東京中央鉄道公安室第四警戒班、通称「警四」の事務所。しえなは警四メンバーと一服しながら、初めて彼らの日常に触れていた。
「ところで、三つ椅子が空いてるけど、三人は巡回か?」
しえなが何気なく尋ねると、奈々が穏やかに答える。
「ええ、高山君ら三人は駅内のポスター張り替え作業です」
あおいがニヤリと笑って付け加えた。
「ま、高山に限っては女に目を眩むから」
「無理もないわね」
しえなが軽く笑うと、奈々がフォローするように言った。
「しえなさん、高山君は私たち以上に働いて、他の國鉄職員や警察官より優秀なんですよ」
「そんなに凄い奴なのか? あの男は?」
しえなが驚きを隠せない顔で聞き返す。
「いえ、身体能力ではなく、知識です」
「知識……鉄道マニアか」
「高山がいかにも、マニアって顔してるでしょ?」
あおいが得意げに言うと、しえなは呆れたように目を細めた。
「ボクに聞かれても……本人に直接聞かないと」
「聞かなくても分かると思いますが、剣持隊長?」
「……!!」
しえなが一瞬言葉に詰まると、奈々が優しくフォローした。
「深く考えなくてもいいですよ。私たちは公安本部から与えられた役割の仕事をしてるだけです。警察で言うと、所轄の仕事みたいなものですね」
しえなは少し考え込むようにカップを見つめた。
「ボクも似たようなことしてるけど、緊急時には特殊部隊の隊長としてやれることだけやってるよ。まだ一年も経ってないんだがな」
「私もしえなさんみたいに……」
あおいが目を輝かせて言いかけた瞬間、しえながピシャリと遮った。
「やめといた方が身のためだよ……」
「えっ? なんで?」
「個人的なことは突っ込まない方がいいと言ってるだけだよ」
しえなの声には、どこか重い影がちらついていた。あおいは首をかしげたが、それ以上は追及しなかった。
その時、ドアがガチャリと開き、高山直人ら三人が張り替え作業から戻ってきた。
「ただ今、戻ってきました」
直人が元気に報告すると、翔がしえなに気づいて目を丸くする。
「あれ? その女性は? どっかで……」
「遅いわよ! バカ!」
あおいが即座にツッコむと、直人がムッとして反撃。
「ちょうど帰ってきたばかりだぞ!」
「まあまあ、喧嘩はそのくらいにして、皆さんで昼食行きません?」
はるかが穏やかに提案すると、翔が驚いたように笑った。
「おっ? 珍しいな。俺たちに食事誘うなんて」
「そうですね。みんなで昼食行きましょう」
奈々がにこやかに賛同する中、しえなはそそくさと立ち上がった。
「悪い。ボクは本庁に戻って始末書書かないといけないので失礼する」
だが、その言葉を聞いて奈々の笑顔が一瞬凍りついた。
「そんなこと言わずに、一緒に昼食でもどうですか?」
「いや……ボクは!!」
しえなが必死に断ろうとしたその時、背後から黒いオーラが漂ってきた。飯田班長だ。眼光鋭く、無言の圧力を放つその姿に、もはや逃げ道はなかった。
「昼食、一緒にどうですか?」
奈々の声が再び響き、今度は穏やかさの中に有無を言わさぬ力がこもっていた。
「……はい、行きます。喜んで行かせてもらいます」
しえなの選択肢は一つしかなかった。
「(こいつらと絡むと、いつもこうなるのか……)」
隣で騒ぐあおいと直人を見ながら、しえなは小さく苦笑した。そして、昼食後、本庁で課長にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
「剣持! お前はSATの隊長だろうが! もっとしっかりしろ!」
「……はい」
しえなの返事は小さかったが、どこか心が軽くなっている自分に気づいていた。
To be continued