東京新幹線車両センター
増援が来るまであと10分。
立っているのもそろそろ疲れてくる頃合いだが、そんな甘い考えは許されない。敵はテロリストだ。待ってくれるはずがない。
しえなとパンムンが睨み合い、鋭い視線が空気中で火花を散らした。
「ヨムジュ同志が倒れたのは予定通りだ! だがお前たちには節穴を掘ってやった!」
パンムンが得意げに胸を張って叫ぶ。しえなは眉をピクリと動かし、冷たく返した。
「節穴!? どういう意味だ!?」
内心、パンムンは一瞬焦った。
「(何も考えずに口走っちまったが……まぁいい。今頃ファンジュがどこかで武智乙哉になりすましてるはずだ。クックックッ……これも俺の完璧な計画の一部だぜ! 出世街道まっしぐらだ!)」
パンムンは凄みある笑みを浮かべる。
そこへ、あおいが鋭い声で割って入る。
「何ニヤニヤしてるのか知らないけどさ、無駄な抵抗はやめた方が身のためだよ、アンタ!」
彼女の強気な口調に、パンムンは一歩引くどころか、余裕の笑みを浮かべた。
「まぁそう怒んなさんなって。俺はこう見えても紳士的な軍人なんだぜ?」
しえなは心の中で盛大にため息をつく。
「(あっさり自分でバラしてる……こいつ、真正のバカ確定だな)」
と呆れ顔を隠して唇を噛んだ。
「パンムン同志、ファンジュ同志が……」
実行隊員Cが緊張した声で報告を始めると、パンムンが目を細めて頷いた。
「何だ? ……そうか、無事に成田に着いたんだな」
「ハッ」
「これで……」
ブーッブーッブーッブーッブーッ(携帯電話のバイブレータ音)
ポケットから取り出した電話に、パンムンが低く応じる。
「俺だ」
《パンムン同志、無事に成田に着きました》
ファンジュの声がスピーカー越しに響くと、パンムンは満足げに頷いた。
「そうか、よし! よくやった! 証拠はちゃんと隠ぺいしたんだな?」
《はい、銃と鋏も跡形もなくバッチリ隠ぺいしました。日本の警察の捜査からは逃れられるかと》
「鬘と覆面はどうした?」
《…………空港のゴミ箱に捨てました。後処理が面倒でして》
「バカか、貴様はぁぁぁ!!」
パンムンの怒鳴り声が車両センターに響き渡る。
「日本の警察がそんな甘っちょろいわけないだろ! 今の時代、技術が発達してるんだぞ!我々より隅々まで調べ上げられるんだ! 分かってんのか!?」
《も、申し訳ございません! パンムン同志!》
ファンジュの謝罪に、パンムンは苛立ちを抑えきれず吐き捨てた。
「もういい! あとは俺たちが処理する。貴様はモスクワに隠居しろ! 当分祖国には戻ってくるな! 指示があるまでじっとしてろ!」
《ハッ!》
「以上だ! 通信終了!」
ブチッ(携帯電話を叩き切る音)
実行隊員Cが恐る恐る尋ねる。
「どうします、パンムン同志?」
パンムンは冷酷に一言。
「殺せ」
「しかし、相手は学生で……」
「学生だから何だ! さっさと殺せと言ってるだろ!!」
「……」
実行隊員Cが銃を握る手をかすかに震わせる中、しえなの瞳が鋭く光った。
増援までの時間が刻一刻と迫っている。彼女の頭脳がフル回転を始めていた。
To be continued