RAILJACK   作:マブラマ

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平和の裏

2025年 東京鉄道公安隊第四警戒班詰所 夕方

 

丸の内地下通路での痴漢事件を終え、東京鉄道公安隊第四警戒班のメンバーが詰所に戻ってきた。ドアがガチャリと開き、高山直人が疲れた声で叫ぶ。

「ただいま戻りましたー!」

彼の制服は少し乱れ、肩を落とした姿が平和主義者の疲労を物語っていた。

詰所の中では、小海はるかと奈々が二人を出迎える。

「二人ともお疲れさま」

奈々が穏やかな笑顔で言うと、はるかも優しく頷いた。

「お疲れさま」

直人がソファにドサッと腰を下ろし、大きく息を吐く。

「あーっ、もう少しで大騒ぎになるところだったよ」

その言葉に、桜井あおいがムッとした顔で反応した。

「それって私のこと!?」

彼女の瞳が怒りに燃え、直人を鋭く睨みつける。

「お前以外に誰いるんだ!!?」

直人が即座に言い返し、二人の間に火花が散った。

「痴漢魔は撲滅すべきよ! それ以外に何やるの!?」

あおいが拳を握り、正義感を爆発させる。彼女の怒りに合わせて髪をピンと跳ねていた。

直人が目を細め、あおいの腰に下げた拳銃に視線を移す。

「桜井、お前、まさかと思うが……弾丸全部装填してるのか!!?」

「え!? 別にいいじゃない! 支給品だし!」

あおいが平然と返すと、直人が頭を抱えた。

「弾は基本的に3発と決まってるんだぞ! お前、詰所で何企んでるんだ!」

「まぁまぁ、喧嘩はそのくらいにして、お茶でも飲んで」

奈々が仲裁に入り、穏やかな声で二人をなだめる。彼女がトレイに載せたお茶をテーブルに置くと、詰所にほのかな湯気が漂った。

その時、詰所のドアが再び開き、聞き慣れた声が響いた。

「おっ! 相変わらず騒いでるわね」

剣持しえなが颯爽と入ってきた。彼女の後ろには、武智乙哉がニコニコしながら手を振る。

「やっほー!」

直人が驚いた顔で二人を見やる。

「あ、剣持さんに武智さん、どーかしたんですか?」

「ボクは休暇だよ。久々だから羽伸ばそうかと思ってね」

しえながラフな口調で答え、詰所のソファに腰を下ろす。彼女の一人称「ボク」は控えめだが、SAT隊長の威厳は健在だった。

「何でここに来たんです? 警察関係者から連絡あったら……」

直人が心配そうに尋ねると、しえなが軽く手を振って遮った。

「心配するな。こっちは他の人に任せてるよ。あまり詮索するな」

彼女の言葉に、どこか含みのある笑みが浮かんでいた。

乙哉がソファの背もたれに寄りかかり、楽しそうに口を挟む。

「しえなちゃんが『第四警戒班の騒がしさを見たい』って言うからさ、ついてきちゃった!」

「騒がしいのは桜井だけでいいよな~」

直人がお茶を啜りながらぼやくと、あおいが即座に反撃した。

「高山! アンタだって平和ボケしてるだけで役に立たないじゃない!」

「はいはい、お茶でも飲んで落ち着きなさいって」

奈々が再び仲裁に入り、詰所に笑い声が響く。

しえながソファに深く座り、詰所の喧騒を眺める。

「ボクがSATで忙殺されてる間に、こっちは相変わらずだね。少し羨ましいよ」

はるかがお茶を配りながら、穏やかに微笑んだ。

「剣持さん、武智さんもお疲れさまです。たまにはこうやって休むのも大事ですよね」

直人が頷き、お茶を手にしみじみ呟く。

「あー、やっぱり何も起こらないときはお茶が一番だな~」

「高山! またそれ!?」

あおいが突っ込み、詰所は再び賑やかな空気に包まれた。しえなと乙哉の来訪で、第四警戒班の日常に一瞬の彩りが加わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警視庁屋上 夕暮れ

 

警視庁の屋上は、夕陽に染まる東京のビル群を見下ろす静かな場所だった。風が冷たく吹き抜け、神長香子の髪を軽く揺らす。彼女は警視庁警備部警備第一課警備現場第1係の警視として、屋上の柵にもたれ、遠くを見つめていた。

その背後に、鳰がひょっこりと現れる。彼女の足音がコンクリートに軽く響き、香子に声をかけた。

「神長管理官」

鳰の声はいつもの軽さを含んでいるが、どこか落ち着いたトーンだった。

香子が振り返り、鋭い視線を鳰に投げる。

「何だ?」

彼女の言葉は短く、管理官らしい威厳が滲んでいた。

鳰が一瞬目を泳がせ、ニヤッと笑って首をかしげる。

「いや、何でもないっス」

彼女の一人称「ウチ」が省略された軽い口調が、屋上の静寂に響いた。

「……走り」

香子が低い声で呟き、鳰をじっと見つめる。彼女の勘は、些細な違和感を見逃さない。

「何か隠してるな?」

鳰が慌てたように手を振って否定する。

「別に隠してる事なんてないっスよ! ウチ、そんな怪しい奴じゃないっスから~」

彼女の声に少し焦りが混じり、夕陽に照らされた顔が微妙に強張っていた。

香子が柵から体を起こし、鳰に一歩近づく。彼女の瞳が鳰の表情を捉え、逃がさないように見据えた。

「お前がそんな言い方する時、大抵何か企んでる。東京湾岸の時だって、裏口から勝手に入ったろ」

香子の言葉には、過去の鳰の行動を思い出した苛立ちと、どこか信頼が混じっていた。

「うっ、それは……ウチの裁定者魂が疼いただけっスよ! 神長管理官だって、國鉄守るために無茶したじゃないスか!」

鳰が反論しつつ、香子から視線を逸らす。彼女の手がポケットの中でモゾモゾ動いているのが、香子の目に留まった。

「その手、何だ?」

香子が鋭く指摘すると、鳰がビクッと肩を震わせた。

「何でもないっス! ただポケットに手入れてただけっスよ~!」

鳰が慌てて手を引っ込め、誤魔化すように笑う。だが、香子の目はさらに鋭さを増した。

「走り、正直に言え。お前、何か知ってるな?」

香子が詰め寄ると、鳰が後ずさりながら苦笑いを浮かべる。

「ウチ、ほんと何でもないっスって! ただ、神長管理官の顔見に来ただけっスよ~。夕陽が綺麗だからさ!」

香子が一瞬黙り、鳰の言葉を吟味するように目を細めた。

「……そうか。ならいい」

彼女が踵を返し、再び柵にもたれる。だが、その背中からは「見逃してやるが、次はないぞ」という無言の圧力が漂っていた。

鳰がホッと息をつき、小声で呟く。

「ウチ、やっぱ神長管理官には敵わないっスね……」

彼女のポケットには、何か小さな紙が隠されていたが、それは夕陽の影に紛れて見えなかった。

屋上に吹く風が二人の髪を揺らし、警視庁の喧騒から離れた静かな時間が流れる。だが、香子の勘と鳰の秘密が、微妙な緊張感を残していた。

警視庁の屋上は、夕陽が地平線に沈みかけ、オレンジと紫が混じる空に染まっていた。神長香子は柵にもたれ、遠くのビル群を眺めながらも、背後の鳰の気配を鋭く感じ取っていた。鳰の「何でもないっス」という言葉が、香子の勘に引っかかり続けている。

鳰は少し離れた場所で、風に髪をなびかせながらポケットに手を突っ込んでいた。彼女の軽い笑顔とは裏腹に、その指先は何か小さな紙を握り潰している。

「神長管理官、夕陽ってほんと綺麗っスね~。ウチ、こういう時間好きなんスよ」

鳰がわざとらしい明るさで言うと、香子がゆっくり振り返った。

「走り、お前がそんな詩的なこと言うなんて珍しいな。隠してるのがバレバレだぞ」

香子の声は低く、まるで獲物を仕留める猟犬のような鋭さが滲んでいた。

「うっ、またそれっスか! ウチ、ほんと何も隠してないっスって!」

鳰が慌てて手を振るが、その動きでポケットから紙片が一瞬覗いた。風に煽られ、それがヒラリと舞い、屋上のコンクリートに落ちる。

「何だ、あれは?」

香子が瞬時に反応し、紙片に目をやる。鳰が「あっ!」と声を上げて拾おうとするが、香子の方が一歩速かった。彼女が紙を拾い上げ、鋭い視線で内容を確認する。

紙には、手書きで殴り書きされた文字が並んでいた。

『RJ残党、湾岸で再結集。貝塚の次の計画、近日中』

短い文だったが、その意味は重い。香子の眉がピクリと動く。

「走り、これは何だ?」

香子の声が冷たく響き、鳰に突きつける。彼女の瞳は、管理官としての威圧感で鳰を圧倒していた。

「そ、それは……ウチが偶然拾ったメモっスよ! ほんとっス!」

鳰が必死に弁解するが、香子の視線は緩まない。

「偶然拾った? お前、東京湾岸警察署の事件の後、何か嗅ぎ回ってたろ。RJと貝塚の動きを追ってるのか?」

香子が一歩近づき、鳰を追い詰める。彼女の勘は、鳰の軽い態度の下に隠された真実を見抜いていた。

「うっ、神長管理官には敵わないっスね……。実は、ウチ、ちょっと気になってただけっス。貝塚が拘束された後も、RJの動きが止まらないって噂があって……」

鳰が観念したように肩を落とし、正直に話し始めた。

「ウチ、裁定者だった頃の癖でさ、変な動き見逃せないんスよ。湾岸の事件の後、街で変な噂聞いて、このメモ拾ったんス。RJの残党がまた何か企んでるっぽいっスけど、確信なくて……神長管理官に言うか迷ってたんス」

鳰がポケットから手を出し、正直に打ち明ける。彼女の軽い口調の中にも裁定者としての責任感が滲んでいた。

香子が紙片を握り潰し、鳰を見据える。

「走り、お前がそんな大事な情報隠してたなら、警視庁の屋上じゃなくて取調室で話す羽目になってたぞ。次からはすぐ報告しろ、分かったな?」

彼女の声は厳しいが、その奥には鳰への信頼が微かに感じられた。

「分かったっス! ウチ、ちゃんと報告するっスよ~!」

鳰が敬礼のような仕草で応え、ニヤリと笑う。

「それで、このメモの出どころは?」

香子が紙片を広げ、再び質問を投げた。夕陽が完全に沈み、空が深い紫に変わる中、屋上の空気が一気に緊迫感を帯びてきた。

「それが……ウチ、拾った場所は湾岸近くの路地裏っス。誰かが落としたみたいなんスけど、詳しくは分からないっス」

鳰が首をかしげると、香子が小さく息を吐いた。

「なら調べるしかないな。RJが再び動き出す前に、私とお前で潰す」

香子が決意を込めて言うと、鳰が目を輝かせた。

「神長管理官と一緒なら、ウチ、張り切っちゃうっスね!」

夕陽が消え、夜の帳が降りる警視庁の屋上。二人の背後に、東京の灯りが点り始めていた。RJと貝塚の影が再び蠢く中、香子と鳰の新たな戦いが静かに始まろうとしていた。

「走り、覚悟しとけよ。今回はお前も管理官の補佐だ」

香子の言葉に、鳰がニヤッと笑って応えた。

「了解っス、神長管理官! ウチ、裁定者魂全開で行くっスよ!」

風が二人の髪を揺らし、警視庁の屋上から見下ろす夜の東京に、不穏な気配が漂い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年 東京鉄道公安隊第四警戒班詰所 夜

 

東京鉄道公安隊第四警戒班の詰所は、夜の静寂に包まれていた。窓の外では、遠くを走る列車のライトがチラチラと見え、詰所内は穏やかな空気に満ちている。奈々がソファに座り、お茶を淹れていた時、突然デスクの電話が鳴り響いた。

「はい、東京鉄道公安隊第四警戒班、奈々です」

奈々が受話器を取ると、聞き慣れた鋭い声が響いてきた。

《奈々か。私だ、神長だ。第四警戒班に今夜行く。準備しとけ》

神長香子の声は短く、管理官らしい威圧感が漂っていた。

「香子さん? 分かりました。お待ちしてますね」

奈々が穏やかに応じ、電話を切る。彼女がソファに戻ると、剣持しえなと武智乙哉が不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「誰だったの、奈々ちゃん?」

乙哉がニコニコしながら尋ねると、奈々が微笑んだ。

「神長管理官です。今夜ここに来るって」

「神長が? ボクらに会いに来たがるなんて珍しいね」

しえながソファにもたれ、軽く笑う。彼女の制服は少し緩められ、休暇中のリラックスした雰囲気が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、詰所のドアが勢いよく開き、神長香子が颯爽と入ってきた。彼女の鋭い目つきと、警視庁警備部警備第一課警備現場第1係の警視としての威厳が、詰所の空気を一変させる。

「お疲れ、剣持、武智、奈々」

香子が短く挨拶し、コートを脱いで椅子に腰かける。奈々が急いでお茶を用意し、香子の前に置いた。

「神長管理官、お疲れさまです。急にどうしたんですか?」

奈々が穏やかに尋ねると、香子が鋭い視線を三人に向けた。

「貝塚博彦のその後だ。東京湾岸警察署占拠事件の後、東京拘置所に収監されて、今は裁判所の判決待ちだ。RJと『集団下校』の残党の動きも追ってるが、まだ全貌は掴めてない」

香子の言葉に、しえなが小さく頷く。

「貝塚か……ボクの過去がまた絡んでくるなんてね。判決待ちなら、もうすぐ動きが止まるんじゃない?」

しえなの声には、微かな安堵が混じっていた。

その時、乙哉がニヤリと笑い、場を和ませるように口を開いた。

「ねえ、しえなちゃん、香子ちゃん、奈々ちゃん! せっかく集まったんだから、ちょっと面白い話でもしない?」

「面白い話?」

香子が眉を寄せると、乙哉が楽しそうに話し始めた。

「実はさ、あたし、昔は美しい女性ばっかりをターゲットにして殺人繰り返してたんだよね~。シリアルキラーってやつ! 当時、小松川警察署の刑事組織犯罪対策課の巡査長に追われててさ、半ば逃げ込むみたいに黒組に入ったの!」

乙哉の声は軽やかで、まるで昔話でもするような調子だった。詰所にいた三人が一瞬固まる。

「でね、黒組での希望する暗殺報酬はさ、『一生安心して殺人を続けられるシリアルキラー保険』だったんだよ! いいアイデアでしょ?」

乙哉が得意げに笑うと、しえなと香子が同時に声を上げた。

「そんな保険はない!」

しえなの声には呆れが、香子の声には苛立ちが滲んでいた。

「えーっ! ないの!? あたし、すっごい考えてたのに!」

乙哉がふてくされたように唇を尖らせると、奈々が苦笑いを浮かべた。

「武智さん、そんな保険があったら大変なことになりますよ……」

奈々が優しく諭すと、乙哉が肩をすくめる。

「まあ、そうだよね~。でも、楽しかったんだからいいよね!」

香子が額を押さえ、深いため息をついた。

「武智、お前がそんな過去持ってるなら、もっと早く言え。警視庁で事情聴取するぞ」

「あたしはもう改心したから大丈夫だよ、香子ちゃん! ね、しえなちゃん?」

乙哉がしえなに助けを求めるが、しえなが冷たく笑った。

「ボクはSAT隊長だよ、武智。お前みたいな奴を庇う気はないね」

奈々が三人を見て、穏やかに仲裁に入る。

「まぁまぁ、みなさん、お茶でも飲んで落ち着いてください。神長管理官も大変そうですし」

香子が奈々の淹れたお茶を手に取り、一口飲んで小さく頷く。

「奈々、助かるよ。だが、貝塚の件が片付くまでは休めない。RJの残党が動く前に叩くつもりだ」

しえながソファから立ち上がり、香子を見やる。

「神長、ボクも手伝うよ。貝塚の過去はボクの因縁でもあるからね」

詰所の夜は、乙哉の奇妙な告白で一瞬和んだものの、香子としえなの決意が新たな戦いの予感を漂わせていた。奈々が微笑む中、第四警戒班の日常に緊張が戻りつつあった。

 

To be continued

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