東京中央鉄道公安室第四警戒班、通称「警四」の事務所。殺人事件の緊張感が漂う中、まるで空気を読まない三人の影が忍び寄っていた。
「ここが第四警戒班という部署なの?」
神田川局長がキョロキョロと辺りを見回すと、秋田副局長がうなずいた。
「そのようですね、局長」
「でも、皆いていないみたいですよ」
香久山課長が首をかしげると、神田川はニヤリと笑った。
「あぁっ、そんなの後で言い訳でも何でも言えばいいじゃないの。とにかく中に入ろう」
「ええっ!? 勝手に入っていいんですか?」
秋田が慌てて聞き返すが、神田川は気楽に手を振る。
「いいのいいの。とりあえずここで適当に喋ればいいじゃないの」
「そこで何をやっているんですか?」
突然背後から響いた声に、三人が一斉に振り返る。そこには飯田奈々が穏やかな笑顔で立っていた。
「あっ……!」
神田川が硬直し、秋田が小声で呟いた。
「気づかれましたよ」
「どうします?」
香久山が焦ると、神田川は慌てて頭を働かせた。
「待て、私にも考えがあるのだよ」
そして、得意げに胸を張って誤魔化し始めた。
「いやね、國鉄鉄道公安隊のマスコットキャラクターがないじゃない。そこで私は考えたのだよ。鉄道公安隊にも独自のマスコットキャラクターを作ろうと思ってね」
「さすが局長! ナイスアイデアです!」
秋田が目を輝かせ、香久山も頷く。
「同感ですな」
「へぇ……そうなんですか」
奈々が半信半疑で返すと、神田川は勢いづいて続けた。
「というわけで、早速君に鉄道公安隊のマスコットキャラクターを描いてもらおうと……」
「お断りします」
奈々の即答に、神田川が目を丸くした。
「え? 何で? こんなの滅多にない機会だよ。出世のチャンスだってあるかも……」
「私、出世とか興味ないので」
「協力するだけでいいからさ、せめてイラスト描いてくれないかな? 頼むよ~飯田君」
奈々の冷たい拒否に、神田川は渋々矛先を変えた。結局、飯田班長が渋々協力することになり、秋田と香久山もイラストを描き始めた。
「でも、なんで鉄道公安隊のマスコットキャラクターを?」
奈々が不思議そうに尋ねると、神田川は熱弁を振るった。
「そうだね~。やっぱり個性だよ個性。あと正義感があってお客様を大事にし、犯人を撃退するマスコットキャラクターがいいんだよ。つまりね、私が言いたいことはね……」
「局長、こんなのでどうでしょうか?」
香久山が描き終えたイラストを差し出すと、空気が一瞬止まった。
「……」
神田川と秋田が無言でイラストを見つめ、奈々が小さく声を上げた。
「!」
「どうかしましたか?」
香久山が首をかしげると、秋田がポツリと呟いた。
「五能隊長にそっくりですね」
「ホントだ」
奈々がクスクス笑うと、神田川が慌てて否定した。
「香久山君、これはちょっと……使えんよ」
「えぇっ!? そんなぁ……三日間かけて構想して描いたのに………」
香久山が肩を落とすと、奈々が同情の目を向けた。
「あらら……」
「ま、とにかくだ! シンプルで個性的で、正義感があってお客様を大事に扱いながらも必死に犯人を撃退するイメージがいいんだよ」
神田川が仕切り直そうと声を張り上げると、奈々が冷静にツッコんだ。
「さっきから同じこと言ってません?」
「え? いや、言ってない。言ってないよ」
「……」
奈々が呆れたように見つめる中、背後から冷たい声が響いた。
「楽しそうね? 私も混ぜていいかしら?」
「ご、五能隊長!?」
神田川が飛び上がり、秋田と香久山も硬直した。
「瞳っ!?」
奈々が驚きつつも笑いをこらえる中、五能教官が鋭い視線で三人を睨んだ。
「他の部署で何をしているのですか?」
「五能隊長、実はと言いますとね。公安隊のマスコットキャラクターを作成しているところなんですよ。私達だけじゃ力不足だから飯田班長に頼んでおいたんですよ」
神田川が必死に弁解すると、奈々が横からチクリ。
「とかなんて言って、ホントは私を利用して局長達の手柄を手に入れたいだけじゃないですか?」
「ほぅ……そういう事なら話は早いですね」
五能教官の声が一段低くなった。
「違いますよ! 五能隊長……これは國鉄の為に。未来の鉄道公安隊の為にイメージアップ作戦をさせる為にやってるんですよ!」
神田川が必死に弁明し、秋田がフォローした。
「そうです。局長は鉄道公安隊の未来の為にマスコットキャラクターを作成して、五能隊長や飯田班長、そして警四のメンバーの方々に称賛を与えてファミリーを作るわけです」
「ファミリー? いいね!! そうだな……名前決めてなかったね?」
「それでイラストは?」
香久山が食い下がると、神田川は即答した。
「君のは却下だよ」
「そ、そんなぁ……(泣)」
「あの……これでどうでしょうか?」
奈々が差し出した一枚のイラストを、神田川が手に取った。
「どれどれ? ムムッ!!」
「どうしたんですか? 局長!!」
秋田が慌てると、神田川が満面の笑みで叫んだ。
「採用だ!!」
「早っ!!」
香久山が愕然とする中、神田川は勢いよく立ち上がった。
「よし、これを早速広報部に直行だ!!」
「あ、待ってください局長!!」
「あ、置いてかないでください局長ぉぉぉっ!!」
三人は慌ただしく去って行き、事務所に静寂が戻った。
「結局、何しに来たのかしら?」
五能教官が呆れたように呟くと、奈々が首をかしげた。
「さぁ……?」
To be continued