星間境界 -アドマイヤベガの道標-   作:茶園真

41 / 54
物語設計と、登場人物の命名・人物設計について

※各登場人物(特に高村とアドマイヤベガ)は、終章までの展開を成立させるための人物設計を盛り込んでいます。以下の内容は第五章までの内容に関わる部分に限定しています。また、以下の文章には第六章・終章の展開に関するミスリードがあるかもしれませんし、無いかもしれません。


設定資料03:物語と人物の設計

 

物語設計

 

 ここまで読んでいただいている方はもう理解されているとは思いますが、この作品のコンセプトは『現実準拠の社会制度・価値観・倫理観に基づいたトレウマ二次創作』です。実在する組織名などの固有名詞がそのまま、または僅かな変更のみで登場している点、実在のスポーツ科学用語が頻出する点、ウマ娘たちに本名を設定している点、高村が徹頭徹尾高校教員として振る舞う点、アプリ版には存在するアドマイヤベガとトレーナーの私的接触(例:自主トレ抑制のためのプラネタリウム鑑賞や初詣への帯同)を排除している点、アドマイヤベガの事故でトレーナーが懲戒処分を下される点、教員と現役生徒の恋愛(トレウマ)を重大な倫理違反として描写している点などからも分かりやすいと思います。

 

 


人物設計

 

高村 啓一(たかむら けいいち)

命名基準

 『高村』という苗字は、平安時代初期に実在した公卿・文人の『小野 篁(おの の たかむら)』が元ネタです。

 『星間境界』という作品の構想初期段階で、『天文』『古典文学』をモチーフとすることを決め、章タイトルは天文用語で統一し、人名・人格・役割の設定に歴史上の人物または古典文学からの翻案を用いることにしました。そして、主人公の名前は、アドマイヤベガシナリオのモチーフである七夕伝説が貴族たちに定着した平安時代の人物からモチーフを選ぶことにしました。複数の候補の中から最終的に小野篁を選んだ決め手は、星間境界の作品テーマに親和性の高い逸話が複数あることです。

 

 まず第一に、東京都台東区にある小野照崎神社において、小野篁は主祭神として祀られています。この神社の境内末社として『織姫神社』が存在していることから、七夕伝説をモチーフとしたアドマイヤベガシナリオに相応しいと考えました。

 

 第二に、小野篁は実務能力の高さから、昼は朝廷で政務にあたり、夜は冥界で閻魔大王の副官を務めたという伝説を持ちます。この逸話は、スポーツ指導員でありながら、サバイバーズギルトという深刻な精神問題に対処することになるアドマイヤベガ担当トレーナーの人物像に重なります。

 

 第三に、小野篁という人物は、政務能力に優れ、文才に優れ、反骨精神があり、金銭に淡白で、友人想いだと伝わっています。これが、トレセンという特殊な環境で競技指導教員を務めるトレーナー職との親和性が高いと判断しました。この人物像を、『スクールカウンセラーや管理栄養士、養護教員、クラス担任、学年主任、アドマイヤベガの級友やルームメイトと連携して競技指導と心理支援を実施する職務遂行能力』『理論を用いて分かりやすさを求める指導スタイル』『少々独断専行気味の性格』『責任感が強く、自己犠牲気味の性格』『無自覚な教え子想い』という形に翻案しています。

 

 そして第四に、平安時代から鎌倉時代に成立したと考えられている文学作品の『篁物語』において、(たかむら)は家庭教師先の生徒である異母妹と禁断の恋に落ちるキャラクターとして描写されています(当時は指導者・被指導者の関係で恋仲になることは禁忌とはされておらず、年齢観も現代と異なり、主に異母兄妹の恋愛が禁忌視されていたようです)。トレウマ二次創作のモチーフ元としても、篁は丁度いい人物でした。

 

 小野篁をモチーフとしたのは以上のような理由ですが、『篁』という漢字は高貴かつ珍しく、現代人の名前としては創作じみています。この漢字をそのまま名前として使用すると、人物の現実味が薄れ、さらに著者の意図を感じさせやすくなると考えました。そのため、『たかむら』を名前から姓へ変更した上で、表記を『高村』というありふれた同音の漢字にすることで、意図を感じさせないようにしました。また、『高村』という漢字はアドマイヤベガの名前『明里』とセットで『村・里』という類義字のペアになります。さらに、高村を思慕するアドマイヤベガにとっては『手が届かない高みにある、辿り着きたい場所(=村)』という解釈も可能です。

 

 そして、『啓一』という名前にも意図を込めています。まず『啓』は、『教え導く』『未知のものを明らかにする』『警護対象(主に貴人)の露払いをする』『立春の時期(啓蟄)』という意味があります。サバイバーズギルトという難題を抱えた未成年の高校生アスリートを担当する指導者の名前としてはこれ以上ないと考えました。作品サブタイトルの『道標』と、序章タイトル『立春点』は、双方とも『啓』の意味の1つに由来します。次に、『一』は、『指導者と被指導者の間の一線』『一位』『(アドマイヤベガとの共通点としての)一等星』という意味を込めたものです。結果として、堅苦しい性格に似つかわしい、堅苦しい字面にできました。

 

人格設計

 小野篁をモチーフとしてキャラクターを作ったものの、現代を舞台にした創作で『成人と未成年』『指導者と被指導者』という組み合わせの二人が恋愛関係に至る(あるいは親しげな距離感でイチャつく)物語、すなわち一般的なトレウマ二次創作を現実準拠の社会制度・価値観・倫理観の下で違和感なく書くには物語構築能力が不足しているうえに抵抗もあったため、高村は禁断の恋を断固拒否する人物としました。これには、『告白を優しく断る』または『告白を冷たく事務的に断る』という、教員として適切・模範的な対応では演出できない感情曲線を生むという狙いもあります。トレウマ二次創作というジャンルの中での差別化を図りたいという意図もありました。

 

 上記の方針が決まった後、『逃走という問題行動を起こしたアドマイヤベガを追跡し、契約に至る』『指導を当初は拒否するアドマイヤベガを根気よく見守る』『サバイバーズギルト対応や夜間トレイルラン時の遭難救助を単独でこなす』『指導逸脱や過剰練習の隠蔽などの問題行動を繰り返し、その末に事故まで起こすアドマイヤベガを絶対に見捨てない』というアプリ版トレーナーの行動を成立させ、かつ『教え子からの恋愛感情を刺激するほど深入りするくせに、恋愛感情を向けられると情に流されず断固拒絶する』という行動を取るトレーナーの生い立ちを考えました。それが、『元消防士、現消防副署長の父』『ドッグトリマーの母』『トレセンOGで重賞選手の姉』という家族構成であり、世間の悪意で人生が歪む友人を傍観する他なかったという高校時代の経験です。

 

 高村の父は消防士としての経験からリスク回避思考が極めて強く、一方で家庭では仕事の話をしない人物と設定しました。これにより高村の『行動で示す』『事前の情報収集を重視する』『意思決定後の行動が早い』『無自覚に自己を犠牲にする』『リスクを徹底的に回避しようとする』『英雄視を嫌う』傾向が形成されています。

 

 母は自宅兼店舗でドッグトリマーをしており、高村啓一が幼い頃から猫や犬を飼育していたという家庭環境が、庇護対象への観察眼を高村に与えたという想定です。高村が頻繁にアドマイヤベガの表情を観察して心中を推察する行動は、ここに由来しています。

 

 高村の8歳年上の姉(シリウスプライド/高村葵)は、高村啓一が4歳~10歳という幼い時期にはトレセンの生徒寮暮らし、高村啓一が10~14歳の時期には大学生として実家暮らし、そして高村啓一15歳以降の時期には就職で独立し、その後結婚、という設定です。そのため高村啓一とはやや距離があり、姉弟喧嘩をあまり経験しておらず、仲は良好です。これにより高村啓一には姉に対する強烈な憧れが形成され、後にトレーナーを目指す原動力になります。また、高村啓一は、自分と姉の関係をアドマイヤベガとその弟に対して投影しており、これが年末年始にアドマイヤベガを帰省させる理由となっています。

 

 これらの下地を元に形成された人格に、高校時代の同級生のスキャンダル炎上事件というトラウマを加えることで完成したのが、『鉄壁の倫理観』『過剰な責任感』『徹底したリスク回避傾向』という、24歳にしては少々歪で硬直気味の人格です。新幹線ではグリーン車を選択した上でアドマイヤベガとは席を離して距離を保つ、トレーナー室での指導時にはドアを開放して密室を避ける、乙名史記者を初対面から強く警戒する、競技中やトレーニング中の負傷リスクを念頭に入れているといった、徹底してリスクを警戒する行動もここに由来しています。

 

 もし高校時代の同級生の件がなければ、高村はもっと柔軟で優しい対応を取れる青年教員になっていました。その場合、アドマイヤベガのサバイバーズギルトには深入りせず、アドマイヤベガの恋愛感情を刺激することもないため、『教え子から恋愛感情を向けられるトレーナー』とは乖離することになります。あるいは、より穏やかな敬意ベースの思慕となり、卒業式や卒業後に告白するという展開も考えられますが、『予定調和感』が強くなると考えて採用しませんでした。

 

 

杉崎 俊介(すぎさき しゅんすけ)

命名基準

 杉崎は、高村とは鏡合わせになるような人物像を想定しました。

 『杉崎』という苗字は、本州において低い標高も含めて比較的広い範囲(0~2000m)に生える『杉』、天然地形である『崎』という組み合わせです。これは、『高い』+『村(人工物)』という組み合わせの高村姓とは対照的なものです。性格が自然に形成された杉崎と、トラウマによって後天的(人工的)に性格が形成された高村、という対比も可能です。そして、『俊介』という名前は、『優れている』『速い』を意味する『俊』+『助ける』を意味する『介』の組み合わせにより、『俊敏に動き(=柔軟に対応し)、相手を助ける』という意味を込めています。また、『啓一』という少々堅苦しい名前と比較し、『俊介』は親しみやすさを感じさせる名前です。字面、込められた意味のほか、啓一がKで始まる硬い音なのに対して俊介はSで始まる柔らかい音であることも原因かもしれません。

 

人格設計

 杉崎の人格は『高村啓一が高校時代のトラウマを経験しなかった場合』を想定しています。すなわち、教え子に対しての倫理観、責任感、リスク回避傾向は教員として必要な基準をクリアしつつも、高村と比較して柔軟で現実的な対応を取ることが出来る人物です。そのような性格が形成された背景として、東京23区出身で都内の私立大学付属高校から内部進学したという生い立ちを設定しました。また、カレンチャンのトレーナーである点からも、『兄貴分』っぽさを意識しました。それが、『高村の2歳年上』『姉がいる高村とは反対に、妹がいる』という人物像です。

 

 

アドマイヤベガ/綾部 明里(あやべ あかり)

命名基準

 命名方法は設定資料02に譲ります。ちなみに、『綾部 明里』という名前を姓名判断サイトに入力すると、『身体面では胃腸など消化器系に気をつけて』という旨の結果が表示されます。偶然とはいえ、胃破裂で落命した競走馬アドマイヤベガ号に符号しています。

 

人格設計

 彼女の基本的な人物造形は公式と同一ですが、言葉遣いはアプリ版ではなくRTTT版を意識しています。アプリ版では『わよ』『だわ』『かしら』という女言葉を使う場面が目立ち、他の二次創作ではこれを強調した人物造形にしていることが多いのですが、本二次創作では可能な限り抑制しています。実際に女言葉を使う人物はほぼおらず、使った瞬間に『演技』『創作キャラ』感が出てしまい、作品の雰囲気から浮くためです。二次創作である以上はどうしても公式と異なる箇所(解釈違い)は発生しますが、可能な限り乖離しないように注意はしています。一方で、公式の人物造形と意図的に離している箇所があります。それが、本名と封入胎児です。

 

 本名に関しては原作では有無すら不明ですが、本二次創作では明確な本名設定を行うことでターフネームと本名の2つの名前を持たせ、それをアイデンティティクライシスの演出(例:第二章第十一節/アドマイヤベガの記憶の中の母親が『明里』ではなく『アヤベ』と呼ぶ、第三章第七節/悪夢の中のアドマイヤベガの妹が『アドマイヤベガ』を名乗る)に利用しています。

 

 そして、封入胎児という極めて希少な実在の症例を持たせたのには、サバイバーズギルトの克服をより明確にするという意図があります。封入胎児は、競走馬アドマイヤベガ号の食欲不振、繋靭帯炎と胃破裂、ウマ娘アドマイヤベガのサバイバーズギルト、左足の痛み、『妹の魂』という6個の要素を全て回収できる重要な設定でした。封入胎児の摘出により遺骨を得たことで、アプリ版ストーリーと比較して精神状況の改善が著しくなります。

 加えて、アプリ版トレーナーはアドマイヤベガに『寄り添う・見守る』スタイルで接するのに対し、高村は臨床心理学を独学しつつスクールカウンセラーやカレンチャン、ナリタトップロード達と連携して比較的積極的に心理支援に取り組むスタイルであることも、精神状況の改善に拍車を掛けます。その結果が、高村に対して感情の勢いのまま告白してしまうという行動です。

 

 また、アドマイヤベガ/綾部明里にも、古典文学から翻案した箇所があります。モチーフ元は『源氏物語』のヒロイン、『六条御息女』と『紫の上』の二人です。六条御息女は光源氏とは7歳年上であることに引け目を感じ、嫉妬と本心を押し殺し続ける女性です。『自分が未成年であることに引け目を感じつつも高村に恋心を抱く』『高村の同期のインストラクターに対抗心を抱き、焦りから告白に至る』という行動や、7歳という年齢差は六条御息女が由来です。ただし、ウマ娘を題材とする以上はトレーナー側が年上にならざるを得ないため、高村のほうがアドマイヤベガの7歳年上という設定に変えています。新卒の高村22歳、高校新入生アドマイヤベガ15歳とすればちょうど良いのも理由です。

 

 続いて紫の上ですが、彼女は光源氏の8歳~10歳年下の少女で、光源氏の初恋相手『藤壺』の姪です。祖母と死別した幼い彼女に藤壺の面影を見た光源氏によって引き取られた後、彼の理想の女性としての教育を受けて妻となる女性です。引き取られてからしばらくは、光源氏のことを義兄として慕っていたようです。

 さすがにこれは、そのまま現代の文脈に採用できません。そこで、『高校時代の経験からリスク回避傾向が強い高村が、選抜レース後に逃走したアドマイヤベガが校外でトラブルを起こして炎上する可能性を危惧し、追跡の後に契約に至る(アプリ版に近い契約経緯)』『アドマイヤベガに対して、自分の姉や高校時代の塾の同級生を投影してしまい、恋愛感情が入り込む余地のない絶対的庇護対象と認識する』という形に翻案しました。また、『親と離れて暮らす少女と、教育を担う年上男性』という構図が同じことを利用して、アドマイヤベガの父親の『普段はそばに居てやれない私達親に代わり、唯一娘を近くで見守ってくれている大人が、あの青年だ。娘とは、7歳差。教員や保護者というよりは先輩、あるいは兄に近い存在なのかも知れない』という独白文にも翻案しています。

 

 

渡辺(わたなべ) みなみ

命名基準

 姓は『渡辺牧場』からの借用で、名は1990年付近の下町・一般住宅街の生まれっぽい女性名を創作しました。既婚者ですが、姓は職場で旧姓を使用しているか、または妻氏婚という想定です。

 

人格設計

 彼女は第四章第一節と第五章第四節で描写した通り学園OG、つまり元競走バです。特定の公式キャラクターを強く意識した人格設計をしていて、『スクールカーストに対する冷静な視点』『相談役』『"強くない"という自己認識』『"キラキラ"というワード』『三位続きという現役時代の競技成績』『手作りトロフィー』という描写で表現しています。

 『渡辺牧場』『中等部入学組』『下町・一般住宅街生まれ』『ブロンズコレクター』『35歳』という点と合わせれば、渡辺スクールカウンセラーの素性は容易に推測できると思いますが(感想欄に推測を書き込んでくださった方も居ました)、あえて明言しません。

 

児玉 武美(こだま たけみ)

命名基準

 ダンス歌唱指導を担うインストラクターの名前は、競走馬アドマイヤベガ号の調教助手兼厩務員の児玉武大氏が元ネタです。ただ、今となっては少々露骨過ぎたと考えています。半生モノの二次創作特有の悩みですね。今名前を考えるなら『武田 希美(たけだ のぞみ)』でしょうか。名前の『武大』をもじって『武田』にした上で名字に変更し、名字の『こだま』を東海道新幹線の列車名繋がりで『のぞみ』に変更して名前にすると『武田 希美』になります。

 

人格設計

 インストラクターであればダンス指導で生徒のウマ娘たちの身体に触れるだろうという想定で女性とし、身体表現を仕事にするという点で明るく朗らかな人格を設定しました。なお、彼女は第一章第一節に登場した、『研修で隣の席になった同期のインストラクター』です。この時点で、『高村のサポート役』『アドマイヤベガから高村に対する在学中の告白を確実に発生させるためのトリガー』として設計していました。

 

 

高村の父

命名基準

 名前は設定していません。

 

人格設計

 台詞すらありませんが、1982年のホテルニュージャパン火災に出動した、「伝説の消防士」と呼ばれる高野(たかの)甲子雄(きねお)氏をモチーフにしています。災害現場、火災現場への出動経験が多く、現在は防災コンサルとして活躍しているという人物像を借用し、高村啓一の価値観の根底を形成する父親と設定しています。

アドマイヤベガの告白を苛烈に拒絶する理由として、高村の高校時代の経験は

  • 強い説得力がある
  • 説得力がある
  • どちらでもない
  • あまり説得力がない
  • 全く説得力がない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。