食堂車内は、緊迫した空気が漂い始めていた。
翔がイライラしながら呟く。
「遅いな……まだ来ねぇかな。」
直人は黙って腕を組んだまま、「……」と様子を見ている。
あおいが小声で直人に声をかけた。
「高山。」
直人が顔を上げる。
「何だ?」
あおいは鋭い視線を向かい側のテーブルに投げながら囁いた。
「向かい側のテーブルに座ってる男二人組。何か怪しくない?」
直人は「?」と眉をひそめ、あおいの視線を追う。
そこには、ヤクザらしき雰囲気を漂わせる二人の男が座っていた。あおいは目を細めて警戒心を強め、直人が慌てて小声で警告する。
「おい、何かヤバそうだぞ! 桜井!」
あおいが平然と返す。
「だから何?」
直人は焦りを隠せず続けた。
「相手が悪すぎる。それに何かクレーム来たら……。」
あおいは冷たく言い放つ。
「その時は射殺するだけよ。」
直人が目を丸くして制止した。
「いやいやダメだろ!」
一方、向かい側のテーブルでは、吉平と健二が苛立ちを募らせていた。
吉平がぼやく。
「何か捻くれたガキが2人いるな」
健二は興味なさげに返す。
「放っとけ。それより食事はまだ来ねぇのか?」
そこへ、食堂女性従業員Aがビーフシチューを運んできた。
「お待たせしました。ビーフシチューです。」
健二が短く応じる。
「おう」
従業員Aはそそくさと料理を置き、「では、ごゆっくり」と言い残して去った。
二人はビーフシチューを口に運ぶが――。
「……!!」
「……!!」
吉平が内心で毒づく。
「(髪の毛入ってやがる! どの面下げて作ってんだ!!)」
健二も同じ思いだったらしく、顔をしかめて立ち上がる。
「(確かに……! ちょっと文句言ってみるか)」
「おい! 姉ちゃん!!」
まりが慌てて駆け寄った。
「はい?」
健二が不機嫌そうに要求する。
「料理長呼んできてくれるかな? 大至急だ。ビーフシチューに髪の毛が入ってて食えねぇんだ。料理長呼んできてよ。」
まりは困惑しながら、「はぁ……」と小さくため息をついた。
あおいが直人を再度呼ぶ。
「高山!」
直人がうんざりした声で返す。
「今度は何だ?」
あおいが顎でまりの方を示した。
「札沼さんがあの二人組に絡まれてるわ。」
直人は黙り込み、状況を見極めようと目を凝らした。
数分後
健二が苛立ちを爆発させる。
「おい、料理長まだか!?」
まりが必死に宥めた。
「はい、もう少々お待ちに……。」
吉平が声を荒げて脅す。
「何だとコノヤロー!」
まりが「!!」と怯えて後ずさる。
我慢の限界を超えたヤクザ二人は、無断で厨房に押し入り、料理長・牧に詰め寄った。
健二が怒鳴る。
「おい、料理に髪の毛入ってたぞ! 一から作り直せ!」
牧料理長が怪訝そうに返す。
「あ? 何なんだよ?」
健二がさらに迫る。
「今すぐ作り直せ……ん?」
健二は料理長の目をじっと見つめ、突然言い放った。
「おい、お前ヤクやってんだろ。」
牧が困惑する。
「?」
健二が畳みかける。
「ヤクやってんだろ?」
牧が首を振る。
「ヤク? 何だそれ?」
健二が具体的に言い直した。
「シャブだよ。シャブ。」
牧がキレ気味に返す。
「シャブ? 知らねぇよ?」
吉平が声を荒げた。
「聞こえねぇのかコノヤロー!」
グサァァァァァッ!!
突然、若頭らしき健二が手に持った菜箸を、牧の耳に迷いなく突き刺した。
牧料理長が絶叫する。
「ああああああああああああああっ!!」
健二が冷酷に詰問する。
「おい! ヤクを売ってる奴を言え!」
牧が痛みに耐えながら叫んだ。
「し、しらねぇよ!!」
吉平が黙って動き、牧の右腕を掴むと、煮えたぎるビーフシチューの鍋に無理やり突っ込んだ。
牧が悲鳴を上げる。
「あづうううううううううううううううううう!!」
健二がさらに迫る。
「誰なんだ!?」
牧が限界を超えて叫んだ。
「か、かかかか川俣! 川俣! 川俣!」
吉平が眉をひそめる。
「川俣? RJのメンバーか!?」
健二が怒鳴りつけた。
「指出せゴラァ!」
健二は出刃包丁を手にし、牧の左指を一気に切り落とした。
牧が絶叫する。
「がぁあああああああああああああっ!!」
切り落とされた指が、皿に盛られたビーフシチューに落ちる。
まりは目を丸くして硬直する。
健二がまりを睨みつけ、怒鳴りつけた。
「早く持って行けバカヤロー!」
厨房は一瞬にして修羅場と化した。
東京都郊外、薄暗い雑居ビルの3階。
埃っぽい部屋に響くのは、緊張と不穏な空気だけだった。
川俣がテーブルの上に置かれた小さな包みを手に持ち、低い声で言い放つ。
「これが例のブツだ!」
RJ構成員Aが目を丸くして震える声で反応した。
「!!……おい、これってヤバい奴じゃ!?」
川俣は冷静に、しかしどこか余裕を見せながら答える。
「……想定の範囲内だ。問題ない!」
RJ構成員Aは不安を隠しきれず、半信半疑で呟いた。
「そ、そうか?」
その時、突然――
ドンドンドンッ!
激しいノックの音が部屋に響き渡る。
川俣が慌てて声を荒げた。
「だ、誰だ!?」
バッ!
ドアが勢いよく蹴り開けられ、姿を現したのは――。
川俣が驚愕に目を見開く。
「お前は!!」
そこに立っていたのは、武志だった。
鋭い眼光で川俣を睨みつけ、低く威圧的な声で詰問する。
「お前、俺らに内密でヤクを売ってたそうだな。」
川俣がしどろもどろに言い訳を重ねる。
「え……そ、そんな訳……。」
武志が一喝した。
「舌何枚あんだ!」
川俣が混乱しながら答える。
「え、一枚に……。」
武志がさらに声を荒げる。
「二枚でも三枚でもあるのか!!」
川俣が必死に反論した。
「一枚に決まってるだろ!」
武志が冷たく命令する。
「口開けろ。」
川俣が戸惑う。
「え?」
武志が怒鳴りつけた。
「口開けろ!!」
川俣が渋々従い、「べぇぇっ」と口を開けた瞬間――。
ドバチィィィッ!!
鈍い音と共に、川俣が「ぐぅぅっ!!」と呻き声を上げて膝をつく。
武志が冷徹に指示を飛ばす。
「おい! 道具出せ。」
ヤクザAが即座に応じ、「ハッ」と短く返事をする。
ジャキッ。
バンッ。
バンッ。
バンッ。
連続する銃声が部屋に響き、やがて静寂が訪れた。
「……。」
ヤクザAが静かに尋ねる。
「どうします?」
武志が淡々と答えた。
「遺体は沈めろ。誰にも見られねぇとこにな。」
ヤクザAが再び短く応じる。
「ハッ。」
雑居ビルの一室は、再び重い静けさに包まれた。
To be continued