その夜、上野駅。PM22:25、宇都宮線ホームは終電間近の静けさに包まれていた。だが、その静寂を切り裂くように、一人の女性が必死に走っていた。
彼女の背後には、鋏を手に持つ謎の女殺人鬼が迫っていた。
女性はパニックに陥りながら、階段を駆け上がり、駆け下り、ホームを出たり入ったりを繰り返した。息も絶え絶えになりながら、運よくホームに滑り込んできた各停列車に逃げ込もうとしたその瞬間――
「!!」
背後から鋏を持った女殺人鬼が無音で近づき、鋭い刃を振り下ろした。
「うっ……!」
女性Bが小さくうめいた瞬間、鋏が背中に突き刺さった。女殺人鬼は無表情で彼女の衣服を剥ぎ取り、下着姿のまま無残に切り刻み始めた。皮膚が千切れ、血がホームに飛び散り、やがて血の海が広がっていく。ゆっくりと、まるで芸術でも描くように、殺人鬼は殺戮を楽しんだ。
「……」
女殺人鬼は満足げに鋏を手に持ったまま立ち去り、ホームに残された女性は運転士によって発見された。すぐに救急車で病院へ運ばれたが、出血多量で翌朝、息を引き取った。
翌日、二日目。上野駅宇都宮線ホームは、再び事件の重苦しい空気が流れていた
「うぅむ……」
警視庁刑事部捜査一課の船越英一郎警部は、血に染まったホームを見下ろし、深いため息をついた。遺体の周囲では鑑識が忙しく動き回っている。
「警部、被害者の女性は國鉄女性職員です」
鑑識Aが報告すると、船越の眉間に深い皺が刻まれた。
「また女性か……また國鉄」
「昨日の遺体も女性國鉄職員でした。入社5年でベテラン女性運転士です」
捜査員Aが補足すると、船越は低く唸った。
「うむむ……(奴だ。絶対奴の犯行に違いない)」
船越の鋭い勘が、そう告げていた。
「目撃者は?」
「上野駅に着いた電車の運転士です」
「……」
船越が無言で現場を見つめる中、新たな足音が響いた。
「鉄道公安隊です。ここを通してください」
桜井あおいが毅然と前に進み出ると、捜査員Aが苛立たしげに声を上げた。
「あ、また君か! ここは子供が来るところじゃないんだよ!」
あおいは遺体を確認しようと近づくが、捜査員が即座に制止した。
「コラッ! 勝手に遺体を触るんじゃないよ!」
「ここは上野警察署の管轄だ! 捜査の邪魔だ!!」
捜査員Bが怒鳴ると、あおいの目が鋭く光った。
「私達、鉄道公安隊は國鉄内で起きたことは捜査する権限はあるはずです」
「桜井、落ち着け!」
高山直人が慌てて止めに入るが、あおいは譲らない。
「高山! このまま放っとけって言うの!?」
「ここは他の鉄道公安隊に任せて、東京に戻ろう!」
「……」
あおいが唇を噛んで黙り込む中、船越が疲れたように息をついた。
「ふぅ……とんだ猫に着いてきたもんだな。おい、通してやれ!」
「しかし、管轄外の公安隊員は……!!」
捜査員Aが反論しかけると、船越が低い声で遮った。
「いいんだ! 通せ!」
「ハ、ハイッ!」
捜査員がしぶしぶ道を開け、あおいと直人が現場に足を踏み入れた。
國鉄本社ビル前。けたたましいサイレンの音と共に、警察車両が急停車した。ドアが開き、警官Bが堂々と降り立つ。
「警視庁警備部第一課だ。会議室を貸してもらいたい」
「な、何の用だ! アポも取らずにのこのこと!」
國鉄幹部Aがムッとして詰め寄ると、後ろから神長香子が冷たく割り込んだ。
「國鉄総裁に事前許可を取ってあるはずです。ここを通しなさい」
「ムムムッ……」
幹部Aは渋々道を譲り、香子と警官たちがビルに踏み込んだ。
To be continued