Re:ナツミシュバルツは友達が欲しい   作:戻ってきたミュウ

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無恥の宣言

その日の式典は始まる前から大騒動だった。

何せどれだけ探しても見つからない王選候補者の最後の一人。

このまま悠長にしていればそれこそナツミが全ての実権を握ってしまうと危惧した賢人会が形だけでも王選を始めてしまおうと思えば、ナツミが滑り込むように最後の一人を連れてきたのだ。

これで堂々と彼女がバックに付くという物だから、まさか此方が介入出来ないようにずっと隠していたのか!?と剣聖まで騎士としてつけるという言葉に賢人会は戦慄する。

 

「……あ、不味い。フェルト、抜けるわ」

「ハァ!?何だっていきなり、もう始まるんじゃねぇのか!?」

「うぷっ……もう無理。後の事は、ラインハルトに頼んだから、ほんと……吐く!」

「ダー!酒弱ェ癖にノリで飲むなよ!!次から姉ちゃんは酒禁止だ!」

 

そしてギリギリ間に合ったと思われた彼女は始まる前に退場した。前代未聞の開幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ナツミ・シュバルツさんは何処にいるんだろう)

 

王選開幕を告げる式典の中、銀髪のハーフエルフ――エミリアは視線を彷徨わせる。

 

「私が王になった暁には―――」

 

人々のざわめき、クルシュの王としての野望。それに各々が反発や感嘆の息を表す……私たちと対面するように席を置く賢人会の周囲には居ない。懇意にしているという精霊騎士や治癒術士の近くにもそれらしい姿は確認出来ない。

ナツミ・シュバルツは好んで黒いドレスをよく纏う。だから人目につきやすく、すぐに目に止まる筈だとロズワールから聞いていたエミリアだが、顔は知らなかった。 

 

元貧民街の開発区画ではナツミ・シュバルツの威光を肖って等身大の石像を作ろうという話が上がっているらしいが、元々文官仕事からエスカレーター式に偉くなっていた彼女が大衆の面前に立ったことなど数えるほどにもなく、せいぜいが彼女の家が主催するパーティーへ主席したぐらいである。その時は単なる軽犯罪専門の裁判官であった為、注目もなかった。 

 

「……リア、逸る気持ちも分かるけど次は君の番だよ」

 

耳元でそっと囁くパックの言葉にはっとして彼女は前に出た。

 

「私の望みは一つ、ただ公平であること。全ての民が公平である国を作ることです」

「は、魔女擬きが何を言うかと思えば影の女王の真似事か」

 

自分がしたいこと。心から望んだ願い。それを公言すれば、同じルグニカ王国の王位継承の資格を持った候補者であり、燃え上がる炎のようなドレスを纏った女性――プリシラ・バーリエルが口を挟む。

 

「そんな事ッ」

 

「奇しくもルグニカは影の女王の采配によって目覚ましい発展を遂げている。まさに妾が支配するに相応しい……理想郷といった所か。今さら影の女王の席を廃絶し、他者が手を加えた所でそれは名画に泥を塗るようなもの、はっきり言ってこれ以上の発展は望めまい」

 

「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃない」

 

「分かるとも、現にここにいる全ての候補者があれを越える目標として捉えるのではなく、如何に上手く使うかを思量しておる」

 

クルシュやアナスタシタらを一瞥し、嘲笑う表情を隠すように取り出した扇子を口に当てる彼女。

 

「今回の召集に応じたのは、妾を差し置いて王を名乗る某に軽い灸を据えてやるつもりであったが、賢人会の権威はもはやあれを縛る効力はないと見た」

 

賢人会の一部は不快そうに顔を歪める。

それで分かった。エミリアがナツミ嬢を見つけることが出来ないのも無理はないのだ。何せ彼女はこの空間に存在しないのだから。

 

「居ない……?」

 

側に仕えるロズワールを見れば、彼は苦笑して首を左右に振る。

 

「さて、つまらぬ事に時間を浪費してしまった。ウェイターの愚物、次は貴様の番であろう」

 

「ウェイター、ウェイターってあぁもう!」

 

癇癪を起こす金髪の少女――フェルト。

 

浮浪者と蔑まれる立場からいつしか開発区画にある飯処の看板娘と呼ばれるようになった彼女はここにいない女性に向けて叫ぶ。

 

「あたしが、王になったら?

全部姉ちゃんに仕事押し付けてやっから、今と何も変わんねーよチクショウ!」

 

投げやりのようで、彼の騎士たるラインハルトを連れて舞台に上がり、(言葉使いに粗が目立つものの)形式上問題ない作法を取ったのは、誰かの入れ知恵あってのものか。(ちなみにドレスは間に合わなかったので新品のウェイトレスユニフォームである)

会場は大きくどよめく。

王選の資格なしと判断されて平然としていたのは、この保険があったからなのか。

奇しくもナツミが姿を現さないことでフェルトに視線が集中する。王選候補者の全員が彼女こそが王選の最有力候補だと認識した。

 

 

 

「…………私だけ、ナツミ・シュバルツさんの事を何もしらない」

 

五人の候補者が選ばれ王選の開幕を告げる式典。エミリアはそこで他の候補者達との間に価値観や見えているものが違うような……寂寥の思いを抱いた。




ロム爺の飯処の制服は何故かドレスみたいにヒラヒラしているのでフェルトは普段、私服でやってるぞ。
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