RAILJACK   作:マブラマ

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グランシャリオ

PM20:35 寝台特急『北斗星』7号車(食堂車)グランシャリオ

 

食堂車「グランシャリオ」の豪華な内装が、銃声と混乱で一変していた。シャンデリアの光が揺れ、テーブルに並んだ食器がカチャカチャと鳴る中、直人が息を切らせて駆け込んできた。

「札沼!」

彼の叫び声が食堂車に響き渡る。

まりが慌てて振り返り、直人の青ざめた顔を見て目を丸くした。

「どーしたの!? 高山君、顔が真っ青だよ!」

「札沼、何処かに隠れるんだ! 主任のエルヴィラさんに匿ってもらうんだ!!」

直人の声は切羽詰まり、まりの手を掴んで必死に訴えた。

「え……!? 一体何が起きたの?」

まりが混乱したまま尋ねると、直人は焦りを抑えきれず叫んだ。

「説明すると長くなる! とにかく隠れるんだ!」

「わ、わかった」

まりが小さく頷き、怯えながらも動き出そうとした瞬間――

「見つけたぞ!」

暴力団員Aのドスの効いた声が背後から響き、黒い影が近づいてきた。

「!伏せて!!」

直人がまりを押し倒し、床に身を低くしたその刹那――

バーン! バーン! バーン!

銃声が食堂車を切り裂き、壁に弾痕が刻まれる。

「……!」

あおいが即座に反応し、ホルスターから銃を抜いて反撃した。

バーン!

「ぐはぁっ!」

暴力団員Aが胸を押さえて倒れ、血が床に広がる。

「この小娘が! よくもウチの組の奴を!」

暴力団員Bが怒りに燃え、銃を構えて叫んだ。

「ぶっ殺してやる!」

暴力団員Cが続けざまに引き金を引く。

バーン! バーン! バーン! バーン!

だが、次の瞬間――

ゴッ!

鈍い音と共に暴力団員Bが膝をつき、「がはぁ!」と呻いて倒れた。

「な……何だ……」

暴力団員Cが呆然と呟いた直後、背後から鋭い刃が突き刺さる。

グサァァァッ!

「うっ……ぐへぇぇっ!」

彼の体が崩れ落ち、食堂車に静寂が戻った。

エルヴィラが冷静に状況を見渡し、静かに言った。

「全員無事みたいね」

乙哉が血まみれのナイフを手に、ニコッと笑って呟いた。

「またやっちゃった♪」

「エルヴィラさん! それに武智さんまで!」

直人が驚きの声を上げ、二人の登場に目を丸くした。

「とにかくお客様を安全な場所に誘導して避難させなければ」

エルヴィラが毅然と指示を出し、場を仕切る。

「英さんは何処にいます?」

直人が尋ねると、エルヴィラが即答した。

「部屋に戻ったわ」

「そうですか」

直人がホッと息をつくと、エルヴィラが淡々と自己紹介を付け加えた。

「私は元・GSG-9の隊員であるから、様々な現場に遭遇した経験があるの。こういうのは慣れてるわ」

「ならエルヴィラさんに着いていきます」

あおいが即座に決断し、エルヴィラに視線を合わせた。

「俺の立場は!?」

直人が慌てて声を上げると、あおいが肩をすくめて返す。

「わかってるわよ、班長代理」

ミランダが少し遅れて尋ねた。

「私は何をすれば?」

「高山君に着いていきなさい。万が一の為に何か危険を感じたら分からないわ」

エルヴィラが冷静に指示を出すと、ミランダが頷いた。

「分かりました! エルヴィラさん」

だが、ミランダがふと立ち止まり、不安げに尋ねた。

「ココは? ココは無事なんでしょうか?」

「分からない。でもまだ確証はないけど、無事よ」

エルヴィラの言葉には確信が込められていたが、微かな不安が隠せなかった。

「とにかく急ごう!」

直人が再び号令をかけ、一行は次の行動へと動き出した。食堂車の血と硝煙の臭いの中、彼らの決意が新たな火花を散らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM20:35 喫煙8号車

 

寝台特急『北斗星』の喫煙8号車は、薄暗い照明とタバコの匂いが漂う静かな空間だった。窓の外を流れる夜の景色が、車内の緊張感を一層際立たせている。そんな中、ドアを軽く叩く音が響いた。

コンコンッ

「はい!」

晴が明るく応え、ドアを開けると、そこにはココが立っていた。彼女の制服は少し乱れ、疲れが滲む顔に笑顔を貼り付けている。

「巡回に参りました」

ココが丁寧に頭を下げると、晴が優しく返した。

「ご苦労様です」

「私はこれで」

ココが踵を返そうとすると、晴が慌てて手を伸ばした。

「待って!」

「何か?」

ココが振り返り、首を傾げる。

「ここにいて」

晴の声が小さく震え、その瞳には不安が揺れていた。

「はい?」

ココが目を丸くして聞き返すと、晴は恥ずかしそうに言葉を続けた。

「晴は、一人じゃ、不安なんです」

ココは一瞬黙り、晴の顔を見つめた後、柔らかく微笑んだ。

「私も、今そう思ったよ」

「え? 駅員さんもですか?」

晴が驚いたように声を上げると、ココが苦笑しながら訂正した。

「駅員じゃないけどね。じゃ、お言葉に甘えて」

ココが晴の隣に腰を下ろした瞬間、ポケットから LINE通知音 が鳴り響いた。

ピロリン♪

「何だろ?」

ココがスマホを取り出し、画面を見ると、そこには緊迫したメッセージが。

 

『ココ、今すぐ逃げるのよ! もしRJの構成員や他の連中が遭遇しても戦う事は考えないで!』

 

「どーいう事? 他の連中?」

ココが眉を寄せ、混乱した声で呟く。

「私、知っています!」

晴が突然立ち上がり、ココを驚かせた。

「え……? あなたは?」

ココが目を丸くして尋ねると、晴が真剣な顔で続けた。

「多分恐らく、鳰ちゃんが送り込んだ刺客だと」

「鳰……え!!? あの時にいた公安の女性刑事!!!?」

ココの声が一気に跳ね上がり、驚愕が顔に広がった。

「知ってるんですか!?」

晴が目を輝かせて尋ねると、ココは気まずそうに頭をかいた。

「ごめん……私、その人に一回会って…」

二人の間に沈黙が流れ、車内の空気が一気に重くなった。晴の不安とココの困惑が交錯する中、LINEのメッセージが示す危機がすぐそこまで迫っていることを、二人はまだ完全には理解していなかった。喫煙室の扉の向こうで、何かが静かに動き始めている――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM20:40 警視庁

警視庁の執務室に、蛍光灯の薄い光が冷たく広がっていた。書類が山積みの机の前で、鳰が気まずそうに頭をかきながら呟いた。

「あちゃ~。晴ちゃんにはやっぱり敵いませんっスね」

彼女の声には軽い調子が混じっていたが、その瞳には微かな焦りがちらついている。

隣に立つ公安捜査官Aが、無言で彼女を一瞥し、淡々と尋ねた。

「で、どうします? 走り警視」

鳰は肩をすくめ、ちょっと投げやりな笑みを浮かべた。

「そうっスね~。ウチが知り合いの暴力団の構成員を送り込んだのが間違いだったっス。ま、イレギュラーが2人いたのは計画外だったっスけど」

彼女の言葉には、失敗を認めつつもどこか楽観的な響きがあった。

「……」

公安捜査官Aは黙ったまま、鳰の次の言葉を待つ。その無言の圧力が、執務室の空気をさらに重くした。

鳰はふと腕時計に目をやり、頭を振って気を取り直した。

「次の駅は確か……郡山駅ですね。各東北の警察が協力して動いたみたいっスから、今度こそは」

その声には、失敗を取り戻す決意と、かすかな希望が混じっていた。

窓の外では、東京の夜が静かに広がり、遠くで動く寝台特急『北斗星』の運命を見守るかのようだった。鳰の計画が狂った原因――晴の鋭さと「イレギュラーな2人」が何者なのか、彼女自身もまだ全貌を掴みきれていない。だが、次の郡山駅で全てが明らかになるのか、それともさらなる混乱が待っているのか……。

 

To be continued

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