國鉄本社ビル、公安本部の一室。静寂の中、一人の女性が机の上でリボルバー銃を黙々と点検していた。細かい部品をチェックするその手つきは、まるで職人のようだ。
「…………」
五能教官は無言で作業に没頭していたが、突然、ドアがノックされ、三つの声が同時に響いた。
「「「あのぉ……」」」
「!」
五能教官が顔を上げると、そこには見慣れない三人組が立っていた。
「どうも五能隊長、東京南鉄道管理局からきました局長の神田川です。お近づきの印にこれ、東京ばな奈でございます」
にこやかに手土産を差し出す神田川を筆頭に、副局長と課長が続く。
「副局長の秋田です。豆大福でございます」
「課長の香久山です。花園万頭でございます」
三人がそれぞれお菓子を掲げると、五能教官は冷ややかな目で彼らを見据えた。
「鉄道管理局の人がわざわざ視察か? 用が済んだならお引き取りを」
近くにいた國鉄職員が首をかしげて尋ねる。
「五能隊長、この方々は?」
「東京南鉄道管理局の局長と副局長、公安課の香久山課長だ」
「これはわざわざご苦労様です」
職員が丁寧に挨拶すると、五能教官は手土産を受け取りつつ、鋭い声で切り出した。
「お土産はありがたく頂きます。しかし、局長。普段こんなこと毎日やってるんですか?」
「そんなことないですよ、五能隊長。我々三人はこうやって月に一回休暇を取って、旅行に行って、手土産を買ってくるんですよ」
神田川が気軽に笑うと、五能教官の眉がピクリと動いた。
「局長、失礼申し上げますが」
「?」
「私たちの仕事の邪魔しに来たんですか?」
静かに、しかし怒りを潜めた一言に、空気が一瞬凍りついた。
「あ……そういうわけじゃなくてね」
秋田が慌ててフォローしようとすると、五能教官が即座に遮る。
「副局長! あなたもです!」
「邪魔とか……他人の仕事を突っ込んだりしませんよ」
香久山が穏やかに弁解するが、五能教官の我慢は限界に達していた。
「三人共、ここから出てけ! 仕事の邪魔だ!」
ついに堪忍袋の緒が切れ、声を張り上げた。近くの職員たちも止めに入る術がなく、ただオロオロするばかり。
「だからやめようって言ったじゃない」
神田川が小声でぼやくと、秋田がムッとして反論。
「いや、局長が五能隊長の好きな土産と言えば『豆大福』って言ったじゃないですか」
「いやね、それはあくまでも五能隊長の好みによって異なるわけなの。私たちは別々の土産を買ってきたじゃない」
「局長、さすが五能隊長の好みの食べ物当ててらっしゃる」
「左様でございます」
香久山がうなずきながらお追従を言うと、五能教官の怒りは頂点に達した。
「ああもう! アンタ達!! 元の職場に戻りなさい!!!」
カチャリとリボルバーに弾丸を込め、三人に向かって銃口を突きつける五能教官。その眼光は本気だ。
「は、ははぁ!」
「ははぁ!」
「ははぁ!」
神田川、秋田、香久山――通称「鉄道管理局の三バカ」は、慌てて土産を置いたまま逃げ出した。五能教官に殺される前に退場するしかなかったのだ。
事務所に静寂が戻った後、五能教官はリボルバーを机に置き、深いため息をついた。
「(まったく……こいつらときたら)」
彼女の頭には、剣持しえなが訓練で放ったあの言葉がチラリとよぎる。
”なぁ鉄公。何かあっても責任は取らないからな? 覚悟してね”
あの挑発的な台詞を思い出した瞬間、五能教官は苦笑した。
「(責任を取らないのは私の方かもしれんな……)」
三バカの襲来で苛立ちつつも、どこか警四メンバーたちの騒がしさを思い出して、彼女の表情が少し和らいでいた。
To be continued