RAILJACK   作:マブラマ

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追いつめられた正義

大阪駅の夜は、まるで眠らない獣のようだった。

桜井あおいは、篁唯依からの電話を切った後、冷たいホームの風に吹かれながら立ち尽くしていた。彼女の手には、田辺修の無実を証明するかもしれないUSBが握られている。隣に立つ岩泉翔が、不安げに声をかけた。

「なぁ、桜井。大丈夫か? 篁管理官の声、めっちゃヤバそうだったぞ」

「……大丈夫じゃないよ。でも、戻らないわけにはいかないでしょ」

あおいの声は震えていたが、その瞳には決意が宿っていた。彼女は一歩踏み出し、捜査本部へと向かう決心を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捜査本部に足を踏み入れた瞬間、あおいは異様な空気に包まれた。

室内には篁唯依が立ち、鋭い視線であおいを迎え入れる。その隣には、大阪府警の刑事たちが無言で資料を整理しており、まるで何かを隠すような不自然な静けさが漂っていた。

「桜井、貴様が独自に動いてることは分かってる。田辺のデータを勝手に持ち出したのも貴様だな」

唯依の声は冷たく、まるで氷の刃のようだった。あおいは一瞬言葉に詰まったが、すぐに反論した。

「管理官、田辺さんが犯人だって証拠、本当に揃ってるんですか? 私には、自白を強要して無理やり被疑者に仕立ててるようにしか見えないんですけど」

その言葉に、室内の空気が一気に張り詰めた。唯依の目が細まり、口元に薄い笑みが浮かぶ。

「…貴様には関係ない。これは上層部の決定だ。貴様は命令に従えばいい。それとも、鉄道公安隊を辞めたいのか?」

「辞めるつもりはないです。でも、正義を曲げるつもりもないです!」

あおいの叫びに、唯依の笑みが一瞬凍りついた。しかし、彼女はすぐに冷静さを取り戻し、静かに言い放った。

「なら、貴様の責任は自分で取ることになる。覚悟しておけ」

その瞬間、ドアが勢いよく開き、新たな人物が現れた。

「ウチが来たっスよ~! いやぁ、なんか重い空気っスねぇ!」

警視庁公安部公安第二課第二公安捜査第4係の走り鳰警視だった。一見軽いノリの口調と、人懐っこい笑顔で室内に踏み込んでくる。しかし、その笑顔の裏にちらりと見える不気味な光に、あおいは思わず身構えた。

「走り鳰警視……何の用ですか?」

唯依が冷たく問うと、鳰は肩をすくめてニヤリと笑う。

「いやぁ、ウチ、ちょっと気になる女の子の素性を調べに来ただけっス。リィズ・ホーエンシュタインって知ってるっスか? 毒殺専門の暗殺組織『ダチュラ』の元メンバーなんスけどねぇ」

その名前に、唯依の表情がわずかに動いた。だが、彼女はすぐに平静を装い、鳰を睨みつける。

「公安部の管轄だろ。こっちの捜査に口出ししないでくれ」

「まぁまぁ、そう怒らないでくださいっス。ウチ、ただ情報共有したかっただけっスよ~」

鳰の馴れ馴れしい態度に、室内の刑事たちが顔をしかめる。あおいもまた、彼女の軽薄な態度に苛立ちを覚えたが、同時に「リィズ・ホーエンシュタイン」という名前が気にかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、高山直人は鉄道公安室で田辺修の事情聴取の記録を読み返していた。

「やっぱりおかしい……田辺さんが犯人なら、もっと証拠が出てくるはずだろ」

隣に立つ駒木咲代子が、疲れた声で呟く。

「高山、私もそう思うよ。でも、上層部が決めたことに逆らうのは難しい。桜井が何か掴んでくれればいいけど……」

咲代子の言葉に、直人は拳を握りしめた。あおいが危険な道を進んでいることは分かっている。それでも、彼女を信じるしかなかった。

しかし、その希望はすぐに打ち砕かれた。

「高山! 桜井が捜査本部で問題起こしたって連絡が入ったぞ!」

岩泉翔が息を切らして飛び込んできたのだ。直人は慌てて立ち上がり、咲代子に目を向ける。

「副隊長、俺、行ってきます!」

「待て。私も行くよ。桜井一人に背負わせるわけにはいかない」

二人は急いで捜査本部へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捜査本部に戻った直人と咲代子が目にしたのは、追い詰められたあおいの姿だった。

唯依の命令により、あおいは「誤認逮捕」と「自白強要」の責任を押し付けられ、辞職勧告にまで追いやられていた。彼女の手から鉄道公安手帳が取り上げられ、目の前で没収される。

「桜井、君の正義感は認める。でも、それが組織を乱すなら意味がない。分かるな?」

唯依の言葉に、あおいは唇を噛みしめた。直人が叫び声を上げる。

「管理官! こんな こんなのってありえないだろ! あおいは間違ってない!」

「黙れ、高山。君まで処分を受けたいのか?」

唯依の冷たい一言に、直人は言葉を失った。

その時、鳰が再び口を開いた。

「いやぁ、ウチ見てて面白いっスねぇ。この子、結構頑張ってるじゃないっスか。でもさぁ、正義ってそんな簡単に守れるもんじゃないっスよ?」

彼女の不気味な笑顔に、あおいは睨みつけた。

「馴れ馴れしくしないで。あんたに私の気持ちなんて分からないわ」

「へぇ、キツいっスねぇ。でも、ウチ、嫌いじゃないっスよ、そういう子」

鳰の言葉に、あおいは吐き気を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、新たな事件が報じられた。

直人と同じ桐生鉄道高校の同級生で、現在「ジャパン食堂」で働く札沼まりが誘拐されたのだ。第三の事件の発生に、捜査本部は再び動き出す。しかし、手帳を奪われたあおいは蚊帳の外に置かれていた。

「くそっ……こんな時に何もできないなんて!」

悔しさに震えるあおいの前に、意外な人物が現れる。警視庁の神長香子警視だった。

「桜井、私と一緒に動かないか? お前の力を貸してほしい」

香子の言葉に、あおいは驚きを隠せなかった。

 

 

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