國鉄 東京新幹線車両センター
東京新幹線車両センターは、かつて田端操車場だった跡地に広がる巨大な車両基地だ。東北線、中央線、東海道線を管轄する東京北・西・南鉄道管理局と、本社直轄の首都圏本部が管理する。電留線18線、仕業検査線3線を備え、退役した0系、100系、300系の動態保存車両から、現役の500系、700系、そして試験運用中の最新式N700系までが勢ぞろい。
ここは、高山直人や鉄道マニアにとってのパラダイスだ。E2系、E3系、E4系も整備点検のタイミングで出入りするが、常時停留しているわけではない。
「おい、500系の14両編成車両の点検整備、ちゃんとやっておいたか?」
國鉄整備員Aが声をかけると、整備員Bが即答した。
「はい、隅々までちゃんと点検済みです」
「そうか、そろそろ休憩するぞ! 寒河江! 昼休憩だ! 休んでいいぞ!」
「あ、はい!」
寒河江春紀が工具を置いて立ち上がった。彼女はかつて殺人稼業に手を染めていた過去を持つが、今は足を洗い、國鉄の整備員として安定した生活を送っている。
そのきっかけとなったある女性、そして支えてくれた兄妹たちのおかげで、彼女の心には希望が芽生えていた。
その時、直人が目を輝かせて車両センターに飛び込んできた。
「0系新幹線に100系新幹線、それに……300系まで動態保存されてる! 奇跡としか言いようがない!」
「おいおい、坊主。ここは子供が勝手に入ってくるところじゃないぞ!」
整備員Aが呆れた顔で注意すると、直人が慌てて名乗った。
「あ、すいません! 俺は学生鉄道OJTの研修生、高山直人です」
春紀が興味深そうに近づく。
「研修生か……鉄道が好きなのか?」
「はい! 将来は國鉄の運転士になるのが夢です!」
「運転士……新幹線の?」
「高山」
あおいが冷静に呼びかけると、直人が振り返った。
「何だよ、桜井!」
「私たちの本来やるべき事、忘れてない!?」
「あっ!? そーいえば……」
「……ったく、これだから高山は肝心な時に役に立たないわね」
「余計なお世話だ!」
春紀がニヤリと笑って茶々を入れた。
「おっ、お二人さん。もしかしてアベックか?」
「なっ……!」
「!!」
「図星だな?」
「ち、違います! 彼女はただの同僚で」
「そうです」
「そうは言ってもな……お前ら二人見てると、どう見てもアベックに見えんだよな……」
直人とあおいが気まずそうに黙り込む中、しえなが割って入った。
「もうそのくらいにしたらどうなんだ、寒河江」
「あれ? 何で婦人警官がここに? 事件でも?」
春紀が首をかしげると、しえながムッとした。
「おい、ボクの顔忘れたのか?」
「……」
一瞬の沈黙。
「……誰だっけ?」
ズッコケる一同。
「学園の文化祭で演劇指導し、その後なんやかんやで退学になった剣持しえなだ!」
「剣持……?(なんやかんやじゃわかんねぇよ)」
「……(ようやく思い出したかな?)」
「ああっ! あの剣持か!? っつか何で婦人警官なんかやってんだ!? 似合ってないぞ」
「余計な世話だ!」
春紀が話題を変えた。
「で、武智がまたやらかしてるそうだな」
「ああ……冤罪に着せられる寸前だったよ」
「それはさておき、東と一ノ瀬はどうしてるんだ?」
「東か? あいつはウクライナでまだ暗殺者としてロシアや北朝鮮と戦ってるだろうな」
「一ノ瀬を置いてか?」
「それはありえない。軽井沢の別荘に隠居してる一ノ瀬にとっては、東が無事に帰ってくるのを待ってるだけだからな。放っておくには考えにくい」
「で、ここに来た理由は例のテロリスト絡みか?」
「ああ、ここも襲撃される危険性が高いから伝えに来た」
「そうは言っても、何でここが襲撃されるんだ?」
あおいが冷静に割り込んだ。
「率直に言います。ここはテロリストと鉄道公安隊の血を争う場になる可能性が高いからです」
しえなが補足する。
「テレビのニュースで見てないのか? 『過激派テロ組織RJ』が三鷹車両センター内で暴動を起こし、鉄道公安隊側は死者20名、重傷者135名、軽傷10名。RJは死者110名、逮捕者495名になったとんでもない事件だ!」
「ごめん、私、テレビ最近見てなくてさ……事件の事やRJとかBJか知らんが全く分からなくてさ」
「……まあ良い。とにかく伝えたぞ!」
あおいが直人を促した。
「では、私は仕事がありますので。高山、行くわよ! 次は尾久車両センターよ!」
「分かった!」
春紀が直人を呼び止める。
「高山と言ったな!」
「はい!」
「運転士になれ! 絶対に! お前に必ず最新式の新幹線乗らせてやる! 楽しみにしてな!」
「……はいっ!」
直人の目に希望の光が宿った。
To be continued