、作った側としては当然嬉しい。

 

 カイドウの横に積まれていた空皿を思い浮かべ、このままだと思わずスキップしてしまいそうな脚を意識して普通の歩きかたで動かしつつ、私は上機嫌で百獣船員達が集まっているフロアを目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく時間が経ち、クイーンのライブついでに行われる点呼も終わって本格的に始まった金色神楽こと百獣海賊団の大宴会。

 

 あちこちで船員達が好き勝手にご飯や酒を飲み馬鹿騒ぎをする中で私は何をしているかというと、普通に船員達とご飯を食べていた。

 

 最初は船員達も自分達に構わずカイドウ様のところへ行ったほうがいいのではないかと私に言って来たのだけど、それだといつもと変わらないし、今回はカイドウの近くにオロチもいるはずなので前もってカイドウには宴会中は下のフロアで船員達と一緒に飲むことを伝えてある。カイドウも私のオロチ嫌いは知っているのでよっぽどのことがない限り無理に呼び出そうとはしないだろう。

 

 私が過去にオロチと揉めたことはそれなりの事件として百獣海賊団内で知れ渡っており、それに伴って私のオロチ嫌いもここでは周知の事実だ。なのでそれが理由ならと彼らも私を受け入れてくれた。

 

 クイーンがライブ中に今回の料理は私が作ったものも混じっていると言ってくれたおかげで食べ物で遊ぶ奴も少ないし、私がいるからか近くにいる人達からは思わず眉を顰めてしまうような胸糞悪く残酷な話も出てこない。

 

 つまり普通に楽しい。みんなノリがいいし、ツッコミを入れるところはスルーせずにツッコミを入れてくれる。みんなのボケを察する嗅覚には私も感嘆するしかない。

 

 惜しむべきは私もみんなのように酔っ払ってテンションを上げることが出来ないことだろうか。一応事故防止のために海楼石(酔い覚まし用の爆弾付き)を装着しているけど、そんなもので私が止まるかなとクイーンに質問したら手をブンブン振りながら絶対無理と即座にお返事を貰えたのでいつも通りにジュースを飲んでいる。

 

 そんなこんなでワイワイと宴を楽しんでいたら、何処かで誰かの怒声が聞こえ始める。そのことからどうやら喧嘩が発生したのだと察することが出来た。

 

 折角の宴だし、即座に鎮圧するべきかと考えるが、周りの人達は立ち上がってその騒ぎが起きている場所へ見世物でも見に行くかのように集まっていく。そのことから百獣海賊団では喧嘩も酒の肴になるのだと察することが出来た。

 

 幹部的に喧嘩はどうなんだと未だにライブを続けているクイーンへ視線を向ければ、クイーンは喧嘩を止めることはせずに寧ろ焚き付けるように騒いでいる。

 

「イブキお嬢も見物しませんか? 既に賭け事も始まっているようですよ!」

「……まぁ折角だし行こうかな」

 

 個人的にはどうでも良かったし、喧嘩を見るよりか料理を食べたかったのだけど誘われたのならしょうがない。今日は無礼講なので早く早くと言いたげに私の腕を引っ張ってくる仲良くなった女性海賊に連れられて喧嘩の現場へと共に向かう。

 

 が、私達が到着した時とほぼ同時に喧嘩が終わったらしく、誰かが倒れる音がした後に歓声とブーイングが辺りを包み込んだ。

 

 敗者は折角楽しく飲んでいたのにと文句を垂れ流す医療班に連れて行かれ、勝者は机の上に立って両腕でガッツポーズをしながら勝利の雄叫びを上げる。しかし彼が机に脚を置いた際の振動でいくつかの料理が地面へとこぼれ落ちた。

 

「はーはっはァ‼︎ 他にかかってくる奴はいねェのかぁ⁉︎ 軟弱者どもがよぉ〜!」

 

 あ、あいつさっきしばいた奴じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在私は先程までいたフロアから離れ、長い廊下を歩いている。その先にあるのはカイドウ達がいるであろう部屋だ。

 

 何故そこへ向かっているのかと言うと、ちょっとやり過ぎて少し居心地が悪くなったからである。

 

 いやぁ、次の喧嘩相手に私が立候補したんだけどね、当たり前のように彼は私の相手を辞退した。彼の顔が赤くなっていたことから恐らく酔っていたようだが、流石に酔っていても手も足も出せずにボコられた記憶は残っていたらしい。

 

 だけど周囲がそれを許さなかった。あんなに周りへ啖呵を切っておいて強い人が来たら逃げるのはどうなんだと大ブーイング。既に賭けも始まっており、逃げたら俺達がお前をボコるみたいな雰囲気さえ出ていた。ちなみに彼へ賭けた人は誰もいない。大穴狙いすらいなかった。

 

 んで、逃げ場のなくなった彼は玉砕覚悟で私に突っ込んできたわけだ。とはいえ私だって鬼じゃない。本気で殴れば彼が再起不能となる可能性があったので軽く吹っ飛ばす程度の手加減ビンタをするつもりではいた。……彼が机からこぼれ落ちていた料理を踏み、さらにその料理から飛び出した中身が私の袴にかかるまでは。

 

 きっとそこに料理が落ちているなんて気付いていなかったのだろう。それは踏んだ直後にギョッとした彼の表情から推測出来た。だから私もギリギリで半殺しにするつもりの拳になっていた手をビンタまで戻すことが出来た。

 

 ……まぁ、それでも最初に考えていた威力からはかけ離れた威力が手のひらにはまだ残っていてですね。結果として彼は私のビンタを頬に受け、錐揉み回転をしながらぶっ飛んだ先にあった建物の2階に上半身が思いっきり突き刺さる結果となってしまった。

 

 下半身をピクピクと震わせる敗者の姿には血の気の多い百獣船員達でも流石に閉口するらしく、周囲一帯は静まり返ってしまった。騒ぎに気付いていない遠くの場所では未だに笑い声などが響いているのでここら一帯だけ異空間にでも迷い込んだ気分だ。

 

 うん、すっごい気まずい。袴に料理が付着した際に漏れてしまった私の覇気に当てられた人は顔を真っ青にしているし。とても気を取り直して宴を再開しようなんて言える空気じゃない。

 

 そんな理由で私はスタコラサッサとその場から逃げたわけだ。あの空気を作り出した私がどっかに行けばそのうち最初の空気に戻ってくれることだろう。

 

 それで何故カイドウの元へ向かっているのかというと、今日は無礼講なんて言ってもやっぱり船員達の中にはしっかりと越えては駄目な一線があると気付いたからだ。

 

 それなら気兼ねなく遊べるカイドウ達のところへ行ったほうが多分私的にも楽しい。勿論今回の遊ぶは模擬戦じゃない。室内で飲み食いしながらでも出来るものだ。そのためにここまでの道中で花札とかを借りてきた。

 

 当然カイドウは酔っているだろうけど……自分から頼みに行くんだからそれは仕方ない。今日に限っては頬擦りされても我慢しよう。

 

 カイドウに遊ぶのを断られた場合はキングやクイーンに頼んでみよう。意外とキングは頼めばやってくれそうだし、クイーンはリアクションが良さそうだからやってて楽しそうだ。

 

 ジャックは……今は保留かな。彼は真面目だから他の船員達と一緒で内心嫌でもやってくれそうだし。

 

 飛び六胞はフーズ・フーとササキの2人は断るか条件ありで参加ってなりそうだし、ブラックマリアはそれとなく私に勝たせる動きをしそう。ホゲータとうるティは真剣に勝負してくれそうだから優先的に誘いたいね。ページワンは本人が嫌がってもどうせうるティによって強制参加だろうから無理に誘う必要はないかな。なんならうるティが勝手に連れてきそうだ。

 

 一先ず最初にカイドウを誘って、無理ならキングとクイーン。それも無理ならうるティとホゲータでいこう。ヨシ!

 

 そう考えをまとめた辺りで目的の部屋が見えてきた。襖の向こうからはカイドウの笑い声とクソオロチの声も聞こえるのでここにいるのは間違いないだろう。

 

 一応服装が乱れていないかなどを確認し、大丈夫なことを確認してから襖に指をかける。そして部屋の中にある人達の視線を集めるために力を込めて勢いよく襖を開けた。

 

「カイドウ‼︎ 遊ん──」

 

 しかし私の声は部屋に広がる光景を認識したことで中断される。

 

 別に部屋の中に何かあったわけではない。普通の宴だ。なら何故私が話すことを中断したのかといえば、カイドウの膝にいる人達だ。

 

 恐らく鬼ヶ島に所属する遊女達。あとはオロチに連れてこられた人達。それがカイドウの膝にしなだれかかっており、それに対してカイドウはまんざらでもないような顔をしている。

 

 それを見た瞬間、私の心の奥でモヤモヤとした感情が生まれた。それに私は日本という一夫一妻が当然で浮気は悪という考えの国で育ったので目の前の光景は酷く拒絶感がある。

 

「うわぁ……」

 

 結果、軽蔑の感情が滅茶苦茶に込められた冷たく低い声が私の口から漏れた。襖を勢いよく開けて周囲の注目を集めた直後に放った言葉なので、その声は部屋の中によく響いてしまい、騒がしかった部屋の中があっという間に静まり返ってしまった。

 

 いやいや、いやいやいやいや、私は何を考えているんだ。ここは日本じゃないんだぞ。私の常識を押し付けてどうする。

 

 カイドウは百獣海賊団の総督としてヤマトと私の2人は跡取りとして少ないくらいだし、海賊や海軍との戦闘で死ぬのかもしれないことを考えるともっと子どもがいてもいいくらいだ。遊女達もカイドウの嫁になれればここでの生活は保証されたも同然で、むしろ正しい行いだ。今回は空気を読まずに突っ込んだ私が完全に悪い。

 

 あっちゃ〜、やっちまったな。どうしようこの空気。カイドウなんて笑顔のまま硬直して全く動いていない。こっちに来いとかそこに座れとか言ってくれると私的には助かるんだけどそれだとカイドウ狙いの遊女達に悪いしなぁ。多分無礼講の今日じゃないとこんな距離の詰め方なんて出来ないだろうし。

 

 ……よし、ここは撤退だ。お邪魔虫の私は素早くその場から去ろうじゃないか。

 

「失礼しました。ごゆっくりどうぞ」

 

 開けた時とは真逆に正座して襖を静かに正しく閉める。襖によって部屋内の光景が見えなくなると同時に私は立ち上がり、早歩きでこの場を後にする。とりあえず明日1番にカイドウへ謝ろう。きっとそれがいい。

 

 それにしてもあの部屋にうるティとかホゲータはいなかったな。なら丁度いいし、2人を誘って花札でもしてこの宴を乗り越えよう。

 

『ウォロロロロロ゛ォォォォン゛‼︎‼︎』

 

『か、カイドウ様が泣きながら笑っている⁉︎』

『何上戸だ⁉︎』

 

 どうやらカイドウも無事に再起動したようだ。それに笑い泣きしてるなら大丈夫そうだね。

 

 少し離れた場所からも大音量で響くカイドウの声を聞きながらうるティとホゲータの2人を探すのだけど、ふと違和感を感じた。

 

 あれ?なんか音が近付いてきてない???

 

「イブキィィィィィイ‼︎‼︎ 待ってくれよォォン‼︎‼︎」

「え? ギャーー‼︎‼︎ 何⁉︎何それ怖いんだけど‼︎⁉︎」

 

 嫌な予感をして後ろを振り返ると、号泣しながらカイドウが廊下を爆走していた。しかも龍の姿で。

 

 そんな風に迫って来られて逃げない奴はいないだろうがと私は即座に迫るカイドウから離れるように走る。下手なホラゲーより怖いってこれ‼︎

 

「違うんだイブキィィ‼︎‼︎」

「違うってあの遊女達のこと⁉︎ わかってるよ!悪いのは私だよ‼︎ だから落ち着いて人の姿に戻ろ? ね?」

「ウォロロロロ゛ォォォォン゛‼︎‼︎」

「あ、ダメだこの人。酔っているから喋るだけでこっちの声は聞こえてないや」

 

 こっちは廊下を破壊しないように気を付けて走っているのにカイドウは知ったものかと迫ってくるので距離は徐々に詰められている。しかも後ろからガチガチと牙を打ちつけるような音が聞こえてくるのでカイドウは恐らく私を咥えて捕まえるつもりなのだろう。

 

 既に袴は汚れているとはいえ、新服の2番目の汚れがカイドウの涎とか絶っっ対に嫌だ‼︎‼︎ 意地でも逃げてやるぞ‼︎

 

 追いつかれる前に横道へ飛び込めば、カイドウの巨体は直進していく。しかし破砕音と船員達の驚く声や悲鳴が聞こえることから諦めてはいないようだ。救いは壁をぶち抜かずにまわり道をする程度の理性は残っていることだろうか。

 

 そんな理性が残っているなら人型に戻ってよと脳内で愚痴りつつ、どうしたものかと頭を悩ませる。いや、鬼ヶ島内の被害を考えるなら私が素直に捕まるのが1番なんだけど……涎ぇ。

 

「おーい! イブキー‼︎」

 

 今から代わりの服に着替えるのは流石に悠長だろうから捕まる瞬間に服を全部脱いで下着だけで捕まるかなどと思考が変な方向へ向き始めたタイミングで、私を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

 カイドウとは違う声に視線を向ければ、ワノ国へ行っていたヤマトが林檎飴を片手に持ちながら私に手を振って駆け寄ってきた。その様子から向こうではしっかりと楽しんできたようだ。それならこちらもお小遣いを渡した甲斐があったというもの。

 

「騒がしいけど何かあったの?」

「うーん、あったというか今も終わっていないというか……」

 

 今来たばかりなのかヤマトはカイドウが現在乱心していることを知らないようだ。林檎飴を舐めながら不思議そうに私に問いかけてきた。

 

 それに答えようとしたのだけど、それよりも先に破砕音が大きく響く。そのことからカイドウが近付いてきているのだろう。

 

 真面目にどうしようか。ぶっちゃけ取れる手段は戦うか隠れるかの2択。戦うなら屋上か屋外へ出ないと被害が凄いことになるから誘導したいところだけど、あのカイドウを相手は流石に難しい。っていうか多分誘導途中にキングあたりに捕まってカイドウに捧げられそう。この騒ぎは私が犠牲になればすぐに収まりそうだし。

 

 ならもう一つの案である隠れるを選ぶべきだけど、今の私はカイドウに捕捉されているので一度それを切る必要がある。なので何か別の囮を……囮……。

 

「…………」

「どうしたのイブキ? 変な顔をしているけど僕の顔に何かついてる?」

 

 私の視線に気付いたヤマトが不思議そうに見てくる。

 

 ……やって、いいのだろうか。でも涎は嫌だし……。それにヤマトもそろそろ模擬戦以外でスキンシップを深めてもいいと思うんだ。

 

 なんて言い訳を脳内で垂れ流しつつ、近寄ってくる破砕音に気を取られて私から視線を外したヤマトの背中に私は素早くまわり込み──

 

「イブキィィィィ‼︎」

「え? えぇーー‼︎ 何で龍のすが──」

 

「ごめん、ヤマト。本当にごめん」

 

 姿を現したカイドウに驚きつつも回避行動を取ろうとしたヤマトの背中を謝りながら優しく押した。

 

 押されたことでタタラを踏んだヤマトに回避行動など取れるわけがなく、ヤマトは簡単にカイドウに咥えられた。

 

 カイドウの牙に隠れて足首から先しか見えないヤマトの姿を確認するなり私は身体を伏せて突っ込んでくるカイドウを回避。勢いよく通り過ぎる龍の身体とその巨体が巻き起こす強風に吹き飛ばされないように指を廊下に食い込ませてカイドウが通り過ぎるのを待つ。

 

「喰われたァァァ‼︎ 酒臭いのもそうだけど普通に息が臭……くない⁉︎ 寧ろなんか良い匂いで……じゃなくて‼︎ このぉ!ここから出せェーー‼︎‼︎」

「ウォロロロロ゛ォォォォン゛‼︎‼︎」

 

 ぎゃーぎゃー騒ぎながら遠ざかっていく声を聞きながら安全となった場所で私は起き上がる。そして身代わりにしてしまったヤマトに感謝と許してもらうために何を渡したらいいかを考えながら隠れ場所を探し始める。しかし隠れ場所を探す間、私の脳内はずっと別のことに気を取られていた。

 

(……カイドウって口内ケアもしてるんだ)と。




オリ主……野生生まれなので気配を消すのは得意なのだが、見聞色の覇気があるのであまり役には立っていない。新しい服じゃなかったらすぐにカイドウに捕まるつもりではあった。逃げた理由は折角新しく用意してくれた服を汚したくなかったから。ヤマトには凄く申し訳なかったが、こうでもしないとあの2人ってスキンシップ取らないだろなぁとも思っている。
 やりすぎた自覚はあるので金色神楽が終わればビンタでぶっ飛ばした彼にも謝罪の品を持っていくつもり。
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