誰そ彼はしじまの向こうからやってくる   作:上条@そぉい!

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頭文字Dみながら書いてたらこんな事になった。面白かったのでまた書くかも。


「あり得ない会合」

 男は久々の休日を楽しんでいた。無味乾燥な人生を送っている自覚はあるが、それでも趣味がないわけではないのだ。男の趣味、それはバイク。と、言っても皆が想像するようなデカいバイクではない。

 小排気量の、小型バイクである。しかしこれはあまりバカにできないのだ。公道で数百はある馬力なんて使い切れるわけもなく、その半分も出せないのが普通だ。しかし小排気量は、その非力さ故にスペックの全てを公道で使えるというデメリットにもメリットにもなる特徴がある。男は、自分がそんなバイクの全てを使い切って走れていると言う事実が好きだった。風を切って、誰もいない静まった夜の街を走っていると、世界は自分を中心に回っているような感覚になるそれが大好きだった。

 一日中走り続けて、燃料もそれなりに使った夕方。いつものように家に帰る途中、あの土手にいた。

 

「おー、走ってるなぁ」

 

 決まってこの時間。夜がもう近いこの時間帯に子供が走っていた。相変わらず相手の顔もわからないが、こうして1人で走っている姿を見ていると、走る事が好きなんだなぁと関心するやら、どこから目線で見てるのか分からない気持ちがあった。

 バイクを降りて、河川敷へ。邪魔にならないよう端の地面に座りそれを見ていた男は、子供の走り方に変化を感じていた。

 

「……なーんか、良くなった、か?」

 

 具体的に何処が良くなっただとかを言えるわけではないが、なんとなく違う気がしたのだ。顎に手を当て首を傾げながらマジマジとその子供の走りを見る。分からない。分からないが変化があったのは間違いなさそうだった。

 

「やっほー、久しぶり」

 

 走り終えて肩で息をする子供は、こちらに手を振りながら寄ってきた。

 

「久しぶりだぁ?」

 

 何のことやら、前に会ってから数日しか経ってないが。まあ数日でも久しぶりではあるの、か?

 

「ん?久しぶり、だよね?あれからチームを抜けたんだ」

 

 チーム……あぁ、そういう地元チームに入ってたのか?まああんだけいい走りしてたらそりゃ専門のチームでも入ってるだろうな。陸上には詳しくないがそういうものだろう。しかし抜けたのか。

 

「なんだ、勿体ねぇな。あんな走りしてるなら良いところ狙えただろうに」

 

「んー、そういうことにあまり興味が持てなかったんだよね」

 

 そういうものか。子供の感性はよく分からなんだ。

 

「でも、まだ気持ちよく走れてないんだよねー……何か変わると期待してたんだけど」

 

「自由に走りたいなら目的は達成したんじゃね?違うのか」

 

 誰にも指示されず、己の思うがままに走る。それは確かに自由だと思った。しかし子供の中でそれはまた違う話のようだった。

 

「違うんだよねぇ……そうだ、おじさんも一緒には走ってみない?」

 

 走る?俺が?勘弁してくれ、運動しなくなって何年だと思ってる。今は50mでも走ったら吐き気がするくらい辛いんだからな。運動不足だと後ろ指を指されるかもしれないが、これが現実だ。だが、提案した子供は既にその気になってウキウキとしているのが表情は見えなくてもわかった。こうなったらもうテコでもやらせようとするだろう。親戚の子供もこんな感じだったことを思い出す。

 

「えー……そうだな」

 

 かと言って今から走れば明日は筋肉痛になるのが目に見えている。仕事に支障が出るのはあんまりやりたくない。だがそれを言ったところで止まるようにも見えない。なので、男は一つ思いついた。土手に停めていたバイクを河川敷に下ろして、子供の前で乗る。

 

「これでいいなら走ってやるよ」

 

「バイク?へぇ……いいね!楽しそう!」

 

 どんなに走ったってバイクには追いつけないだろうに、初めての試みを前に子供の興味を惹いたらしい。

 早速、2人はスタート地点につく。合図はない。適当にスタートするのであった。

 


 

 スタートを切って男はすぐに気がついた。河川敷はお世辞にも路面状態がいいとは言えない。あちこち砂利がひどいし、小石だって混じっている。そんなとこを走ればバイクはガタガタと揺れるし、その維持に労力を割くしかない。

 

「ラリー系バイクじゃねぇんだぞこれ──」

 

 おっかなびっくり、速度なんていつもみたいに出せたものじゃない。精々出せて30、頑張っても40だろう。河川敷のコース、最初のコーナーに差し替える。いつもならカーブに合わせてギアを落とすが、下手に落として何があるのかわかったものじゃない。アクセルを緩めて調節しながら曲がっていく。その中で、男は後ろを見る。子供の足なんて高が知れている。既に距離を離しているものだと思っていた。しかし──

 

「はや──」

 

 既に子供は、バイクの背後にまで迫っていた。思わず速度メーターを確認するが、針が指しているのは30、どう見たって速いはずなのに。カーブにもたつく男を嘲笑うように、バイクの横をすり抜け、子供は先へと走っていく。

 

「にゃろう」

 

 この時点で、色々とおかしいが男の頭からそれは吹き飛んだ。今あるのは、負けず嫌いな自分だけである。あれだけ上から物を語っておいて負けるのは恥ずかしい。大人の意地を見せてやる、と。先程まで路面にビビっていた気持ちなど既になく、躊躇なくアクセルを開けていく。エンジンが唸る。

 


 

 

「あっはははッ!」

 

 子供は今、楽しんでいた。最初こそ初めてのことに戸惑いがあったが、走ってみればそれは簡単に吹き飛んだ。レースのノウハウなんてない。今対戦しているのは、そんなものの埒外にある。常識とは違う、全く新しい物を前に身を投じる楽しさを子供は知ったのだ。

 そして、子供の天性の勘は叫んでいる。こんなもんじゃない。もっと、もっと──!と。後ろから感じる音と気配にゾクゾクする。抜かされてから、後ろから感じるプレッシャーが一段と鋭さを増している。こちらの体力も残り少ないが、相手には関係ない。何故なら相手はバイクだ。最初から最後までずっと同じ加速をしていられる、化け物。ウマ娘たる自分が本来対面する筈のない非常識。

 

──さぁ、次は何が来るのかな!?

 

 テンションをあげていく子供とは裏腹に、男は熱くなりながらも、冷静に考える思考が回り続けていた。バイクと、人の違いを今感じ取っていたのだ。カーブにおいて、速度調節は必須だ。曲がろうとすれば、外に引っ張られる力と格闘することになる。バイクは、タイヤのグリップ力に依存する為、そのラインは常に一定だが、人の脚は違う。

 カーブではそれに耐えるように歩幅を変えて走りやすくすることができる。アクティブに足回りを変えていける器用さがあるのだ。これだけ聞くと、優れているのは脚だと思うが、それは違う。人の脚にない強みをバイクは持っている。それは──

 

「何処までも正確に突っ込んでいける、これなら」

 

 機械ゆえの正確さ、である。ふたつ目のカーブにさしかかる。前を走る子供と、コースの内側には、僅かな隙間があった。コーナーの侵入口でギアを落とす。ガクンと変速した時のショックが全身を襲うが、構わない。問題は、脱出口。コーナーの終わりにかけてギアを上げて、一気に加速していく。それはある種、馬が脚を溜める行為によく似ていた。

 一気に、正確に合わせて子供の横を抜けて追い抜くことに成功し、男はガッツポーズをきめた。大人気ないと思うなかれ、これは真剣勝負なのだから。そして、最後は直線。伸び続けるバイクを前に、子供はちぎられて終わった。

 

「楽しかった!もっかいやろ!」

 

「帰ってきて第一声がそれかい」

 

 一回コースを走っただけだが、既に男はクタクタである。子供の元気さには負ける。だがもう、夜の闇が辺りを包み始めている。こんな暗さで足場の悪い河川敷を走りたいなんて思わない。男は適当にかわして帰ることにした。

 

「おじさーん!またやろうー!」

 

「気が向いたらな!それと、俺はまだお兄さん、だ!」

 

 まだ30手前じゃ!おじさんって呼ばれる年齢じゃないわ!そう言いながら土手を登っていた男は振り返る。すっかり夜になってしまった河川敷は、先程までの騒がしさなど知らないとばかりに、誰1人いなかった。

 

「帰るのもはえーなあいつ」




いつになったら気がつくんですかねぇ主人公
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