Re:ナツミシュバルツは友達が欲しい 作:戻ってきたミュウ
「ふむ、残念ながら貴方様は選ばれなかったらしい」
「ん、そうか」
場所は宮殿。休日出勤ヨロシクのブラック企業に勤める形だけ裁判官令嬢と言えば俺の事…へいっ!皆のアイドルっナツミ・シュバルツ様だぜ。
今日は王族が断絶し、石碑に記された四人の選挙者が次代の王を決める王様選挙に参加する…だったか?
その候補者かどうかを確かめるべく俺に仕事を押し付けまくる糞爺どもに呼び出された…んだけど変な石を握らせられて資格なしと判断されたらしい。
「――うっそ…」
「馬鹿なっ!彼女が王の器でなくて何と言うのだ!?」
フェリスとユリウスがめっちゃ後ろで面白い顔してる(ワロタ)
何かちょっと前からコイツらとクルシュさんには謎のライバル宣言を受けて仕事の都合で領地を訪れる際、何度か書類上問題ないにも拘らず通してもらえない等のいざこざがあったんだが……もしかしてコイツら、俺が王選に選ばれるとか本気で思ってたのか?
王選に選ばれるってことはこの国の王になる資格を得るってことだぞ?
こちとら前世ニートの社畜令嬢だ。選ばれる訳ねぇだろ。
それにこの世界に骨を埋める気もねぇ。
「まぁ仕方ないですね。ぉ……私ただの軽犯罪専門の裁判官ですから。もう終わりでしょう、仕事が立て込んでいるので帰っていいですか?
……次呼ぶ時はいきなりではなく事前に話を通してからにしてください。こっちは貴方々と違って暇じゃないので」
冷めた目で爺どもを見下ろし、踵を返す。
その時、震える右手をそっと諌め、歪みそうになる顔を下唇を噛んで必死に抑えた。…実は悔しかったのか?
(クククッ……あれだけ言ったものの内心は真逆、胸がすく思いだ。)
――否である。
俺の気分はとても高揚していた。
正直、職場から百八十度離れたこんな所に呼び出されてうんざりしていたが、『賢人会』ことある事に仕事を振ってくるクソ上司に嫌みも言えてガス抜き出来たしライバル宣言の理由も分かったり、数少ない友達を失うような事にならなくて心底ホッとしている。
「……ナっちゃん」
「ナツミ…様」
あぁ、何て言う辛気くさい顔をしてんだか。まるで高校受験に落ちた子供にどう接していいか悩む親のようではないか。
「大丈夫だ、オレに王様は柄じゃねぇ」
小さく二人にそう言って宮殿を後にする。
すると自分の前に立ち塞がる麗人が一人。
(俺の相棒パトラッシュとの間を引き裂くようにクルシュさんが立ちふさがっているんだな。どういう事?)
クルシュ・カルステン。カルステン公爵家の当主にしてこの王選の大本命とされている凄い人。
シュバルツ家なんてちっぽけな家柄の俺に何かと目にかけてくれて、昔は頼りになる彼女をよく姉上と呼んで慕っていた。
だけど、最近何やら不穏な空気を漂わせ、さっき言った通りの嫌がらせも受けて、ほとんど顔をあわせてくれないものだから……あ、嫌われたかなと少し悲しんでいたのだ。
「……その、なんだ。貴殿と王位を争うことは間違いないと思っていたが故に、警戒し過ぎていた。一人の友として謝罪したい」
申し訳なさそうな顔をして頭を下げるクルシュさん。
律儀だわ……KMR(クルシュさんマジ律儀)
こうやって自分が悪いと反省してちゃんと謝罪出来る大人はマジ尊敬出来る。
(俺が候補者から外れたから謝罪したのか?)
いや、俺は候補者じゃないと言われてすぐ城を出たし、高台からクルシュさんがパトラッシュに威嚇されて戸惑ってるキャワイイ姿も…丸見えだったんだわ(脳内保存余裕)
元々謝罪するつもりで此方に来たんだろう。
……はぁ~尊い。クルシュさんマジ尊い
「応援してますクルシュさん!」
「……え?あ、あぁ私も貴殿を」
「ォ…私は違うみたいです!」
「え?」
「シュバルツ家はクルシュ陣営に全面協力します!って、のは当主でもない自分が勝手に決めたら不味いのか。でも私個人としてはクルシュさんみたいな人が王になってくれたら、仕事量が減ってもっとやりたいこと出来るだろうなって期待してます。あ、そうだこれ。白鯨の発生条件について爺ちゃんが纏めた資料を私なりに調べ直したものです。精度としては6、7割ぐらいで、もう少し上げれたらラッセルさんに渡そうと思ってたんですど」
「……え?」
「ラッセルさんってのは私の仕事仲間というか、日々ご贔屓にしてる商会の人と言いますか。その人にダメ元でもいいから白鯨の出現する法則性みたいなものを見つけてくれないかと頼まれまして。大変だったけどアストレア家の全面協力で何とか形に……そう言えば武具の買い付けなんかもやってたなーあの人。白鯨討伐の準備がまだ足りてないなら紹介しましょうか?友達料金で安くしてくれると思いますよ」
「待て、何故!貴殿がその事を!?
……いや、流石、シュバルツ家の懐刀と言った所か」
ラッセル・フェローという男をクルシュが知らないわけがない。彼は王都にある全ての商家の顔役であり、白鯨の討伐の本来の目的(商会からの支持を得る)を思えば是非懇意になっておきたい存在であると何度もサロンに招いていた。
そして10に及ぶ交流の末、やっと声色の良い返事を貰えると手応えを感じたところで、ナツミが接触したとの報告があり「この話はなかったことに、ええその方が後々都合が良い」と断られてしまったのだ。
あの時は出鼻を挫かれたと思ったが……。
男勝りな笑みを浮かべ、事楽しげに語るナツミにやはり私は間違っていなかったと冷や汗を流すクルシュ。
伊達に社畜極まっていないという訳か、幼き頃は神童と謳われ、亡き王族の仕事の過半数全てを一人で肩代わりする彼女の情報網は予想通り侮れぬ物であった事をたった今再確認した。
ナツミ「断りきれず引き受けたはいいものの白鯨の法則性を見つけろって無茶だろ。空飛ぶ鯨は小学生の頃に習ったことあるけど、真っ昼間に空を見上げたら居てみんなでジャンプして背中に乗れるほど単純な話でもないんだし」
アストレア家「いま、白鯨って言った?」