東北線爆破未遂事件から数か月が経ち、東京の喧騒はいつもの日常を取り戻していた。季節は冬へと移り、街路樹の葉が落ち、冷たい風がコンクリートの隙間を抜けていく。そんな中、直人たち第四警戒班のメンバーもまた、それぞれの生活に戻っていた。
東京駅 喫茶店「銀座の灯」
東京駅近くの小さな喫茶店「銀座の灯」。窓際の席で、直人は温かいコーヒーを手に持っていた。向かいにはあおいが座り、新聞をパラパラとめくっている。店内にはジャズが静かに流れ、穏やかな時間が流れていた。
「なぁ、桜井。あの事件からだいぶ経つけどさ、やっと落ち着いた感じがするよ」
直人がカップを置いて、軽く笑った。事件の疲れがようやく癒えつつあるようだ。
「そうね。でも、新聞じゃ警視庁の手柄になってるのがちょっと引っかかるけど」
あおいが新聞を畳み、肩をすくめた。彼女の声には、微かな不満が滲んでいる。
「まぁ、俺たちが無事ならそれでいいよ。日の丸一生安泰人生はまだ諦めてないし!」
直人が拳を握って気合を入れると、あおいが苦笑した。
「アンタ、懲りないわね」
その時、店のドアがカランと鳴り、翔とはるかが入ってきた。
「おう、高山、桜井。遅れた!」
翔が豪快に手を振ると、はるかが小さく頭を下げた。
「あ、すみませんでした……」
「いいよ、座って座って」
直人が笑顔で二人を迎え、四人はテーブルを囲んだ。
「そういえば、走り警視はどうしてるんだろ?」
翔がコーヒーを一口飲んで、ふと思い出したように尋ねた。
「ドイツ大使館に行ったっきりらしいよ。國鉄の過去を調べるって張り切ってたみたい」
あおいが答えると、直人が首を振った。
「相変わらず動き回ってるなぁ。あの人は止まらないね」
「小海のおじい様は?」
直人がはるかに目をやると、彼女が少し照れながら答えた。
「おじい様は元気です。最近は接待より、家で将棋にハマってるみたいで……」
その言葉に、皆が笑い声を上げた。
「で、岩泉は?」
あおいが翔に尋ねると、彼が胸を張った。
「俺か? 最近、訓練増やしてんだ。次何かあったら、もっと活躍してやるぜ!」
その頃、警視庁公安部の執務室では、香子が机に向かい、膨大な資料に目を走らせていた。彼女の手元には、國鉄の歴史を記した古いファイルが山積みになっている。窓の外では雪がちらつき、部屋に冷たい静寂をもたらしていた。
「杉浦喬也の暗殺……民営化の裏側……まだ何か隠れてるな」
香子が呟き、ペンを手に持ったまま考え込んだ。彼女の瞳には、真相を追い求める執念が宿っていた。
一方、ドイツ大使館の一室では、鳰がドイツ連邦情報局の職員と向き合っていた。
「RJの動き、ドイツ側でも掴んでるんスよね? 情報共有しましょーよ」
鳰が軽い調子で言うと、職員が渋い顔で頷いた。
「検討しますが、条件付きですよ」
「へいへい、了解っス」
鳰が笑って手を振ると、彼女の背後で新たな計画が動き始めていた。
喫茶店を出た直人たちは、東京駅のコンコースを歩いていた。
「そういえば、札沼はどうしてるかな?」
直人が呟くと、あおいが答えた。
「元気よ。最近、食堂車のアテンダントに戻ったって連絡あったわ」
その時、人混みの中から聞き覚えのある声が響いた。
「高山君!」
振り返ると、まりが笑顔で手を振っていた。彼女の隣には、エルヴィラが穏やかな表情で立っている。
「おお、札沼! エルヴィラさんも!」
直人が駆け寄ると、まりが嬉しそうに頷いた。
「うん、やっと落ち着いて仕事に戻れたよ」
「私は少し休暇を取るつもりよ。ドイツに帰って、昔の仲間と会う予定」
エルヴィラが言うと、直人が目を丸くした。
「ドイツ? まさか走り警視と会うんじゃないですよね?」
「さぁ、どうかしらね」
エルヴィラが笑うと、皆が顔を見合わせて笑い合った。
穏やかな時間が流れる中、遠くの空では暗雲が広がり始めていた。RJの残党、ドイツの動き、そして國鉄の過去に隠された真実――。直人たちの知らないところで、新たな戦いの火種が静かに燃え始めていた。
「さて、次は何が起こるかな?」
直人が呟くと、あおいが肩を叩いた。
「アンタ、また巻き込まれる気満々ね」
「やめてくれよ~!」
直人の叫びに、仲間たちの笑い声が東京駅のコンコースに響き渡った。
End of Chapter 2 Continued in Chapter 3