北斗星
東京都内のどこか、人気のない路地裏。
数台の黒いセダンが静かに停まり、そのうち一台から降り立ったのは、威圧感を放つヤクザの親分だった。
ヤクザAが恭しく頭を下げながら口を開く。
「親分、お勤めご苦労さんッス!」
武志は低い声で短く応えた。
「おう。」
関東を拠点とする広域指定暴力団『塩山会』の傘下に名を連ねる武闘派組織、豊南組。
RJとは一応中立の立場を保っているが、國鉄分割民営化なんて話題にはまるで興味がない。
そんな中、若頭の亮が不安げに武志に近づき、小声で尋ねた。
「親分、若頭や他の連中に外行かせて、本当に大丈夫なんですか?」
武志は鋭い視線を亮に向け、淡々と返す。
「だったら何だって言うんだ?」
亮は言葉に詰まり、「?」と首をかしげるしかなかった。
武志は煙草に火をつけ、紫煙を吐きながら続けた。
「RJってバカみたいな連中のことは知ってるだろ? そいつらを庇う組の奴らと接触を試みるために、業と戦争仕掛けに行ったんだよ。」
亮は黙り込んでしまう。
武志は一瞬、遠くを見つめるように目を細めると、ポツリと呟いた。
「ま、ヤクザだって仁義ってモンはあんだよ。」
その言葉には、どこか重みと覚悟が込められているようだった。
寝台特急『北斗星』。
それは上野駅から札幌駅までを、東北本線、津軽線、海峡線、江差線、函館本線、室蘭本線、千歳線という長い旅路を経て結ぶ、寝台特別急行列車だ。
食堂車やロビーカー、個室寝台を備え、かつては「日本初の豪華寝台特急」と称されたその列車は、乗客に夢のような一夜を提供してきた。
だが近年、北海道新幹線の計画が進むにつれ、その存続が危ぶまれていた。ついに、廃止の方向へと傾きつつある現実が迫っている。
そんな北斗星の車内では、鉄道OJTの研修生である札沼まりや、正式な食堂アテンダントの那須まゆか、そしてアネッサ・ビントフェルデが働いている。
さらに、営業本部主任のエルヴィラ・ネンハウゼン・ヒルもまた、この列車の運営に携わる一人だ。
その日、北斗星に新たな乗客が乗り込んできた。
高山率いる――そう、警四メンバーだ。
彼らは決して遊び気分でこの列車に乗り込んだわけじゃない。その真剣な眼差しが、何か重大な目的を物語っていた。
車内の食堂で、那須まゆかが不安そうにアネッサに尋ねた。
「ねえ、北斗星が廃止になるって、本当なの?」
アネッサは少し眉を寄せながら、落ち着いた声で答える。
「……らしいわね。新しい路線を計画してるみたいだけど。」
まゆかは目を丸くして、さらに問いかけた。
「北斗星がなくなったら、私たち、どうなるの?」
アネッサは肩をすくめ、淡々と返す。
「その時は別の寝台特急か観光列車に移って働くだけよ。ただそれだけ。」
まゆかは言葉を失い、黙り込んでしまった。
その時、食堂の奥からエルヴィラの凛とした声が響いた。
「お客様よ。表に出て。」
アネッサとまゆかはハッとして、即座に姿勢を正す。
「はいっ!」
二人は揃って返事をし、慌てて業務に戻った。
豪華寝台特急『北斗星』の運命が揺れる中、彼女たちの日常はまだ動き続けている――。
To be continued