無人島でカイドウと同じ移動方法の練習を行い、これなら実戦でも使えるだろうと判断出来るまで習熟度を上げたところで私は練習を切り上げ、有人島に来ていた。
「すみません、この島って屋台をやるために何処かに許可とか必要ですか?」
「ん? あぁ、必要だよ。手続きはあそこの建物で出来るから詳しいことは中にいる人から説明を聞いてくれ」
「わざわざありがとうございます」
私の本業は屋台の店主なので、お金を稼ぐには当然屋台を開かなければならない。まぁ、鬼ヶ島に置いているカイドウの手伝いで稼いだお金は屋台で稼いだお金よりも遥かに多いけど……。
でもここで儲かるからと海賊に転職したら負けた気がするので、やっぱり屋台一択だ。そもそも屋台は好きでやっているんだし。
先に屋台をしていた人にこの島での出店に関するルールを聞き、お礼をしてから教えてもらった建物へ向かう。私は今まで色々な島で屋台を開店してきた経験があるため、今回みたいな書類記入が必要な島で開店したことも当然ある。そのため今更出店関係で必要な書類記入に私が戸惑うことはなく、受け取った書類にすらすらと記入してから提出することで屋台出店の許可をもらう。
それが済めば今度は屋台の設営だ。これも手慣れたものなのでテキパキと組み立てて、あっという間に私の屋台である『蛇の串焼き屋』は完成した。
なら早速開店といきたいところだけど、その前にやることがある。
鼻歌を歌いながら串焼きを一通り作り、パックに詰める。そしてそれを持って私が向かうのは先程この島の出店ルールを教えてくれた屋台の人のところだ。
「どーも、先程ぶりですね!」
「おっ、嬢ちゃんか。手続きは大丈夫だったか?」
「お陰さまで! これ、私の屋台の串焼きなんですけど、お礼にどうぞ!」
「いいのかい? じゃあ遠慮なくいただくよ」
「美味しかったら周りに感想もお願いしますね!」
「……おぉう、しっかりしてるね。わかった、考えておくよ」
お礼ついでに私の屋台も宣伝してねってお願いしながら串焼きを渡せば、屋台のおじさんは苦笑いをしながら渡した串焼きを受け取ってくれた。
用事が済めば自分の屋台まで戻り、メニューなどを屋台前に出してから本格的に串焼きを焼いていく。後はお客様が来るのを待つだけだ。でも私の顔を知っている奴は来るな。
手配書があちこちに出回っているので私の顔を知っている奴なんてそこら中にいるんじゃないかと思われそうだけど、意外と私の顔は知れ渡っていない。いや、手配書に写る私と普段の私が結び付かないっていった方が正しいか?
手配書の私はギラギラとした笑みを浮かべているので、その笑みを私が出さなければマジマジと見られない限りは基本的にバレない。更に言えば手配書に写っているのは私の顔だけなので、手配書を見ただけの人では私がどんな姿をしているかなんて分からないのだ。
つまり手配書の私しか知らない人は私の噂……例を挙げるならイブキは怪力なんて噂ばかりが届くので、そこから自分の脳内で私の姿を勝手に形作る。その姿を私は知らないけど、少なくとも1発で私の姿そのまんまになることはないだろう。
だからニコニコと柔らかい感じの笑みを浮かべて屋台の店主をしていれば大丈夫。まぁバレない理由の一つに天竜人を何度もぶっ飛ばすような危険人物がそこらで探せばすぐに見つかりそうな屋台の店主をしているわけがないって先入観もあると思うけど。
そんなわけで今回も私がイブキだと周りにバレることなく時間が過ぎ、売り上げも上々といった良い結果に終わった。惜しむべきは初日にしては客が多すぎて待たせてしまったことだろうか。
私は素早く動けるけど、どんなに私が素早くても串焼きが出来上がる時間には全く関係ない。それは仕方ないと諦めるしかないのだけど、長くなった列をそのままにしたのは良くなかった。まさか列の順番云々で喧嘩が起きるとはね。
うーむ、手が足りない。こういった場合に直面すると、ヤマトが手伝ってくれていた時の有り難みを感じてしまうな。ヤマトってそこら辺の調整が凄く上手だったし、待ち時間も会話で上手く誤魔化してくれていた。
……仕方ない。あまりこういった手を取りたくはなかったのだけど、お客様を不快にする方が駄目だろう。
初めてのバイト、募集します。
てなわけで適当な紙にキュッキュ〜っと油性ペンでバイト募集と大きく書いた後、場所や拘束時間、時給などの必要だろうと思われる情報を追記し、誤字脱字はないか、募集内容などが見やすいかなどの確認をしてから島の掲示板に貼っておいた。
それが済んだら募集を見て誰か来てくれたら嬉しいな〜と思いながら宿に泊まって就寝。そして次の日に同じ場所で屋台の準備をしていると、早速私の前に3人組がやって来た。
「あなた、随分と儲かっているみたいね」
恐らくリーダーであろう若い女性が先頭に立ち、彼女の左右には下っ端らしき男が2人控えている。
服装は如何にも海賊って感じだけど、女性の手には私が書いたバイト募集の紙が握られていた。つまりこの人達は私のバイト募集を見て来た人ってことだ。
「うん、合格!」
「……えっ?」
「今日一日よろしくね! あっ、名前は何て言うのかな?」
「カイケ……だけど」
「カイケさんね。じゃあカイケさん、これ着て準備お願い。後ろの2人も歓迎するけどどうする?」
「……いや、おれらは遠慮しときやす」
ニコニコと笑って私は事前に用意しておいたエプロンなどをカイケに渡す。カイケは戸惑っていたようだけど、開店時間まであと僅かなので急かして着させた。
「カイケさんは列の整理などをお願いね〜。マナー悪いお客様はぶっ飛ばしていいから。あっ、殺すのは無しだよ」
「えっ、ちょ──」
「人手が増えたから昨日よりかお客様が取れそうだね! さぁ、頑張っていこう‼︎」
既に昨日で味を覚えてくれたお客様が待ってくれているので、カイケに早口で業務内容を説明してから私は大急ぎで串焼きを作っていく。
そうなると串焼きの匂いが周囲に広がり始め、それに釣られた人が早くも並び始めた。ふへへ、大繁盛だぜい。
「い、いらっしゃいませ〜」
「ぶふっ、カイケの
「あァ⁉︎ 何かおかしいのかい⁉︎」
バイトのカイケも取り巻きの人におちょくられながらもキチンと働いてくれている。うんうん、元気がいいってことは良いことだよ!
よし! 私も頑張るぞ‼︎ 目指せ、全品完売‼︎ 人気屋台の店主に私はなる‼︎
「はい、お疲れ様〜。これが今日のお給料だよ」
「結局最後まで流れで働いてしまったわ……」
数時間後、予定していた閉店時間となったので人が途切れたタイミングで本日の営業は終了。私は見やすい場所に閉店と書いた看板を置いてから、椅子に座って頭を抱えているカイケに給料と労りの言葉を送った。
「じゃあ明日もよろしくね? 時間と場所は今日と同じでいいから」
「わかったわ、明日もよろしく……じゃなくってェ‼︎」
渡すものは渡したので手を振ってカイケを見送る。そんな私にカイケは別れの挨拶を言ってから給料を持って取り巻きと一緒に帰り始めたのだけど、突然振り返ったと思ったらツッコミとともに勢いよく給料が入った封筒を地面へ叩きつけた。
「あれ? お給料足りなかった?」
「充分よ! むしろ作業内容と拘束時間を加味したら貰いすぎているわ‼︎ アタシが言いたいのはね──」
「あ、なるほどね。理解したよ」
怒りを露わにしながら近寄ってくるカイケ。怒りの理由が給料だと思ったが、どうやら違うようだ。
ならなんだろうと少し考え、私は気付いた。そうだ、飲食系統のバイトなんだから“アレ“がなきゃ駄目だよね。
「どうやら理解したようね。そう、アンタの売上金──」
「はい、作り置きで悪いけど“まかない“をどうぞ」
「ちっがぁぁぁぁう‼︎‼︎」
近くのテーブルに置いた串焼きを見て、カイケが力強く叫ぶ。しかし違うなんて言っているくせに手はしっかりと串焼きを握っているんだよね。まさに口ではそうでも身体は正直というやつだ。
「むぐむぐ……。もう! 本題に入れないじゃないの‼︎」
「いやぁ、ごめんごめん。知り合いに似ているタイプだからつい揶揄いたくなってね。んで、私の売上金が何かな? もしかして寄越せ、なんて言わないよね?」
しっかり座って串焼きを頬張るカイケの姿を見ていると、何故かナメドクの姿が思い浮かぶ。だから面白半分でネタを振って揶揄っていたのだけど、そろそろ本題に入ろうかな。
そんなわけで彼女の対面に座り、笑いながらも覇王色の覇気を小出しして本題に切り込んでみれば、ぷりぷりと怒っていた表情が一瞬で消えてカイケの顔中に冷や汗が浮かび上がり、口端に付いた串焼きのカスを拭うことなくカイケは硬直した。
「な……な……」
「さっきまでの威勢はどうしたの? 早く答えてよ。私の売上金が、何?」
私の問いから逃げられる答えを探しているのか、カイケの視線があちこちへ泳ぐ。身体も震え始め、その姿を見ているとなんだか段々私が彼女をパワハラしている気分になってきた。
「……なぁんてね、貰った給料の額を見てカイケさんは屋台の売上を心配してくれたんでしょ? 心配しなくても儲かっているから安心してよ」
「そ、そそ、そうなの? な、なら安心したわ!」
まだ彼女が私の売上金を狙ったとは確定出来ないし、なんだかんだ言ってしっかりと最後まで真面目にバイトをしてくれた人を追い込む趣味は私にはない。
なので覇気を止め、前の会話から適当に彼女が私に言おうとした内容を捏造すれば、カイケはすぐにそれに乗ってきた。
「じゃあ明日もよろしくね?」
「えぇ、アタシに任せなさい!」
これ以上引き留めるつもりはないので私から今日はこれまでにしようと伝えれば、カイケは震える脚を誤魔化しながら取り巻きと一緒に今度こそ帰っていった。
うーん、かなり怖がらせたし、明日はもう来ないかもしれないなぁ。
まぁ仕方ないかと思考を切り上げ、私は今回使用した機器などの掃除に入る。それと同時に今回の売上からどれが人気でどれが不人気だったかを思い浮かべ、不人気なものをメニューから消すかどうかを検討する。
売れないものはコストだけがかかるので切り捨てるべきなんだけど、売れる時は売れるので切り捨てるまでの判断をするのはなかなか難しい。しかしそれを乗り越えた先に人気屋台への道があると思えばやる気が出るというもの。
「……ん?」
どうせなら新メニューを考えるか? なんて話を脱線させつつも掃除を続けていると、突然カタカタと屋台や串焼き機などが振動し始めた。
地面は揺れてないので地震ではないし、どこかからの衝撃がここまで来たわけではない。かといって今更屋台などの組み立てや取り付けが甘かったなんてこともないだろう。
じゃあなんでいきなり揺れたんだろうと悩んでいると、ふわっと串焼き機が浮いて……浮いて⁉︎
「ちょちょちょ、待って‼︎⁉︎」
何かに引っ張られるように飛んでいく串焼き機を咄嗟に掴んで引き止める。かと思えば今度は屋台のフレームと私の金棒が根こそぎ持っていかれそうになったので、纏めて踏み付けることで強引に阻止した。
なんだこれ⁉︎ と驚きつつも3つが引っ張られるのをその場で止めて耐えていると、しばらくしてから引っ張る謎の力が収まった。
ふぅ、と一息を吐いて逃げようとした串焼き機を抱きしめていると、次は少し離れたところから悲鳴などが聞こえてくる。
串焼き機の突然の逃走に慌ててそれ以外に意識が向いていなかったので気付くのが遅れたけど、よく見れば島民達が海賊の喧嘩だと叫びながら走っている姿も見えた。
騒がしい音の位置は結構近い。これは最悪巻き込まれるかもしれないと判断した私は急いで屋台を片付けようとしたのだけど、それよりも早く破砕音が響き渡り、遠くから人影が私の屋台目掛けて吹っ飛んできた。
「はいストップ。全く、喧嘩をするなら他所で……って、カイケさんじゃん」
このままだと私の屋台に衝突してしまうので、人影が屋台に当たる前に私が割り込んで人影をキャッチ。こんな騒ぎを起こすのは誰だと受け止めた人物の顔を見れば、少し前に別れたはずのカイケがグッタリと私の腕にもたれかかって気絶していた。
「おいおい、こんなもんかよ。あァ?」
酷い姿だったので一応生存確認などをしていると、カイケが吹っ飛んできた方角から1人の男が彼女の取り巻きを引き摺って歩いてくる。
パンク系アーティストのような派手な風貌。逆立たせた赤髪と眉がなく、鋭い目が特徴の青年。名前は……おっと。
青年がコチラに投げ捨てたカイケの取り巻き2人をカイケと同じように受け止める。そして安全に地面に寝かせてから3人を守るように私が青年の前に立つと、青年は私を見て顔を顰めた。
「あァ? なんだてめェは?」
「えっと、海賊のキッドだっけ? どんな経緯でこんな事態に発展したのかは分からないけど、この人はまだ私の屋台のバイトだから、再起不可能になりそうな暴力を振るわれるのは私としても困るんだよ」
私を睨みつけてくる赤髪の青年ことキッドに、私は髪の毛などが料理に落ちないように屋台をしている時はいつも巻いている頭巾代わりのタオルを解きながら割り込んだ理由を伝えた。
それを聞くなり、なんじゃそりゃと言いたげな顔をしていたキッドだが、しばらくしてから私が誰なのか気付いたのかハッと息を呑んだ。
「……ハッ! 成程な、そいつらはてめェの部下ってわけか。曲がり角でぶつかって八つ当たりしてきた雑魚を甚振っただけでとんだ大物が釣れたもんだぜ」
「いや、彼女は部下じゃなくて普通に今日採用したばかりのバイトだよ?」
このまま穏便に帰ってくれないかなぁと思ってはいるが、私が誰かわかった時点でキッドはやる気満々だ。
「んー、今回は屋台がメインで狩りはする気なんて無いんだけどなぁ……」
「狩りとは随分と余裕がある言い方じゃねェか、おれ程度ならいつでも倒せるってことか?」
「そんなわけないよ。キッド、あなたはしっかりと強い」
「じゃあ答えろ。てめェから見たおれはなんだ?」
私に戦うつもりは無いよ〜って伝えてみても、言い方が悪かったのか
ちゃんと否定をしても今度はなかなか難しい問いが返ってくるし……まぁこれは素直に答えてあげたほうが良いだろう。
「決まってるじゃん、格下だよ」
「……上等ォ!」
キッドからも見えるように人差し指で地面を指して断言してやれば、キッドは額の血管を浮き上がらせながら凶悪な笑みを浮かべた。
と同時に私の屋台から再び先程と同じ音が鳴り始める。それが聞こえたタイミングで私は思い出した。そういえばコイツってジキジキの実の能力者で、磁気を使って周りの金属類を引き寄せたり突き放したりすることが出来ると。
じゃあさっきの串焼き機の逃走云々ってコイツが原因じゃん。
「ごっ……⁉︎」
「ごめんね、少し場所を変えよっか」
素早くキッドに駆け寄り、彼が反応する前に飛び蹴りを繰り出す。
彼のお腹に直撃した私の蹴りだけど、伝わってくる感触は硬い。腕での防御は間に合わなかったけど覇気による防御は間に合ったようだ。
とはいえそれなら私も力加減をしなくても済むので更に力を込めてキッドを蹴り飛ばす。
勢いよく吹っ飛んだキッドが建物の壁を突き破りながら遠くまで飛んでいくのを壁が粉砕されるたびに高く舞う土煙が教えてくれる。それからキッドが離れたことでここら周辺が彼の能力範囲から抜けたのか、彼に引き寄せられようとしていた私の串焼き機や屋台が静かになった。
「よいしょっと」
「うぅ……、屋台の嬢ちゃん、アンタは一体……?」
「あ、起きた? いきなりで悪いんだけど、私の屋台を見ててくれない? よろしくね」
「えっ? ちょっと待──」
ここにいたままだとキッドが帰ってくるので、屋台に隠している金棒を担いでから私からキッドの方へ向かおうとしたタイミングでカイケの取り巻きが1人気絶から目覚めたので丁度良いやと屋台のことをお願いする。
呼び止めようとする彼の声を無視して私は駆け出し、蹴り飛ばした際に出来た建物の穴を通って真っ直ぐとキッドの元へ。すると既にキッドも戻ってくる最中だったのか、途中でバッタリと出会ってしまったので問答無用で私は金棒を振るった。
「“雷鳴八卦“!」
「……ッ⁉︎」
金棒はキッドのお腹にめり込み、そのまま振り切ればキッドは逆戻りするかのように同じ方向へと吹っ飛んでいく。
「ぐっ! あの女──」
「“雷鳴八卦“‼︎」
彼が吹っ飛んでいる最中も追いかけ続け、何度か壁を突き破った先にある壁でキッドが止まったと同時に追撃で私は彼の顔面目掛けて金棒を振るう。
キッドからすれば吹き飛ぶ身体がやっと止まった瞬間の追撃だったためか、今度は覇気を纏った感触はなく、金棒を振り切れば良いのが入った手応えが金棒を握る私の両手から伝わってきた。そのため今回は追撃をせず、キッドが吹き飛んだ道を歩いて追いかける。
どうやら吹き飛んだ先は何処かの広場だったようで、そこの中央でキッドは仰向けで倒れていた。
頭部へのクリーンヒットだし、もう立ち上がらないかな? そんな予想をしてみたのだけど、それがフラグとなってしまったのかキッドの手がピクリと動き、握り拳を作ったかと思えば時々立ちくらみをしながらもゆっくりと立ち上がった。
「凄いね、まだ立てるんだ。そこらの海賊なら確実に倒れたままなんだけどな」
「おれをそこらの海賊と一緒にしてんじゃねェよ……‼︎」
額から血をダラダラと流すキッド。しかしその瞳はギラギラと輝いており、彼の戦意は高まるばかりだ。
……戦意喪失での決着は無理そうかな。これは何度も叩きのめして、死ぬ直前まで追い込まないと止まらないだろうね。
「キッド‼︎」
「キッドの頭‼︎」
あと何発何処へ打てば彼が止まるか、それとも死ぬかを考えながら私が金棒を構えたタイミングで、数名の人間が広場に入ってくる。
キッドを頭と呼んだってことはキッドの関係者。有力なのは彼と同じ海賊団。
「てめェら‼︎ 手を出すんじゃねェ‼︎」
先に殺すか? 走ってくる彼らに視線を向けながら浮かんだ私の案はキッドが自分の仲間に向けた一喝で止められた。
「キッドの頭⁉︎ なんで⁉︎」
「わかんねェのか⁉︎ あと数歩踏み込んだらお前らに奴の牙が届くんだよ‼︎」
キッドの警告を聞いた彼の仲間の誰かが私を見て、視線が合ったことで私の狙いが自分達に向いていることに気付いたのだろう。彼らはその場で慌て気味に止まったが、先頭を走っていた青と白のストライプ柄が特徴のフルフェイスマスクを被った男だけはそのままキッドの隣まで行こうとする。
「“
「むっ」
見逃すつもりはないので合流される前に私は走るフルフェイスマスクへ攻撃しようと踏み込んだけど、流石に予想されていたのか私を叩き潰すためにキッドが大きな鉄の手が振り下ろしてきたので仕方なく金棒でそれを弾き飛ばす。
「キッド‼︎」
「キラー‼︎ 見たらわかるだろうが相手は大物だ‼︎」
「だろうな、だがここで仕留めれば大きな一歩だ」
その間に合流されてしまい、気安いやり取りの後、キラーと呼ばれた男が自身の武器を私に向けて構えた。
ついでに他の船員達は買い出しをしていた帰りだったようで、彼らの後ろに鎮座する台車には多数の鉄屑が転がっていた。
それらがひとりでに動き出し、組み上がっていく。そしてそれを鎧としてキッドが纏った。
「“
「あぁ‼︎」
攻防一体の鎧を纏ったキッドが相方と共に突っ込んでくる。対して私は深いため息を吐いた。
早めに決着をつけたいのに硬そうなの出してくるなよなぁ……。早く戻って洗い物をしないと今度は固くなった油汚れと格闘するハメになってしまう。
ここは大技で一気に決着を……! なんてよりかはもっと効率的な方法があるので今回はそっちを採用しよう。正直能力者相手に使うのは気が引けるけど、戦いに卑怯なんてものは存在しないので諦めてもらおうか。
そんなわけで私は踏み込み、金棒をキラーに向けて投擲する。そしてキッドが金棒に意識を向けた瞬間に獣型への変身を開始。
「ハッ‼︎ 馬鹿が! 武器を手放す──ぐぉぉ⁉︎」
「キッド⁉︎」
敵が武器を手放したチャンスを得ようとキッドは私が投げた金棒に向けて自身の能力を発動し、キラーを守るついでに自分の元へ私の金棒を引き寄せた。恐らく私から武器を没収し、弱体化させようと思ったのだろう。
だけど私の狙いはキッドの意識を一瞬でもいいから私から逸らすこと。それさえ出来たら獣型となった私の噛みつきがキッドの位置まで届くまでの時間を稼げる。
獣型の変身途中で口を開けて2人が反応出来ない速度で迫り、キッドだけを磁気魔人ごと咥えた私は巨大蛇になりつつある身体を伸ばし続け、変身終了後に頭部が島の外周辺りに来るように調整する。その最中にキッドの船も探してみるが、どうやら私が今いる位置の逆サイドに停泊させているのか見つからなかった。
「てめェ‼︎ 何のつもりだ! 出しやがれ‼︎」
キッドが私の口内で暴れているが、その程度の火力では私は揺るがない。とはいえ鬱陶しいことにかわりはないし、モタモタしているとキラー側が私の胴体に何かしてきそうなので早めに決着をつけるために私はキッドを咥えたまま頭部を勢いよく『海』へと突っ込んだ。
「あァ⁉︎ 何だ⁉︎ 海水……ッ⁉︎」
ぶっちゃけ相手が多少強くても、能力者かつ私の拘束からすぐに抜け出せないのなら毒などで攻撃するよりかこの方法を使ったほうが楽だ。だって決まればほぼ一撃で終わるし。今回みたいに獣型になればたとえ島の中央で相手を捕まえても外周までそんなに時間はかからない。
ぺっとキッドを口から吐くと、能力維持が出来ずに磁気魔人が鉄屑となってバラけていくなか、キッドは溺れながらも必死に片腕で水を掻いて浮上しようとするので鼻先で優しくキッドを突いて海底に押し込み、ついでに数回ほど彼のお腹を押して溜め込んでいるであろう酸素をその場で吐き出させる。
暴れん坊の対処はこれでヨシ。弱々しい力で鼻先の鱗を掴まれてもちょっと頭を振れば簡単に振り解ける。後は私だけ海から頭を出して人型に戻れば終了だ。
「キッドのビブルカード、持っているんでしょ? 早く助けてあげないと彼、溺れ死んじゃうよ?」
「……ッ‼︎ キッド‼︎‼︎」
人型に戻り、奪われかけた金棒もしっかりと回収してから私に武器を構えるキラーにキッドが今どうなっているかを教えてあげれば、彼は悩む素振りもなく端っこが燃え始めたビブルカードを取り出してカードが移動する方向へ走り始めた。そんな彼の後ろを仲間達が追い、数名は船を回収するためなのか別方向へ走り出す。
私に背中を向ける彼らの姿は隙だらけで、野生の本能でつい攻撃を加えたくなって殺気を出しながらキラーに向けて金棒を構えてみるけど彼はまさかの無反応。
全ての思考がキッドの救助に向けられているのが何となく分かったので私は追撃を加えることを止め、彼らを見送ってから自分の屋台の元へ戻るのだった。
とはいえ無事に救助されたらキッドは絶対にリベンジしてくるだろうからサッサと島から離れようかなぁ。
「イブキ姉様‼︎ アタシは一生あなたについて行きます‼︎‼︎」
「「おれ達もついて行きやす‼︎‼︎ 」」
……なんか懐かれちゃった。やっぱりあんたらナメドクと同タイプだよ。
オリ主……カイケ達が自分の売上を狙ってたのは知っていたけど、反応があまりにもナメドクだったのでつい揶揄ってしまった。
キッドのしぶとさは知っているので、とっとと海に沈めたが、死んでも生きててもどっちでも良かったので追撃は無し。本来なら敵船に頭を突っ込ませて、船を破壊すると共に相手を海に沈める攻撃。やろうと思えば沈めてから毒ブレスや尻尾の叩きつけでキッドを確殺することも出来た。
屋台に戻ってきたら助けたからなのかカイケ達が自分に懐いていたので、現在はどうしよっかなぁと悩んでいる。今の所有力候補はナメドクに預けること。
カイケ&取り巻き2人……何度目かになるオリキャラ。オリ主が自分達を庇い、自分達では敵わなかった相手を倒している姿と、獣型となった姿からオリ主の正体を知ってこの人について行こうとなった。ちなみにキッドに八つ当たりしてしまったのはオリ主の覇気に怯えて少し過剰に周りを警戒していたから。
キッド……ギリギリ生きてる。
原作キャラに一方的に勝つシーンを出すのは毎回怖いね。
ちなみにオリ主は屋台をあちこちでやっているので、原作で登場してたら背景でシレっと登場していたりするかもみたいな妄想をしてたりする。
劇場版でも屋台の店主というモブとしてちゃっかり出てて、映画のスタンピードみたいな海軍やバレットとの戦いで他のモブが逃げたり応戦したりするなか、1人だけ落ち着いて屋台を片付けて帰ろうとしているシーンが取り上げられて掲示板でお前が戦えば終わるだろみたいなツッコミをされてたら面白いかなぁ……なんて。