RAILJACK   作:マブラマ

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第1実行部隊

PM20:10 宇都宮駅

夜の宇都宮駅に、寝台特急『北斗星』の重い車体がゆっくりと滑り込む。ホームに漂う冷たい風が、列車の到着を待ちわびる乗客たちのざわめきをかき消していた。その運転席で、運転手Aは腕時計をチラリと見て呟いた。

「さて、そろそろ着くころかな……まだか。早すぎたかな? まぁいいや、ダイヤに遅れるよりはマシだな」

彼の声は気楽で、少し眠そうな響きを帯びていた。長い旅路の疲れが肩にのしかかり、ほっと一息つこうと背もたれに体を預けたその瞬間――

バンッ!

鋭い銃声が運転席に響き渡り、運転手Aの体がガクンと前のめりに崩れた。

「ぐぶっ!」

短い呻き声とともに、彼の頭がコンソールに打ち付けられ、血がじわりと広がっていく。

暗闇の中から現れたRJ構成員Aが、無感情な目でその遺体を見下ろした。

「一名即死。ただの鉄道運転手か」

その声には一片の感情も宿っていない。まるでゴミでも片付けるかのような冷たさだ。

隣に立つRJ構成員Bが、淡々と尋ねる。

「どうします?」

その時、影の中から一人の人物が静かに進み出た。声は低く、どこか冷酷な響きを帯びている。

「遺体はどっかに隠せ! 厄介なことになる前に片づけるぞ」

RJ女性構成員Aが一瞬ためらい、口を開いた。

「しかし――」

だが、その言葉を遮るように、影の人物が鋭く言い放つ。

「パンムンって男よりは残忍なやり方はしないわ。警察に連絡しなさい。男が何者かによって射殺されたと」

その声には、絶対的な命令と揺るぎない自信が込められていた。

「イエス・マム!」

RJ女性構成員Aは即座に敬礼し、慌てて通信機を取り出して指示を実行に移した。

影に立つその人物は、フードの下で小さく息をつき、内心で思考を巡らせた。

「(士幌邦夫……私達を利用して何を企んでいる。あの高山直人って奴も気になるけど、まぁいい。これも計画の内だわ。想定の範囲内よ)」

彼女の瞳には、冷徹な計算と仄暗い野心が宿っていた。列車が静かに停車する中、血の臭いが運転席に漂い、次の展開を予感させる不穏な空気が広がっていく。ホームの喧騒とは裏腹に、ここでは闇が静かに蠢き始めていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM20:15

どこか薄暗い部屋の中、窓から差し込む街灯の光が微かに壁を照らしていた。静寂が支配するその空間で、りえが低い声で呟いた。

「動き始めたわ」

彼女の声は冷たく、まるで氷の刃のように鋭い。窓の外を見据えるその瞳には、感情よりも深い思惑が宿っているようだった。

隣に立つ邦夫が、ゆっくりと頷きながら応じた。

「いよいよだな……さて、お手並み拝見させていただこうかね」

彼の口元には薄い笑みが浮かび、まるでゲームの駒が動き出すのを楽しむチェスプレイヤーのような雰囲気を漂わせていた。指先で軽く机を叩くその仕草には、余裕と期待が混じっている。

「…………」

りえは無言で視線を外に固定したまま、ただ静かに息を吐いた。その沈黙は、言葉よりも多くの意味を孕んでいるようだった。部屋の中には時計の秒針が刻む音だけが響き、次の瞬間を待つ緊張感がじわじわと膨らんでいく。

何かが始まろうとしている――その予感が、二人の間に重く横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM20:20

どこかの暗がり

夜の冷気が漂う中、影に潜む三人の会話が静かに進んでいた。

「あと7分。寝台特急はもうすぐ来るわ」

ロザリーの声は冷静で、まるで時計の針が刻む時間を計算し尽くしているかのようだった。彼女の瞳は闇の中で鋭く光り、次の行動を待つハンターの気配を漂わせていた。

「武器は揃ったぞ」

クリスの低い声が響き、手にした金属がカチャリと小さく音を立てた。その言葉には確かな準備と覚悟が込められている。

「あとは乗り込むだけだよ。ヒルダ」

ロザリーがニヤリと笑みを浮かべ、隣に立つヒルダに視線を投げた。

ヒルダは一瞬目を細め、短く頷く。そして、力強い声で号令をかけた。

「クリス! 準備はいいな!?」

「ああ、任せろ!」

ロザリーが即座に応じ、拳を軽く握って気合いを入れる。

「バックアップは任せて」

クリスが静かに呟き、背後に控える準備を整えた。

ヒルダの声が闇を切り裂く。

「第1実行部隊、出撃!」

その言葉と共に、三人の影が一斉に動き出し、寝台特急『北斗星』へと向かうべく闇に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝台特急『北斗星』車内

 

列車内は、穏やかな揺れと共に、少しだけ緩んだ空気が漂っていた。窓の外には宇都宮駅の灯りが近づいてきている。

「宇都宮に着くぞ」

直人が腕時計を確認しながら呟くと、隣に座る翔がだらっとした声で応じた。

「おう、腹減ったぜ」

直人は思わず顔をしかめ、呆れたように突っ込んだ。

「お前、食うことしか考えてないのかよ!」

はるかがその場を和ませるように、優しく笑いながら仲裁に入る。

「まぁまぁ、いいじゃないの」

だが、あおいは少し離れた席から、意味深な目つきで呟いた。

「どんな事件が待ち受けてるのかな……?」

「おい、桜井! 物騒なこと言うのやめろよ!!」

直人が慌てて声を荒げると、あおいは肩をすくめて皮肉っぽく返す。

「これだから高山はゆるいのよ!」

「お前な……!」

直人がムキになって言い返そうとした瞬間、はるかが柔らかく制した。

「あおい。そのくらいに」

あおいは小さく舌打ちしつつ、「わかったわ」と渋々引き下がった。

直人はふと周囲を見回し、首を傾げて呟く。

「あれ? さっきのヤクザの男二人は?」

「ここで降りるって」

あおいがそっけなく答えると、直人はため息をついた。

「世の中、不安だらけだな……」

その時、小さな声が背後から聞こえてきた。

「あの……」

直人が振り返ると、そこには見覚えのある顔が。

「あ、あなたは上野の……!」

驚きを隠せない直人に、少女がニコッと微笑んだ。

「はい! 初めまして、ココです。第四警戒班の高山直人さんですね?」

「はい。あの……」

直人が戸惑っていると、ミランダが静かに近づいてきた。

「ごめんね。ココと一緒に手伝ってほしいことがあるの」

「何でしょうか?」

直人が真剣に尋ねると、ココが少し困った顔で説明を始めた。

「食堂車の料理長がいなくなっちゃったから、代わりの人を探しに行くんです。高山君も手伝ってくれるよね?」

「はい、もちろんです。大歓迎ですよ!」

直人は即答し、笑顔で頷いた。

「ありがとう」

ココがホッとしたように礼を言うと、直人も「いえ」と軽く返した。

その時、車内に優雅な声が響き渡った。

「あら、何かお困りのようですわね?」

直人が振り返ると、そこには車椅子に座る女性が。彼女の気品ある佇まいが目を引く。

「あなたは?」

直人が尋ねると、彼女は柔らかく微笑んだ。

「ごめんなさい。紹介が遅れましたわ。私は英純恋子と申しますの。この通り、体が不自由で動けませんの」

「高山直人です。國鉄鉄道公安隊第四警戒班で研修受けています」

直人が自己紹介すると、純恋子は目を細めて優しく言った。

「高山直人……良い名前ですわ。これからも仲良くしていきそうですね。私も何かお力になれば……」

「そんな、体が不自由な身なのに」

直人が遠慮すると、純恋子は穏やかに笑った。

「心配ご無用ですわ。私の専属シェフをお呼びしますわ」

すると、別の声が控えめに響いた。

「わたしも……何か手伝いを……」

直人がそちらを見ると、純恋子の隣に立つ少女が恥ずかしそうに俯いていた。

「あの……そちらの方は?」

直人が尋ねると、純恋子が代わりに答えた。

「はい。番場さんですわ。私の友人ですの」

ココが明るく笑って言った。

「これで探す手間が省けるね!」

「ええええええええっ!!? ココさん、いいんですか!!!?」

直人が目を丸くして驚くと、ココはケロッとした顔で返す。

「いいのいいの。これで無事解決ね」

あおいはそのやり取りを遠くから見つめ、深いため息をついた。

車内の空気は一気に和やかになったが、その裏で、ヒルダ率いる実行部隊が刻一刻と近づいていることを、彼らはまだ知らない――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM20:20 寝台特急『北斗星』車内

車内の柔らかな照明が、乗客たちの顔を優しく照らしていた。そんな中、晴がふと顔を上げると、車椅子に座る純恋子の姿が目に入った。彼女の隣には真昼が控えめに立っている。

「あ、英さん。それに――」

晴の声が小さく弾み、驚きと懐かしさが混じった笑顔が広がった。

純恋子は車椅子から穏やかに微笑み返し、いつもの優雅な口調で応じた。

「お久しぶりですわね、一ノ瀬さん」

その声はまるで上質な絹のように滑らかで、どこか懐かしさを帯びていた。

真昼が純恋子の隣で、少し緊張した様子で頭を下げた。

「お……久しぶり……です」

彼女の声は小さく、恥ずかしそうに途切れがちだったが、晴に向ける視線には温かさが宿っていた。

純恋子がふと周囲を見回し、軽く首を傾げて呟いた。

「あら? 肝心な東さんがいませんわね」

その言葉に、どこか物足りなさを感じているようなニュアンスが滲む。

晴の表情が一瞬曇り、静かに言葉を紡いだ。

「兎角さんは…………」

その声は途中で途切れ、何かを思い出したように遠くを見つめた。彼女の瞳には、懐かしさとほのかな寂しさが交錯しているようだった。

車内の穏やかな空気の中、この再会がただの偶然ではない何かを感じさせる雰囲気が漂い始めていた。窓の外では、宇都宮駅の灯りが徐々に近づきつつある。果たして「東さん」――兎角の不在が、この旅にどんな影響を及ぼすのか、まだ誰も知らない。

 

To be continued

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