RAILJACK   作:マブラマ

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混沌の世界

2020年8月28日 

首相官邸

 

「國鉄を立て直す……それが私の使命だ」

安倍晋三総理大臣は、執務室の窓辺に立ち、遠くの夜景を見据えていた。小海総裁を解任し、第4次内閣で國鉄問題に挑んだ彼だったが、その道は険しすぎた。借金は増え続け、国民の不満は収まらず、RJのテロが影を落とす。

だが、その決意も長くは続かなかった。2020年8月28日、複数のメディアが衝撃的なニュースを報じた。

「安倍首相が辞任する意向を固めた」

臨時閣議の後、首相官邸での会見。安倍は疲れ果てた顔でマイクの前に立った。

「持病の潰瘍性大腸炎が再発し、体力が万全でない中で政治判断を誤るわけにはいかない。国民の負託に応えられない以上、総理の地位に留まるべきではない」

声は震え、言葉の端々に苦悩が滲む。

「コロナ禍の中、職を辞することに心よりお詫び申し上げます」

深々と頭を下げた彼の背後で、國鉄の未来はさらに暗闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年7月8日 

奈良県大和西大寺駅前

 

安倍は総理の座を退いた後も、政治への情熱を失っていなかった。2022年7月8日、第26回参議院選挙の応援演説のため、奈良県の大和西大寺駅前に立っていた。

「日本を強くする! そのために私は――」

熱弁を振るう彼の背後で、群衆の中に不穏な影が動いた。

バン! バン!

乾いた銃声が響き渡り、安倍の体が前のめりに崩れ落ちる。手製銃から放たれた2発のうち、2発目が彼の心臓を貫いた。

「安倍さんが撃たれた!」

群衆が悲鳴を上げ、混乱が広がる中、41歳の男がその場で警察に取り押さえられた。

奈良県立医科大学附属病院に運ばれた安倍は、心肺停止状態で懸命の蘇生措置を受けた。だが、17時3分、失血死によりその生涯を終えた。67歳だった。

「安倍晋三……死す」

病院の廊下に響いた医師の言葉は、日本全土に衝撃を与えた。

 

逮捕された男は、動機をこう語った。

「特定宗教団体への恨みだ。安倍はその関係者だった」

その団体が世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)であると報じられると、世論は沸騰。安倍と教団の関係に疑惑の目が向けられた。

7月11日、政府は安倍を従一位に叙し、大勲位菊花章頸飾と大勲位菊花大綬章を授与。葬儀は増上寺で執り行われ、彼の戒名「紫雲院殿政譽清浄晋寿大居士」が刻まれた位牌が静かに安置された。

だが、安倍の死は國鉄に新たな混乱をもたらした。彼が辞任した後も立て直しを試みた國鉄は、指導者を失い、さらに借金が増加。RJの過激派はこれを好機とみなし、テロを加速させた。

「安倍が死んだ今、國鉄を潰すのは俺たちだ!」

RJの隠れ家で、過激派の声が響き合う。

葛西は国家公安委員として、松田はRJ穏健派として、それぞれ安倍の死に衝撃を受けながらも立ち上がった。

「安倍さんが残したものを守る。それが俺たちの役目だ」

葛西の瞳に決意が宿るが、國鉄の未来は依然として暗闇の中だった。

 

安倍晋三の死は、日本に深い傷を残した。國鉄の借金は膨らみ続け、RJのテロが日常化し、政治は不安定さを増す。

大和西大寺駅前の血痕は洗い流されたが、その衝撃は消えることなく、國鉄と日本の運命を揺らし続けていた。

「次はお前が死ぬ番だ、國鉄!」

RJの過激派が闇の中で笑う中、葛西と松田はそれぞれの信念を胸に、混沌の未来へと歩み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年 

國鉄本社ビル近くのカフェ

 

 

薄暗いカフェの片隅で、鳰がコーヒーを片手に資料を広げていた。彼女の目の前には、神長香子管理官が鋭い視線を向けている。

「これが全て真実っスよ」

鳰が軽い口調で切り出した。彼女の手にはストローでかき混ぜたアイスコーヒーが握られている。

「つまり、民営化に反対してた日本赤軍と名乗る連中が、杉浦総裁を暗殺したって訳か」

香子が低く呟き、顎に手を当てて考え込む。彼女の瞳には、過去の血塗られた歴史が映し出されているようだった。

「そうっスね。そして、それを指示したのが小海総裁って噂されてるんスけど、本人は頑なに否定してますね~」

鳰が肩をすくめて続ける。彼女の声は軽やかだが、その裏には重い事実が潜んでいる。

「國鉄民営化を推進した人たちは?」

香子の質問に、鳰が一瞬目を細めた。

「自殺した職員もいれば、RAILJACKに入った幹部もいたっスね。まぁ、どっちにしろ散々な末路っスよ」

鳰が苦笑いを浮かべ、コーヒーを一口飲む。RJ……警視庁コードネームはRAILJACK――その名は、國鉄を乗っ取る「鉄道ジャック」を意味していた。

「……」

香子が黙り込んだ。彼女の眉間に深い皺が刻まれ、何かを予感するような表情が浮かぶ。

「どーしたんスか?」

鳰が首をかしげて尋ねると、香子がゆっくりと立ち上がった。

「何かが起こるような気がする」

香子の声は低く、まるで嵐の前の静けさを予告するようだった。

「何処行くんスか、神長管理官?」

鳰が慌てて呼びかけるが、香子は振り返らずに答えた。

「お前には教える必要はない」

その言葉を残し、香子はカフェのドアを押し開けて外へ消えた。彼女の背中からは、決意と不安が混じった空気が漂っていた。

窓の外を走る列車の音が、カフェに静かに響く。鳰は一人残され、コーヒーカップを手にぼんやりと呟いた。

「何かが起こる、か……確かに、空気が重いっスね」

2024年、國鉄は借金の重圧とRJのテロに追い詰められていた。杉浦総裁の暗殺から始まった因縁は、未だに解けぬまま現在へと続いている。

香子が感じた「何か」は、すぐそこまで迫っているのかもしれない。國鉄の未来を巡る戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

國鉄本社ビル周辺 夜

神長香子はカフェを出た後、足早に夜の街を進んでいた。冷たい風が彼女のコートをはためかせ、遠くで列車の汽笛が不気味に響く。彼女の頭の中では、鳰の言葉がぐるぐると渦巻いていた。

日本赤軍、杉浦総裁の暗殺、小海総裁の関与疑惑……そしてRJ。

「何かが起こる」と感じた直感は、ますます強くなっていた。

香子が國鉄本社ビルの裏手に差し掛かった時、暗闇の中から低いエンジン音が聞こえてきた。彼女は反射的に物陰に身を隠し、目を凝らす。黒いバンがゆっくりと停まり、中から数人の人影が降りてきた。顔はマスクで隠され、手には明らかに武器らしきものが見える。

「RJか……!」

香子が息を呑む。RJが、ここで何かを企んでいるのは間違いない。彼女はそっとスマートフォンを取り出し、録画ボタンを押した。

「今夜が決行日だ。國鉄本社を爆破して、奴らに終わりを告げる」

リーダーらしき男が低い声で指示を出す。仲間たちが頷き、バンから重そうなバッグを運び始めた。中身は――おそらく爆薬だ。

香子の心臓が早鐘を打つ。

「ここで動かなければ、國鉄が……いや、日本が終わる」

彼女は決意を固め、静かにその場を離れた。助けを呼ぶか、自分で止めるか――時間は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 カフェ

 

鳰はカフェの席で、香子が残した空気をぼんやりと感じていた。アイスコーヒーの氷が溶け、カップの中で小さく音を立てる。

「神長管理官、急に何処行ったんスかね……?」

彼女が呟いた瞬間、スマートフォンが振動した。画面には非通知設定の着信が表示されている。

「はい、走りっス」

電話に出ると、ドイツ人女性の声が聞こえてきた

《走り鳰ね?》

「そうスけど、誰スか?」

鳰は当然、ドイツ人女性の事は知らない

《あなた達の過去は全部調べさせて貰ったわ。10年前、とんでもない事やってたそうね―――明星学園の黒組裁定者を》

鳰は驚きもせず冷静に言い放った

「へー、よく調べましたね。その通りっスよ。10年前、ウチは黒組の裁定者として一ノ瀬晴という当時、女子高生だった彼女を巡り殺し合いさせたんスけど、それがどうかしましたスか?」

《開き直るのね……》

「もう一度聞きますけど、アンタは誰なんスか?何故ウチや黒組のメンバーのことを?誰の差し金なんスか?」

《ふふふ、そのうち分かるわ―――私はホーエンシュタイン。リィズ・ホーエンシュタイン》

「……ホーエンシュタイン――――何が目的スか?」

《あなたなら分かるはずよ?自分で考えなさい》

リィズと名乗る女性から一方的に電話を切られ、鳰は慌ててコートを掴み、カフェを飛び出し、夜の街へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

國鉄本社ビルの周辺では、RJの影が静かに動き始めていた。爆薬の準備が整い、彼らのリーダーが冷たく笑う。

「杉浦の夢を潰したように、今度は國鉄そのものを消してやる」

その時、ビルの屋上から見下ろす一人の影があった。香子だ。彼女の手には拳銃が握られ、瞳には決意が宿っている。

「ここで私が止めなきゃ……誰が國鉄を守るんだ?」

夜空に列車の汽笛が響き、2024年の國鉄は存亡の危機に瀕していた。香子、鳰――それぞれの想いが交錯する中、爆発までのカウントダウンが始まろうとしていた。

 

To be continued

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