エンカウント率ぅ   作:フドル

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誤字脱字報告ありがとうございます。

序盤が難産でした……。


「えいえい、怒った?」「うん、怒った」

 ギア4ルフィとの模擬戦から早数ヶ月、ギア4を習得したルフィはこの島の猛獣達にも善戦出来るようになり、ギア4の扱いに慣れると滅多に負けることがなくなった。

 

 それでも私やエースとの模擬戦では負け続けており、ルフィは対抗するためにギア4の新形態として蛇男(スネイクマン)とタンクマンを作り上げた。

 

 いやぁ、蛇男はヤバかった。攻撃が滅茶苦茶速いのなんの。私の動体視力でも追えないし、野生の勘でも回避はギリギリ。そのせいで見聞色が成長しちゃったよ。

 

 タンクマンはカウンター特化っぽいし、遠距離からチマチマ攻撃しとけば完封出来たけど……。一度近接戦闘をしたら思いっきり島の外までぶっ飛ばされたので問題なく使えると思う。

 

 ただしギア4が解除されれば弱体化するデメリットはそのままだ。ルフィ曰く、守りたいものを守るためには先にギア4の習熟度を上げる方を優先したいらしい。

 

 これにはレイリーやエース、私も困った。何故ならルフィがギア4のデメリット克服よりも習熟度を上げることを優先しているのは私達にも原因があるからだ。

 

 ぶっちゃけるけど、ルフィはまだまだ弱い。新世界の海賊を基準とするなら平均よりも強いけど、上澄みには勝てない。今のギア4なら善戦は出来るけど勝てるまでは……って感じだ。

 

 ルフィの成長率は凄いけど、言っちゃ悪いが成長前が弱すぎたため2年程度じゃルフィが望んだレベルまでいくには時間が足りない。そこら辺は誤魔化したくないので私達も素直にルフィへ伝えている。まぁルフィもシャボンディ諸島から頂上戦争までで自分が弱すぎることは痛感していたらしく、納得していたけど。

 

 たとえ上澄みが相手でも二度とシャボンディ諸島の時のようにはならないようにという理由でルフィは修行を始めたので、時間が足りないならまずは一時的にでもいいから確実に相手を上回る"何か"が欲しいようだ。

 

 そのためギア4のデメリットは後回し。動けなくなるならその前に相手をぶっ飛ばせば良いという脳筋思考でルフィは動いている。

 

 言葉では簡単に言っているけど、デメリットの克服を優先するべきだと勧めた私達にあの時のルフィから出た、『もう二度とアイツらを失わないように、おれは誰よりも強くならなくちゃ駄目だ…‼︎』と発言した言葉に宿っているルフィの覚悟は重かった。

 

「ルフィも海賊団の船長ってことか」

 

 自分が傷付いても仲間を守り通す覚悟。または自分が死ぬまでは仲間の命を背負う覚悟。それをあの時のルフィから私は感じた。今まで様々な海賊を武者修行ついでに海へ沈めてきたが、この二つの覚悟を持つ船長は総じて強い。

 

 ルフィは強くなる。たとえ私が原作を知らなかったとしても、あの時の言葉を聞いた時点で確信出来た。

 

「あー‼︎ ウタ! 今のはズルいぞ⁉︎」

「出た! ルフィの負け惜しみ〜‼︎」

 

 ……とはいえ、それはまだまだ先になりそうかな。

 

 背後から聞こえてきた幼馴染組の騒ぎに、私はフッと息を吐く。手をつけている作業を中断して振り返れば、ルフィとウタが軽く取っ組み合いをしていて、それをルフィと戦って仲良くなった猛獣達が眺めている。

 

 んー、このままだと模擬戦までいきそうだな。レイリーとエースはここから遠い場所にいるし、私が止めるしかないか。

 

 遠方でエースのものと思われる炎が見えることと、それを斬るように斬撃が通り過ぎていったことからレイリー達が近くにいないと判断した私は、こほんと息を整えてから覇王色の覇気を漏らして取っ組み合う2人を睨む。突然の覇王色に2人が反応して私を見たところで、私は隣にあるものを指差した。

 

「あとちょっとでご飯だから、大人しくね?」

『……はい、すみませんでした!』

『ぐるるるるぅ!』

 

 ここで騒いで土煙などを私の隣にある完成間近の食事にかけたりしたら許さんぞと殺意すら込めれば、この数ヶ月で私の食べ物に対するスタンスを知った2人はピシリと固まり、何故か周りにいた猛獣達も一緒になって背筋を伸ばしてから頭を下げて謝るのだった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 そんなことがありつつもさらに数週間が経った現在、私は百獣海賊団の船に揺られて海を渡っていた。

 

 時は少し遡り、数日前のことだ。私は久しぶりにカイドウへ顔を見せにいくとか、ヤマトの様子を確かめるためにワノ国へ帰っていた。しかし用事はそれだけではなく、むしろメインの目的は金棒の新調だった。

 

 カイドウから貰った金棒は表面に傷が多数あるものの、カイドウがわざわざ用意してくれたものだけあってまだまだ現役で使える。人によっては私の金棒に付いた傷は歴戦の傷とでも言いそうだ。

 

 だけど新たに作った私の新技とこの金棒は少々相性が悪い。一度改造しようかとも思ったが、人からのプレゼントを勝手に改造するのは気が引けるし、専門家でもない私が下手に弄って金棒が折れたりする可能性を考えると途端にやりたくなくなってくる。

 

 それなら私の要望にあった金棒を新しく用意して貰えば良いじゃんと閃き、ワノ国を目指したわけだ。ちなみに近場の鍛冶屋ではなくわざわざ遠いワノ国へ行った理由はまた粗悪品を買いたくないのと、金棒関係はカイドウに頼んだ方が良いと考えたからだ。もしカイドウにお願いを拒否された場合は恥を捨てて床に寝転がり、駄々を捏ねて鍛治師だけでも紹介してもらう予定だ。

 

 そんな覚悟を持ってワノ国へ行ったのだけど、カイドウへの交渉はあっさりと言っていいほど簡単に終わった。

 

 金棒新しく欲しい! その金棒じゃ無理なのか? 私の新しい技云々〜。 じゃあ用意してやる。

 

 これだけである。その後は四肢に包帯を巻いているヤマトと久しぶりに会って話し、軽く模擬戦をしてヤマトの実力が上がっていることに驚いたり、毒液欲しいなぁ〜みたいな視線を送ってくるクイーンを無視したりして時間を潰し、夜になったらカイドウやキングと共にご飯を食べながら近況報告。その後はヤマトに拉致られて温泉に入った後、鬼ヶ島の自室で就寝。

 

 そして次の日、朝早くに起きて鬼ヶ島の屋上で金棒の素振りをしていると、カイドウからちょっとここにいるコイツが百獣にとって目障りだから潰してこいと目印がついた海図と海賊っぽい男の手配書を渡されながら頼まれたので、何が目障りなのかと理由をしっかりと聞いた上で私は新しい金棒のお礼代わりになるならと受諾。

 

 早速月歩で走って行こうとしたのだが、そんな私にカイドウは待ったをかけ、百獣として行ってこいと言って昔にビッグ・マムの縄張りを潰した時に同行していた百獣の船員達と船を私に押し付けた。

 

 いや、私は百獣じゃないが? なんて私が言う暇もなくカイドウは去り、あれよあれよと船に乗せられて私は百獣船員達と共にワノ国から出航。で、今である。

 

「まぁ同行してくるのは良いんだけどさ、なんでまた私が船長なのよ」

「いやぁ、この中だとイブキお嬢が船長じゃなきゃ誰も納得しませんぜ?」

 

 すごく自然に押し付けられた船長という役割にため息を吐けば、隣にいた本来の船長が実に良い笑顔でそんなことを言う。そんなわけあるかと他の船員達の方へ視線を向ければ、声が届いていたのかどいつもこいつもサムズアップする始末。

 

「……はぁ」

 

 強者が上に行くという百獣の仕組みに先程よりも深いため息が私の口から漏れる。

 

 私、一応部外者なんだから、なんでコイツがみたいな視線の一つでも送ってこいよなぁ……。

 

 ビッグ・マムの縄張りを潰して以降、船員達から注がれる尊敬の視線。おれ達はお嬢について行きますと視線で語られているような気がして、それに応えられるような成果を今から行く場所で出さなきゃ駄目なんだろうなぁと気が重くなる。

 

 岩か何かに船が乗り上げて止まってくれないかなぁ……。そしたら私が1人で先行して適当に終わらせてくるのに。そんなことを考えるが、船は大海原を裂きながら順調に進み、程なくして目的地へ到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 カイドウからの頼みは問題なく終わった。元より潰して欲しい奴がどんな顔をしているか、どこにいるかもコッチは分かっていたのだ。後は島に着くなり標的の居場所へ私が直行で向かって処理するだけでいい。

 

 向こうも自分より賞金が高い用心棒を雇っていたようだけど、雇われ共は私には届かなかった。っていうか会敵した際の慌てようから、狙われているとは知っていても初手で私みたいな人物が来るとは向こうも考えていなかったようだ。

 

 まぁ慌てた理由の一つに私の登場方法も入っていると思うけど。気配も前兆も無かったのにいきなり地面から金棒が突き出てきて隣にいた用心棒を天井へ打ち上げ、次にその金棒を持った私が登場。視線が合うなり顔面目掛けて金棒をフルスイングしてきたら鼻水を垂れ流して目を見開きながら驚くしかないのだろう。

 

 私がその男の立ち位置と仮定して考えると、突然カイドウが私の見聞色をすり抜けてニュッと地面から登場、私が何かをする前に顔面目掛けて雷鳴八卦してくるもんだからね。躱せるか‼︎ ってぶっ飛ばされた先で叫ぶ自信があるよ。この男は1発目で気絶しちゃったから何も叫ばないけど。

 

「お嬢、このいい面になった男と天井にぶら下がっている男はどうします?」

「んー、いい面になった男は拘束と最低限の治療だけして船にぶち込んどいて。ぶら下がっている方はただの雇われだから放置で。私の奇襲に気付けない奴なら何をしても私達の害にはならないでしょ」

「分かりました! ってうお、玉潰れてる……」

 

 それからしばらくして、外にいた標的の男陣営であろう有象無象を無事に片付けた百獣船員達が私のいる部屋にまでやって来る。そして机などに乱雑に積まれていた書類などを1人で先に物色していた私に鼻が潰れて大半の歯が折れた状態で気絶している標的の男と、天井にぶら下がっている雇われの男の処理はどうするのかと訊いてきたので書類を読みながら指示を投げておく。

 

「あ、悪いけど数人はこの書類達を運んでね」

「この書類、ですか?」

「うん、私も詳しくはないから断言は出来ないけど、多分これは目障りの原因になったコイツらの商売ルートに関する書類だと思う。顧客リストもあったから一緒に持って帰って、カイドウに渡せばあとは詳しい人が良い感じに利用してくれるでしょ」

 

 そんなわけで船員達とこの部屋に置かれていた書類などを根こそぎ持って帰る。中には暗号で書かれたものや厳重に施錠された金庫もあったけど、暗号はそれを知るであろう男を既に確保しているので問題ない。百獣には勧誘や聞き出しのプロが何人もいるので、きっと男も喜んで暗号の内容を話してくれることだろう。

 

 金庫は何が入っているかわからない状態で金庫本体を含めた全てを持って帰るのは不安だったので、私が武装色を纏った両手で扉をこじ開けて中身だけを貰っていくことにした。

 

「ん、もう無いかな? んじゃあ、帰ろっか」

「了解です! イブキお嬢‼︎」

 

 書類などを持ち出した後、本命の書類を隠している隠し部屋がないかを調べるために壁をあらかた壊したので荒らされた後みたいな部屋になってしまったが、そんなことを気にする者は私達の中には誰もおらず、騒ぎを聞きつけて様子を見に来た島民達の視線を受け流しながら私達は鬼ヶ島へ向けて出航するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イブキお嬢‼︎ 宴をしましょうよ‼︎」

「宴? なんで?」

 

 さて、あとは鬼ヶ島に帰ってカイドウに報告。手土産を渡したら終了かなぁ。なんて甲板に寝転がって暖かい日光とひんやりとした海風を浴びながら私がのんびりと考えていると、船員の1人が私の顔を覗き込みながら宴をやろうと提案してきた。

 

「おれ達に被害は無し! カイドウ様には良い結果を届けられるし、手土産もある! これは宴をするしかないでしょう‼︎」

 

 顎や口周りの髭が濃いおっさん顔の男が成人済みとはいえ子どもサイズの女性に四つん這いになって迫り、宴について熱く語る様子って傍から見ると絵面が酷いな。

 

 そんなおっさん船員から視線を外して別の方向へ向けると、その視線の先には他の船員達が期待に満ちた表情で私を見ていた。もうなんて言うか、宴がしたいです。酒を飲んで思いっきり騒ぎたいですと全員の顔が物語っている。

 

 んー、どうするか。私としては鬼ヶ島に帰ってから宴をすれば良いのではと思うが、今回の件に関わっていない他の船員達がいるなかで自分達だけで騒ぐのは気が引けるか?

 

 悩ましげに腕を組むと、もう一押しでいけると思ったのか隣の髭面船員が百獣は各自で勝手に宴をやっていると語る。一応視線を他の船員達へ向ければ、彼らも首を縦に振って肯定していた。

 

 ……しょうがない。ONE PIECE世界での宴はあのカイドウも年に一度船員達を全員集めて大きな宴をするぐらい重要っぽいし、やるかぁ。

 

「ふぅ、わかった。宴をやろっか。もう準備は出来ているの?」

「いえ! そもそも食事で飲めるぐらいの酒はあっても宴が出来る量のお酒がありません‼︎ なので調達が先です‼︎」

「駄目じゃん。何故宴をしようと提案した」

「大丈夫ですお嬢、確保した男の部屋を漁った際に見つけた永久指針(エターナルポース)が記録した島が近くにあります。そこでお酒を調達しましょう」

 

 既に船員達は宴モード。お酒を調達出来る島も近くにある。なら仕方ないと私は起き上がり、船の進路を永久指針が指す方向へ変えるようにと船員達へ指示するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無駄に大きな自分達の船を目的の島の港に停泊させ、ある程度の見張りを置いてからこの島の酒場を探して私達は歩く。私としては人避けになりそうな船員達に先導して欲しいのだけど、コイツらは私に先に行けと言いやがるので私が彼らの先頭を歩く羽目に。おかげで周囲からの視線が滅茶苦茶集まっている。

 

「なんで私なのさ?」

「そりゃおれ達の今の頭(かしら)はお嬢だからですが?」

 

 当たり前でしょうと言いたげな船員をジト目で見つめ、他の奴らに譲ろうにも誰も私より先へ行きたがらない。結局私達はチビに引き連れられた男集団という愉快な団体のまま、酒場まで歩くことになった。

 

 やっと見つけた酒場でも私を置いて誰も先に入りたがらないので、仕方なく私が店の扉を開けて中に入ることに。扉を開ければカランと心地良い音が鳴り、それを聞いた先客達の視線が一斉に私へ集まった。

 

 ……うわ、向こうも団体さんじゃんか。

 

 先にいた客達の腕には同じドクロマークの刺青が入っている。恐らくここにいる客はみんな同じ海賊団に属しているのだろう。

 

 ジロジロと私を観察する視線に内心でうんざりしていると、威嚇でもするつもりなのか私より前に出ようとする百獣船員がいたので、やめとけと彼の胸を軽く手で叩く。そのタイミングでこの酒場の看板娘らしき少女が小走りで私達のもとまで走ってきた。

 

「ご、ごめんなさい。今は満席で、その……」

「大丈夫だよ。私達の人数だとかなり広い酒場でもギリギリだろうし、そもそも私達は酒を買いに来ただけだから。買ったらすぐに帰るし、キチンとお金も払うから安心して。それでお酒なんだけど、樽で……えっと……どれくらい必要なの?」

「20樽もあれば足りるかと」

「20樽ね? わかった。こほん、20樽買いたいな。大丈夫かな?」

 

 私より後ろにいる厳つい船員達を見て、怯えながらも私に満席だと伝えてくる看板娘。そんな彼女を安心させるために私はニッコリと笑みを浮かべ、可能な限り柔らかい声でここに訪れた目的を伝え──ようとしたけど必要な量が分からなかったのでこっそりと隣の船員に聞けば、船員も前屈みになって私の耳元でこっそりと必要量を教えてくれたので、初めから知っていた風を装って私は欲しい酒の量を看板娘へ改めて伝えた。

 

 だというのに看板娘はオロオロと視線を彷徨わせる。私達を見たかと思えば、ニヤニヤと笑って私達を観察している海賊と思われる先客の方を見る。そして最後に店主が控えているであろう店の奥を見ると、泣きそうな顔で下唇を噛んだ。

 

「もしかして……無い?」

「……はい」

「あぁ⁉︎ テメェ、何言っ──⁉︎」

 

 思いついた可能性を彼女へ聞けば、彼女は観念するかのように頷いた。

 

 彼女の背後にはこれ見よがしに酒を飲んでいる連中がいるのに酒がありませんはふざけていると思ったのか、私の後ろにいる船員が怒って彼女へ詰め寄ろうとするが、その前に私が彼と彼女の間に腕を差し込むことで止める。

 

「無い理由は? 大丈夫、正直に言ってくれれば怒らないから。私の後ろにいる奴らも黙らせる」

「……あ、あの、まだ数瓶は残っているんです。でも、お客様が求める20樽は……」

「んー、まぁ20樽って多いからね。わかった、その数瓶だけ買わせてもらうよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 単純な在庫切れ。私達が望む量を売れない理由がそれなら私達は納得するしかない。それにただ帰すわけではなく、残った数瓶で良ければと言ってくれたところは個人的に高ポイントだ。

 

 この島は他の島よりも比較的大きかったので、酒場がここ一つしかないなんてことはないはず。だからここでお酒が無いことを怒るよりか、また別の酒場まで歩くほうがいい。無いものは無いのだから怒るだけ時間の無駄。怒りでキリキリするよりも別の酒場でささっとお酒を買って楽しく宴をするほうが有意義だろう。

 

 急いで用意されたお酒が入った瓶を受け取り、キチンと代金を支払う。この時点でここに用はなくなったので、看板娘にお礼を伝えてから次の酒場へ私達は向かおうとした。そんな時だった。

 

「求めた量に比べて手に入れたのはたった少し。それで感謝し、満足して帰ろうだなんて、カイドウの娘とやらは随分と甘ェなぁ? 世間には強ェって言われているようだが、本当はそうやってペコペコして評価を上げてもらったんじゃねェのか?」

 

 店の奥にて、1人の男が私を嘲笑うかのように声を上げた。振り返って声の主を見れば、他の者より少し服と帽子が立派な奴が頬を酔いで赤らめて、椅子の前脚を浮かせて行儀悪く酒を飲んでいた。その視線は私を見ていないので、大きな独り言って形で声をあげているのだろう。

 

 傾けた酒瓶の中身が彼の口へ注がれるが、その大半が彼の口からこぼれて顎から垂れ落ちていく。先程まではそんな飲みかたをしていなかったので、大方私達が欲しかったお酒を無駄にすることで私達を挑発しているのだろう。

 

 そんな彼のおかげで私を除いた百獣船員達は見事に怒っているが、私は彼の行動がアホらしくて怒りよりか呆れが出てしまい、思わずため息を吐いてしまった。

 

 だって、彼。雑魚だもん。その程度の奴が騒いだところで何になるのか。雑魚に擬態しているならまだ納得出来るけど、そんな気配は微塵も無い。

 

 怒りが湧く? 世間を知らないガキみたいな大人がピーピー騒いでいる姿を見て何故怒る必要がある?

 

「はぁ、相手にするのも馬鹿らしい。次に行こう」

「イブキお嬢‼︎ いいんですか⁉︎」

「いいよ、どうせ白ひげのワンピース実在発言に当てられて夢見た奴だろ。ほっといても死ぬよ」

 

 馬鹿馬鹿しいと店の外を目指す私。私が馬鹿にされたことを怒ってくれた船員達もお互いに顔を見合わせて、私がいいって言っているならと怒りを呑み込んで私に続く。

 

 そんな私達の姿はさぞ面白くないのだろう。外まで届く大きな声が酒場から響き渡った。

 

「娘がこんなのならカイドウも、カイドウが率いる百獣海賊団も大したことねェな! 今すぐ拠点に攻め込んでも勝てそうだ‼︎ なぁ!お前ら‼︎」

「違いねェ‼︎」

『ギャハハハハ‼︎‼︎』

 

 調子に乗った船長らしい男がカイドウを、百獣海賊団を笑う。隣にいた副船長らしき男がそれに乗っかり、周りを囲う彼らの船員達が大声で笑う。そんな品のない海賊らしい笑い声の中に、1発の銃声が一瞬だけ割り込んだ。

 

 身体を預けていた椅子をコントロールする術を失った船長らしき男は椅子ごと仰向けに倒れた。笑い声は静まり返り、看板娘が咄嗟に両手で口を封じて声を押し殺す。

 

 先程までの騒がしさが嘘みたいに静まり返った酒場にいる全員が私を見る。発砲したピストルを片手で握る私を。

 

「あー、駄目だ。駄目なんだよ」

 

 私の隣にいた百獣船員から抜き取ったピストルを持ち主に返却し、私は額に穴が空いたことでもう動くことがない男へ話しかける。

 

「私は馬鹿にされてもいいよ? それで私を周りが侮ってくれるなら大歓迎。でもカイドウと百獣は駄目だ」

 

 周りに視線をやれば、百獣船員も含めてみんな状況の把握に思考が追いついていない。

 

「今回の私は百獣の看板を背負っているの。だから看板に傷をつける馬鹿がいたなら、対処しなくちゃいけない。じゃないと私はカイドウに顔を向けれない」

「て、テメェ──かひゅっ⁉︎」

 

 酒場の中央まで歩いてきた私にいち早く反応した相手側の1人が立ちあがろうとするが、その前に近くの机の皿に転がっていた串を拾い、武装色を纏わせて投擲。その1人の喉を貫く。

 

 そいつが椅子を巻き込んで床に倒れ、やけに響いた音を皮切りに酒場は先程とはベクトルが違う騒がしさに覆われた。

 

「お嬢‼︎」

「みんなはここから誰も逃さないで。あと余裕があるならそこの彼女を守ってあげて」

 

 誰かが叫び、誰かが剣を抜き、誰かがピストルを構える。椅子と机が倒れて皿が割れる音が次々と響き渡るなか、大声で私を呼ぶ百獣船員に私は簡単な指示を飛ばす。

 

「この女をですか?」

「うん、この人は自分に出来る最大限を以って私達から生き残ろうとした。それに彼女は今から始まる処理に無関係だよ。巻き込まないように。あ、あと余裕があるなら酒場の窓を開けといて、割っちゃ駄目だよ?」

「了解です。お嬢は……いえ、何もないです。おい! 指示通りに窓を開けろ‼︎ その後は外で待機‼︎ 1人も逃すなよ‼︎」

『おう‼︎』

 

 腰が抜けたのかその場にへたり込んで動けない看板娘を私の指示通りに守ろうと彼女の前に立った百獣船員。彼は私に何かを言おうとするが、武装色を両腕に纏って手の関節を鳴らした私を見るなり言葉を呑み込み、代わりに私の指示を他の船員達へ伝えた。

 

 百獣による包囲は素早く終わり、後は夢だけを見て現実を見れなかった男達を私が淡々と処理していくだけ。

 

 叫び声、怒声、悲鳴、銃声が酒場に響き、時々誰かの頭が宙を舞う。一か八かで窓から飛び出して逃げようとした男の声と命は百獣の笑い声に掻き消され、数分も経たずに酒場は静かになった。

 

「ご、ごめんなひゃい。おれ達は海賊をやべます。カイドウ様や百獣海賊団を貶したことも謝りまひゅ。だから……ゆるひて……」

「駄目。もう手遅れなんだよ。お前の船長が小声か普通の……酒場の外に漏れないような声で馬鹿にしたならまだ穏便に済ませれた。けど、外に声が漏れちゃったから駄目だ。誰かの耳にそれが届いた可能性がある時点で百獣の看板は傷付いた。それを修復するには馬鹿で間抜けな海賊団が百獣に喧嘩を売った結果、全滅したっていう修復剤が必要なの」

 

 最後に残った副船長らしき男の涙を流しながらの命乞いを、私は彼の首を絞めながら受け取り拒否する。

 

 それに対して男が絶望したところで一気に力を込めて男の首を砕く。そして両手を離せば、男はゆっくりと床へと倒れ込んだ。

 

「お嬢、これを」

「ん、ありがとう。それと悪いけど外のみんなを集めて。死体を集めてここから退散しよう。これ以上は彼女の精神にも悪いだろうし」

 

 渡されたタオルを受け取り、両腕に付いた返り血を拭き取る。気が利く船員に追加で指示を出しながら赤に染まっていくタオルから視線を看板娘へ向ければ、彼女は顔を青くして目の前の惨状を見つめていた。

 

 彼女には悪いことをしたと思う。いくら命が軽い世界とはいえ、目の前で人が次々と殺されていく光景は刺激が強いだろう。

 

「……ごめんね。お詫びといってはなんだけど、死体とかは私達が処理するから。でも血痕は悪いけどそっちでお願い。あまり血が出ない殺しかたをしたとは思っているんだけど……」

「……人の頭を飛ばしておいて……血が出ないは無理があると……思います」

 

 怖がるとは思うけど一応声をかければ、意外としっかりとした返事が返ってきた。思わず彼女をしっかりと見れば、身体は震えているし目の前の光景には怯えているけど目は死んでいなかった。

 

 なるほど、海賊が訪れる酒場の看板娘をしているだけはあるな。これなら1人でも立ち直ってくれそうだ。

 

「お嬢、全員揃いました」

「ありがと。じゃあみんな、死体の回収と店内の片付けをしてから退散しようか」

 

 その後は死体の処理と酒場の片付けで人数を分けた。私は酒場の片付け側にいって船員に指示を出しながら割れた皿などを片付けていたのだけど、途中で完全復活した看板娘に指示を乗っ取られ、酒場をこんなにした本人ということで他の船員達より多く片付けをすることになるのだった。とほほ。




オリ主……金棒の新調をあっさりと了承されたため、代わりにカイドウからの「コイツが新たに作った商売ルートが百獣側のルートに被ってて邪魔、潰してこい」という頼み事を聞いた。書類を読んでも経済のあれこれは前世の漫画でしか触れたことがないからあまり理解は出来なかったが、この世界観なら売るものが同じで品質も変わらないなら売り手が変わっても買い手は買うだろうという判断でとりあえず目障り男が確保していた商売ルートなどの書類を全て持って帰った。

線引きはしっかりしているのでライン越えをした奴らは全員等しく攻撃した。ちなみに酒場の窓を開けるように指示したのはそいつらの悲鳴をしっかりと外の連中に聞かせるため。

酒場の掃除が終われば別の酒場でお酒を買い、帰りの船でしっかりと宴をした。なお、本人はオレンジジュース。


同行した百獣船員達……後半はほぼ「見なよ、おれ達の船の臨時船長を…」状態。やることはやるオリ主を信頼している。普段はおれ達のマスコット、仕事中は頼れる臨時船長としてオリ主を扱っている。

宴は大いに盛り上がったが、1人がオリ主にお酒を勧めたため残りの全員にフルボッコされた。


看板娘……生きた心地がしなかった。今話1番の被害者。最後あたりは感情が一周まわってハイになり、この程度の扱いなら大丈夫だろうと片付けでオリ主をこき使った。今回の件で1番ムカついた相手は自分が死ぬかどうかの状態なのに、店の奥に引っ込んだまま顔を出さなかった酒場の店主。しかもオリ主達が帰った後にやれやれと言いたげな顔で出てきたため、拳でフルボッコにしてから退職した。多分この時だけルフィを制裁する、キレたナミみたいになってた。つまり最強。


カイドウ……邪魔な奴の居場所を掴んだため、潰すために誰を派遣するか考えていたところでオリ主が帰ってきたので任せた。

オリ主達が帰ってきてから上がってきた報告書を読むと、「全身打撲1名。理由……帰りに行った宴にてお嬢にお酒を勧めたため」という内容が恥ずかしそうに報告書の隅っこに書いてあったので何やってんだコイツらはと眉間を揉んだ。








次話でルフィ達の修行パートは終わりです。本誌だと2年後にシャボンディ諸島で‼︎ からの修行パートを丸っと飛ばして2年後スタートだったので、この修行パートを作るのが二次創作の見せ所と勝手に張り切っていたのですが、延々と修行パートを作りよりかオリ主が誰かとわちゃわちゃしているほうが作ってて楽しいって気付いちゃって……。

てなわけで修行パートを期待してくれた方達には申し訳ないですが、次話で確実に2年後スタートします。
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