黒のA級勇者になりました   作:ななば

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A級の鍛錬

 

 

 

♢【小山田翔吾】♢

 

2─Cのクラスメイトの中でも、一際デカい体格。

顔は強面(こわもて)で、染めたであろう濃い金髪が日光を反射し、ギラギラと輝いていた。

 

いかにも不良。いかにもヤンキーといった風貌の、A級勇者。小山田翔吾は、苛立っていた。

 

(あ゛ああ…マジで萎えるわー…なんでクソ安(2─Cの産廃)ごときが俺と一緒なんだよ…)

 

その理由は一つ。

自身の異世界でのアイデンティティであるランク。

そのランクに、()()()()()が混じっている。ただそれだけであった。

 

異世界に召喚された時は心が躍った。()()かった。

もともと日々の日常に退屈していたところだったのだ。つまんねぇと感じていたところだったのだ。

 

中学での()()()()で、目立った悪事は出来ず、刺激を感じるのはせいぜいカツアゲや万引きくらいのものだった。

それすら、小山田翔吾には微々たるものに感じていた。

 

 

そんな時に、異世界だ。

 

勇者がどーだの、大魔帝がどーだのと難しい話は解らなかったが、自分がなんとなく凄い存在であることは自覚していた。

 

桐原よりは凄くないが、それでもよかった。

もとより桐原は格上の存在だった思っていたからだ。

 

 

 

 

だが、()()()

こいつだ。

 

こいつだけは、気に入らない。

 

高雄の妹が()()でも良い。イインチョが格上なのも、まぁ良い。

 

安智弘は、こいつは()()

体はヒョロくて、気弱で、クラスの誰にでも敬語を使うような典型的()()()

圧倒的格下。2─Cの産廃。イジメて良い存在。

 

そんなのが、なぜ()()だ?なぜA級だ?

 

あいつもあの時、一緒に()()()()()()()()()

三森とかいう、名前を思い出すのも時間がかかるような空気モブ。

 

そんな空気モブと一緒に、隠キャは隠キャ同士()()されれば良かったのに。

そんで()()()、最高だ。

 

「ふざけんじゃねぇぞ…」

 

ギリギリと、口の奥から音が鳴る。

せっかくの熱い展開に、水を刺されるような。せっかくの熱気に、水入りバケツを思いっきりぶっかけられるような。そう、丁度そんな感じ。

 

「…チョーシ乗ってるわ、シメる、シメる、ぜっーてーシメる」

 

何かを決心したように、指を鳴らす小山田。

ぱきり、と音が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢【安智弘】♢

 

王都南西に位置する森。

薄暗い森の中で、ある集団が戦闘を行っていた。

 

「しゃあああ!!」

『ぎょギャぁ゛──ぎょオ゛ォォ゛!?』

 

異世界に召喚されてから、二週間。

今日も今日とて、僕────安智弘(やすともひろ)は鍛錬をしていた。

 

手にした剣を魔物の首に押し当て、そのまま斬り飛ばす。魔物の首はその凶悪な表情のまま、地面をゴロゴロと転がっていった。

 

魔物を相手取る実戦経験。

女神さまが言うにはこれこそが、勇者達にとって大事な鍛錬らしい。

 

「す、すっげぇー!!安!」

「やばいってこれ!やばい!!」

「アクション俳優みたい!!」

「て、照れるよ……」

 

魔物を倒した僕を矢継ぎ早に褒めるのは、広岡くんや佐久間くん達。

言わば、C級、D級の勇者達。

みんな、この()()()()()のメンバーで、守るべき存在である。

 

 

 

 

 

▪︎

 

それは召喚されて一週間後くらいの話だ。

クラスメイト全員が魔物を殺せるかどうかの見極め。

当然中には殺せなかったクラスメイトも居た。

 

嘔吐してしまう者。

泣き崩れる者。

怯えて縮こまってしまう者。

錯乱する者。

 

形はどうであれ、()()()()が出来なかった者は少なくない。

当然だ、誰でも命を奪う事に慣れていない。ましてや大人ではなく子供など想像すらつかない事だろう。

 

だが、その感覚は、現代の感覚はこの異世界では枷になる。

 

だから、僕と綾香さんの前で、女神さまはそう告げたのだ。見極めを達成できなかった者を"廃棄"するつもりだと。

 

『私としては残念ですが彼らは廃棄せざるをえません。死んでしまったトーカ・ミモリさんと、同じ末路ですね……』

 

『『………』』

 

綾香さんは悲痛そうな顔で、僕はただおし黙った。

 

やはり、そうなるものだ。

魔物を殺せない勇者など、なんのために召喚したのか解らない。

 

E級だからという理由で追放するのであれば、女神さまにとって"魔物を殺せない"は廃棄するのに充分過ぎる理由だ。

 

『ぐすっ……申し訳ありませんソゴウさん……悔しいですが、これがアライオンの確固たる方針なのです。規律なのです。仕方ないのです……大変申し訳ない、非常に申し訳ない……』

 

『なら、私は……』

『んん?どうしました、はっきり言ってください?』

『S級は、価値が高いんですよね?』

『はい!とぉっても高いですよ!』

 

綾香さんは、口にする。

女神さまは期待する。その答えを、その返答を。

 

 

『女神さまの言うみきを突破できなかった生徒の分まで、私がS級勇者として役目を果たします。それで彼らの廃棄をなしにしてくれませんか?』

『わぁ! なんと勇気ある素敵なご提案でしょうか! さすがはS級勇者です! やり方に違和感は覚えつつも、身を粉にして私たちに協力してくださるというのですね!? この世界を、救うために!』

『はい』

『本当に嬉しいです〜! では、仲直りの握手をしましょう! 極度の緊張状態で錯乱したソゴウさんを落ち着かせるためだったとはいえ、お腹を殴ったりしてすみませんでした〜』

 

 

『………』

 

これが、女神さまの()()だったのだろうか?

S級勇者である綾香さんを、嫌でも魔物との戦いに縛るためにこの話をしたのだろうか?

僕の目の前では、綾香さんと女神さまが握手を交わしている光景が広がっている。

女神さまは顔はともかく、目が笑っていない。

 

 

 

 

 

()()、女神さまがこちらを向いた。体は綾香さんと握手したまま、黄金の瞳が、僕を貫いた。

 

 

『ひっ…!』

驚いて叫びそうになるのを堪えて、女神さまに目を合わせる。

 

『さぁ〜て、トモヒロさんはどうします?トモヒロさんはあのE級の……えぇと、名前なんでしたっけ………あ!そう、トーカ・ミモリさん!彼を庇うくらいなので、あなたもソゴウさんと同じように"不合格"の彼らを大事にしていると思って呼んだのですが……どうします?あなたもソゴウさんと一緒に役目、果たします?』

 

 

狙いは、()()だったのか。

僕も貴重な戦力として多く魔物と戦ってほしい、という事か。

 

 

不意に、僕の頭に記憶がよぎった。

その記憶は、あるクラスメイトの姿であり、既に廃棄された僕の友であり、異世界の不条理を認めるきっかけになったE級勇者の顔だ。

 

他のクラスメイト達は、友達というわけではない。

なんなら小山田と一緒に僕をいじめていたクラスメイトも居る。

 

だけど、それでも。

クラスメイトだ。力が有るというのなら、守りたいと思う。

だって、三森くんなら多分────()()()()()()()()()

 

だから僕は口にした。

 

 

 

『……はい、僕もA級勇者としての役目を果たします。』

 

 

 

 

 

女神さまが、笑ったように感じた。

 

 

 

 

 

 

▪︎

 

だから、守るべき存在。

達成出来なかったクラスメイトの受け皿として、綾香さんと同じように役目を果たす。

 

「……他のグループたちはどうしてるかな?」

 

不意に気になるのは他のグループのこと。

今、2─Cは五つのグループに分裂している。

 

S級勇者である桐原拓斗がリーダーを務め、側近にA級勇者の小山田翔吾、その下に何人ものB級勇者を従えている桐原グループ。

 

B級勇者の戦場浅葱をリーダーとした、女子で構成された戦場グループ。

 

S級勇者の高雄聖と、その妹でA級勇者である高雄樹の二人で構成された少数精鋭の高雄グループ。

 

S級勇者の十河綾香をリーダーに、D級、C級の勇者を主に構成されている十河グループ。

 

そして、A級勇者の安智弘をリーダーとし、同じくD級、C級の勇者で構成された安グループ。

 

この五つが今の2─C。

十河グループと、自分たち安グループ以外は、心配は無いだろうが少し気になってしまった。

そう考えていると、その瞬間。

 

 

ドゴォォン!!

 

 

「おわぁぁぁ!!」

「何!?」

「魔物ぉ!?」

 

突如背後で、爆発音が響いた。それは爆発音だけでなく、一瞬遅れて爆風と共に木々が薙ぎ倒される。

 

「────皆んな!僕の後ろに下がって!!」

 

脱兎のごとくクラスメイト達は逃げ出し、僕の後ろに隠れる。

これでよほど強い魔物でさえなければ、守れるはず。

 

煙から、足音が聞こえる。

土を踏み締める音は、一人分。

なんだ?なにが来る。

 

「フー…フー……」

 

双剣を構え直し、姿勢は低く保つ。

 

 

 

 

「おー!何だよ、めちゃくちゃビビってんじゃんよー!クソ安!お前やっぱアレだろ!A級の器じゃねーだろ、雑魚すぎる反応でマジ笑えるわー!」

 

(……は?)

 

煙から出てきたのは、魔物でも何でも無い。

ただ、僕にとっては魔物よりも憎たらしい存在。

 

 

「────つーわけでよ、シメに来たぜぇ!安ぅぅ!!」

 

 

A級勇者の小山田翔吾が、そこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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