Re:ナツミシュバルツは友達が欲しい 作:戻ってきたミュウ
その日俺は、恐らく生まれて初めて真っ当な理由で親父を殴った。
「ふざっけんじゃねぇ!!何が忘れていただ!この野郎!!!」
数日前から違和感はあった。
何かが足りない。まるで血を分けた兄妹を忘れてしまったかのような喪失感。それを常日頃から感じている妻への想いだと無理やりこの感情に答えを出してしまったが、もっと考えるべきだったんだ。
「ナツミだ!ナツミ・シュバルツだ!!!アンタの孫娘で!明らかにラインハルトより贔屓して可愛いがってただろ!!!アンタが忘れてどうする!?アイツは!今!どこで!何をしているんだ!」
ナツミ・シュバルツ。俺の大切な姪だ。
ラインハルトが出来た子供なもんで、何もしてやれない代わりによく可愛がっていた。
毎日顔を合わせるほどではなかったが、身体の弱かったアイツは時折、城まで訪れて民間では受けられない高位の治癒魔法を受けることがある。腐っても貴族、そして───なんだ?何かナツミが治療を受けられる特別な理由があった筈だが思い出せない。
こんなことは久しぶりだ。あの日、病に魘され一人震えていたナツミの手を握り返したあの時から俺は酒を辞めている。それでそうだ。治療を終えたアイツが騎士団を顔を見せにきた時、みっともない姿を見せたくなくて、俺はもう一度、真面目に剣を取ってみようと思ったんだ。
自分に才能がないないは嫌と言うほど理解してる。
実際、騎士団の中での評判は明るくない。
それでもバカみたいに純粋な目をして、俺の剣を見るナツミに、俺は柄にもなく父親にでもなったような気分でカッコつけていた。
「いつだ!最後にナツミに会ったのは!?」
「……三日前に、別荘に出掛けると」
「シュバルツ家の保有している別荘を調べろ!!!」
親父にとっては醜態を曝してしまった最悪の状況でも、俺にとっては幸いなことにここは騎士団の中だった。
副団長の権限を使って部下達を走らせる。
そしてない知恵を絞り出す。
俺が違和感を覚えた時期と親父がナツミを送り出した時期に相違はない。
つまり、当日。少なくとも王都近隣でナツミは行方不明となった。
「……ハインケル。ナツミは……お前の、娘か?」
「ついにボケたか?俺たちの子供はラインハルトだけだ」
青い顔をした親父の情けない姿。普段なら胸の空く思いだが、今は苛立ちしか感じない。
「だとすると……バカな。また、なのか。また私は……子供を、そして孫の命までを白鯨に!!!!」
「白鯨じゃねぇ。ナツミが居なくなったのは王都を離れて直ぐだったんだろ?そんな近場に白鯨が出て報告がないわけがない」
「ならば、何故!!?オレはお前の兄妹の名を思い出せない!!!」
「知るか。白鯨と似たような力をもったやつがいるってことだ」
ラインハルトが生まれてから、大抵の物事には物怖じしなくなった。
それが加護なのか、魔女の力なのかは知らないが、今さらその程度でハインケルは折れない。
「アストレア家を離れたってことは、そいつは俺よりも剣の才能がなかったのか、それともラインハルトが剣聖の加護を得たことでお役御免になったのか……『忘れた兄妹』ことを考えても今は仕方ねぇ。だが、ナツミだけ忘れられてないってことは腐ってもアストレア家の者だったってことだ」
恐らく必死こいてナツミだけは逃がしたのだろう。
下手人に何の思惑があったのかは分からないが、まだ間に合う気がした。
もしかしたら、その忘れてしまった兄妹のことをハインケルはそれなりに認めていたのかもしれない。
(待ってろ。ナツミ……絶対に俺が助け出してやる!)
もう二度と大切なものを奪わせはしないとハインケルは闘志を燃やした。
しかしそれから半年もの間、ナツミの姿は確認出来ず、さしもの彼も貧民街で豪遊してたとは露知らずであった。
ヴィルヘルム…甘々お爺ちゃん
ハインケル…父親気取り
ラインハルト…未知数