PM20:45 寝台特急『北斗星』9番客車
9番客車の通路は、薄暗い照明の下でひっそりとしていた。窓の外を流れる夜の景色が、車内の静けさを一層際立たせている。直人たちは、一ノ瀬さんの安否を確かめるために足早に歩いていたが、ふと立ち止まった。
「あれ? 一ノ瀬さんは……」
直人が首を傾げ、周囲を見回した。彼女がいるはずの場所に姿が見当たらないことに、わずかな不安が胸をよぎる。
あおいが冷静に答えた。
「それが、やっぱりここにいるって」
その声には確信が込められていたが、直人は目を丸くして驚いた。
「えぇっ!?」
はるかが心配そうに呟いた。
「大丈夫ですよね」
彼女の声は小さく、どこか頼りなげだった。
翔が力強く頷き、安心させるように言った。
「女性公安隊員が付いているんだろ? 元・北朝鮮の工作員で」
その言葉には、ミランダへの信頼が滲んでいた。
あおいが肩をすくめ、皮肉っぽく付け加えた。
「ま、誰もいないよりはマシよね」
その一言に、車内の空気が一瞬和んだ。
その時、通路の奥から神田川がのんびりとした足取りで現れた。彼の顔には、いつものように飄々とした笑みが浮かんでいる。
「あれ? あれあれ? これはこれは第四警戒班の皆さん。お勤めご苦労様です」
その声は軽やかで、まるで日常の挨拶のようだった。
秋田が隣でニヤリと笑い、茶化すように言った。
「局長もすぐ前出ますよね」
神田川は苦笑いを浮かべ、秋田を軽く睨んだ。
「君は余計な事言わなくていいから。あ、それよりさ。飯田班長からさ、ねぇ。これ渡してくれって」
そう言って、彼は小さな包みを直人に手渡した。
直人が包みを受け取り、首を傾げた。
「何ですかこれ?」
「宇都宮餃子」
神田川が得意げに答えると、秋田が目を輝かせた。
「局長、分かってらっしゃる!」
香久山が静かに頷き、同意を示した。
「左様でございます」
神田川は満足そうに笑い、皆に視線を向けた。
「そうだろ? 皆そう思うでしょ? ね? ね?」
その様子は、まるで子供が褒められるのを待っているようだった。
あおいが冷たく切り込んだ。
「で、用件は?」
彼女の声には、冗談を続ける気はないという強い意志が込められていた。
神田川の表情が一変し、真剣な顔つきになった。
「あ、次は真面目な話ね。五能隊長から聞いたんだけど、東北線の何処かに爆弾仕掛けたらしいよ」
秋田が目を丸くし、驚きの声を上げた。
「それって爆弾テロじゃないですか!?」
香久山が軽く笑いながら言った。
「これは緊急事態ですな」
「笑いごとじゃないよ、君」
神田川が香久山をたしなめ、厳しい視線を向けた。
直人が真剣な顔で尋ねた。
「今の話、本当ですか?」
香久山が即座に反論した。
「何を言うかね君は! 局長は何一つ嘘言ってはないからね」
その言葉には、神田川への絶対的な信頼が滲んでいた。
はるかが控えめに尋ねた。
「今日は休暇で?」
神田川が苦笑いを浮かべ、頷いた。
「そうなのよ。今日は貴重な休暇使って接待旅行だよ」
秋田が茶化すように言った。
「小海元・総裁も接待するんでしょう?」
「そりゃあするに決まってるでしょ!」
香久山が即答し、神田川が困ったように笑った。
「いやね、急にばったり会ったもんだから私も戸惑っちゃったよ」
あおいが再び核心に迫った。
「爆弾を仕掛けた場所分かりますか?」
神田川が一瞬考え込み、記憶をたどるように呟いた。
「爆弾? あぁアレね。うん。アレ。うん確か…………」
その言葉は途中で途切れ、皆の視線が彼に集中した。果たして爆弾の場所はどこなのか――その答えが、物語の鍵を握っていることは間違いなかった。
To be continued