國鉄東京総合病院
五能教官は北朝鮮スパイの銃弾で重傷を負い、鉄道公安機動隊の隊員に運び出された。幸い命は取り留めたが、手術室での治療が続いていた。
数時間後、執刀医が手術室から出てきた。ベンチで待ち続ける直人、あおい、はるか、翔が一斉に立ち上がる。
「あの……」
あおいが声をかけると、執刀医が穏やかに答えた。
「?」
「五能教官は!?」
「腹部に弾丸が入っただけです。しかし深くまでは到達していませんが、2ヶ月の間絶対安静しなければなりません」
「そうですか……しばらくは動けないんですね」
「……」
直人、はるか、翔が無言で俯く中、しえなが遅れて到着した。
「遅くなってすまない」
「しえなさん!」
「どうかしたんですか? 何か重要な事でも!?」
直人が尋ねると、しえなが鋭く告げた。
「奴らのアジトが分かったぞ! 桜井、付いてくるか?」
「俺も行きます!」
「俺も行くぜ! 班長代理!」
「お前たちは飯田班長と残れ!」
「……俺と岩泉だけでも行かせてください。足手まといにはしません」
しえながあおいに視線を移した。
「……桜井、お前が決めろ!」
「……この二人ならテロ組織の幹部の二人と会った経緯があります」
「何? それは本当か!?」
「はい! 本人も確証していますから恐らくは」
「五能班長が再起不能になった以上、ボクが指揮権に譲った。鉄道公安機動隊はボクに運を捧げられたって訳だな」
「……」
あおいが黙って頷くと、新たな戦いへの決意が病院の待合室に静かに広がった。
緊張が病院の待合室に漂う中、あおいは一瞬目を閉じて深呼吸をした。五能教官の傷が重傷だったことは理解していたが、こうして再び戦いの場に立つことに対する覚悟も決めなければならなかった。しえなが指揮権を譲ったという事実は、あおいにとって大きな責任を意味していた。
「…やるしかないんだ―――北朝鮮だろうが韓国だろうがロシアだろうがどんな敵でも相手にしてやる!」
しえなが決意を固めたように語りかける。
「――――はい!」
直人が力強く答えると、はるかと翔も無言でうなずき、準備を整えていく。
「気をつけろよ、全員」
しえなは、短く言い放つと、鉄道公安機動隊の新たな指揮官としての一歩を踏み出す。すぐにでもアジトの場所へ向かわなければならない。時間との戦いが始まったのだ。
病院を後にし、警察車両が駐車場に集合した。鉄道公安機動隊の車両が数台、音もなく発進を開始する。目的地までの道中、誰もが自分の心の中で覚悟を新たにし、次に待ち受ける戦いに備えていた。
翌日 四日目 國鉄本社ビル
「管理官、五能瞳隊長が撃たれたようです」
捜査員Aの報告に、神長香子が一瞬目を細めた。
「……」
「管理官。鉄道公安機動隊の指揮権は剣持しえな警視に引き継ぎ、我々は全力で奴らを捕まえるだけです」
「……SATは直ちに出動態勢を整えるよう準備せよ! 全鉄道公安隊員は従来通り厳重警戒態勢に!」
「では、捜査員を増員し強制捜査に移す準備を?」
捜査員Bが確認すると、香子が鋭く命じた。
「構わん、走り! 公安部の機動隊を出動させて奴らの拠点を制圧させろ!」
「好きにしていいって事っスか?」
鳰がニヤリと笑うと、香子が冷たく言い放った。
「奴らを根絶やしにするためには、こうするしかない」
捜査員たちが走り出し、廊下や控室は一瞬にして騒然とした。神長香子は窓越しに朝靄の中、遠くに見える鉄道の線路を睨みつけ、次の一手を練っていた。
「全員、こちらに集まれ!」と、彼女の低く厳粛な声が指令室に響く。
緊急会議室では、隊員たちが各自の役割を確認しながら、最新の情報と状況報告を共有していた。SATの出動態勢も万全を期し、車両の整備が急ピッチで進められている。
一方、剣持しえな警視の指揮下にある鉄道公安機動隊は、駅舎や車両基地の周囲を封鎖し、容疑者とされる一派の行方を追っていた。最新の通信では、拠点と目される廃工場付近から不審な動きが報告され、現場へ向かう隊員たちの足音が、鉄道の冷たい朝に重く響いていた。
香子は静かに決意を固めながら、自らの指示がどれほどの犠牲を伴うかを熟知していた。しかし、彼女の眼差しは揺るがなかった。
「奴らを根絶やしにするためには、迷いは許されない。私たちが持つ正義が、鉄道全体を守る唯一の盾だ」
と心中で呟くと、その声は小さくも確固たる響きを放った。
外では、灰色の空に重い雲がたなびき、嵐の前触れのような不穏な空気が漂い始める。鋭い風が駅舎の窓ガラスを揺らし、まるで次の瞬間に大きな変革が訪れることを予感させるかのようだった。捜査員Aは、携帯のモニターに映し出される最新の捜査指令を見つめながら、今まさに始まろうとしている熾烈な攻防の幕開けを感じ取っていた。
「各班、準備完了を報告せよ!」
香子の命令は鋭く、かつ厳正で、その一言一言が隊員たちの心に深く刻まれた。これから展開される激しい衝突の先に、真実と正義が待っていると、彼女は信じて疑わなかった。静かな決意とともに、各班は各々の任務へと散り、運命の歯車は着々と回り始めた。
To be continued