東京駅 東京中央鉄道公安室 第四警戒班
剣持しえなは武智乙哉を連れ、高山直人らが所属する第四警戒班の事務室へと足を踏み入れた。殺人鬼を匿うという危険な賭けに出た形だ。
「誰もいないね」
乙哉がキョロキョロと辺りを見回すと、しえなは少し首をかしげた。
「みんな、出かけているのかな……」
その時、乙哉の視線が机の上に置かれた物に止まった。
「ねぇ、しえなちゃん。これって國鉄の制服じゃない?」
しえなが近づいて確認すると、確かにそこには國鉄の制服が無造作に置かれていた。
「あぁ……だが不自然だ。こんなど真ん中に堂々と机に置いてあること自体ありえない」
「折角だから、私がこれ着て変装したら……」
「バカかお前は!! そんなことしたら一発でばれるだろ!!!……殺人鬼でボクを……」
「何? しえなちゃん?」
「何でもない!! とにかく早く着替えろ!!」
しえなが慌てて誤魔化すと、乙哉はニヤリと笑って制服を手に取った。
乙哉は制服の上着を手に取ると、ニヤリと笑いながらゆっくりと腕を通した。
「これ、意外としっくりくるかもね」
しえなは腕を組みながら、呆れたようにため息をつく。
「バカ言ってないで、さっさと着替えろ」
「はーいはーい」
ふざけた口調で返しながら、乙哉はベルトに手をかけた。だが、次の瞬間——不意にしえなの腕を引き寄せ、彼女の身体を強く抱きしめた。
「っ……!? 何を——」
しえなの抗議の声が途切れる。乙哉の手が彼女の三つ編みにそっと触れ、ゆっくりと撫でるように滑る。その指先の感触に、しえなの肩が小さく震えた。
「しえなちゃん……」
乙哉の声が、いつもと違う熱を帯びている。頬が赤く染まり、呼吸が少しずつ荒くなる。
「ねぇ……こうしてると、なんか……ドキドキしちゃうな……」
しえなの背に回された手が、ゆるく力を込める。まるで、このまま逃がさないとでも言うように。
「お、おい……ふざけるなよ……」
しえなが強張った声を出すが、乙哉は微笑みながら、さらに三つ編みを弄ぶように指先を絡めた。
「しえなちゃんの髪、すごく綺麗……もっと、触っていたいな……」
しえなの鼓動が速くなる。こんなふうに乙哉が距離を詰めてくることを予想していなかった。
「お前……本気でふざけるな……!」
しえなが強く言い放つと、乙哉は少しだけ唇を歪めた。
「……ふふっ、ごめんごめん。でも……しえなちゃんが可愛いのが悪いんだよ?」
乙哉はそう囁くと、ようやく腕を緩めた。しかし、その目の奥にはまだ熱が宿っていた——その時
——ゴッ!!
「いっ……たぁ……!!?」
乙哉の額に、強烈な拳骨が炸裂した。
「バカが!! 何している!!!」
しえなは顔を真っ赤にして怒鳴った。今のは完全に反射的な動きだった。乙哉がしえなの三つ編みを弄びながら、息を荒げるなんて——そりゃあ、ぶん殴られるに決まっている。
「うぅ……しえなちゃん、乱暴すぎない……?」
乙哉は額を押さえながら涙目で見上げる。
「ふざけんな!! いい加減にしろ!!」
「いや、だってさぁ……しえなちゃんが可愛いのが悪いっていうか……」
「どの口が言ってんだ!!! 変なことしたら次は鉄拳制裁だからな!!!」
「今のが鉄拳制裁じゃないの!?」
乙哉はジト目でしえなを見たが、その頬にはまだうっすらと赤みが残っていた。
「まったく……早く着替えろ!! さっさとここを出るぞ!!」
「はぁい……」
頭をさすりながらも、乙哉はどこか満足げに制服のボタンを留め始めた。しえなはまだムカつきながらも、心臓が少しだけドキドキしていることに気づいていた。
「……ホント、バカ」
彼女は小さく呟き、乱れた三つ編みを直すのだった。
——第四警戒班の誰かが戻ってくる前に、二人はこの場を離れなければならない。
数十分後
「どう? 似合うかな?」
乙哉がくるりと回ってポーズを決めると、しえなは一瞬呆れた顔をした後、頷いた。
「うん、似合っているよ。とりあえず帽子を被れ!」
「ええ~っ、私、堅苦しいの苦手なんだよね~」
「いいから被れ! 他の職員にばれていいのか?」
「……わかった」
乙哉は渋々帽子を手に取り、頭にちょこんと乗せた。意外と似合っている姿に、しえなは内心ホッとしていた。
「これで少しは目立たなくなる……はずだ。早速行動に移れ」
乙哉が変装を整え、二人で次の策を練り始めた。警四の事務室は、ひとまず彼女を隠す安全地帯となるのか――?
To be continued