2025年 東京鉄道公安隊第四警戒班詰所 朝
東京鉄道公安隊第四警戒班の詰所は、朝の柔らかな陽光に照らされていた。詰所のテレビからは、ニュースキャスターの緊迫した声が流れている。画面には、ウクライナ内戦の戦場が映し出され、煙と銃声が混じる映像が続いていた。
高山直人がソファに座り、眠そうな目でお茶を啜っている。桜井あおいが隣で腕を組み、小海はるかがコーヒーを淹れていた。剣持しえなと武智乙哉も休暇中で詰所に居座っており、朝のまったりした空気が漂っている。
《続いてのニュースです。ウクライナ内戦で、北朝鮮がロシア軍のバックアップとして兵士を派遣しましたが、驚くべき事態が。北朝鮮兵士たちはロシア語が分からず、誤って味方のロシア兵を射殺する混乱が発生。さらに、その中で東兎角という人物がロシア兵を殲滅していると報道されています。この東兎角は、かつて日本の明星学園黒組に所属し、暗殺者として活動していた過去が――》
「東兎角!?」
しえながソファから飛び上がり、テレビに目を凝らす。
「あたし、兎角のこと覚えてるよ! 黒組で晴ちゃんと仲良かった子でしょ?」
乙哉が目を輝かせ、楽しそうに身を乗り出す。
直人が眠そうな顔を上げ、不思議そうに二人を見た。
「剣持さん、武智さん、その東兎角って誰なんですか? 俺、全然知らないんですけど」
「高山君、私も知らないよ。黒組って何?」
はるかがコーヒーカップを手に首をかしげると、あおいがムッとした顔で口を挟んだ。
「何!? ニュースで名前出てるのに、私たち知らないとかありえないでしょ! 誰か説明してよ!」
しえながソファに座り直し、説明を始めた。
「ボクと武智がいた明星学園の黒組ってのは、暗殺者養成の秘密プログラムみたいなもんさ。東兎角はその生徒の一人で、一ノ瀬晴って暗殺対象と交流してた。晴は明朗で愛らしい子で、兎角は彼女に惹かれてたみたいだよ。結局、晴を他の暗殺者から守るために戦う決意をしてた」
「あたし、覚えてるよ~。兎角って真面目で頑固でさ、晴っちのことになると目がキラキラしてたの!」
乙哉が笑いながら補足すると、奈々が穏やかに微笑んだ。
「剣持さん、武智さんのお友達がそんなすごいことしてるんですね。私たちには想像もつかない世界だわ」
「で、その兎角がロシア兵を殲滅!? 何!? かっこいいじゃない!!」
あおいが興奮して立ち上がり、直人が慌てて制した。
「桜井、落ち着けよ! 殲滅って……平和が一番だろ!」
警視庁公安部オフィス
一方、警視庁公安部のオフィスでは、鳰がデスクで書類を整理しながら、小さなテレビで同じニュースを見ていた。彼女の目の前にはコーヒーが置かれ、朝の忙しさの中で一息ついている。
「東兎角がウクライナでロシア兵を殲滅、か……ウチ、懐かしい名前聞いちゃったっスね」
鳰が小さな笑みを浮かべ、コーヒーを一口飲む。彼女の一人称「ウチ」が軽やかに響いた。
画面には、東兎角の過去の写真が映し出されている。黒組時代の制服姿で、一ノ瀬晴と並んで笑う彼女の姿。鳰の記憶に、晴を守るために戦った兎角の姿が蘇る。
「晴ちゃんのこと守るって言ってた兎角が、こんな大舞台で暴れてるなんて……ウチ、ちょっと感心しちゃうっスよ」
鳰が椅子に寄りかかり、テレビを見つめる。彼女の笑みには、黒組時代の仲間への懐かしさと、兎角の成長への微かな誇りが混じっていた。
「でもさ、兎角……ロシア兵殲滅って派手すぎっスね。神長管理官に報告したら、また忙しくなるかな~」
第四警戒班詰所では、しえなと乙哉が兎角の過去を語り合い、直人、あおい、はるか、奈々が驚きと好奇心で聞き入っていた。
「ボク、兎角がそんな決意持ってたなんて知らなかったよ。晴を守るために戦うなんて……ちょっとかっこいいね」
しえなが呟くと、乙哉がニヤリと笑った。
「あたし、兎角に会ったら『晴ちゃん元気?』って聞いてみたいね~!」
一方、警視庁の鳰は、ニュースを見終えて立ち上がり、コーヒーカップを手に呟いた。
「ウチ、兎角の活躍見てると、黒組の絆ってまだ生きてる気がするっスね。さて、神長管理官に報告行くか~」
朝のニュースが、東京とウクライナを繋ぎ、かつての黒組メンバーたちの新たな物語を静かに紡ぎ始めていた。
To be continued