大阪の夜は、まるで全ての秘密を飲み込むような闇に包まれていた。
桜井あおいは、病院の屋上でリィズ・ホーエンシュタインの死を胸に刻み、決意を新たにしていた。彼女の隣には、神長香子、高山直人、駒木咲代子、岩泉翔が立ち、桐ヶ谷柩を追うための次の手がかりを模索している。
「リィズの最後の言葉……『柩を探せ』ってことは、彼女が黒幕の手がかりを握ってるってことだよね?」
あおいの問いに、香子が冷静に頷く。
「そうだ。リィズが言ったように、黒幕は柩と何らかの関係がある。彼女の居場所を突き止めるのが先決だ」
直人が拳を握りしめ、力強く言う。
「なら、急ごう。リィズを殺した黒装束の連中も、柩を狙ってるかもしれないんだろ?」
その時、咲代子が携帯に届いたメッセージを確認し、顔を強張らせた。
「公安部から情報が入ったわ。桐ヶ谷柩の最後の目撃情報は、京都の山奥にある古い屋敷らしい。そこに潜伏してる可能性が高いって」
「京都? なんでそんな遠くに?」
翔の疑問に、香子が静かに答えた。
「ダチュラの暗殺者なら、追跡を逃れるために人里離れた場所を選ぶのは自然だ。私たちはすぐに向かう」
あおいは仲間たちの顔を見渡し、力強く頷いた。
「行こう。リィズの死を無駄にはしない。黒幕を絶対に暴くよ!」
同じ頃、走り鳰は一人、病院の裏手で暗号の紙を手に笑っていた。
「ウチ、やっと分かったっスよ~。この暗号、桐ヶ谷柩の居場所だけじゃなくて、もっとデカい秘密隠してるっスねぇ。さてさて、黒幕さん、どんな顔してるか楽しみっスよ~」
彼女の不気味な笑みが闇に溶ける中、遠くで黒装束の気配が再び蠢いていた。鳰の瞳には、冷たい計算と、どこか狂気じみた光が宿っている。
京都の山奥、苔むした古い屋敷の前に、あおいたちは到着した。
朽ちかけた門をくぐると、静寂に包まれた庭が広がる。直人が小さく呟く。
「なんか……不気味だな。ここに本当に柩がいるのか?」
「―――気配を感じる」
香子の鋭い声に、一同が身構える。咲代子が無線で状況を確認し、翔が周囲を警戒する中、あおいが一歩前に出た。
「桐ヶ谷柩! いるなら出てきて! 私たちはリィズの死の真相を追ってるのよ!」
その叫びに、屋敷の奥からゆっくりと足音が響いた。
現れたのは、水色の髪をツーサイドアップにした小柄な女性だった。
「――あなた達は?」
あおいは一瞬驚いたが、すぐに質問を投げかけた。
「リィズ・ホーエンシュタインを操ったのはあんた? 黒幕は誰なの!?」
柩は静かに首を振った。
「リィズ? 彼女とはもう何年も会ってない。ぼくはダチュラを抜けて、暗殺の仕事からも足を洗った。今はここで、千足と静かに暮らしてるだけ」
「千足?」
直人の問いに、屋敷の奥からもう一人の女性が現れた。オールバックにした紅色の髪が特徴。長身で男装の麗人然とした中性的な彼女が口を開く。
「私が生天目千足だ。柩のパートナーよ。お前達、柩を疑ってるみたいだが、彼女はもうそんな世界とは無縁だ」
彼女の穏やかな口調に、あおいたちは戸惑った。
「でも、リィズはあんたを黒幕と――」
あおいの言葉を遮るように、柩が静かに言った。
「リィズがぼくの名前を出したなら、それは誰かがぼくの名前を使った可能性が高いです。ぼくを偽る誰かが、彼女を操ってたんだと」
その言葉に、香子が鋭く反応した。
「偽物……? つまり、黒幕は柩の名前を騙ってリィズを動かし、事件を起こさせたって事か?」
「ええ、ありえます。ぼくの名前は、ダチュラの中でもそれなりに知られてた。誰かがそれを利用した」
柩の冷静な分析に、あおいの背筋が冷えた。
その時、屋敷の外で爆発音が響いた。
「何!?」
翔が叫ぶと同時に、黒装束の集団が庭に現れた。彼らの手には銃と毒瓶が握られている。柩が目を細め、呟く。
「やっぱり……ぼくを消すために来たんですね」
千足が柩の腕を握り、静かに言う。
「柩、逃げて。私が時間を稼ぐ」
「千足、ぼくはもう逃げないよ。あなたと一緒に戦う」
二人の決意に、あおいたちも武器を構えた。
戦闘が始まった。
黒装束の放つ毒ガスと銃弾が飛び交う中、あおいと直人は連携して敵を倒していく。香子と咲代子が援護し、翔が黒装束の一人を捕らえた。
「てめえ、誰に雇われた!? 黒幕の名前を吐け!」
翔の怒号に、黒装束が弱々しく呟く。
「篁……唯依……彼女が……全てを……」
その名前に、一同が凍りついた。あおいが叫ぶ。
「篁管理官!? 彼女が黒幕!?」
その瞬間、背後から冷たい声が響いた。
「よく気付いたな、桜井。だが、遅すぎたようだな」
振り返ると、そこには篁唯依が立っていた。彼女の瞳は冷酷で、手には拳銃が握られている。
「なぜ……なぜあなたが!?」
あおいの問いに、唯依は薄く笑った。
「警察の信頼を維持するためだ。万博の混乱を利用して、ダチュラの残党を一掃し、私の地位を固める。それが私の計画だった。リィズも、偽の柩も、ただの駒だ」
「そんな……リィズを殺したのもあなた!?」
直人の怒りに、唯依は肩をすくめた。
「彼女は知りすぎた。貴様等も同じ運命だ」
その時、別の声が割って入った。
「ウチ、遅れちゃったっスねぇ! けど、篁管理官、なかなか面白いことやってるっスよ~」
走り鳰が現れ、不気味な笑みを浮かべながら唯依に近づく。彼女は一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻した。
「公安部の犬か。まぁいい。貴様もここで終わりだ」
「へぇ、そうかなっス? ウチ、結構しぶといっスよ~」
鳰の軽い口調とは裏腹に、彼の手には唯依の計画を記した証拠のデータが握られていた。
戦場は一瞬にして混沌と化した。
唯依の指揮する黒装束と、あおいたち、柩と千足、鳰が激しくぶつかり合う。あおいは唯依に突進し、叫んだ。
「篁管理官! あんたの正義は偽物だ! リィズの死も、まりの恐怖も、全部あんたのせいよ!」
「偽物? 笑わせるな。警察を守るためなら、どんな犠牲も必要だ!」
唯依の冷酷な言葉に、あおいの怒りが爆発した。彼女は唯依に飛びかかり、拳を振り上げる。
「正義は犠牲の上に成り立つものじゃない! 私はそれを信じてる!」
その瞬間、鳰が唯依の背後に回り込み、彼女の手から拳銃を叩き落とした。
「はい、ゲーム終了っスよ~。これ、全部録画済みっス。篁管理官、黒幕バレちゃったっスねぇ!」
唯依の顔が初めて恐怖に歪んだ。彼女は最後の抵抗を試みたが、香子と咲代子の連携で拘束された。
「終わりだ、篁唯依。お前の罪は全て明らかにさせて貰う!」
香子の静かな声が、戦場に響いた。
戦闘が終わり、朝日が屋敷を照らし始めた。
唯依は警視庁に連行され、黒装束の残党も一掃された。柩と千足は、あおいたちに礼を述べ、静かに屋敷へと戻っていった。
「ぼくはもう戦わないよ。あなた達のおかげで、過去と決別できた」
「ありがとう。私たちも、ようやく平穏を取り戻せそうだ」
柩と千足の言葉に、あおいは微笑んだ。
病院に戻ったあおいは、リィズの遺体にそっと花を供えた。
「リィズ……あんたの死は無駄じゃなかったよ。黒幕を捕まえた。私たちの正義は、ちゃんと届いた」
直人が隣で肩を叩き、香子が静かに言う。
「お前のおかげだ、桜井。私も、辞職したけど後悔はない」
「神長警視……ありがとう」
あおいの瞳に涙が光る中、鳰が遠くから笑いながら手を振った。
「ウチ、いい仕事したっスよ~! また会えたら遊ぶっスねぇ!」
その不気味な笑みに、あおいは苦笑いを浮かべた。
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