Re:ナツミシュバルツは友達が欲しい 作:戻ってきたミュウ
「お、終わった…………いや、明日は明日で仕事はあるんだけども」
王選の開幕直後、ルグニカ中の注目が集まる最中に起きた強欲による王都襲撃事件。
人的被害で言えば、辺境伯ロズワール・L・メイザース一人に抑えることが出来たとは言え、街は半壊し、人々は恐怖に苛まれていた。
その事後処理に追われていたナツミは三日目にしてやっと一段落つき、ベットにうつ伏せになる。
「魔女教……ハァァァ、なんでよりにもよってなんで最強格がいきなりきちゃうのかな?ここは一番弱いやつから順に出てくるのがセオリーだろ」
加護を越える超常の力『権能』を持つ大罪司教と畏怖される彼ら。
ナツミは元の世界に戻り、この身体をナツミ本人に返す、その目的の為、危険だとは知りつつ彼らについての情報は積極的に集めていた。馬鹿正直に会いに行こうとはしなかったが、何とかコネクションを取れないものかと模索し、怠惰の大罪司教とは一回限りだが手紙のやり取りをしたこともある。
二回目がなかったのはラインハルトにバレたからでその時は死ぬほど怒られたが、そもそもの発端は全てを知り、望めば好きな加護を得ることが出来るラインハルトが自分を元の世界に返すことは出来ないと言ったから自棄になって……と今はその話は関係ないか。
そんなわけでちょっぴり大罪司教の権能にも詳しいナツミであるが、そんな彼女にしてどうすらいいんだと匙を投げたのがレグルス・コルニアス『強欲』である。
大罪司教は星の名前にあやかった名前を持ち、名は体を成すとばかりにそれにちなんだ権能をしている。
『小さな王』『獅子の心臓』
雨に濡れず、空を歩け、剣は通らず、盾はガラス細工のように砕かれる。まるで無敵のような強さをしており、数百年前から存在は確認されているが、容姿に一切の変化は見られない。
怠惰から引き出した情報と照らし合わせて『凍れる時の秘宝』のようなカラクリのある時間停止系の能力であることまでは突き止めたが、その種が分からないうちはラインハルトを相手するのと変わらなかった。
絶対に正面から当たりたくない相手筆頭である。
ちなみに次点で怠惰で、その次が色欲だ。憤怒は怠惰の大罪司教から聞いた限りそこまで脅威ではない。暴食はよく分からん。
セシルスから「どうします亡命します?」と半笑いで報告を受けた時は王都の陥落を覚悟したものだが、半壊程度で済んだと喜ぶべきか悲しむべきか。
いや、誰も死んでないんだからそこは喜ぶべきだろう。
「辺境伯にはフェルトを向かわせたいけど……クルシュさんの立場では難しいか。私が間に入ってこの間の貸しってことにすれば丸く収まる……な。よし、あとは強欲を足止めしたという功績をもって正当な報酬と慰謝料を……ねぎらいの言葉をかけに行った方がいいのか?でも立場的には私ってただの木っ端裁判官だよな?」
巷では影の宰相やら女王やらと大言壮語に言われているが、ナツミの立場は非常にややこしいことになっている。
ルグニカを動かす為のあらゆる権限を保有しているものの、権力者としては中の下が良いところ。
不当を強いるつもりはないが、こちらの政策が気にくわないからと突っ跳ねたところで法的拘束力を働かせることは……出来なくもないが、立場的にはこちらが下なので本来はそれで「申し訳ございません、やり直させていただきます!」と、上司と部下のような関係になることが普通なのだ。
メイザース家はシュバルツ家よりも上の貴族である。
だからヘコヘコと頭を下げるべき下級貴族が、よくやったと褒め称えるのは、おかしな話である。
でもやらなければやらないで、今後波風は立つわけで……でも、王選の候補者から外れた私がやるのは今の情勢的に色々とマズい。
「だぁぁぁぁぁあ!!!!めんどっくせぇ!」
頭の中がオーバーフローである。
ただでさえ徹夜続きで頭が痛いというのに、また厄介な問題にぶち当たってしまった。
「いや、変に考えるな。そもそもメイザース辺境伯とは会談の約束してんだ。それのついでに、報酬とか今後の方針とか決めちまおう」
ナツミ・シュバルツはフェルト陣営についた。
着いたは着いたが、当の本人は王様になって真面目に統治する気など更々なく、ナツミに仕事を投げる気満々でいるので、個人的には良いとこで落選してくれねぇかなと思っていた。
そこでクルシュさんに王位はどうかと考えていたが、思えばユリウス繋がりのアナスタシアさんを除いた他の陣営の二人とは一切接点がない。
ありえないとは思うが、もしかしたらクルシュさんよりも王位にふさわしい人だったりするかもしれない。
セカンドライフの故郷だ。この国をより良くしてくれるというのなら、喜んで手を貸そう。
ナツミは日付を確認する。
予定されていた歓談の日は三日後だった。主催のメイザース辺境伯は重態なので、エミリア様が対応することになるだろう。
そこでナツミはエミリアの容姿を思い出し、小さく息を吐いた。
「銀髪のハーフエルフで、絶世の美女か……この身体になったせいか、どうにも女の人をそういう目で見れなくなってんだよな……」
間違いなくファーストライフの自分のドストライクな好みである筈なのだが、思春期男児のような沸き上がるマグマのようなリピドーは感じなかった。
なら男にそういう感情が向いたかと言えば、今のところはない。
あっても、それはそれで何か負けたみたいで嫌だが、もし男の自分が転生ではなく転移でこの世界に訪れ、エミリアの騎士として王選を駆け抜けたらと想像して苦笑する。
引きこもりのくせしてでしゃばり、そんで心はガラスな面倒なクソガキ。きっと
転生というアドバンテージとナツミ・シュバルツという何れ返さなければならない借り物の身体で生きているという強い戒め。これのお陰で私は今のところ上手くやれているが、全部取っ払った菜月昴がドストライクな女の子と一緒で最後までボロを出ささずいられるわけがないのは本人である自分が一番理解している。
「でもそうだな……元の世界に帰れたらこの世界で得たもんを使って、今度こそ……お父さん……みたいな……」
そこでナツミの意識は微睡みについた。
気が緩んだせいだろう、連日の疲労もあって、ちょっとやちょっとじゃ目覚めない深い眠りである。
「こういう時、合縁奇縁に導かれ男児が部屋に忍び込むところですが、このメラクェラ。主への不貞は決して許しません。ネズミ一匹、通しませんとも」
やっと休まれたと安堵の息を吐き、部屋の前でふんぞり返るのはナツミの契約精霊メラクェラ。
元四大精霊なだけあり、並みの騎士では相手にすらならない彼女を突破出来るのはきっとこの世界でも一握りの存在となるだろう。