「ん、ううん……? んぐ⁉︎ っっ痛〜〜‼︎」
「ウォロロロロ、起きたか」
パチリと目を開き、寝起きのようなボヤけた思考で視界に広がる青い空や上から下へと流れ過ぎていく雲を眺める前に、目覚ましと言わんばかりに全身から痛みという信号を叩きつけられたことで強制的に私の意識は覚醒した。
痛い痛いと叫ぶ身体の悲鳴を捩じ伏せながら起き上がると、どうやら私は龍となったカイドウの背中に乗せられているようだ。まぁいつまでもマグマやら毒やらがばら撒かれている島にいるのはカイドウの身体に悪いので仕方ないだろう。……いや、多分この人なら大丈夫だと思うけど。
身体の痛みに慣れてくると、今度はカイドウに敗北したという事実が思考の片隅から浮上してくる。正直言って滅茶苦茶悔しい。
あの島を見つけた時に「火山を噴火させたらカイドウはマグマとかの対処に追われてコッチが有利になるんじゃない?」なんて考えていた過去の私よ。そもそもカイドウはマグマ如きでやられる男じゃなかったぞ……。まぁ過去にカイドウが赤犬の攻撃を受けてもピンピンしてた時点で私も気付くべきだったのだが。
くそ〜‼︎ 覇王色纏いが出来たから実力はかなり近付いたと思っていたのに、滅茶苦茶遠いじゃん‼︎ なにさ、膝すらつかないってさぁ‼︎ あぁー! く〜や〜し〜い〜‼︎‼︎
あまりの悔しさに龍のカイドウの背中に寝転がってバタバタ暴れてみるが、当のカイドウからは見られている気配がするだけでこれといった反応はない。それを良いことにこのままカイドウの背中に寝転んだまま、流れていく空の景色を眺める。
負けたことは悔しい。それは確かだけど、私はカイドウに負けた時、少し安心もしたんだよな。私の中の最強ってカイドウだからさ。強くなったはずの私を膝すらつかずに勝ってくれたのは個人的には凄く解釈一致だった。
そんな悔しさと安心がゴチャゴチャした内心に複雑な感情を抱いていると、思い出したかのようにお腹が鳴って身体が空腹を訴えてくる。
……うん、あんなに動いて大技や覇気も連発したらお腹が空くのも仕方ないか。にしても痛いだの、お腹空いただの、やかましい身体だな。
「ねぇ、カイドウ。どこかの島でご飯食べようよ。お腹空いた」
「あァ? 鬼ヶ島まで我慢出来ねェのか?」
「うん、無理。カイドウには私のこの腹の音が聞こえぬか〜なんてね」
立ち上がり、龍のカイドウの頭上まで歩いてからカイドウにご飯の提案をする。幸い私の荷物はカイドウが回収してくれているみたいなので、ご飯を食べる分のお金はキチンと手元にある。
今は自分でご飯の用意をする気力がないので、どこかのお店でガッツリと食べたい。ついでにカイドウの分も奢ってあげようと考え、カイドウに近場の有人島へ行こうと誘ったのだけどカイドウは少し否定寄りのようだ。
鬼ヶ島に戻ってからでも良いだろとカイドウが言うので、カイドウの頭にうつ伏せで張り付くことで私の腹の虫が奏でるグゥーグゥーという音色を聴かせてあげた。
私の腹の虫の大合唱にカイドウは折れてくれたのか、一度だけ大きなため息を吐くと、暫くしてから見えてきた島に進路を変えてくれたのだった。
そんなわけで島に降りた私とカイドウは、ガッツリと食べれそうな料理店に入店した。が、ここで一つ問題が起きた。
カイドウの身体が大きすぎて店に入れないのだ。……うん、まぁ、そのサイズのドアがあるお店って少なそうだもんね。仕方ない仕方ない。
だがカイドウは己を阻む壁を強行突破してダイナミック入店。お店のお洒落な木造ドアは周囲の壁と共に粉砕され、お店の出入口はカイドウの形をした風通しの良い穴となってしまった。
しかしカイドウは気にせずに広めのテーブルがある席に勝手に着席。私もお腹が空いているので今回はツッコミなどもせずにカイドウの対面に着席し、メニューを取って店員さんを呼べば、可哀想になるくらい震えている店員さんが私達の前にやって来た。
「ご、ごごごご、ご注文は……?」
「とりあえず全部で」
「……はい?」
「だから全部。カイドウはどうするの?」
「おれは酒だ。早く持ってこい」
「は、はいぃ…!」
カイドウがダイナミック入店をした時点でこの店にいた客はみんな逃げてしまったので、店内は非常に静かだ。だというのに店員さんは私の注文を聞こえなかったようなので、もう一回注文する。
次にカイドウもお酒を注文すれば、店員さんは顔を真っ青にして慌てて厨房に引っ込んだ。……あれは多分カイドウに睨まれたと思ったんだろうなぁ。カイドウって普通に相手を見てても睨んでいるような表情になるから。
まぁそれはさておき、私達しか客がいないからなのか、それほど時間をかけずに簡単に出来るものから順に私達の元へ料理が運ばれてきた。
それを私はかきこむように口へ運び、お腹に収めていく。とにかくエネルギーだ。エネルギーが無いと治る怪我も治らないから。
カイドウは私の様子を見つつも、気になったツマミを確保するとお酒と一緒に食べている。でもカロリーとか栄養が多そうな料理は全て私に譲ってくれるようなので、有り難く頂いた。
「ねぇねぇ、カイドウ。今回の『遊び』だけどさ、カイドウからして気になったところとかある?」
ある程度食べて、五月蝿かった腹の虫がしゃあねェなぁと一先ず落ち着いてくれたところで私はカイドウに今回の『遊び』の意見を求めた。反省会は後から自分1人で出来るけど、こういった相手からの意見は相手がいる時しか出来ないからね。しかも相手は最強生物と名高いカイドウだ。聞いて損はない。
「……そうだな、イブキ、てめェの『
私からの問いかけにカイドウは少し間を置いてから、私の獣型の奥の手である『毒底の世界蛇』に対する疑問を放った。
確かに相手にぶつけることを目的とした技なら『毒底の世界蛇』を構成する毒の身体は長すぎるとは思う。長すぎる分、あの長さを構成する毒液やそれを蛇の形にする覇気で体力は消耗するだろう。
「確かにあの長さはカイドウからしたら無駄だと思う。けど──」
「その前に箸の先を人に向けるな。行儀がわりィ」
「あ、ごめんなさい」
ズビシっと片手に持つ箸の先をカイドウに向けながら長さが必要な理由を解説をしようとしたら、お箸のことで注意されたのでお箸を空になった茶碗の上に置いてから改めて説明を行う。
「こほん、私の『毒底の世界蛇』だけど、あれは元々は島にいる奴らを実力者含めて毒で纏めて倒すために考えた技なの。別に毒のブレスとかでも島自体を殺すのは簡単だけど、覇気使いは耐えてくるし、『毒底の世界蛇』と同じ毒にしたブレスとかでも相手によっては躱してくるだろうから、それなら殺傷性能を極限まで高めた毒を纏って身を守りつつ相手をぶん殴ろうって感じ。ちなみにカイドウには全っ然効果なかったけど、あの状態の毒って半端な覇気なら余裕で貫通する性能なんだよ?」
姿形の参考にしたのはカイドウの
触れても毒が入るし、触れてなくても空気感染で毒になる。そんな毒を纏ったバカみたいなサイズの蛇が暴れまくるのがあの技の本来の使い方だ。
それだけなら別に獣型サイズの毒を纏うだけでも問題はないのだが、『毒底の世界蛇』は纏った毒の身体を覇気でわざと爆散させて周囲全体に毒液をばら撒くことも可能なので、確実に敵へ毒を浴びせるためにあの大きさとなった。……まぁ滅茶苦茶デカい蛇ってカッコイイよね‼︎ って気持ちも3割……いや、5割ぐらいはある。
つまり何が言いたいかというと、『毒底の世界蛇』は島一つを犠牲にする代わりにその場にいる敵を倒す大技なのだ。カイドウには効かなかったけど‼︎
「でも一対一になった時に相手がカイドウみたいな毒が効かない上に『毒底の世界蛇』を押し返す力を持っているのなら、最後の方に出した毒を一点集中させたあの姿の方が良いかも」
「それも良いだろうが、拮抗中にお前の尻尾は使えねェのか?」
「……そうだった。尻尾で横槍を入れればよかったじゃん」
あの状況で目の前のカイドウに集中していたからすっかり忘れていた。技のぶつけ合い中に尻尾で相手をぶっ叩けるじゃん。何故忘れていた。
出来ると理解した途端、あの時に尻尾を使えていたら……なんてifを考えてしまうが、カイドウはピンピンしていたのでどっちにしろ私は負けていただろう。しかしそれと最善を尽くさずに負けた悔しさはまた別なのだ。
思わず顔をクシャッと顰めると、皺くちゃ表情となった私を見てカイドウが笑い、酒を呷る。店員さん達が私の顔を見て何か不味いものでもあったのかと勝手に慌てる中、こうなりゃヤケ食いだと私は再びご飯をかきこみ始めるのだった。
◆
満腹まで食べて満足した私は、壁の修理代をこっそり含めた食事代をキッチリと払ってからお店を出てカイドウと共に大通りを歩いていた。
今にして思えば、カイドウが来たのに逃げずにしっかりと料理を提供してくれたお店の人には感謝しかない。おかげで私の空腹は救われたよ。
お腹も膨れたので後は帰るだけなのだけど、ここから私とカイドウは別行動になる。
私はこれから『遊び』に使った島へ戻り、ばら撒いた毒の浄化をしなきゃいけない。流石に毒をばら撒いて放ったらかしはダメだろうし、島には生物はいないけど島近辺の海の中には普通に水棲生物の生態系ができているからね。
浄化が終わればまたぶらぶらとあっちこっちに行く予定だ。勿論、修行は継続。カイドウは現時点でも私の遥か先にいると今回の『遊び』で分かったので、この程度の実力で満足なんてしてられない。
カイドウは私の別行動に何か思うところがあったようだけど、島の浄化はともかく修行をするってところで一応理解はしてくれた。
私としてもルフィ達はともかく、越えたい相手のカイドウには修行をしているところをあまり見られたくないのだ。
「あ、そうだカイドウ。これあげる」
「……なんだこれは?」
これ以上この島にいる必要もないので、目的の島へ向かおうとしたタイミングで頭の片隅に寄せてあった前々から渡そうとしていた物の存在を思い出し、急いで荷物を漁る。そして取り出した緑の液体が入った瓶を私はカイドウへ渡した。
「私の毒だよ。効果は……まぁ、回復薬みたいなものだと思っといて。毒も使いようによっては薬になるって感じで。それと遅くなったけど誕生日おめでとう、カイドウ」
「……あ? まだまだ先だぞ?」
「……あれ? 金棒の件で前にそっちに行った時に船員からイブキお嬢はカイドウ様へ誕生日プレゼントを渡さないのかって聞かれたんだけど……もしかして私の早とちりだった?」
カイドウに渡したのは所謂誕生日プレゼントというやつだ。金棒新調でワノ国へ訪れた際に百獣船員に聞かれたから悩んだ末に用意したんだけど……。
もしかしてあの船員、単なる世間話的な感じで私に聞いてきた? そんな話をするからカイドウの誕生日が近いって私は思ってたんだけど?
あ、待って。なんか滅茶苦茶恥ずかしくなってきた。
「………まぁ、いらないならクイーンにあげてもいいよ」
「いや、受け取っておく」
誕生日を勘違いしたことが恥ずかしくてカイドウから少し視線を外しながら小声で言えば、カイドウは周りの人から隠すかのように私の毒液が入った瓶を自分の服へと収めた。
……うん! 渡すのを成功しても勘違いした恥ずかしい事実は消えないからとっとと去るか‼︎
「ちなみに、あくまでもそれは毒だから緊急時にだけ使ってね‼︎ またねカイドウ‼︎」
ジッと見てくるカイドウからの視線に耐え切れず、私は渡したプレゼントの注意事項を捨て台詞みたいに一方的に話してからその場から跳び上がり、大急ぎで島を後にするのだった。
◆◇◆
「……行ったか?」
「あぁ、行ったようだな。まだカイドウはこの島にいるが、そのうち去るだろう。それよりも早く本部に連絡を入れろ。今ならイブキを捕まえられるかもしれない」
イブキが去り、カイドウも歩いて大通りの奥へと姿を消したタイミングで島民に変装して2人の様子を見ていた2人の海兵が路地裏から姿を見せる。彼らは突如訪れたチャンスを得るために隠し持っていた電伝虫を取り出した。
船を持たず、単独行動を好むため目撃情報が極端に少ないイブキを捕まえられるかもしれないチャンス。それを自分達が報告すれば、本部から何らかの評価が貰えるかもしれない。そんな考えが思考を満たし、相方に指示を出した海兵はこっそりと頬を緩めた。
「おい」
ただ、そんな彼らの背後から低い声が聞こえた。先程まで聞いていたその声に2人の海兵は振り返ったが、視界に入ってきたのは棘がついた黒い壁。
それが己に振り下ろされた金棒なのだと気付く前に海兵達は叩き潰され、次いで轟音が鳴り響くのだった。
◆◇◆
「あー、恥ずかしい。あの船員、次会ったら覚えとけよ……。絶対に雷鳴八卦してやる」
そんなわけで暫く空を走り、カイドウの誕生日の話を私に振ってきた船員の顔を絶っ対に忘れないようにと頭の中で思い浮かべながら私はカイドウと遊んだ島に戻ってきた。
まだ数時間しか経っていないからか私が叩き起こした火山は活動を続けており、島の外周に辿り着いたマグマはそのまま海へ流れて海水に冷やされることで白煙をあげている。
「よいしょっと……」
マグマを気にせずに獣型となり、いつものように島をぐるっと囲む。それから今回使用した毒の解毒剤を私は無造作にばら撒いた。
これで全てが元通り……なんて都合の良いことはあり得ないが、少なくとも毒に耐性を持たない者でもこの島を歩ける程度にはマシになるはずだ。それ以外の損害は大自然が何年もかけてゆっくりと元に戻していくか、今の状態で新たな生態系が築かれることだろう。
とりあえず解毒剤はばら撒いたので後処理は終了。なので人型に戻り、座り心地の良さそうな岩の上に私は座ってから目を閉じて意識を集中させる。
脳内に流すのはカイドウとの『遊び』の映像。私視点で映るカイドウの動きを改めて思い返して私に流用出来る動きがあるなら取り入れる。
それと並行して私の動きで最適化出来そうなところも探す。強敵との戦闘中ではその場で反射にも近い速度で自分の行動を決めなければいけないので、こうやって落ち着いた状況で思い返してみれば、当時は最良と判断した行動が実は良くなかったりすることも多いからね。
そうやって自分の動きの反省点などを探しつつ、脳内映像が私とカイドウが人獣型でぶつかり合うシーンへ移ったところでとあることに気付いた。
「……あれ? そういえばカイドウって、空を走ってないよね?」
空中で金棒をぶつけ合う私達の映像を思い浮かべたところでふと思い浮かんだ疑問。気になって記憶を巻き戻してみれば、やっぱり空中ではカイドウは走っていない。
「どちらかと言えば、跳んでる?」
地上でも空中でも走っている私に対して、カイドウは地上はともかく、空中では両脚で力強く踏み込んで跳躍している。そのためなのか走る私よりも一度の加速力が段違いで速い。
これは使えるかな? 一先ず試してみようと一度『遊び』の回想を止め、月歩で空中を滞空する。
「えっと、こうかな?」
地面をジャンプする感覚で両脚で空気を蹴れば、私の身体は一気に加速した。走っている時とは違う速度と、私が今まで強くなる何かを見つけた時に感じていたパズルのピースが見つかったような感覚に得て、私は思わず笑みを浮かべた。
この方法は確実に私を強くする。なら早速練習あるのみだ。
てなわけで暫く空中でウサギみたいにぴょんぴょん跳ねることを繰り返す。その結果、この方法のメリットとデメリットが判明した。
メリットは一度に得る加速力だろう。恐らく限界まで極めれば、カイドウの雷鳴八卦みたいなアホみたいに初動が速い攻撃を繰り出すことも出来るはず。それに速さは力だ。加速した分、繰り出す攻撃には破壊力が追加される。
デメリットは直線軌道でしか移動出来ない。途中で軌道変更しても直線の動きを繰り返すだけだから動きを読まれやすい。
とはいえ、カイドウはそれを踏み潰せる耐久力があるからデメリットがデメリットになってない。私は体重が軽いから、場合によってはカウンターの攻撃で吹っ飛ばされそうだ。
まぁ、相手がそれをする前に接近してぶん殴れば問題ないか。体重が軽い分、加速力も増えるし。
習得することに無駄はないので、私は意気揚々とそこらに転がっている岩を標的にして加速した最中に技を当てる特訓を始めるのだった。
オリ主……カイドウのことを越えるべき壁として考えているが、同時に強さの憧れでもあるので負けても勝てても複雑な気持ちになる。
金棒の件で百獣船員達と島に行った帰りにカイドウの誕生日プレゼントは何が良いのかとお店のショーウィンドウなどをチラチラ眺めて迷っていた姿を多数の船員に見られており、微笑ましい顔で見られていたことは知らない。
最終的に実用性を取り、自身の毒液を誕生日プレゼントとして渡した。効果は疲れ知らずと体力増強。まぁドーピングみたいなものである。ついでに言えば、あくまでも毒なので一時的に回復するだけで後から反動がくる。
私がやりましたな百獣船員……自称冷え切ったカイドウ一家に光を差し込み隊の一員。娘から誕生日プレゼントを渡されたら親って喜ぶよな? の精神でオリ主に話を振ったら、出掛けた先でさりげなくを装いながらも滅茶苦茶真剣な顔でプレゼント用の商品をオリ主が吟味していたから、あらぁ〜^ってなった人。当然カイドウの誕生日がまだまだ先なことは知っているが、微笑ましすぎたので伝え忘れていた。まだオリ主に雷鳴八卦されるとは思ってない。
2人の海兵……原作でもたまに出てくる出世欲に取り憑かれた人達。頂上戦争から2年経っているとはいえ、再び四皇……それも全く弱体化していないカイドウの相手はまだまだ無理だということに気付いていない。結局、連絡は出来なかったので海軍からすると良かったかもしれない。
ぬぅおぉ、最近タイトル詐欺になってないか不安で仕方ない。