Re:ナツミシュバルツは友達が欲しい 作:戻ってきたミュウ
【ナツミ・シュバルツを味方につける】
この世に一つ、そして複製された二つしかない叡知の書。それに記されたモノは森羅万象において嘘偽りなく、恐らくは平行する世界においても一定の効力を持つであろうあらゆる予測や予想を塗り潰す絶対の予言である。
当初、複製された片割れの叡知の書を持つロズワールは絶大な権力を持つナツミ・シュバルツをエミリア陣営へと引き入れるべく、書の内容に従い、魔獣を呼び寄せたり賢人会とナツミ・シュバルツが対立するように裏工作していた。
『もしかして、私のこと殺したいほど憎かったりします?』
『…なぁーんのことかなぁ?』
手を抜いたつもりも侮っていた訳はないが、伊達に影の女王と呼ばれているわけではなく彼女は優秀だった。いや恐ろしいほど間が良いと言った方が評価としては相応しいだろうか。
能力や仕事振りは決して一流のものとは言えないのに、彼女はやるべき時、やらねばならない時に必ず行動を起こす。逆に都合が悪い時は姿を眩ませ、結果だけを残していく。
ナツミ・シュバルツは痒いところに手が届く、そういう人間だった。意図してやっているわけでないとは本人で言っていたがこれを偶然と言うなら現代の剣聖とは別の意味で世界から祝福されているとしか言いようがない。
書の内容に偽りはないと言ってもこれまで何度ヒヤヒヤさせられたことか。
「腸狩りを無傷で迎撃するなんて、また有名所を引っ張ってきたものだ」
式典にナツミを参加させない為、腸狩りを向かわせたがそれを迎撃するとは書かれていてもどうやって成したのかは分からない。大方、親交の深い最優や剣聖が側に居たのだろうと思っていたので対峙した戦士の名を聞いた時は驚いた。
セシルス・セグムント。
帝国最強の戦士にして世界に十振りとない魔剣の使い手である。
王族の一斉死去のゴタゴタや過去の因縁からヴォラキア帝国とは殆ど絶縁状態だったルグニカに、帝王が彼の戦士を警備として貸し与えているとは流石にロズワールも予想外であった。
「――彼女の口の固さを買って依頼したが、流石に相手が悪かったか」
最悪捕らえられても自力で脱出するだろうとは思っていたが、想像以上に痛め付けられたらしい。
腸狩りは暫くは使い物になりそうにない。
ペラペラと黒い冊子のページを捲り、落胆するように息を溢す。
「ベアトリスの忠言を無視した結果かな」
実際に言葉を交わしたのは一回だけの筈だが、ベアトリスは彼女を気に入っている。本人は気づいていないかもしれないが、最近は禁書庫から顔を出すペースが増えていた。俗世との関わりを断って四百年、いつか自身を迎えにくるであろうその人を待つだけだったベアトリスだが、窓枠から玄関を眺めてナツミがそうであったら良いと、迎えに来るのを心待ちにしているようである。
「どうやら私は君の事を過小評価していたようだ」
能力や仕事振りは一流ではないと言ったが、誑しこむ事に関しては恐ろしい才能を持つ少女だ。
まるでかつての色欲の魔女を思わせる。
息をするのを忘れさせてくれるほどお淑やかではないが、同じ目線に立って話したいと思わせる不思議な魅力を持っていた。もしかしたらこれこそ彼女が国を惑わせる魔女ではなく女王と呼ばれる由縁なのかもしれない。
王都にある別荘に窓枠からシュバルツ家の屋敷の方角を眺めるロズワールは一瞬上を見て鋭い目付きへと変えた。
「これは本腰をいれて、争う必要があるのかぁーな?」
まさか、と呟いて彼女こそが王選の鍵であると確信する。
叡知の書とナツミとの会談を開く為に用意した『モノ』を仕舞い、臨戦態勢を取った。
今さらあれがナツミ・シュバルツに懐柔されたとしても驚きはない。だがよりにもよってアレが来るのかと内心悪態をつく。
ロズワールは久しぶりに全身の血が熱く沸き立つ感覚を覚えていた。
「はぁ~僕は静かに慎ましく暮らしたいだけなんだよ。
何でかな…火に手を伸ばしたら火傷する事ぐらい子供にだって分かるよね。いい歳した大人なんだからして良い事と悪いことの判別ぐらい付けようよ?
まぁ誠心誠意謝罪するなら一度ぐらい許してやってもいいよ。でもさぁ謝罪するってことはやましいことがあるって認めてるってことだろ?なのに謝ったら許してもらえるだなんて考え自体が浅はかで傲慢じゃないか。
僕の"妻"は何一つとしてこの国の不利益にはなっていないというのに、傀儡にしようなんてあんまりだ。これだから健全な庶民から血税を巻き上げて私腹を肥やす貴族ってやつは信用できないね」
屋敷上空。
停止した空気を足場として、窓枠から顔を覗かせたロズワールを冷たく見下ろす白髪の男。
魔女教大罪司教『強欲』担当レグルス・コルニアス
福音によって導かれた彼はロズワール・L・メイザースの襲撃の為に降り立った。