RAILJACK   作:マブラマ

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復讐の終わり

東京湾岸警察署内 夜

 

東京湾岸警察署の無線室で、鳰が貝塚博彦をロープで縛り上げていた。彼女のナイフが床に転がり、貝塚の自動小銃が無力に横たわる。鳰が軽く息を吐き、呟いた。

「ウチの裁定はこれで終わりっスね。アンタ、静かにしててください。後はプロに任せるから」

貝塚が歯軋りしながら睨みつけるが、もはや抵抗する力は残っていなかった。

「お前如きが……俺の復讐を止められると思うなよ……!」

その言葉が途切れた瞬間、無線室のドアが勢いよく蹴り開けられた。

「SATだ! 動くな!」

剣持しえなが拳銃を構え、SAT隊員を引き連れて突入してきた。彼女の背後には、神長香子と五能瞳が続き、それぞれの武器を手に署内を見渡す。

「剣持さん、神長さん、五能さん……遅いっスよ。ウチ、もう片付けちゃったっス」

鳰が軽い口調で言いながら、縛られた貝塚を指差す。彼女の一人称「ウチ」が、緊迫した場面に奇妙な軽さをもたらしていた。

しえなが鳰を見て、一瞬目を丸くした。

「走り……お前、なんでここに!?」

彼女の声には驚きと苛立ちが混じっている。貝塚との因縁を持つしえなにとって、鳰の介入は予想外だった。

「ウチ、裏口から入っただけっス。貝塚が國鉄を狙ってるって聞いて、裁定者として放っておけなかっただけっスよ~」

鳰が肩をすくめると、香子が前に出て鋭く問うた。

「走り、お前が貝塚を押さえたのか? 」

香子の瞳には鳰への信頼が微かに光っていた。

「神長、細かいことは後だ。走り警視が貝塚を止めてくれたなら、結果オーライだ」

五能が冷静に割って入り、縛られた貝塚に近づく。彼女が無線で鉄道公安機動隊に報告を始めた。

「本部、こちら五能。貝塚博彦を確保。署内の人質救出と爆薬処理を急げ」

しえなが貝塚を見下ろし、低い声で呟く。

「貝塚、10年ぶりだね。ボクを潰そうとしたお前が、今度はこんな形で終わるなんて……皮肉だよ」

貝塚が剣持を睨み、吐き捨てるように言った。

「剣持……お前がSATだろうが、ボクの復讐は終わらない……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタの復讐はここで終わりっスよ。ウチが裁いたんだから」

鳰が冷たく言い放ち、しえなに視線を移す。

「剣持さん、後はウチら明星の絆で片付けてくれるスね?」

しえなが小さく頷き、SAT隊員に指示を出した。

「貝塚を連行しろ。人質の安全確認と爆薬の処理を急げ。ボクが責任を取る」

香子が鳰に近づき、肩を軽く叩く。

「走り、お前らしい無茶だな。だが、今回は助かったよ」

彼女の言葉に、鳰がニヤリと笑った。

「香子さん、褒められると照れるっスよ~」

五能が無線を終え、三人を見やる。

「感傷は後にしろ。署内の制圧が終わったら、RJと『集団下校』の残党の全貌を暴く。國鉄を守る戦いはまだ続く」

署内では、SATと鉄道公安機動隊が人質を救出し、爆薬を無力化していく。貝塚の復讐劇は鳰の手によって終わりを迎えたが、その背後にあるRJの影は依然として消えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京湾の夜空に、サイレンの音が遠く響く。しえな、香子、五能、そして鳰――四人の視線が交錯し、それぞれの決意が静かに燃え上がる。貝塚を拘束した今夜は、一つの戦いの終わりであり、新たな戦いの序章だった。

「ウチ、ちょっと疲れたっスね。でも、國鉄のためならまた動くっスよ」

鳰が軽く伸びをしながら呟くと、剣持が小さく笑った。

「ボクもだよ、走り。明星の絆は強いね」

署の外で、海風が冷たく吹き抜ける中、四人は次の戦いへと備え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

東京鉄道公安隊第四警戒班詰所 昼下がり

 

東京鉄道公安隊第四警戒班の詰所は、穏やかな昼下がりの陽光に照らされていた。窓の外では、列車がレールの上を静かに滑り、平和そのものの空気が漂っている。

高山直人は、詰所のソファにだらしなく腰かけ、温かいお茶を手にニヤニヤしていた。

「平和だな~。こーいう時は中でお茶飲むのが一番だよな~」

彼の声はゆるゆるで、まるで春の陽気のように力が抜けている。鉄道公安隊の制服すら、どこかだらっと着崩れているのが直人らしい。

その言葉に、隣に立つ桜井あおいが眉を吊り上げて突っ込んだ。

「何!? 年寄り臭いこと言ってんのよ、高山!」

あおいの声は鋭く、制服の襟をきっちり立てた彼女は、直人のゆるさとは正反対のキリッとした雰囲気を放っている。

直人がお茶をすすりながら、あおいにニヤリと笑いかける。

「桜井もこー思わないか? 何も起こらないときはさ、お茶飲んでしんみりするのが一番ってこと」

彼の手元のカップから湯気が立ち上り、まるで平和の象徴のようだった。

「全然! 早く何か事件起こらないかなーって思うわ! 平和すぎて退屈で死にそう!」

あおいが腕を組んでそっぽを向く。彼女の瞳には、事件を待ち望む炎がチラチラと燃えていた。

「今日は起こらないと思うぞ。あー、しんみりするなー」

直人が再びお茶を啜り、のんびりした空気を楽しもうとしたその瞬間――

「高山君!」

ドアが勢いよく開き、小海はるかが息を切らして飛び込んできた。彼女の長い髪が揺れ、制服のスカートが少し乱れている。

「小海さん! どーしたの?」

直人がカップを置いて立ち上がり、驚きの声を上げる。あおいもまた、はるかの方へ鋭い視線を向けた。

はるかが息を整えながら、急いで報告した。

「丸の内地下通路で痴漢に遭った人がいるわ! 今すぐ動かなきゃ!」

「なぁっ!!?」

直人が目を丸くして叫び、カップをテーブルに叩きつける。お茶が少しこぼれ、彼の平和な時間が一瞬で崩壊した。

「痴漢!!? 絶対に許せないわ!!!!」

あおいが拳を握り潰し、怒りに燃える瞳で立ち上がる。彼女の声は詰所全体に響き渡り、まるで正義の戦士が覚醒したかのようだった。

「何!? 痴漢だと!? 丸の内地下通路って、すぐ近くじゃんか!」

直人が慌てて制服の襟を直し、腰に下げた警棒を握る。彼の顔から平和ボケが消え、鉄道公安隊員としてのスイッチが入った。

「早く行くわよ、直人! はるか、被害者は無事!?」

あおいがはるかに詰め寄り、勢いよくジャケットを羽織る。彼女の動きは素早く、すでに戦闘態勢だ。

「うん、被害者は駅員に助けられてるけど、犯人が逃げてるみたい! 今ならまだ捕まえられるわ!」

はるかが急いで説明し、三人の視線が交錯する。

「よし、第四警戒班、出動だ! お茶は後でいいな!」

直人が叫び、あおいとはるかを従えて詰所を飛び出した。

「当たり前でしょ! 痴漢なんて許さないんだから!」

あおいが走りながら怒鳴り、はるかがその後ろで頷く。

「高山君、桜井さん、急いで! 國鉄の安全は私たちにかかってるんだから!」

詰所の外で、夕陽がレールに反射する中、三人は丸の内地下通路へと疾走した。平和な昼下がりは終わり、東京鉄道公安隊第四警戒班の新たな戦いが幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丸の内地下通路は、帰宅ラッシュの喧騒に包まれていた。地下の薄暗い照明の下、被害者の女性が震える声で訴える。

「この人が私の胸やお尻に触ったんです!」

彼女の指差す先には、汗だくで慌てふためく男性Aが立っていた。

そこへ、東京鉄道公安隊第四警戒班の高山直人、桜井あおい、小海はるかに加え、婦警の麦野亜美が颯爽と現れた。亜美が鋭い目つきで男性Aを睨みつける。

「その痴漢魔はアイツって訳ね」

「違う! 俺は触ってない!!」

男性Aが必死に弁解するが、亜美は冷たく切り捨てた。

「信用できないわ。事務所でじっくり話してもらうわよ」

「そ、そんな~!」

男性Aが情けない声を上げる中、あおいが勢いよく前に飛び出した。

「痴漢魔は誰なの!!?」

彼女の瞳は怒りに燃え、正義感が爆発していた。

「あいつよ!」

亜美が男性Aを指差すと、あおいがニヤリと笑い、拳銃を構えた。

「射殺していい?」

「好きにしなさい」

亜美があっさり許可すると、あおいが引き金に指をかける。

「じゃ、遠慮なく!」

「何やってるんだ!! 桜井!!」

直人が慌ててあおいの腕を掴み、叫んだ。彼の顔は真っ青で、平和主義者の魂が悲鳴を上げていた。

「高山! あんな屑みたいな人間を放っとくつもり!!?」

あおいが直人を睨み返し、怒りが収まらない様子だ。

「そうよ! 痴漢する奴が悪いに決まってるわ!!」

亜美が援護射撃のように加勢し、二人で直人を圧倒する勢いだった。

「だとしても、公共の場で人を撃つなんてダメだろ!!!!」

直人が声を張り上げ、必死に二人を止めようとする。

「……婦警さんに許可もらったからいいでしょ! このぐらい!」

あおいがムッとして言い返すが、直人が呆れた顔で亜美を指差した。

「何を考えとるんだ! あの婦警は!?」

「痴漢撲滅のためだったら手段は選ばないわよ」

亜美が胸を張って言い放つと、直人が額を押さえた。

「ここは示談って形で――」

「示談!!? は? アンタさ、示談で済んだら鉄道公安隊員はいらねぇんだよ! このトンチキ!!」

亜美が一気にまくし立て、直人をトンチキ呼ばわり。彼女の勢いに、直人がたじろぐ。

「私はね、鮭弁のためだったら何でもするわ!」

亜美が突然の告白をぶちまけると、背後から落ち着いた声が響いた。

「へぇーっ。それは良い心掛けね」

声の主は、東京駅前交番勤務部長である典子だった。彼女が腕を組んで立っている姿に、亜美が目を丸くする。

「部長!! いたんですか!!?」

「いたのも何も、最初から見てたわよ」

典子が冷ややかに言うと、亜美が気まずそうに黙り込んだ。

「麦野、アンタにいいモノあげるわ」

典子がニヤリと笑うと、亜美の顔がパッと明るくなった。

「鮭弁ですか!?」

「始末書50枚。早く提出しなさい」

典子の言葉に、亜美が一瞬固まり、すぐに逃げ腰になる。

「後でやりますから! パトロールに行ってきまーす!!」

彼女が走り去ろうとすると、典子が鋭く呼び止めた。

「あ、待ちなさい! 麦野!!」

その隙に、あおいが再び男性Aに目を向ける。

「あ、それよりこいつを連行……いや、射殺を――」

「あのね、白昼堂々人を射殺する警察官がどこにいるの?」

典子が呆れた声で遮り、あおいの動きを止めた。

「ま、いいわ。この男は痴漢の常習犯だし、署に連行するわよ」

直人がホッと息をつき、典子に頭を下げる。

「あとは警察の方に任せます」

「署で詳しく話してもらうわよ」

典子が男性Aに近づき、彼を連行する準備を始める。男性Aは涙目でうなだれていた。

「グウウ……」

通路の喧騒が収まりつつある中、直人があおいに小声で呟いた。

「桜井、お前、ちょっと冷静になれよ……」

「高山、あんな屑を許すなんてありえないから!」

あおいがムスッと返すが、典子の冷静な対応に渋々従うしかなかった。

丸の内地下通路に静けさが戻り、被害者女性が警官に保護されていく。直人は疲れた顔で肩を落とし、あおいはまだ不満げに拳を握っていた。

「平和が一番だな~」

直人の呟きに、あおいが鋭く睨みつける。

「次は射殺するからね!」

典子が遠くで亜美を追いかけながら、事件はひとまず収束した。だが、第四警戒班の日常は、こんな騒動が続く予感に満ちていた。

 

To be continued

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