地下通路に響いた二発の銃声。しかし、弾はどちらも外れ、しえなもあおいも無傷で立っていた。
「……うぅ…」
武智乙哉は満面の笑みを浮かべ、ホッとした涙をポロポロと流した。
「何故、外した?」
しえなが静かに尋ねると、あおいが肩をすくめて返した。
「そっちこそ」
「これで分かっただろ?」
「……」
あおいが無言で目を逸らす中、彼女の無線機が鳴った。
《桜井! 無事か!?》
直人の焦った声が響く。あおいは冷静に答えた。
「何とかね……死ぬところだったわ。危うく警察官に化けたテロリスト構成員と交戦してたけど、違ったみたい。二人とも本物の警察官と鉄道公安隊員だったのよ」
《そうか。無事ならよかった。岩泉と小海さんが今迎えに行けそうにないから、五能隊長がこっちに向かってるそうだよ》
「わかったわ、あとで連絡する」
無線が切れると、あおいはしえなをじっと見つめた。
「アンタの話、信用するわ」
「……恩に着る」
乙哉がニコッと笑うと、あおいは少し表情を緩めたが、すぐに付け加えた。
「ただし、五能教官にはきっちり報告させてもらうから。良い?」
「ねぇ、これからはあおいっちって呼んでいい?」
乙哉が馴れ馴れしく提案すると、あおいが即座にピシャリ。
「馴れ馴れしくしないで」
「ちぇっ」
乙哉がしょんぼりすると、しえなが鋭く声を上げた。
「武智、行くぞ。時間がない!」
地下通路に残された血の匂いと硝煙の余韻の中、三人はそれぞれの目的に向かって動き出した。あおいの報告を受けた五能教官の到着が、次なる波乱を予感させる。
翌日 三日目 警視庁 刑事部捜査一課
船越英一朗は机に山積みの資料を前に、東京駅地下通路と上野駅の殺人事件を徹底的に洗い直していた。血走った目でファイルをめくり続ける。
「変だ……何かがおかしい」
その時、刑事Aが慌てた様子で飛び込んできた。
「警部、鑑識課から結果が出ました。血液採取のDNA鑑定によれば、武智乙哉はシロです!」
「何ぃっ!? 奴がシロ!? あの武智乙哉がシロだっていうのか!!」
船越が目を剥いて立ち上がると、刑事Aが恐縮しながら頷いた。
「はい、そうですが……」
「有り得ん! 絶対に有り得ん! 俺は認めない! 武智乙哉が犯人だ!」
「ですから、武智乙哉はアリバイがあるんです!!」
「アリバイ!? どういう事だ?」
「東京中央鉄道公安室第四警戒班の取り調べの結果ですが……」
「見せろ!!」
船越がファイルを奪うように手に取った。
東京中央鉄道公安室 第四警戒班
飯田奈々が淡々と質問を始める。目の前には武智乙哉が座っていた。
「二日前の事件の時、あなたは何をしていましたか?」
「家で寝てました」
「その事件当時、地下通路を通った事は?」
「いいえ、ありません。この時寝てた時間でした。0時過ぎにもう一回起きて深夜番組見てたわ」
「昨日の上野駅の事件当時、あなたは現場にいました?」
「いいえ」
「電車に乗っていました?」
「いいえ、あの時はしえなちゃんと一緒に行動してましたから、直接上野駅に行くことは不可能よ」
部屋の隅で聞いていた桜井あおいが口を開いた。
「……その……なんて言うか、武智さんが犯人じゃないって事は分かったわ。でも、他の鉄道公安隊員や警察官はアンタを追っかけてくるわ」
高山直人が勢いよく立ち上がり、拳を握った。
「その時は俺が守ってみせる!」
岩泉翔がムッとして割り込む。
「俺も忘れてないか? 班長代理!?」
小海はるかが首をかしげて呟いた。
「なんかいつもの警四と違うみたいですね」
剣持しえなが鋭く笑う。
「当たり前だ! ボクがいる限り、テロリストはどこまでも存在し続けるからな」
警視庁 刑事部捜査一課
船越は取り調べの記録を読み終え、長く重い沈黙に包まれた。
「……」
「警部?」
刑事Aが恐る恐る声をかけると、船越は目を閉じ、深いため息をついた。
「この事件を……一から捜査し直す! 悔しいが、武智乙哉は容疑者リストから外す! いいな!?」
「了解!」
刑事Aが敬礼すると、船越は机に拳を叩きつけた。
「(武智がシロなら……真犯人は一体誰だ?)」
彼の刑事としての勘が、新たな影を追い求める決意を燃やしていた。
To be continued