合同訓練の翌日。東京中央鉄道公安室は、いつもより重苦しい空気に包まれていた。
「桜井さん、高山さん、岩泉さんの三人は減給です」
奈々の淡々とした声が響き、直人、あおい、翔の3人は一瞬にして固まった。
「!?」
直人が目を丸くし、あおいは無言で唇を噛む。翔に至っては、驚きのあまり口が半開きだ。
桜井あおい、高山直人、岩泉翔――昨日、警視庁SATとの合同訓練で大暴れした3人は、見事に減俸処分を食らったのだ。
五能教官だって、さすがにこれには堪忍袋の緒が切れるだろう。そもそも、犯人役が特殊部隊を打ち負かすなんて、常識的に考えればありえない話だ。
それでも、あおいの異常な身体能力とチームワークがそれを可能にした――ある意味、彼女の実力を証明したとも言える。
「何を考えてるんだ、あの三人は……」
大湊室長が深いため息をつきながら書類を眺める。隣で伊勢崎がニヤニヤしながら口を開いた。
「しかしな、あの警視庁のSATを撃退したんですよ。普通の人間なら考えられませんって」
「そういうこと言ってるんじゃない!」
大湊室長がピシャリと遮る。
「犯人役なら犯人らしく、大人しく倒れればいいんだよ。訓練なんだからさ」
「まあ、とりあえずこの話は終わりにして、将棋でもどうですか?」
伊勢崎が気軽に提案すると、室長の目が鋭くなった。
「結構だ。私は君と違って忙しいんだよ」
冷たく言い放ち、室長は席を立った。
同じ頃、東京駅の新幹線22・23番ホームは通勤ラッシュでごった返していた。スーツ姿のサラリーマンや旅行客が次々と新幹線に乗り込む中、突然、異様な光景が広がった。
ホームの端から、男が線路に飛び降りたのだ。
「おい! 何やってるんだ! そこにいたら死ぬぞ!」
近くにいた男Aが叫ぶと、線路に立つ自殺願望の男が目を血走らせて叫び返した。
「うるせー! 俺はここで死ぬんだぁっ!」
「バカなことはやめるんだ! 親が悲しむぞ!」
駆けつけた駅員Aが必死に説得するが、男は耳を貸さない。
「死ぬんだよ!!」
「!!」
「俺はここで死ぬんだよ!」
男は完全に発狂していた。乗客や駅員には何を言っているのか理解不能で、ただただ騒然とするばかり。
駅員は慌てて鉄道公安隊に連絡しようとインカムに手を伸ばすが、その前に意外な人物が現れた。
「どうかしましたか?」
涼やかな声とともに現れたのは、警視庁SAT隊長・剣持しえな。たまたま通常勤務で近くを通りかかったらしい。
「あ、アンタ、警察の人? ちょうどよかった!」
駅員Aがすがるように説明を始めた。
「あの男、いきなり線路に飛び降りて『ここで死んでやる』とか叫んでるんだよ。何とかしてくれないか?」
しえなは一瞥で状況を把握し、冷静にホームの端に進み出た。
「電車に乗るお客様が迷惑してるだろ! 早く線路から上がれ!」
毅然とした声で言い放つが、男はさらにヒートアップするだけだった。
「うるせー!! 俺も、皆も、全員ここで死ぬんだよ!!」
「……相当狂ってるな。早く何とかしないと」
しえなは小さくつぶやき、迷わず線路に飛び降りた。そして、暴れる男の腕をガッと掴み、無理やりホームに引きずり上げる。
「は、離せぇーっ! はよ離さんかい!」
男がじたばた暴れるが、しえなの力は揺るがない。
「黙れ。さっきの訓練で負けた腹いせじゃないんだからな」
彼女の頭には、昨日の屈辱――國鉄公安隊にあっさりやられた記憶がチラリとよぎっていた。
To be continued
話終盤に出てきた男は『帰宅ラッシュの線路の上で叫びながら石を投げる男』が元ネタです。YouTubeで検索したら出てきますよ。興味ある方は是非・・・ホント迷惑極まりないですね(ーー;)